第80話 平和になった俺は、失ってしまったものの大きさを実感する
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カイム襲撃事件から一ヶ月が経過した。
俺が築き上げた繭居迷宮はより強固な防衛体制を敷き、人型魔獣たちもゲマトリア達も日々鍛錬に勤しんでいる。
だが今日は、そんな鍛錬の日々を休暇にし、俺達繭居迷宮の幹部達は最終階層に集まっていた。
理由はもちろん、カイムの襲撃によって犠牲になったとある人物を弔うためだ。
全員ヴェートが作ってくれた真っ黒な衣装をまとい、ここ数日を費やして作った弔い部屋に集まる。
五畳くらいの部屋の中央には西洋風の石碑を設け、宝州の街で仕入れてきた花束を石碑に添える。
俺が花を添えたのを確認したゲマトリア達やシェンルゥ、メイハオちゃんが俺の所作に習って瞑想しながら頭を下げた。
「ゲンガー……お前のお陰で俺達はカイムに対抗することができた。 お前の頑張りは、無駄にしない」
言葉の途中で、ゲンガーと過ごした数カ月間を思い出す。
顔を合わせるだけで文句ばかり言ってくるし、毎回のようにチクチク言葉ばかり掛けてきたゲンガーだが、いなくなるとものすごくさみしくなってしまう。
俺が涙をこらえながら石碑の前に花束を添えると、後ろで控えていたゲマトリアの中からせせり泣く声まで聞こえてくる。
ゲンガーは頑張り屋さんな上に勉強熱心で、俺がめんどくさかったかと言うだけの理由で必要最低限のカスディム文字しか体に刻印しなかった理不尽にもめげず、精霊術を覚えようと妖精小隊のメンバーに習っていたり、このダンジョンを防衛するため日々色々な防衛布陣を考案したりしていた。
もう俺たちにとっても、ゲンガーはなくてはならない存在だったのだ。
ゲンガーと過ごした日々を思い出し、みんなでおよおよと泣いているこの空気の中、弔い部屋の入口に何者かが歩み寄ってくる。
「おいおい、やっとの事で帰ってこれたと思ったら。 何だこりゃ、誰かおっ4んだのか?」
弔い部屋の入口から聞こえてきた声に、俺達が全員揃って振り返る。
すると、きょとんとした顔で立っていたボロボロの男は、首を傾げながら部屋の中央に設置していた石碑へ視線を向けた。
そして、石碑にかいてあった名前を遠目に眺め……
「は? 何で俺死んだことになってんだよ」
「え、あれ? お前、カイムに倒されたんじゃ?」
「いやいや、お前がご丁寧に書き込んでくれたランダム転移の魔術で一か八かで逃げたんだろうが」
そう言えば、転移陣をわざわざ二つ作るのが面倒だからという理由で、ランダム転移だけ搭載しとくと言っていたのを思い出した。 まあ、ひどい場合は上空数万メートルに転移とか、海底に転移して水没とか言う事故が発生するランダム転移だが、運が良ければ逃走することができる。
というわけで、面倒だからこれで勘弁してくれと言って書き込んだランダム転移。
「ったくよ、運悪く妖精の国ティア・ナ・ノルドにふっ飛ばされてな、大変だったんだぞこっちは」
やさぐれたような表情で頭を掻きながら歩み寄ってくるゲンガー。
しかしながら、ゲンガーが生きていたという事実に俺だけでなくゲマトリアの面々、さらにはシェンルゥやメイハオちゃんまで感極まってうるうると瞳に涙を溜め始め、
「ゲンガー! おぬし生きておったのかぁ!」
「偽物お兄ちゃん! おかえりなさい!」
「生きておられたのですねゲンガーさん、本当に良かったです」
シェンルゥとメイハオちゃんがまずゲンガーのもとに駆け寄ったかと思うと、ゲンガーと行動をともにすることが多かったヴァブまでもが目元を拭いながら駆け寄っていく。
ここぞとばかりに俺に文句をいう気満々だったのだろうゲンガーは、みんなの反応に驚愕していた。
「え? ちょっと、なんで泣いてんだよこいつら」
「うをぉおぉぉぉ! ゲンガー、生きてたんだな! よかったよかった!」
「お前まで涙目で近づいてくんな! ったく、なんだよほんっとうに」
もみくちゃにされて面倒くさそうにしているゲンガーだったのだが、心なしか少し嬉しそうに見えたのは、気のせいではないと思いたい。
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ゲンガーも生きていることが判明したため、晴れて俺は暇な時間がたくさんできる運びになった。
おかげさまでダンジョンの守りはゲンガーに丸投げしても構わないだろう。 命からがら帰ってきたゲンガーを早速とばかりにコキ使う……わけではなく、これは適材適所というやつだ。
念を押して言っておくが、生きていたのはすごく嬉しかったわけであり、優秀な人材を眠らせておくのは惜しいため、早速とばかりにコキ使っているのだ。
そう言うわけで、俺はとある計画のために自室へと戻ってきた。
「さてさて、こいつにはどんな記憶を書き込んでやろうか」
俺の部屋で、即席で作ったなんちゃって棺桶の中で眠りについている小さな女の子を見て、俺はどうしたものかと頭を悩ませる。
外ハネの真っ白な髪に、襟足だけ腰の辺りまで伸ばしたディスコネクションカット。 チャームポイントは頭頂部に立っている三本のアホ毛。
そう、背中から茶褐色の翼を生やしているこの幼女、何を隠そう脳みそがショートした状況の、悪魔総裁カイムさんである。
こいつには前回の戦いでひどい目に合わされたため、ムカついて超危険な兵器をぶちかましてしまった。
この兵器こそ俺が産み出した特級危険物、ハイ水。
ハイ水には、俺が魔術で作り出した水に各種デバフ魔術を大量に付与しており、この水を皮膚から吸収すると大量のデバフが脳に負担をかけ、脳が多大なダメージを受けて大変なことになる。
カイムにはこの危険すぎる水を原液でぶっかけた結果、脳が完全に機能を停止してしまっており、今は俺が各種魔術を行使して生きてはいる状態に保っている。
なので、カイムの脳みそは現在白紙の状態に近いわけだ。 これはもしかしたら、記憶干渉構成式で記憶を書き込めばカイムさんがゲマトリアのように、忠実な俺のしもべになる可能性がある。
悪魔であるカイムさんは俺よりも大量の魔力を秘めている。 それに悪魔たちは現実世界ではベストな力を出せないようで、これでも実力の半分程度しか出せていないらしい。
なので、テオスたちに聖マリヤム教は丸投げしたが、植物人間ならぬ植物悪魔になっているカイムさんは、俺が引き取っていたのだ。
散々人をペット呼ばわりしてきたこいつを、嫌って言うほどこき使ってやる。
「ふはははは、この容姿なら普通、ツンケンした妹キャラっぽい概念を付与したくなりがちだが、最近は妹キャラという枠はメイハオちゃんという絶対的ロリババアが占領している。 つまりカイムは妹キャラではなく、他の王道ヒロインの概念を付与するしかない!」
「何を一人でぶつぶつ言っておるのじゃ?」
「何我が物顔で俺の部屋に入ってきてんだよ」
「ダメなのかのう?」
「普通に駄目でしょ?」
俺の部屋のベットでこの世界の娯楽小説を読みながらくつろいでいるシェンルゥに、真顔でツッコミを入れる。
もう見慣れた光景ではあるが口を酸っぱくして注意していかないと絶対に治らないだろう。
「まったく、これから俺はこいつの空っぽになった脳みそに記憶と概念を付与しないといけないんだよ」
「なるほど、魔造人間ではなく本物の悪魔の素体を使ったゲマトリアを作ると言うことじゃな?」
「まあ端的に言うとそんな感じ?」
「して、どういったキャラ設定にするつもりなのじゃ?」
「そこは王道の幼馴染……」
ここに来て、俺は衝撃の事実を目の当たりにする。
「ちょっと待て、幼馴染という概念を設定した場合、どうなる?」
俺が思う幼馴染という属性のヒロインは、気軽に家に上がり込んできて好き勝手過ごしている上に、異常に距離感が近いのに加えて下らない喧嘩が絶えない感じの元気をくれるキャラ。
なにより、追い込まれたときこそいちばん近くで支えてくれる絶対的ヒロイン。
そこまで思い出してシェンルゥを見てみる。
「なんじゃ? 突然まじまじと見おって。 妾に惚れてしもうたか?」
シェンルゥがなんか言っているが、とりあえず放置。
今まで作ったゲマトリア達の挙動を思い出してみよう。 長い事生活をしていて事故ってるなと思ったのはフェイトとペペ、そして絶対的ポンコツ王ギメルの三人。
仮にこの事故ってる概念を付与したゲマトリアを三馬鹿と命名しよう。
この三馬鹿に概念を書き込んだ際は、萌え要素満載なキャラになると思っていた。
しかし蓋を開けてみればあれだ、まあ言うまでもなくあいつらはキングオブ面倒くさい女たちになってしまっている。
そこまで考えて、人形のように寝ているカイムさんに書き込む概念に関して考えてみる。
もしこいつに幼馴染という概念を書き込んだらどうなる? 普通に我が物顔で俺の部屋に入り込むヤカラが増える上に、さらにはなにかあるたびにつきまとってきて、文句ばかり言ってくる喧嘩相手が増える未来しか見えない。
端的に言えば、面倒くさい女が増えてしまうというわけだ。
「よし、幼馴染という概念を書き込むのはやめよう」
「おい童。 おぬし今妾を見て失礼なことを考えんかったか?」
早とちりして後悔する前に、反面教師を見れてよかったと思いつつ、後ろでぎゃあぎゃあ騒いでいるシェンルゥを放置してせっせとキャラ設定を考えるのであった。




