第78話 無難にやり過ごそうとする俺は、余計騒ぎを大きくしてしまう
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さて、参ったことになった。
入学式に間に合うように早めに学園内へ入ってテオスやラーニアちゃんの動向を調査しようと、一時間以上早く学園内に入ったのだが、
「かかってきなさいティメル・シャプール! ここであんたを倒して、あたしがシャプール家の悪事を明かしてやるんだから!」
気合十分の様子で魔術大全を開くラーニアちゃんを前に、俺はどう対応したもんかと頭を悩ませる。
わざと負けるのは論外だし、テオスが来る前に迅速にこの決闘を終わらせなければならない。
となると、相手よりも少しレベルが高い魔術を使用してちょちょいっと倒してしまうのが吉。
ラーニアちゃんがやる気十分なせいでギャラリーも続々集まってきてしまっているし、ここで俺がサラッと300ページ以上の魔術を使うのはまずい気がする。
確か、ナボニドゥス魔術大学校の卒業までに覚えなければいけないのは250ページまでの魔術。 今の俺は余裕で習得しているが、入学前に250ページ台の魔術を使ってしまうのは、ギャラリーも流石にビビるだろう。
ということは使うべきなのはこのあたりの魔術だろうか? そんなことを思いながら魔術大全をペラペラとめくる。
「よそ見とは、随分と余裕なのね!」
カスディム文字を構成したであろうラーニアちゃんが、自信満々に手をかざす。
「魔術大全【第1頁】物質創造構成式:魔力凝縮!」
ボーリング玉サイズの魔力の塊を放出してくるラーニアちゃん。 この魔術は基本中の基本、魔力をギュッと固めるだけで成功する魔術である。
そんな魔術をドヤ顔で放ってくるラーニアちゃん。 なぜドヤ顔なのだろうか?
「すげー、魔力凝縮であんなに大きい魔力の塊を作るなんて!」
「たしかあの子、マフムード子爵家のラーニアじゃないか?」
「天才魔術師と言われているあの子か!」
おやおや? ギャラリーの反応が変だぞ? ちなみにゲーム本編ではラーニアちゃんがボコされたシーンはカットされているため、どんな戦いが繰り広げられたのかは知らない。
「魔術大全【第112頁】意識干渉構成式:睡眠」
おれは何食わない顔で魔術を構成し、ラーニアちゃんが飛ばしてきた魔力の塊はひょいっと避ける。
見事睡眠の魔術は直撃し、ラーニアちゃんはバタンとぶっ倒れてそのまますやすやと寝息を立て始めてしまう。
すると、ギャラリー達の目が飛び出んばかりに開き、驚愕の声が上がった。
「んな、あいつ今……100ページ台の魔術を使ったのか?」
「まだ入学前だろ?」
「それに、何で魔術を構成しながら普通に動ける?」
おいおい君たち、ちょっとリアクションが大袈裟すぎるんじゃないか? なんて思って苦笑いを浮かべていたのだが。
「それに、ラーニアとカスディム文字の構成速度がほとんど一緒だったぞ?」
「というか、あいつ魔術大全見てたか?」
「魔術大全見ながらだったら、ラーニアが飛ばした魔力凝縮を避けられないだろ?」
驚愕の声第二波が上がり、流石に苦笑いを浮かべることしかできない。
「え、なに? 俺なんかすごい事した?」
生前、異世界転生俺強え無双なるアニメやライトノベル小説のジャンルがあった。 そのアニメを見ている時は、強すぎる主人公を見てくすりと鼻を鳴らしたりとかしていたのだが……
無意識に俺強え無双している主人公っぽいことを言ってしまった。 なんか少し恥ずかしい。
顔を赤らめながらモジモジしていると、ギャラリーの群れをかき分け氷色のなにかが駆け寄って来るのが横目に入る。
「ちょっと君、大丈夫かい?」
ギャラリーの驚き具合に戸惑っていると、来てはいけない人物が駆け寄ってくる。
寝ているラーニアちゃんの肩を揺らしながら、不安そうな顔をしているその人物。 こいつこそ、俺が最も危険視している人物。
マジシャンズ・フロンティアの主人公、テオス・メルレインである。
やべー、来るの速すぎんだろ。 なんて思いながら冷や汗をこぼしていると、テオスは怒りの形相を浮かべながら俺を睨んでくる。
「君がこの子にひどいことをしたのか?」
「いやいや、怪我させないように眠らせただけだし」
「こんな大勢の人達の前で、なんてひどいことを!」
「ちょっと話聞けよ」
イラッと来てしまう俺。
俺だってラーニアちゃんは全然好きなキャラだったし、なんなら部屋に特大ポスター貼っちゃうくらい推してたし? だから怪我させないよう考慮して睡眠の魔術を使ったのだ。
それなのに、こんな大勢の前でひでーひでーと騒がれれば、流石にイラッと来るだろう。
それに、俺は悪役貴族として生まれたせいで推しのヒロインたちと仲良くなれないが、この主人公くんはヒロインたちとキャッキャウフフと楽しい思いをするのだ。
はっきり言って、こんなのNTRと同義である。 許せん。
とは言ってもここでムキになってはダメだ。 先程はたかが112ページの魔術であんなに驚かれたとなると、その半分くらいの魔術で十分な気がする。
なので、俺は後から出てきたくせに大騒ぎしているテオスくんに程よく鉄槌を下すことにする。
「魔術大全【第48頁】力学干渉構成式:摩擦軽減!」
「うわぁあぁぁぁ!」
摩擦軽減は対象にかかる摩擦係数を減らす魔術だ。 よって、この魔術にかかった相手はすってんころりんと転ぶ。
当てるのは少々難しいが、基本的にこの手の魔術は相手が魔術構成を始めた硬直時を狙って唱えるのが基本。
よって、ラーニアちゃんの代わりに俺を倒そうとしてきたこのバカタレ……もとい、テオスくんを程よく辱めるかつ完膚なきまでにボコすのにはちょうどいい魔術だろう。
流石に50ページ以下の魔術なら驚かれないだろう。 そう思って、やってやったぜと思いながら満足げな顔で腕を組む。
「バカな! あの摩擦軽減をあんなピンポイントで?」
「カスディム文字の構成速度が、尋常じゃないぞ!」
「あいつまだ入学前だろ? なんで50ページ台の魔術が使えるんだ!」
またしても騒ぎ立てるギャラリー達に、流石に文句の言葉が出てしまう。
「は? 何でこの程度で驚かれないといけねーんだよ?」
普通のこと過ぎて、いちいちビビられて面倒に思ってしまった俺は、ついつい本音が漏れてしまう。
すると、ギャラリー達は俺を見ながらコソコソ耳打ちをし始める始末。
「なんなんだよあいつ、自分がすげー魔術使えるからってお高く止まっちゃってよ」
「どうせ覚えたばっかりの魔術を自慢したいだけだろ?」
「ああそう言えばあいつのあの顔、多分あいつシャプール家のティメルだろ?」
ギャラリー達はヒソヒソと話しながら俺をチラチラ盗み見てくる。 クソったれ、聞こえてんだよ。
まあ確かに今の一言は感じが悪かっただろう、それはマジでごめん。
とは思ったものの、このままだと変に目立ってしまう。 できるだけ謙虚で優しいティメル君になるために、ここは穏便にすませるのが英断。
「くそ! よくもやってくれたな!」
ツルツルしながらも立ち上がったテオスくんは、魔術大全を開きながらカスディム文字を構成し始める。
もう、これ以上ヘマをやらかしたら確実に悪目立ちする。 だから俺もテオスの様子を見ながらわざとカスディム文字の構成を遅くして、先程ラーニアちゃんが使っていた魔術を構成する。
とは言え俺は失念していた。
魔力凝縮の魔術は、魔力の塊の大きさは総魔力量に応じて変動がある。 これを失念していた俺は、カスディム文字の構成速度を遅くして、かつラーニアちゃんが使っていた魔術を使っていれば目立たないはずだと思い込んでいた。
その結果、この時使った魔力凝縮が一番驚愕の声を生み出す結果となってしまう。
「魔術大全【第1頁】物質創造構成式:魔力凝縮」
俺が凝縮した魔力が半透明な塊になって現出し、やっちまったとばかりに顔をしかめた。
「おいおいおいおい!」
「なんだよあの魔力の巨大さは!」
「あんな大きすぎる魔力凝縮、見たことないぞ!」
テオスくんに合わせてちんたらカスディム文字を形成していたせいで、結果的に丁寧に構成できてしまった魔力凝縮は、とんでもなくでかい魔力の塊になってしまう。
「な……っ! バケモノ?」
驚愕するテオスくんが放出した魔力凝縮はバスケットボール大の大きさ。 もちろん七号級のサイズなのでボーリング玉、つまりラーニアちゃんが作った塊よりも少しだけ大きい。
対して、俺が凝縮させた魔力の塊はというと、簡単に説明すると10才の俺が余裕で隠れてしまうような大きさ。
例えるなら、運動会でよく種目に選ばれている大玉ころがしの大玉と同じくらいの大きさだろうか?
「に、逃げろお前ら!」
「あんなの喰らったら殺されちまう!」
「さすがシャプール家の血筋だ! 入学前に逆らう同級生は公開処刑かよ!」
青ざめながら逃げていくギャラリー達を横目に、俺は特大魔力弾を飛ばす(唱えてしまった以上強制的に飛んでいくから避けようがない)
それを前に、テオスくんは放心状態で立ち尽くしてしまうのだった。




