第77話 間抜けな俺は、入学早々やらかしてしまう
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十歳になった俺は、今日から晴れてナボニドゥス魔術大学校の生徒として学園生活を満喫していくことになる。
転生者である俺は、この学園生活の中でテオス達周辺で起きる出来事は手に取るように分かっているのだ。
俺はそれを考慮した上で上手く立ち回り、破滅の未来を回避するため行動していけばいい。
まず起こるであろうターニングポイントは、この入学式前でのいざこざだ。
流れを説明すると、悪役貴族であるティメル(現在は俺)がテオスのクラスメイトとなるラーニアちゃんと喧嘩になる。 それでティメルがラーニアちゃんをギタギタのボコボコにしてしまう。
ラーニアちゃんは負けず嫌いでプライドが高いため、俺にボコボコにされても必死になって立ち向かってきやがる。 そこに居合わせたテオスがラーニアちゃんの助けに入り、このゲーム一番最初のチュートリアルバトルがスタート。
このゲームでの戦闘システム説明のため、一緒に戦ってくれるラーニアがプレイヤーに魔術の使い方やら戦闘時の細かいことを教えてくれるためのバトルが始まる。 そうしてそのチュートリアルバトルで主人公くんはものすごい才能を発揮してティメルを返り討ちにするという流れだ。
ここまで振り返ってみて、俺は二つのプランを用意した。
ひとつ、ラーニアちゃんに近づかないようにする。 ふたつ、もしラーニアちゃんと喧嘩になっても後から割り込んでくるテオスを返り討ちにしてしまえばいい。
そのために俺は魔術の勉強を今日までしてきたし、家族やメイドたちの目を盗んで屋敷を抜け出してはダンジョンマラソンに明け暮れる日々を過ごしていた。
ここは現実世界のため自分のステータスを確認する方法などないが、魔術大全のページを見れば大体のレベルは推測できる。
現在の俺(10才時のティメル)が使える魔術の最高ページは600ページ台。 これはナボニドゥス魔術学校を卒業した生徒が数年を費やして到達するレベルの魔術レベルと推測ができる。
というか、俺の調べが正しければ、宮廷魔術師の中でも最強と言われている魔術師が使う最強魔術は500ページ後半だ。 つまり俺のほうが強いという計算になる。
入学時点でこのステータスなのだ、まず問題など起きないだろう。
そう思いながら俺は領域鑑定でナボニドゥス魔術学校、入学式の会場となる中央塔の周囲にいる人物の場所を探る。
領域鑑定は索敵範囲内に入っている物質や人物を、立体的なマップで白黒のシルエットとして察知することができる魔術。 これを使えば俺の周囲に誰がいるのか、何があるのかが分かる。
ラーニアちゃんの容姿はゲームで何度も見ているし、シルエットだけでも十分判断できるだろう。
そう思って俺は索敵を続け、それらしきシルエットを発見。 したのだが、使うのが遅かったことを後悔する。
「ちょっと、ティメル・シャプール。 あんたに話があるんだけど」
時すでに遅し。 ラーニアちゃん、木陰に隠れていたはずの俺の背後に登場。
索敵をするのが遅すぎたようだ。 というか、ラーニアちゃんの口ぶりからして俺を探していたようだ。
うをぉ! 生ラーニアちゃんじゃん! なんて感想が出る前に、焦りまくってしまう俺。
「ななな、なんですか」
ここに来て、俺はまたしても後悔をしている。
俺、生前もそうだったのだが、この世界に来てからも人と接する機会が非常に少なかった。 生前はひとりモクモク作業の仕事についていたから仲間との連携とか関係なかったし、この世界に来てからも家族とかメイドさんとかと全く会話したりせず、ひたすら魔術の勉強と自分のレベリングに没頭していた。
何が言いたいかと言うと、コミュニケーションの取り方などわからない。
「なんですかですって? 良くもそんなことが言えるわね? マフムード領のこと、覚えてないのかしら?」
ムッとした表情で詰め寄って来るラーニアちゃん。 うわぁ、いい香りが……ちゃうちゃうあかんあかんそうじゃない。
「あ、えーっと、らららららラーニア・マフムードしゃんですよね? どうもこんにちは、ティメル・シャプールと申します」
やばい、あたふたしすぎて噛んだ。
「は? なによあんた。 ふざけてるわけ?」
「そんなそんな、ふざけてるだなんて滅相もございませんですぜ」
あたふたしながら詰め寄ってくるラーニアちゃんから離れようとするのだが、木陰に隠れていた俺は背中に大木があるのを忘れており、これ以上後ろに下がれなくなる。
するとぐっと踏み込んできたラーニアちゃんが怒りの形相を浮かべながら俺の胸ぐらをつかんでくる。
おお、これは壁ドァンならぬ壁ギュイだ。 なるほど悪くない。
なんてふざけたこと考えていたら、瞳孔を開きながら怒鳴り散らしてくるラーニアちゃん。
「あんたらシャプール家が、あたし達マフムード領内に魔物を放ったこと、あたしは知ってるんだからね!」
どやされて思い出したが、ラーニアちゃんとティメルが喧嘩していた理由は、ゲーム上の設定ではティメルの行く手を遮ったラーニアちゃんを、ティメルが「邪魔だぞ三下、僕の行く手を塞ぐな」なんてことを言ったからだったのだが、
「あんたたちのせいで……あんたたちのせいで! あたしのパパが収めてるマフムード領は大半が壊滅状態。 復興も遅れてて貧困に悩まされているし、多くの領民が命を落としているのよ! 魔物に怯えながら、食べるものに困っている領民達の苦しみが、あんたに分かるの?」
涙目で怒鳴り散らしてくるラーニアちゃん。
ここまで言われてようやく思い出した。 そう言えば、そもそもラーニアちゃんがティメルの行く手を遮ったのは、シャプール家がマフムード領に魔獣召喚で召喚した魔物を放ったからだ。
これによりマフムード領は甚大な被害を受け、畑は荒らされ領民は半数以下まで減り、子爵家であるマフムード家では襲いかかる魔物たちを対処できず。
そこにさっそうと現れたシャプール家の当主、クバード・シャプールによって魔物の襲撃は鎮圧。
クバード・シャプールは言うまでもなくティメル君、つまり俺の父上。 クソ極悪人で俺の破滅ルートでは処刑されるクソッタレだ。
こいつは自分の貴族の位を利用して禁書庫に入り、禁術である魔獣の召喚を習得。 その魔獣召喚を利用して屋敷の地下で魔物の実験をしている。
魔物同士をツギハギした合成魔物の作成や、合成に失敗した魔物を体よく始末するため、力の弱い貴族の領地に放っている。
力の弱い貴族はこれに対抗することができず領民たちは襲われ甚大な被害を受けるわけだ。 さらにそこでもうひと手間加えるのが我がクソ父上の極悪非道なところ。
なんと、頃合いを見て襲われている領地に助けに入り、自分で魔物を放っておきながらその魔物を自分で討伐。 そして領地を助けたヒーローとしてその地域で英雄のように扱われるのだ。
こうなると、助けてもらったその領地の長はシャプール家に借りを作ってしまうし、少なからず助けてもらったお礼をしなければ貴族のメンツが潰れてしまう。
ついでに、クソ父上は魔物に食われたということにしてその地の領民を数名さらい、奴隷として他国に売りつけて小銭稼ぎすらしてるとも知らず。
魔力鑑定をすればその魔獣が誰によって召喚されたかが分かるかも知れないが、これがクソ父上の抜かりないところで、自作自演で放った魔物は木っ端微塵に消してしまうのだ。 これで証拠の隠滅も完了すると。
これがシャプール家の悪事の一つ、自作自演大作戦の一つである。
証拠がないためシャプール家はどんなに怪しくてもさばくことができない。 弱小貴族の間では気をつけるように言い合っているが、実際狙われてしまった貴族は分かっていたとしても対応できない。
対策するためには位の高い貴族の援助が必要になってくるわけだが、位の高い貴族たちは自分より力のない貴族を守るだなんて生産性のないことに前向きではない。
よって、公爵家であるシャプール家に目をつけられたら、力の弱い貴族たちは不幸にあったと諦めるしか無くなってしまうのだ。
ラーニアちゃんは、この理不尽に一人で立ち向かおうとした、唯一の女の子。 芯が強い上に正義感の強い子で、我が強いが懐かれるとコロッとデレてしまう系ヒロイン。
いわゆる、キングオブツンデレヒロインなのである。 マジフロでの人気も非常に高かった。
一人この物語の細かい設定内容を思い出しながら、ラーニアちゃんに胸ぐらを掴まれている時間を堪能していると、般若面を浮かべていたラーニアちゃんはまさかの一言を告げてくる。
「あたしと決闘しなさい、ティメル・シャプール!」
「ん、なんて?」
「あたしと決闘しろって言ってんのよ。 もしあんたが負けたら、あんたらシャプール家がして来たこれまでの悪事を暴くために、証拠になるものを用意してもらうわ!」
ふむふむラーニアちゃん。 この子は貴族の何たるかを分かっていない、若さゆえに許された無茶な要求をしてくるではないか。
なーんて思っていたのだが、断る口実を必死に探すがいい感じに逃げる口実が思い浮かばない。
「い、いやでも、もうすぐ入学式始まりますし」
「あら、逃げるの? それってつまり、シャプール家が悪事を働いているということをあんたが認めるってことでいいのよね?」
まずい、俺がここでシャプール家の悪事を認めてしまった場合。 俺は間違いなく飛び級バットエンドコースに直行する。
バットエンドになる理由はシャプール家の悪事がバレることなのだから。 俺はそれを回避するため、これから学園生活を満喫しながら仲間を増やし、共にシャプール家の悪事に立ち向かうヒーローとしての立ち回りをする予定なのだ。
だから、ここで俺が決闘から逃げればシャプール家の悪事がバレて……
「わ、分かったよラーニアちゃ……マフムードさん。 決闘、すればいいんだよね?」
勢いに流され了承してしまう俺。 こうして、入学前の決闘シーンが再現されてしまう運びになってしまうのであった。
決闘するため広場にトボトボ向かっている途中、よくよく考えてみて思ったのだが。
そもそも、ラーニアちゃんは証拠がないから俺に決闘挑んでるなら、これ俺が断ったとしても証拠ないから詰んでるじゃん。
つまり、俺がここでビビって決闘を受け入れてしまったのは、文句なしの愚策だったという事に気がついてしまうのだった。




