第74話 本気の悪魔と対峙した俺は秘密兵器を使用する
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意識を飛ばす風。 つまり、あの風に触れた部位は不全状態になると言うことだろうか?
触れただけで感覚が消える風、それはそれは恐ろしいことこの上ない。
「さあ、カイムに逆らったことを後悔するっちよ」
カイムは嗜虐的な笑みを浮かべながら、俺に狙いを定めた。
「あのガキや人形どもが生きていたのには驚かされたっちが、こうなってしまえばもはや力技、カイム直々に全員魂の抜けた人間に変えてやるっち!」
狂ったように高笑いを始めるカイム。 なぜか勝った気でいるカイムを見た俺は、呆れるようにため息を付いてしまう。
「さっき俺がお前の脳に干渉して、長い時間お前の意識に干渉できていた時点で、お前もう詰んでるんだよ」
肩をすくめながら告げてやると、カイムはおかしそうに笑い出す。
「負け惜しみのつもりだっちか? 今ごろそんな事を言ってきたところで、ただ見栄を張っているようにしか……」
「言い方を変えてやる。 俺の構成した魔術にまんまと引っかかってた時点で、お前はこの魔術を防げない」
カイムの言葉を遮って、俺は苦笑いを浮かべながら魔術を構成していく。
「まあ、俺を怒らせたのが運の尽きだと思って諦めろ。 この一手を防ぎたいなら、脳みそがない生命体に生まれ変わらないと無理なんだからな」
正確に言えば、防げないのは俺の魔術ではなく、発明品の効果なのだが。 その発明品も魔術で生成したものなのだ、意味は変わらないだろう。
「魔術大全【第433頁】空間創造構成式:空間隔離」
カイムの周辺に魔力の壁を生成し、空間を隔離する。 カイムは首を傾げながらも俺が生成した魔力の壁に黒風を叩きつけるのだが、
「意識を飛ばす風? 魔力で作った壁に意識なんてねーぞ?」
風を遮り、空間隔離によって生まれた透明な壁はその場に存在し続ける。 カイムはむっと口をすぼめながらも、得意げな顔で魔力を練る。
「魔術程度で作られた壁など、カイムの魔法の前では……」
「一手遅い」
次の瞬間、カイムの頭上に空間の裂け目が登場する。
「なんだっち? これはさっきの魔術だっちか?」
「魔術戦いにおいて大切なのは、より効率的に魔術を構成していくことだ」
余計な手間をかけてしまえば攻撃の手が遅れてしまい、後手に回りやすくなってしまう。
そして、防ぎようのない一撃を加えることができれば、魔術戦では格上相手でも容易に勝利することすら可能。
「魔術大全【第477頁】空間創造構成式:宙繋」
先ほどゲマトリアやメイハオちゃんの耳元に声を繋げた魔法でもあり、物質を効率よく運ぶために使用できる便利な魔術。
今回俺がこの宙繋を使って送ったのは、俺の異空間収納に入っているとある樽だ。
「なんだっちか? 水?」
「ミスト状にしたものですら、触れただけでも常人はハイになって狂っちまうほどの危険物だ。 原液で喰らったらどうなるだろうな?」
なぜか知らないが、カイムは恐怖の形相を浮かべて水から離れようとする。 だが既に遅い。
空間隔離によって隔離された空間の中では、降り注ぐ大量の水に触れずに逃走することは不可能。 意識を飛ばす黒風をまとったところで、その風は気流を操っているわけではないのだ。
滝のように降り注ぐ水を、防ぐことはできない。
この水の効果を教えてやったわけでは無いが、カイムはここに来て初めて恐怖の表情を浮かべ始める。
「その水はハイ水って言ってな。 廃人になる水という意味と、テンションが最高にハイになるという二つの意味を込めた危険物だ。 表皮吸収でも十分に効果があることは紅組を使って実験済み、文句なしの危険物だぜ?」
「お、おいペット! いいや、ティメル・シャプール! 話をするべきだっち! もうカイムはお前らにちょっかいを掛けない、だから……」
「さえずるなよ、もう詰んでるんだから」
宙繋によって降り注ぐ水が隔離した空間を満たしていく。 俺はカスディム文字をいじりながら先程隔離した空間を徐々に狭めていく。
やがて電話ボックスサイズまで縮小した透明な箱の中にはハイ水が充満し、先程まで暴れていたカイムは死んだ魚のような目で虚空を見上げたまま身動きすら取れなくなっていった。
「魔術の仕組みを熟知していたなら、その水に複雑化して付与された魔術を解除できただろうが。 俺が即興で作った絶対服従すら解除するのに手こずったおまえには、この複雑に絡み合った付与術式を無効化できる知恵などないだろう」
「お、おい童、あやつ水の中で目を開きっぱなしであるぞ? 大丈夫なのであろうな?」
「生きてることは生きてると思うぜ? 多分脳みそは死んだだろうがな」
ぼんやりと虚空を見上げたままあんぐりと口を開けているカイム。 溢れ出る魔力は未だ健在だが、数秒前までの様相とは明らかに変貌している。
再度宙繋の魔術で隔離空間内のハイ水を異空間収納の樽の中へ戻し、植物人間状態になったカイムを叩き出す。
「ふむ、呼吸だけはしてるな。 ほらな生きてる」
「お、おぉう」
戸惑いながらもなんとか納得してみせたシェンルゥだったが、俺はすぐさまぶっ倒れていた鬼蔵の下へと駆けていく。
「なるほど、これは洗脳魔法の上位互換だな。 魔力で生成した風に意識干渉系統の魔法やらなんやらを付与したんだろ。 ってことは精神支配を応用した魔術でこれを丁寧に解除していけば」
魔術大全をペラペラめくりながらカスディム文字の意味を解析し、鬼蔵の状態を見つつ魔術を即興で作成していく。
鬼蔵の回復に取り掛かってから数分後、
「よし、完了だな」
無事に鬼蔵の全身から黒い斑点模様が消失し、ぶっ倒れていた鬼蔵が飛び上がるように目を覚ます。
「な、何をされたんだべ!」
「安心しろ鬼蔵、もう終わった」
ぼんやりした表情のまま半口を開け、よだれをだらりと垂らしながら虚空を見上げ、直立していたカイムを親指で示すと、鬼蔵は自分の目を何度もこすりながらカイムの様子を入念に伺う。
「一体何がどうなったらああなっちまうんだっペ?」
「頭からハイ水をぶっかけた。 たぶん大騒ぎしてるときにちょっと経口摂取したんだろうな。 予想以上に効果がありすぎて俺もびっくりだ」
恐らく鬼蔵は俺の話を理解できていなかったんだろう。 上の空な口調で「ああ、なるほどなぁ」などと言っている。
それはともかくあの斑点模様の解除方法は見事発見できたのだ、ドン引きしながら固まっているれんぴっぴを呼び寄せ不全状態になっていた右腕にも早々に処置を施す。
そうこうしている間に、ゲマトリア達も雑魚掃除が完了したようで、
「御主人様、聖マリヤム教構成員の掃討、完了いたしました」
恭しく頭を下げながら報告してくるアレフ。 既に大広間には大量の聖マリヤム教が伸びている。
ところどころ真っ黒焦げになっている理由は考えるまでもないだろう。
無事に全員が生きていたことを改めて実感し、ホッと胸をなでおろしたのもつかの間。
「これは一体……何がどうなってるっていうんだ!」
大広間の入口から面倒くさそうな声が聞こえてきたため、俺は思わず顔をしかめてしまう。
「ちょっと待て、そう言えばお前らも来てたよな」
戸惑う五人組を盗み見た俺は、思わず頬を引きつらせてしまうが、
「ほらな言っただろ? ティメルの兄貴がこの聖マリヤム教を壊滅させたんだ。 それを知ってもなお、お前らは兄貴を極悪貴族とか言えるのかよ?」
ニヤニヤ笑いながら姿を表した少年を見て、俺は余計なお世話だとばかりにため息を付く。
「れっくん、俺は別にそいつらと仲良くする気なんてないぞ?」
警戒したような視線を俺に向けてくる五人組、テオス率いる主人公たちを引き連れてやってきたれっくんは、得意げに笑いながら手のひらを返した。
「いやいや、別に仲良くしてもらいたかったわけではなくてですね、せめてこいつらが兄貴の邪魔をしないよう、釘を差しておこうと思いましてね」
互いに警戒心をむき出しにしながら視線を交差させる俺とテオスの間で、この状況を作り出してしまったれっくんはヘラヘラと笑っているのであった。




