第73話 魔法のからくりが分かった俺は、反則級の魔術を成功させる
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跪いて口を開けなくなったカイムをみて、大広間に待機していた聖マリヤム教構成員たちは動揺し始める。
「カイム様……」
「無礼者め! カイム様に何をした!」
「なんと不遜な態度!」
構成員たちが漆黒の魔術書に手をかけた瞬間、面倒になった俺は大声で告げる。
「“頭がたけー、ひれ伏せ”」
次の瞬間、大広間内に待機していた聖マリヤム教構成員たちは一斉に頭を垂れる。 まるで皇帝にかしずく平民たちのように、暴君に怯える庶民のように。
その光景を見て、目が飛び出んばかりに驚愕するシェンルゥたち。
「お、大親分……あんたやっぱりとんでもねーべさ」
「これは流石に、反則なのだわ?」
「もはや、魔術の次元を超えておろうが……」
聖マリヤム教構成員たちは大して強い訳では無いが、厄介なのは即死魔術である不殺生を放ってくる点だ。
とは言っても雑魚エネミーに該当する構成員たちは不殺生を打てたとしても三発が限界だろう。 まあ、五百人近い構成員たちがそれを同時に放ってきた場合、いくら射出速度が遅い不殺生とは言っても避けるのは至難だが。
「魔術大全【第477頁】空間創造構成式:宙繋」
空間と空間を繋げ、生き物以外のものを行き来させる通路を生成するこの魔術を使えば、この場にいない者達にも俺の声を届けることが可能になる。
「“起きろ、お前ら”」
カスディム文字を付与した言葉を、宙繋の先で眠っている奴等に聞かせる。
そうして俺の声を聞いた奴等をこの場に招集するために、続けて指示を送った。
「雑魚の相手は任せていいだろ?」
指示を出すのとほぼ同時に、俺を囲うように十一個の魔法陣が出現し、魔法陣の上には人型の光が出現する。
「お兄ちゃん! メイハオ、頑張るね!」
「ご命令をいただき参上いたしました御主人様。 我々ゲマトリア十名と、居候であるメイハオさん。 貴方様のために力を尽くしましょう」
ゲマトリア達を代表し、アレフが恭しく頭を垂れながら告げてくる。 れっくんたちが助けてくれた、俺の自慢の仲間たち。
カイムの魔術がどういった仕組みで発動しているのかが分かった今の俺なら、こいつらの洗脳を解くことなど朝飯前。
宙繋で俺とゲマトリア達の耳元を空間で繋ぎ、カイムが掌握していたこいつらの脳を活性化するよう付与した言葉を聞かせるだけで良かったのだ。 領域鑑定で場所がわかっている以上、容易く洗脳を解除できる。
空間創造構成式を自在に操れるアレフには、俺の下へ即座に来れるよう魔法陣を預けている。 よって、俺が直々に一声呼べばいつでも駆けつけられるようになっているのだ。
「腕が鳴るでござるな! ゲマトリア総出で任務に当たるのは初めてでござるし」
「燃やしがいのある敵がたくさん! 遠慮なしにファイアー!」
「フェイト殿、くれぐれも火力は控えられよ。 拙者もこの数相手では加減できるか分からぬが」
「滾滾! 遅れを取ってしまった分は、ここでまるっと払拭するアルね!」
武闘派四天王を中心に、ゲマトリア達は久々の出番にやる気十分らしい。 登場して間を置かずに焼却砲が炸裂したらしく、表皮がひりつくような室温になってしまっている。
「早速大炎上しておる!」
「言葉選べシェンルゥ、炎上って聞くとヒヤってするからよ」
早速とばかりに構成員の群れを燃やしているフェイトを横目に、苦笑いを浮かべる俺とシェンルゥだったが、
「まあいいぜ。 今回ばかりは遠慮いらねー。 完膚なきまでにぶっつぶせ!」
「くれぐれも、殺さぬようにな!」
俺の命令に慌てて付け加えるシェンルゥ。
すると、俺の側へゆっくり歩み寄ってくるゲマトリアが一人。
黒い修道服に身を包み、裾の大きい頭巾の下には、白金色のショートヘアが覗く、見た目からしても清廉潔白な印象を与える少女。
俺の側に来て恭しく頭を下げたシスター少女は、空色の瞳を向けながら小さな唇を開く。
「ご安心下さい教皇様、万が一重症者が出た場合、一命を取り留めるまでなら治癒いたします」
「サンキューダレット。 特に、フェイトが燃やした奴等を気をつけて確認しておいてくれ」
七階層を担当するゲマトリア、治療担当で記憶干渉構成式を得意とするシスターガール。
記憶干渉構成式は主に回復系の魔術に長けているため、こいつがいるとフェイトが万が一やらかしたとしてもどうにかできる。
「かしこまりました、拙にお任せください。 聖なる炎に焼かれる哀れな反逆者達に、教皇様の御慈悲があらんことを」
上品な笑みを浮かべながらフェイトの側へと向かうダレット。 あの子はクソ真面目と言うか、真面目過ぎて怖いと言うか、なんだか少しとっつきづらい感じになってしまったのは少々後悔している。
でもまあ、俺がデザインしただけはあり、見た目だけで言えばザインといい勝負の美少女だ。
「おい、ペット風情が、カイムを無視して勝ったつもりでいるっちか?」
威圧するような低い声音を聞き、驚き振り返ってみる。 すると、先程まで跪いていたはずのカイムが、ゆっくりと立ち上がりながら俺を睥睨してきていた。
「さすがは悪魔さん。 自力で解いちゃいますか」
「低俗な魔術ごときで、カイムの魔法を超えられたと、本気で思ったっちか?」
般若面を浮かべながら、カイムの周囲で淀んだ魔力が溢れ出す。
「おーっと? カイムさん直々に俺の相手をしてくれんのか?」
「相手になると思ったっちか? お前ごとき低俗な魔術師が!」
カイムを囲うように、漆黒の風が発生する。 悪魔たちは得意な攻撃形態があるらしく、魔法を自在に操る悪魔たちはこの世に存在しないはずの現象や物質を平気で創り出すことができる。
カイムの場合は風。 この風は普通の風ではないのだろう。
風とは本来気圧の差によって発生する空気の流れ。 だがカイムが操るであろうこの黒い風は、俺達が理解している普通の風とは根本的に違う。
「カイムの風は、空気ではなく魔力による流れ。 つまりカイムの風が吹き飛ばすのは物質ではないんだっち」
本来の風なら、その強さによって竜巻が発生したり、ひどい場合は家屋だって吹き飛ばすことだってできる。 何より厄介なのは、風による攻撃は目視しづらいということだ。
普通に考えれば風による攻撃と考えれば、かまいたちによる切断、突風による吹き飛ばし、場合によっては飛行能力と紐付いたり追い風によって素早く動くなどの印象が強いだろう。
だが、カイムが扱う黒風は、そのどれにも該当しないらしい。
カイムが黒風を発射してきたのをかろうじて目視した俺は慌てて左回りに回避する。 この時俺の側にいたシェンルゥやれんぴっぴも危機を察知して回避行動を取っていたのだが、動きがあまり早くない鬼蔵は俺の側にいたのが災いしたらしい。
鬼蔵だけが黒風をまともに食らってしまう。
その瞬間、鬼蔵の体中に真っ黒な斑点が浮かび上がり、たった一発で白目をむきながらぶっ倒れてしまう。
その光景を横目に、怯えたように声を上げるれんぴっぴ。
「鬼蔵? 一体何が起きたのでしょう?」
「喚くな、畜生風情が」
カイムがれんぴっぴに狙いを定めると、黒風は竜巻のように形を変えてれんぴっぴに襲いかかる。
れんぴっぴは恐怖の表情を浮かべながら必死に駆け回るが、竜巻状になった黒風は放射状に広がっていき、広範囲を覆い尽くす。
それでもれんぴっぴは背中に妖精の羽を生やすことが可能なため、空中に退避することができる。
上手くかわせたことに胸を撫で下ろそうとしたれんぴっぴが、右腕の違和感に気がついたのはその瞬間だ。
「え、なんなの? 右腕が、まったく動かせないのだわ!」
カイムが操っているのは風のため、目を凝らさなければよく見えない。 不透明度が高い黒い煙が襲いかかるような見えづらさだ。
完璧にかわせたと思っても、どこかしらに触れてしまっているケースも考えられる。 だから先程狙われたれんぴっぴの右腕に鬼蔵と同様黒い斑点が出現しても、不思議なことではないだろう。
だが、驚くべきなのはその斑点によって発生する体の異常。
「さあ、恐怖しろ、泣き叫べ畜生共。 カイムの風は、魔力の流れによって生まれる風だっち。 カイムが産み出した魔力の風が吹き飛ばすのは、お前らの意識だ!」




