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バッドエンド回避に失敗した悪役貴族の俺、自作ダンジョンに引きこもる  作者: 【星願大聖】永福
お隣さんが来訪したようです

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第72話 相棒のお陰で復活した俺は、逆襲を始める

 ❖

 大司祭を倒してシェンルゥと鬼蔵達が追いついてきてくれた。 とは言え、相手は魔法を使用する悪魔だし、即死魔法を使用できる聖マリヤム教構成員が五百以上。

 

 俺達四人だけでは分が悪すぎる。 それに、今頃あがいたところでもう遅いのだ。

 

 透明な床の先に見えるマグマをぼんやりと眺めていると、隣で顔をしかめていたシェンルゥが思い出したように自分の手を打つ。

 

「あ、そうじゃ。 喜べ童。 おぬしは何も失敗などしておらんぞ?」

 

 何を言っているのか分からず、思わず首を傾げてしまったのだが、れんぴっぴが周囲を警戒しつつ補足説明を入れてくれる。

 

 マグマの海を眺めていた俺を見て、俺の聞きたいことを察してくれたのだろうか?

 

「頭取が裏で手を回してくれたのだわ! 先ほどマグマに落とされたママ達やメイハオちゃん、全員生きているのだわ!」

 

 れんぴっぴの報告を聞き、カイムは怒りの形相を浮かべる。 立ち上がると同時に瞳孔を開き、つばを飛ばしながられんぴっぴに怒鳴りかけた。

 

「何を世迷言を! さきほどおぬしらの大切な仲間は、カイムのダンジョン自慢のマグマに消えたんだっち!」

 

「な、突然怒り出しても意味がわからないのだわ? だってあなたの声、聞こえませんもの」

 

 れんぴっぴがバカにしたような顔で耳に手を添える、それをみてカイムは肩をふるふる揺らしながら蒸気を上げそうなほどに顔を真っ赤に染める。

 

 ちょうどそんなタイミングで、ほうけていた俺の脳に直接語りかけるような声が聞こえてくる。

 

 『兄貴、突然の連絡失礼しゃーっす。 妖精小隊隊長のれっくんっす。 ご報告があり連絡させていただきやした!』

 

 不良少年のような舐め腐った話し方で、れっくんの声が脳内に響いてくる。

 

 『ああ、念の為あのクソ悪魔にバレないようそのまま聞いてて下さい。 まずは領域鑑定で、階下の三十階層を調べられるっすか?』

 

 言われた通り、れんぴっぴを怒鳴り散らしているカイムの目を盗んで領域鑑定を発動させる。

 

 カイムの話が正しければ、俺が今いるこの透明な壁で覆われた大部屋は、シィタンダンジョンの最終階層真上に位置している。

 

 最終階層に出現するのはマグマの中を自在に泳ぎ回る溶岩ザメ、へマムケルシュが守って……るはずだった。

 

「……は?」

 

 『兄貴たちがシィタンダンジョンに行く前に、俺はテオス達をそそのかしてシィタンダンジョンを攻略させてたんす!』

 

 俺達はこのダンジョン攻略に挑む前、唯一の生き残りであるれっくん達に連絡を取っていた。 同じく人型レルマレブだったれんぴっぴに協力してもらい、現状やらなんやらを詳しく説明し、繭居迷宮の留守番を頼んでいたはずだった。

 

 『いやー、命令では繭居迷宮に残れって言われてたんすけど、先に謝っときます。 さーせん。 でも、俺だって兄貴たちの仲間として共に繭居迷宮を守る守護者っす。 黙って待ってるなんてできるわけないっしょ?』

 

 そこでれっくんは考えた。 俺達の仲間以外で使えるであろう戦力がいないかを、利用できそうな者はいないかと。

 

 『兄貴、忘れていやせんか? テオス達は兄貴のダンジョンに挑み続けたおかげでかなり強くなってるみたいでしてね、兄貴がそこに辿り着く前に攻略してもらっといたんすよ。 このダンジョンを』

 

 領域鑑定で確認できたのは、俺達の足元の階層に見えている景色とはまったく別の光景。

 

 ヘマムケルシュの死体の真横でへばっているテオスたちと、れっくん率いる妖精小隊メンバーの六名が、この大広間から落下したはずの透明な箱を、ゲマトリア達が拘束されている箱を風の精霊を駆使して保護している景色。

 

 驚き目を見張りながら足元に視線を送ってみるが、俺の領域鑑定で見えた景色と目視によって確認できている光景はまったく異なっている。

 

 『400ページ台の魔術は、テオスの野郎どもも使えるみたいだったっすよ。 だからこいつらも使えるんすよ、幻影創造構成式:虚像景色が!』

 

 魔術大全【第299頁】幻影創造構成式:虚像景色。 ペペはこの魔術を使用して横穴式ダンジョンだった繭居迷宮に、幻想的な夜空や真昼の青空を投影している。

 

 その美しさは本物と見紛うほどの精密さで、魔力察知の魔術を使用しなければその光景が偽物だということには気がつけない。

 

 カイムは現在、激昂してれんぴっぴを怒鳴り散らかしているし、その前も優越感に浸って絶望する俺をケタケタ笑いながら煽り散らかしていた。

 

 だからこんな単純すぎる騙し討ちに気がついていなかったのだ。

 

 『つまりっすね、ママたちもメイハオちゃんも無事ってことを伝えたかったんっすよ!』

 

 れっくんの報告を聞き、領域鑑定によってその確証を得られたことで、俺の思考は冴え渡っていく。

 

「はは……マジかよ」

 

 のっそりと立ち上がった俺をみて、肩で息をしていたカイムは首を傾げながら俺の様子を伺ってくる。

 

「なんだっちか? 随分と清々しい顔をしているっちね」

 

 苛立ちながらも、カイムは脳を震わせるような声で問いかけてくる。 この感じを体感するのは何度目だろうか。

 

 そして、何度も体感したからこそ分かってくる。

 

 俺は自分に精神統一の魔術を使用しているとは言っても、カイムの洗脳はかなり強力なものだ。 何度もかけられれば魔術のような低次元な力は突破されてもおかしくない。

 

 にも関わらず、俺がカイムの洗脳に強い耐性を持っていた理由。

 

「無意識に、この魔法のからくりを理解して、脳に防壁を張っていたのか」

 

 俺は無意識の内にこの魔法のロジックを解明していたのだ。 だからこそ、俺以外の全員が洗脳された際も、俺だけが無事でいられた。

 

 あの声を聞き脳が揺れるような感覚に陥った瞬間、察していたのを思い出した。 カイムの言葉に魔法が付与されていることを。

 

 初見だったはずなのに、カイムの声が洗脳魔法の発動条件だと気がついていたから、俺は脳を操られないようカスディム文字を脳内に並べて対策していたのだ。

 

 常人では思い浮かばないようなことをしているカイムのあの魔法を、理論上は可能だと仮定していたからこそ、俺は対応できていたのだ。

 

「おい、シェンルゥ。 耳栓取っていいぞ」

 

「あ? なんか言ったかのう?」

 

 またしても年寄り臭い聞き返し方をしてきたシェンルゥの耳から、無理やり耳栓を引っこ抜く。

 

「ぬわぁ! 何をするんじゃ童、これがなければあやつの洗脳が……」

 

「もうかからねーよ。 そんな子供だまし」

 

 俺の宣言を聞いていたカイムが、眉間にシワを寄せながら俺を睨みつけてくる。

 

「おいペット、今なんと言った?」

 

 底冷えしそうな低い声で、俺を威圧しようとしているのだろう。 だが、からくりが分かってしまえば怖くない。

 

「鬼蔵、れんぴっぴ、お前らも耳栓外せ」

 

 聞き返される前に無理やり耳栓を引っこ抜く。

 

 突然耳栓を引っこ抜かれた鬼蔵とれんぴっぴは間抜けな悲鳴を上げるが、俺はゆっくりとカイムの前へと歩いていく。

 

「分かったぜ? お前の洗脳魔法のからくり」

 

 カツカツと、俺の足音が大広間の中に響いていく。 カイムは俺の動きを注視しながらも、肩をすぼめて鼻を鳴らす。

 

「貴様のような家畜風情に、カイムの魔法が理解できたと?」

 

「ああ、簡単な話なんだよ。 何で気が付かなかったのかと恥ずかしくなっちまう程に」

 

 カイムの洗脳魔法の発動条件は、あいつの声を耳にいれること。 あいつの声が、耳から脳に伝わること。 そして、脳があいつの言葉の意味を理解した瞬間、洗脳は始まる。

 

「答えはこれだろ?」

 

 俺はカスディム文字を手元で空中形成し、手を丸めてメガホンのようにして口元に添える。

 

「そうだな、とりあえず……“跪《ひざまず》け”」

 

 次の瞬間、重力に押しつぶされたような勢いで床に膝をつくカイム。 驚愕の表情を浮かべながら、新魔術を完成させた俺の顔を睨んでくる。

 

 しかし自由に身動きが取れず、苦面を浮かべながら問いかけることしか出来ない。

 

「おのれ、ペット風情が! おぬし一体、カイムに何を……」

 

「ピーチクパーチクうるせーんだよ。 “口を開くな”」

 

 俺の声を聞いた瞬間、カイムは突然口を塞いでうめき声しか上げられなくなる。

 

「なんだよこれ、コツさえ分かれば簡単じゃねえか」

 

 鼻を鳴らしながら、跪き口を開けなくなったカイムの前へ、ゆっくりと歩み寄っていく。

 

「お前の洗脳魔法、多分あれだろ? 付与魔術の応用だ」

 

「付与魔術とな?」

 

 俺の背後で仰天していたシェンルゥが、素っ頓狂な声で問いかけてくる。

 

「水に付与するよりは難しいが、からくりは簡単だ。 俺が発する声にカスディム文字を付与し、相手の意識を掌握してしまえばいいだけの話だ」

 

 以前俺は、繭居迷宮を調査に来る予定だった、紅組と言う華ノ国自慢の魔術師殺し達を追い返す際、新兵器を開発していた。

 

 この魔術は、その時の応用だ。

 

「自己流魔術実験帳【その参】意識干渉魔術:絶対服従《ハッキング》」

 

 言葉に乗せたカスディム文字を、相手の意識に直接干渉させることで可能になる、擬似的洗脳魔術。

 

 と言うよりも、俺が使っているこれはどちらかと言うと洗脳より少々性悪な性能になったみたいだ。

 

「意識が消えてねーってことは、お前の洗脳魔法とは根本的にちげーのかもな」

 

 あえて呼称するならば、服従の魔術。 洗脳と違い意識はハッキリしているため、必死に抵抗しようと試みることだけはできる。

 

 だが、悪魔たちは感覚で魔法を使っているため、魔術の理論など知りもしないだろう。

 

 この魔術がどのようにして成立しているかが分からない限り、解除することは叶わないのだ。

 

 どんな天才でも、習っていない方程式の問題を解くのは困難なように、感覚だけで魔法を使ってきたこいつらはこの魔術を解除するのに苦戦する。

 

 下唇をかみながら、鼻息を荒げて怒りを爆発させそうになっているカイムと視線を合わせるため、目の前にかがんで哀れむように鼻を鳴らす。

 

「でもまー、意識があるってことはこの状況も分かってるんだろうな?」

 

 激怒した視線で俺を睨みつけ、反抗しようとするカイムを一笑に付し。 ここぞとばかりに煽り文句をくれてやる。

 

「どうだ、屈辱かよ? ペット呼ばわりしてたこの俺に、ペットみてーに言うこと聞かされるこの状況は?」

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