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バッドエンド回避に失敗した悪役貴族の俺、自作ダンジョンに引きこもる  作者: 【星願大聖】永福
お隣さんが来訪したようです

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第68話 頭が悪ぃおいらは、単純な方法でしか戦えないんだべ!

 ❖

 れんぴっぴをかついで肩に乗せた鬼蔵は、自信満々の表情で大広間内を駆け回る。

 

「つけめーれるもんならつけめーてみろってんでぃ!」

 

「ちょっと鬼蔵、わたくしのお陰で早く走れているのを忘れないでほしいのだわ」

 

 精霊術第四楽章・追い風協奏曲。 風の精霊の力を借り、術者を加速させるように追い風を生成する補助的楽章。

 

 これによりあまり敏捷に自信がない鬼蔵でも、普段とは比べ物にならない速度で室内を駆け回ることが可能になっている。

 

 高速で駆け回る鬼蔵が相手では、さすがのダジージャでも追いつくどころか不殺生を当てることすらままならない。 苛立ちが溜まっていく中、鬼蔵の肩にかつがれているれんぴっぴは目を閉じて精霊たちの声に耳を澄ませている。

 

「見えた! 右後ろ!」

 

「ぅおらぁ!」

 

「おおっと! 危ない危ない!」

 

 不殺生を唱えるため姿を表した瞬間、鬼蔵はそこに現れるのが分かっていたかのように金棒を振り回す。

 

「どういうことです? もしかして、私の動きが見切られているのですか?」

 

「見切ってたらこんなに馬鹿みたいに走っていないのですわ?」

 

 間一髪で鬼蔵の横薙ぎをかわしたダジージャが冷や汗混じりに困惑の声を上げるが、透過して移動するダジージャの動きは流石に精霊術でも分からない。

 

 わかるのは、不殺生を使用するために姿を表す寸前の一瞬だけ。

 

 とは言え、ダジージャは透過して移動しているのだ、鬼蔵やれんぴっぴに見つからないよう背後で姿を表すのは必然。

 

 れんぴっぴは目を閉じているし、鬼蔵は馬鹿みたいに駆け回っているから前しか見ていない。

 

 にも関わらず、先程の一瞬。 ダジージャが不邪見を解いた一瞬で居場所がわれてしまったのだ。

 

「もしや、背中にも目がついているのでしょうか?」

 

「背中に目がついてたらバケモンだっペさ!」

 

 冷静な回答が帰ってきたため苦笑いを浮かべるダジージャ。 その表情からは余裕すらうかがえる。

 

 ダジージャは待っているのだ、鬼蔵がスタミナを切らしてスピードを落とす瞬間を。

 

 鬼蔵はとりあえずといった形で大広間の壁沿いを沿うように走っている。 円形に作られた大広間は外周を駆けるにはちょうどいい広さとサイズ感。

 

 しかし同じコースを走ってしまえば先回りされてしまう可能性もあるため、壁に沿うよう走るとは言ってもできるだけジグザグになるよう注意してはいる。

 

 そのためダジージャは、タイミングを合わせやすいよう待ち伏せするポイントを決めてそこへと移動した。 もちろんその事は鬼蔵たちにもバレていないし、居場所が割れないようちょくちょく場所を変えるという配慮すら行っている。

 

 ダジージャが本格的に二人の命を狙うのは鬼蔵のスタミナが切れ、速度を落とした瞬間。 補足されないよう猛スピードで駆け回っている鬼蔵は、すぐにスタミナを切らして減速するだろう。

 

 はじめはそう、思っていた。

 

(何だあの男、いつまで走り続けるつもりだ?)

 

 戦闘が始まってから数分。 短距離を全速で走っているような速度にも関わらず、鬼蔵の走る速さは一向に変わらない。

 

 それどころか、肩で息をしている雰囲気すら見せていないのだ。

 

(肩に乗っている子供が使っている妙な術が影響しているのか?)

 

 ダジージャは苛立ち始める。

 

 一向に速度を落とさない鬼蔵達に積極的に魔術を行使するペースが増え始め、攻撃しようとする度金棒が飛んでくるリスクが増えていく。

 

 そうしてとうとう、鬼蔵が振り抜く金棒が腹部をかすったダジージャは、その重すぎる一撃に対して冷や汗をこぼした。

 

(これは、まともに喰らうのはまずいですね)

 

 なぜ、こんなにも長い時間鬼蔵が猛スピードで走り続けることができるのか、なぜ、突然姿を表すダジージャがピンポイントで発見されるのか。

 

「いつまで走り続けるのです? あなたはもしや、人間ではなく機械なのですか?」

 

「姉御の訓練はな、鬼の走り込みから始まるんだべさ! おいら達、大鬼だからな!」

 

 帰ってきた答えが予想外過ぎて、思わずほうけた顔をしてしまうダジージャ。

 

「ただの根性論です?」

 

「ただのとは失礼だっペ!」

 

 鬼蔵たち大鬼中隊は、毎日のようにシェンルゥの理不尽なトレーニングメニューを義務付けられている。

 

 毎日吐くまで走らされ続け、吐いているにも関わらず意識があるならまだ走れるの一点張り。 足を勝手にとめたものは遠慮なくケツを蹴られる毎日。

 

 そうして気絶するまで走らされたと思ったら、目を覚ますと同時に体が動かなくなるまで筋トレ。

 

 根性論という概念すらも苦笑いを浮かべるほどの理不尽なトレーニングメニュー。 シェンルゥの姉御は殺生は嫌ってるくせに超弩級の嗜虐体質なのだ。

 

 泣きそうな顔で訓練に臨む鬼蔵達を見て、嬉しそうにケタケタ笑っている。 だがしかし、その理不尽すぎるメニューのお陰で、鬼蔵は繭居迷宮でも最強と言われるほどまでの身体能力と戦闘能力を獲得することができたのだ。

 

 今や鬼蔵の実力は、ゲマトリアにも引けを取らないほどのバケモノと化していると言っていい。

 

「バカな、このままでは、私の魔力が持たなくなってしまう」

 

 戦闘開始から数時間。

 

 かすむ視界をこすりながら未だなお走り続ける鬼蔵を見て仰天するダジージャ。

 

「見つけらんねー相手なら、自分から姿を表すまで走り回ってりゃあいいんだっぺよ!」

 

 頭が悪すぎる論理だが、これこそ鬼蔵が最強と呼ばれるまでに至ったゆえん。

 

 禁書目録に記載されている魔術はどれもかなり難易度の高い魔術。 一度に使用する魔力は魔術大全で言うところの混合式、それも六百ページ台の魔力量に等しい。

 

 中でも強力な不邪見の魔術に関しては、透過している時間に比例して大量の魔力を消費している。

 

 いくら悪魔たちから力を借りているからとは言っても、さすがのダジージャでも数時間もの間透過しているのは現実的に不可能。

 

 むしろ、ここまで魔力枯渇を侵さなかったダジージャを褒めてもいいほどの魔力量だ。

 

 対して鬼蔵は、日頃の理不尽メニューのお陰で身につけた身体能力だけでダジージャを翻弄している。 消費しているのはスタミナだけで、なんなられんぴっぴの追い風協奏曲のお陰でいつもよりも楽に駆け回ることができている。

 

「あの男は、いつまで走り続けるつもりなのだ」

 

 肩で息をしながら、魔力枯渇寸前で顔を青ざめさせているダジージャ。

 

「そもそも、透過して移動しているはずなのに、毎回攻撃する場所が割れてしまうのはなぜだ!」

 

 苛立ちまみれに独り言を漏らすダジージャ。 これに関しては精霊術を得意とするれんぴっぴの恐ろしさを知らしめないとならないだろう。

 

「精霊さん達、多分もう少しであいつも音を上げるだろうから、もう少しだけ協力してね!」

 

 ずっと目を閉じたまま肩にかつがれているれんぴっぴがぼそりとつぶやく。

 

 そう、れんぴっぴは今、精霊たちと視覚を共有しているのだ。

 

 精霊術第十一楽章・共感覚輪舞曲。 この楽章によってこの大広間にいる三百以上の精霊たちと視覚を共有することで、いつどこにダジージャが現れたとしても即座に発見することが可能になる。

 

 この共感覚輪舞曲は効果範囲は限られているのだが、この大広間は効果範囲内ギリギリの大きさで作られている。 それにこの楽章中は、精霊術を奏でている奏者は動くことができなくなるのだが、それに関しては鬼蔵にかつがれているためまったく持って気にすることはない。

 

 よって、ダジージャが一生懸命居場所を変えながら鬼蔵を狙い撃ちしたところで、姿を表した瞬間居場所がバレてしまう。

 

 こうなってくると持久戦になる。 実際問題、ゲームでの攻略法も二人の戦法と似たようなものだった。

 

 ダジージャが透過し続けられる時間は最大でも三時間と決まっていた上に、不殺生を一発無駄撃ちさせるたびにその時間が十分ずつ短縮されていく。 とは言えゲーマーたちは好き好んで数時間にわたる戦いをしようだなんて考えない。

 

 よってゲームオーバーするのを想定して相手が姿を表した瞬間を狙っての一か八かのカウンター。 これによって倒すプレイヤーが多かったし、ゲーマーの性質上カウンターで倒せたほうが自慢できる上、なんとなく気持ちがいい。

 

 鬼蔵達のように持久戦で相手が姿を消せなくなるまで逃げ回るのはチキンのレッテルを貼られる恥ずかしい行為だったのだ。

 

 とは言え、ここはティメルが転移した現実世界に等しい場所だ、命がけの戦いでそんなリスクを犯す必要など一切ない。

 

「ば、かな。 この私が、こんなにもあっけなく」

 

 魔力切れで勝手にぶっ倒れたダジージャの前へ、スタスタ歩み寄っていく鬼蔵。

 

「まさか、姉御はこの戦いを想定しておいらを鍛えてくれたんだべか?」

 

 肩にかついでいたれんぴっぴをおろして、鬼蔵は涙目を浮かべながら金棒を振り上げる。

 

 魔力切れで視界がぼやけ、気絶寸前のダジージャにはそれを回避する余裕すら残されていない。

 

「ありがとう姉御、きっとおいらは、今日この日のために訓練を頑張っていたんだっペ!」

 

 歓喜の涙とともに、虫の息でへばっていたダジージャにげんこつを食らわせる鬼蔵。 これにより完全に意識を絶たれたダジージャは、その場でぐでーんと伸びてしまった。

 

 もちろんシェンルゥ直属の部下である鬼蔵たちも、殺生は固く禁じられているため加減はしている。 ダジージャは命は落としていないが脳に強烈な衝撃を受けたためしばらく起きることはできないだろう。

 

 なぜか歓喜の涙を上げながらも、さっきまで全速力で走っていたであろう疲れは微塵も感じさせない鬼蔵。

 

 誰もいない虚空に向かって、何度も何度も感謝の言葉を述べるれんぴっぴ。

 

 前の部屋で大司祭を倒し終え、ちょうどそのタイミングで駆けつけていたシェンルゥは、その謎の光景を見て頬を引くつかせていた。

 

「なんじゃこりゃ?」

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