第66話 大司祭相手に渋面を浮かべる俺は、仲間の勇敢さに救われる
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「つまり、野郎めの魔術ってーのは、透明になる魔術なんだべか?」
「透明になるだけなら対応する方法はいくらでもある。 厄介なのは透明化じゃなくて透過だってことだな」
透明化と透過の違い。
もし不邪見が透明化だった場合、煙幕の魔術を使用すればうっすらとでもあいつの姿を確認することができるだろう。 煙幕じゃなくても砂煙でもいいわけだ。
空気中の塵が透明化しているダジージャにぶつかれば、その地点だけくっきり人型に浮き上がる。 だからこのいずれかの魔術で相手の位置さえわかれば対応する方法なんていくらでも思いつくわけだ。
だが、あいつが使っている不邪見の魔術は透明化ではなく透過。 つまり、煙幕を張ろうと砂煙を起こそうと、空気中の塵は透過してるダジージャを通過して漂う。
「つまり、見つける方法が無くなるということですの?」
「そう言うことだな。 あの魔術を使っている最中は音も立たなくなるから音で相手の位置を割るのも不可能」
「転移とかでねーんなら、どうにかなりそうなもんだっペが」
「唯一あいつの不邪見が解ける瞬間があるとすれば、他の魔術を使用する寸前だ」
不邪見攻略の唯一の手は、ダジージャが他の魔術を使用しようとしたときだけ。 反射神経が試されるとはそう言うことだ。
「つまり、あの男が不邪見を解いて不殺生を唱える瞬間を狙ってカウンターをしなければいけないという事なのだわ!」
「そう言うことだ」
れんぴっぴがふむふむ唸りながら顎を撫でている中、鬼蔵はあいつの面倒くささが分かっていないせいか、首を傾げながら俺をじーっと見てきた。
時空断絶は永続的に発動する魔術ではない。 持ったとしても後数秒。
対応策も何も浮かばないこの状況で、一体どうやってダジージャをぶっ倒せばいいことやら。
「なあちっせーの」
「ちっせーのとは失礼なのだわ」
「わりぃわりぃ、んだけども、おめーさんの名前は変わってるから覚えづらいんだべ」
「れんぴっぴって何度も名乗ってるのだわ?」
「わがったけんどまずはおいらの話を聞くべさ」
鬼蔵とれんぴっぴが何やら会話をし始めたが、気にせず俺は冷や汗をこぼしながら次の一手をどうしようか考える。
「あのやべー魔術ってどんくらいのスピードで飛んでくるか分かっか?」
「そうですわね、たぶんあなた達が歩くスピードより少し早いくらいかしら?」
「ってことは、走ってりゃ避けられるべ」
何やら雲行きが怪しい話し合いを始める鬼蔵たちに、俺は思わずしかめっ面を向けようとしたのだが。
「すんません大親分。 ちょっくら襟元を失礼するべ」
「ちょ、おい! 何すんだ鬼蔵!」
俺の襟首を掴んだ鬼蔵が、突然俺を持ち上げた右腕を振りかぶる。 何やら嫌な予感がするが、念の為窒素障壁を寸止めする俺。
「とりあえず、こいつは俺達でどうにかしとくんで、大親分は先に進むんだべ」
「ちょっと待て鬼蔵!」
「おいちっせーの! 後何秒くらい大親分の障壁は継続するか分かっか?」
「恐らく後三秒程度なのだわ」
俺の静止も聞かず、カウントを始めるれんぴっぴ。 鬼蔵はそのカウントを聞きながら、俺を持ち上げていた右腕にぐっと力を込める。
「口は閉じててくだせー大親分! 舌噛むと危ねーべから!」
「そう思うんなら投げようとするんじゃねぇ! ちゃんと超速移動を唱えるから……ぅおいっ!」
鬼蔵が勢いよく右腕を振り抜くと、俺の全身を突風が叩きつける。 悲鳴を上げながら一直線に大広間の奥の扉へとぶっ飛んでいく俺。
このまま扉にぶつかったら痛いため、俺は慌てて窒素障壁を展開。
窒素障壁が展開されると同時に出口に衝突したのだろう、勢いよく扉が開き俺は若干減速しながら通路に投げ出された。
顔をしかめながら地面に叩きつけた背中を擦っていると、先程の大広間から大きな声が聞こえてくる。
「後は俺らに任せて、大親分はとっとと悪魔をぶっ倒してくるべさ!」
自信あり気な声でそう言われても、不安にしかならない。
そう思いながら慌てて戻ろうとすると、鬼蔵は背中越しに再度声をかけてくる。
「安心するべさ、俺は繭居迷宮最強の人型魔獣! この程度の相手に、手こずるほどやわじゃねーべ。 それに、ここで大親分を先に行かせなかったら、姉御にこっぴどく叱られっちまうべ!」
そんな事を言われては、戻ろうにも戻れないじゃないか。
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れっくんはまず、宝州滞在中のテオス達の元へと向かう。
冒険者教会内部で今後の方針について話し合っていたテオス達は、どうやら装備や持ち物のチェックを済ませてこれから繭居迷宮に挑もうとしているところだったらしい。
だが、そんなタイミングで冒険者協会の雰囲気にそぐわない容姿の少年が現れる。
「テオス・メルレインってのはおめーだろ?」
「誰だい君は、ここは冒険者協会だよ? 君みたいな子供が来る場所じゃない」
「俺をガキ扱いするんじゃねぇ! 焼き入れっぞごらぁ!」
不良少年のようにやさぐれた顔つきを作っているが、見た目も身長も小学生同然のためむしろ可愛らしく映ってしまう。
「何よこの子、言葉遣いがなってないわ?」
「うるせークソ女!」
「まあ、誰がクソ女ですって?」
「まあまあ、落ち着くんだラーニア。 子どもの言うことにムキになっちゃダメだよ」
顔を真赤に怒らせるラーニアを落ち着かせようとするテオス。
「ったくよ、俺はせっかくお前らがほしいであろう情報を持ってきたってのに、いいのかよそんな態度取って」
「ああはいはい、どんな情報なのかな坊や? 俺達は忙しいんだから手っ取り早く要件を言ってくれるかな?」
「お前らさ、賞金首の悪徳貴族を追ってるんだろ? 居場所知りたくねーのかよ。 そんな態度取られてんなら、別の冒険者に言って金もらうのもありだな」
れっくんは悪戯妖精故に、その体躯の小ささから舐めた扱いをされることには慣れている。
だからどうすれば相手の注意を引けるか、どう言う情報が相手の必要とする情報なのかを吟味し、それを匂わせることで強制的に注目を集めることも得意だ。
そのため強気な態度を取るれっくんの言葉に、まんまと動揺し始めるテオス達を横目に言葉を続けていく。
「どうせ今から行くダンジョンも繭居迷宮だろうし、その繭居迷宮に挑んでいる冒険者たちの中で一番の実力者だろうから情報をくれてやろうと思ってたのに。 ちゃんと俺が持ってる情報を正当な価格で聞いてくれる冒険者探したほうが、どう考えても徳だよな」
「繭居迷宮? どこのことかしら?」
「……お前らで言うところの、極悪貴族の魔獣実験場の正式名称だよ」
思わずずっこけそうになっているれっくんだったが、頭を掻きながら繭居迷宮の正式名称を改めて教えると、テオス達は納得したようにゆっくり頷きながら手の平を打っていた。
「あのダンジョンってそんな名前だったのか」
「俺等的にはティメルの実験場で定着してるからな」
「でも言われてみれば、名前長いからジェンジュ迷宮のほうが呼びやすいわね」
「そんな事はともかく、お前ら俺の情報聞く気あるのか? ちなみに俺がお前らにくれてやる情報は、お前らがジュムフーリヤ帝国の皇帝から命じられて討伐対象にしてる、ティメル・シャプールさんの居場所と、聖マリヤム教のアジト。 この二つだぜ?」
テオス達は、名目上は賞金稼ぎの冒険者を名乗っており、皇帝の命令でティメルを討伐に来ていることを隠して行動している。 でないと華ノ国は、テオス達にジュムフーリヤ帝国の密偵である疑いをかけかねないため、テオス達は宝州の街からあまり動かないよう気をつけているのだ。
にも関わらず、機密情報であるはずのジュムフーリヤ帝国皇帝からの命令だけでなく、テオス達が陰ながら後を追っている聖マリヤム教の名前まで出されたのだ。
聖マリヤム教が王宮を襲った事件や、他の事件に巻き込まれたテオス達は、その原因を髪も瞳もマリヤムと同じ色をしているテオスが発端だと考えている。
だからこそジュムフーリヤ帝国に危険が及ばないよう、皇帝からの命令で華ノ国に滞在することになったのは彼らにとっては好都合だった。
今はティメルという強大な敵を相手にしているため二の次になってしまっているが、皇帝の命令さえ達成することができれば、次に対峙しないといけないのは聖マリヤム教なのだ。
この二つの情報を同時に保持した疑いのある少年が、テオス達の前に現れる。偶然にしては、出来すぎていると誰もが思うであろう。
「君は……一体何者なのかな?」
「俺か? そう言えば名乗るのが遅れてたな」
興味を示し始めたテオスを盗み見たれっくんはしめたとばかりに口角を上げながら、テオス達の前で腕を組み、渾身のドヤ顔を披露する。
「俺はれっくん。 繭居迷宮第九階層を守護している、妖精小隊頭取だ!」
自信満々に名乗りを上げるれっくんに対し、テオス達はきょとんとした顔で互いの顔を見合う。
「本当にれっくんって名前なのかな?」
「さすがにあだ名じゃないかしら?」
「本名はさすがに別だろ?」
テオス達の話を聞いている内に、れっくんの顔はどんどん赤くなっていく。 自分の名づけがヴェートであることを、初めて後悔してしまうれっくんであった。




