第65話 最後の大司祭に遭遇した俺は、対抗策を練るため時間を稼ぐ
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ティメル達がシィタンダンジョン攻略に向かう数分前。 宝州で情報収集に取り掛かっていた妖精小隊の情報収集班、妖精小隊頭取のれっくんは、先ほど精霊通信によって伝わってきた情報を吟味して頭を悩ませていた。
「おい嘘だろ? 繭居迷宮陥落だと?」
頭を抱えながら、ティメルと行動するという報告を聞いていたれんちょまから伝わってきた精霊通信の内容に驚愕するれっくん。
「おいおいどーすんだよこの状況」
顔をしかめながら、宝州で仮住まいにしている妖精小隊情報収集班の事務所内でうめき声を上げるれっくん。
「とりあえず分かってる情報をまとめるか」
いつもの業務同様、今ある情報を上げながらノートに書き記していくれっくん。
「聖マリヤム教と悪魔総裁カイムが繋がっていて、メイハオちゃんがマリヤムの直系とバレた。 あとは、繭居迷宮がカイム率いる聖マリヤム教に襲われた」
他にも分かっている情報は、唯一ダンジョンの外にいたティメルとシェンルゥはカイム達の襲撃から免れている。
唯一別行動していた聖マリヤム教大司祭、ワーキアはティメルを襲った。
ティメルと行動を共にしていたれんちょまは戦いの邪魔になるからと言われて繭居迷宮へ撤退。 繭居迷宮へ撤退した際れっくんに報告を入れており、その後はなんの応答もない。
おそらくカイムに洗脳されたか、それとも倒されてしまったか。
対して、テオス監視のため外にいたシェンルゥと行動を共にしていたれんぴっぴも無事と考えられる。 れんぴっぴから襲われたという報告はないため、こちらに連絡してみれば詳しい状況はわかるかも知れないだろう。
早速とばかりにれんぴっぴに連絡を取るれっくん。 すると、今の状況を詳しく報告してもらうことができた。
それに伴いティメルやシェンルゥからも詳しい情報を聞くことができ、鬼蔵が無事だという事実も判明。
ここまでの情報を整えたれっくんは、現状動けるメンバーが自分たち妖精小隊情報収集班六体しかいないことに頭を抱えてしまう。
ティメルからの指示によると、危険だから宝州に待機するようにと言われており、もし襲われたのなら命を大事におsの場を離れろとも言われている。
「冷静に考えれば、俺達は繭居迷宮の防衛に務めないとならない。 だが、ゲマトリアがいない繭居迷宮を俺達だけで守るのは不可能と考えていい」
顔をしわくちゃにしながら思考の渦を巻き始めるれっくん。
「もしかしてママもやられちまったのか? いやでも、契約紋は残ってる。 つまりママはまだ無事ってことだな」
ティメルの魔獣召喚で呼び出された魔獣、レルマレブであるれっくんたち十二体は、ゲマトリアであるヴェート直轄の部下に分類されている。
故に契約者であるヴェートが生きている限り、左手の甲に記されている契約紋は消えたりはしない。
「ママは無事ってことは、他のゲマトリアも無事と考えていい。 じゃあ何で兄貴たちが帰還した繭居迷宮はもぬけの殻だった?」
れっくんはヴェートから調教……あらため、改心させされるまでの間、いたずらすることが大好きだった。 人間の悪感情を好む悪魔とは違い、かまってほしいが故におこなういたずらが主なレルマレブだが、本質的に相手を困らせようとする思考は似通っているものが多い。
相手を怒らせるためにはどんな悪戯が効果的か。 それをするためには何をするのが最も効率がいいのか。
「なんとなく、分かってきたぜ? カイムの考えていることが」
れっくんは決心したように立ち上がり、部下たちを集める。
「まずはカイムの思考を読んだ上で、兄貴たちの助けになるには何をするべきか。 いいかお前ら、俺達がするべきことはもぬけの殻になっている繭居迷宮に帰ることではない。 それに、命おしさに宝州で待機だなんてダサいことも絶対しない」
集めた妖精小隊のメンバーを総覧し、れっくんはにやりと口角を上げる。
「カイムが兄貴に嫌がらせをするんなら、俺達は逆に、カイムにさいっこうの嫌がらせをしてやろうぜ?」
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真っ白な通路をひたすら駆け抜ける俺達。
もはやこのダンジョンの管理場はカイムのいのままに組み替えられていると仮定していい。
おそらく空間魔法や時空魔法などの高レベル魔法を使用して、通路として作成した部屋を積み木のように組み替えているのだろう。
そうして俺達を誘導しながら、あの大広間にたどり着くよう仕組んでいる。
だとしたらこの通路を駆け抜ければ、確実にカイムのもとにたどり着くと予想していい。
「あの悪魔は必死こいでる俺を見て愉悦にでも浸ってんだろ。 クソ性格の悪い事この上ないな」
「んだけども、もしあの悪魔が大親分にビビってたら、一生あの悪魔のところにもたどり着けねーし、この空間からも出れなくなるんでねーか?」
「その可能性も十分ありえるけど、ほら前見てみろよ鬼蔵」
俺が示した先には先程と同じ大扉が現れる。 とは言え今回出てきた扉は、通路沿いではなく通路の突き当りに出現している。
「これは、さっきの部屋と同じ扉だべ!」
「となるとこの部屋にいるやつは予想できる」
大司祭は三人いて、そのうち二人とはもう遭遇したのだ。
この部屋に何がいるのか、予想するまでもなく分かる。
だからこそあらかじめ魔術を構成し、最悪の事態に備えることも可能。
「鬼蔵、この扉を開けた瞬間後ろに下がれ」
「了解だっペさ!」
勢いよく大扉を蹴破った鬼蔵がすかさずバックステップ。 それを確認した俺は先程寸止めした魔術を多重発動させる。
「魔術大全【第912頁】混合式:時空断絶!」
時空断絶の多重発動。 以前メイハオちゃんが封印されていた遺跡を消し飛ばした際使用した防御魔術。
多重発動させることで面積を無理やり引き伸ばし、この通路と大広間を隔離するように時空断絶の障壁を発動した。
こうすることには理由がある。 最後の大司祭が使う魔術が非常に厄介な魔術だからだ。
大扉を開いた先には、先程同様一面真っ白に覆われた大広間が広がっており、その広間にはなにもない。 目に入るのは大広間の奥にある、先程蹴破ったものと同じ扉のみ。
「おやおや、おかしいですねー」
何もなかったはずの大広間の中心に、霞が晴れるように氷色の法衣を纏った男が突然現れる。
「ティメル殿は、禁書目録の魔術に精通しているのですか? もしやあなたもこちら側の人間なのですかな?」
「なんですの? 今、あの男あそこに突然現れましたわよ?」
「あいつは始めからずっとあそこにいたんだろうぜ? あれはあいつが使う魔術、不邪見の効果だ」
第拾の罪:不邪見。 この魔術は大司祭の中でも最も単純かつ最も効果的な魔術と言えるだろう。
「ふっふっふ、おかしいですねー。 禁書目録の魔術は、一般的には知れ渡っていないはずなのですが? もしかしてあなた、見た目にそぐわず長寿だったりします?」
「禁書の魔術は、難易度が高くなる第参の罪から先の魔術は、見たやつが生き残ってねーから伝わらねーだけだぞ?」
「おやおや随分と物知りなのですねー。 もしかして、私達の行動を監視していたのです?」
「悪いけど、お前らみたいなクレイジーなやつを監視する趣味はねー」
前世でこのゲームを遊んでいただけだなんて言っても、信じてもらえるとは思えない。 とは言えこいつを倒すのは少々骨が折れる。
なんせこいつを倒すのに必要なのは反射神経。 にも関わらず一回でもミスれば確実に死ぬわけだ。
だから俺は対抗策が浮かぶまで、この通路と大広間の間に時空断絶という最高硬度の障壁魔術を展開した。
逆に言えば、今の俺に対抗できる自信がないとも言えるこの行為に、あいつは気がついていやがる。
余裕そうにケタケタ笑いながら、氷色の法衣を纏った三人目の大司祭は、漆黒の魔術書へ手をかざす。
「まあ、念の為名乗りは必要ですよね? もしかすると、あなたは私の名前を知らないかも知れませんし」
「こりゃーご丁寧にありがとう。 禁書目録【第拾の罪】を得意とする大司祭、ダジージャさんよ!」
「ふっふっふ、そんなにも時間稼ぎをしたいのですね? もしかして私をからかっているのでしょうか?」
最強との呼び声が高い大司祭、ダジージャ。 その理由はあいつが使う禁書目録【第拾の罪】が破格の性能を持っているのが所以だ。
「その障壁が解除されない限り私はあなたに攻撃はできないのですが。 あなたはこれから、私がどこにいるかすらもわからなくなる」
ゴクリと喉を鳴らしながら、ダジージャの一挙手一投足を注視する俺。
「さあ、鬼ごっこを始めましょう。 禁書目録【第拾の罪】不邪見」
ダジージャがその魔術を唱えた途端、大広間の中央にいたはずのその男は、霞が包むように姿を消した。
そう、【第拾の罪】不邪見は、術者の姿を透明にする魔術。 透明化している最中は、姿はもちろん匂いも気配も、立てた音でさえ、感知できなくなる。
つまり、真後ろのゼロ距離から不殺生を唱えられたとしても、反応することすらできなくなる魔術なのだ。




