第62話 悪魔さんを創作し始めた俺達は、優秀な部下たちに感動する
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繭居迷宮に誰もいなかった理由として考えられるのは、カイムの洗脳魔法によって洗脳されたメンバーが拐われていったと考えるか、それとも大司祭たちの不殺生を食らって塵になってしまったかの二択。
とは言えメイハオちゃんは拐われたのが確実。 その他のゲンガーやゲマトリア達はどうなったのかはわからない。
ゲマトリア達がまだ生きていてくれているのなら、やられてしまった人型魔獣たちは再召喚できるだろう。 だが、もし不殺生の魔術で塵にされていた場合、先日メイハオちゃんとの戦いで使用して逆再生が適応できるかどうかが怪しい。
そもそも、それが可能だったところで魔力が足りるかどうかが問題だ。 一人の時間を数分戻すだけで拳一個分の魔水晶が必要になった。
塵になって生命活動を停止したゲマトリアにこれが適応されるかどうかもそうだが、時間を戻せたとしても魔力の消費量は計り知れない。
これができたとしたら蘇生という分類の魔術になってしまうが、文献でもマリヤムが蘇生を成功させたという例がないところを見るに、まず不可能だろう。
魔造人間とは言っても、記憶を書き込み人間同様に生きているあの子達は、俺達普通の人間と対して扱いは変わらない。
まずはゲマトリア達が生きているかどうかを知りたいところだが、遠隔で連絡手段を持っているのは妖精小隊の面々のみ。
今唯一の生き残りであるれんぴっぴだけでは確認のしようもないのだ。
そもそも、ダンジョンの見張りについていたガンマチーム、ヴァブ率いるれんれんたちから一切連絡がなかったのも不可解だ。
ヴァブほどのやつがそんな簡単に倒されるとは考えられない。 精霊で遠隔連絡する前に何らかの方法で阻止されたと考えると、カイムは妖精小隊を使った連絡方法すら知っていたと考えるのが自然。
こちらの手の内が読まれていたのなら、今こうして行動している事も筒抜けになっている可能性が高い。
念の為領域鑑定でカイムの野郎がどのあたりにいるのかを調べようとしたのだが、鑑定の途中で妨害された。
とは言っても、妨害された場所はダンジョン内ではなく、推測するに十二階層から向かえる管理場。 これはつまり、カイムが潜んでいるのは管理場だと言っていることに他ならない。
ここまでの道すがらで、繭居迷宮がもぬけの殻だった理由を考えたり、カイムがどこにいるのかを探りながら鬼蔵たちについて歩いていたら、思ったよりも進んでいたようだ。
シィタンダンジョン攻略が始まり数分。 もうすぐ十二階層に差し掛かる。
ここまで特に俺やシェンルゥは何もすることがない。 それもそのはず。
「オラァ!」
「水の精霊さん、お願いなのだわ!」
鬼蔵とれんぴっぴが強すぎて、ここまで出てきた魔物はほとんど瞬殺である。 率直にいって暇でしかたがない。
おかげさまで冷静にいろいろなことを考えることもできた。
「童が言っておった隠し通路があるのは十二階層であろう?」
「ああ、次がもうその十二階層なわけだな」
シェンルゥの言葉に対応し、俺は魔術大全をペラペラめくっていく。
十二階層から行ける隠し通路の場所までは、正規のルートで向かったわけではない。
一度しか見ていない光景なため、カイムがどこを触って扉を開いていたかなんて明確には思い出せない。 言うて俺はそこまで記憶力が優れているわけでもないし。
そんなときに便利な魔術がある。
「魔術大全【第306頁】記憶干渉構成式:視野回想」
今まで見てきた光景を再度遡って確認できる魔術で、目を閉じれば当時見ていた光景を思い出せるようになるのだ。
「ほうほう、十二階層のどのあたりかはよく分からんが、特徴的な岩の形があるな、それに近くに石炭採取ポイントもある」
「大親分、どっちに進めばいいべか?」
俺が視野回想の光景を見るため目を閉じていると、鬼蔵が恐る恐る訪ねてくる。
目を開いて目の前の光景を確認してみると、分かれ道があることに気がついた。
「これは、この階層片っ端から調べないとダメ臭いな」
「石炭の採集ポイントとかいうのを目印にしてはだめかのう?」
「ひとまずはそんな感じになるか?」
俺とシェンルゥで頭を悩ませている最中、接近してきた魔物を何事もなかったようにどつき回す鬼蔵。 ほとんどの魔物は金棒一振りで片ついてしまう。
素晴らしい働きぶりだ。 たまにポップするルフショーラ、いわゆる火の玉おばけもれんぴっぴが精霊に一声かければあっという間に成仏していく。
この二人強すぎるんじゃないかと苦笑いを浮かべることしかできないが、今はそんなことよりどの通路を進むかを考えなければ。
案内されたときは転移に近い魔法でいきなりこのダンジョンに入っていたし、なんなら隠し通路の近くに移動してきたため正規のルートなんてわからない。
迷っていても仕方がないため、とりあえず進もうと適当に右側の通路を指さそうとした瞬間。
「兄上、その視野回想という魔術は、わたくしにも見せられないのです?」
れんぴっぴがそんな事を聞いてきた。
「できないことはないぞ?」
「でしたらわたくしに見せていただけません? この階層だけなら、風の精霊の力を借りれば調べられるはずですわ?」
風の精霊は空気の流れとかを変えてくれる働きをしてくれるらしく、遠隔で連絡をする際はこの風の精霊達が伝言ゲーム方式で言葉を運んでくれるから成り立っている。
れんぴっぴが言いたいのはこの階層の空気の流れを確認すれば隠し通路が見つかるのではないかということだ。
いくら隠し通路とて、僅かな隙間はあるはず。 その隙間から吹いているかすかな空気の流れを察知できれば、以前俺が案内された通路へと進むことが可能になるという算段か。
「と言うか、精霊たちが隠し通路らしき場所のありかをすでに数か所発見しているのだわ」
「え?」
「なんと!」
気まずそうな顔で告げてくるれんぴっぴ。 俺とシェンルゥは驚きのあまりフリーズ。
せっせと近づいてくる魔物を蹴散らしていた鬼蔵は、何故かあたふたし始めていた。
「おんめー! めちゃくちゃ優秀なんでねーか? このままじゃあおいらのメンツが総潰れだべ!」
どうやら鬼蔵はれんぴっぴの優秀すぎる働きを前に功を焦っているらしい。
「安心してくれ鬼蔵、お前のお陰で俺達は話し合いに集中できてるし、れんぴっぴも精霊たちと落ち着いて会話ができてるんだぜ?」
「大親分、ありがとーごぜーます」
「これ、よそ見するでない鬼蔵! 次が来ておるからとっとと蹴散らさんか」
「任してくだせー姉御!」
鬼蔵が意気揚々と魔物たちを蹴散らしていく中、れんぴっぴは虚空を見上げながらペラペラ会話をしている。
なんだか絵面だけ見ているとものすごくシュールだが、念の為に俺は視野回想の魔術を構成し、れんぴっぴに同じ光景を見せた。
目を閉じてその光景を確認したれんぴっぴは、数秒間沈黙したままふむふむと頷き始める。
しばらくすると眉を開きながらゆっくりと目を開け、虚空を眺めながらああだこうだとひとりでに話し出す。
黙ってその光景を見守りながら、鬼蔵に叩きのめされている魔物たちの悲鳴を聞かないようにしていると、れんぴっぴはむふんと胸を張りながら俺達を手招きし始めた。
「精霊さん達が案内してくれるのだわ! 鬼蔵さん、こちらの通路に進んでいただけます?」
「任しとくべさ! 気合い入れていくべ!」
弾むような足取りで駆け出した鬼蔵は、れんぴっぴの指示した道にいる魔物たちをちぎっては投げていく。 人型魔獣たちの優秀さに驚きを隠せない俺だったが、見覚えのある区画までたどり着いてれんぴっぴと共に足を止めた。
「ここですわね?」
「間違いねーな」
ようやくたどり着いた隠し通路の壁を前に、俺達は気を引き締め直す。
「この先はいきなりカイムが出てくる可能性も考えられる。 念の為鬼蔵とれんぴっぴは後ろに下がってろ」
「妾の出番が来たわけじゃな? 任せておくが良い!」
腕まくりをしながら気合十分で前に立つシェンルゥと俺。 さて、ここに来て問題が発生する。
「確か、カイムはこの辺をあさってたよな?」
視野回想の光景を頼りに手探りで壁を弄ってみるが、一向に扉のギミックがわからない。
ここまで来て手詰まりかと歯がゆい思いを感じていると、鬼蔵が素っ頓狂な顔で俺の元へと歩み寄ってくる。
「大親分、その通路ってのはどのへんが開くんでい?」
「確かこの辺りだったな」
扉のように開いていた壁を指差すと、鬼蔵はニヤリと悪そうな笑みを浮かべながら金棒を絞るように握りしめた。
「大親分、ちょっと離れててくだせぇ!」
「ちょ、おま、まさか!」
止めようとしたのだが鬼蔵はようやく俺の出番が来たぜとばかりに張り切っているようで、止める間もなく金棒をフルスイング。
激しい砂煙が発生するとともに、爆撃のような音が洞窟内にこだましたかと思えば、砂煙の中で満足そうに鼻を鳴らす鬼蔵。
「大親分! これで道は開けましたぜ!」
鬼蔵が豪快に破壊した壁の向こうには、真っ白な壁が永遠に続いている場違いな通路が見えていた。




