第61話 お礼参りに向かった俺達は、決意を固めてリベンジに望む
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転移の魔術で最終階層の転移陣保管室へと飛んでくる。
慌ててゲンガー達がいるはずの管制室へ行くのだが、
「誰も、いねー」
「まさか、間に合わなかったんだべか?」
ぎょっと目を見開きながら膝をついてしまう鬼蔵の横を駆け抜け、ダンジョン中を駆け回る。
九階層の食堂にも、八階層のカジノ風フロアにも、七階層の教会風フロアにも、全フロア回っても誰もいない。
必死に誰かいないかと呼びかけても、帰ってくるのはこだました俺の声だけ。
「誰か、返事してくれよ」
思わず思考が止まってしまい、膝から崩れ落ちてしまう。
せっかく今日まで楽しく過ごしてこれたのに、今まで苦悩しか無かった人生を幸福で満たせる方法が分かりそうだったのに。
全部、ぶっ壊された。
この数カ月間の楽しい思い出も、俺の成果も、これから訪れたであろう幸福な未来も。
全部、全部、嘲笑うように壊された。
あのクソガキ悪魔に、何もかもを奪われた。
怒りが沸々と込み上げ、魔力が乱れる。 淀んだ魔力が全身を包み、負の感情だけが脳内を支配し始める。
「どいつもこいつも、邪魔ばっかりしやがって……」
苛立ちは憎しみへ、憎しみが憎悪へ、やがて負の感情で満たされる脳内を埋め尽くすのは、純粋な悪意。
「クソ人間どもに迫害されて、悪魔には俺の幸福を邪魔されて、こんなクソッタレた世界、ぶっ壊して俺が一から作り直しちまった方が……」
「しっかりせんかたわけっ!」
突然右頬が熱くなる。 何が起きたかわからない俺の思考は完全にフリーズしてしまい、
「妾にもゲンガーから連絡が来たぞ! 恐らくカイムの狙いは、おぬしの悪感情であろうて! ここで怒りをぶちまけたら完全にアヤツの思う壺じゃろうが!」
馴染のある声が聞こえ、ゆっくりと視線を前に向けると、
「落ち着くのじゃ、まだ時間はたっておらん。 幸い、カイムが支配しておるダンジョンも直ぐ側にあるじゃろうて!」
肩で息をしながら、ボサボサになった髪の毛を整えようともせずに俺を正面から見据えてくるシェンルゥ。
そう言えばこいつも、俺と一緒に宝州でテオス達を監視していた。 だからカイムたちに襲われずに済んだのだろう
「妾はな、麒麟ゆえ殺生を何よりも嫌う。 おぬしは今まで大量の魔物を屠ったであろうが、通常のダンジョン内で屠った魔物たちは魔界に返されるだけじゃ。 あれは魔界におる悪魔が管理しておるわけじゃからな」
突然、視線を泳がせながら意味のわからないことを言い出すシェンルゥ。 思わず何が言いたいのか分からなかった俺は、首を傾げてしまうのだが、
「つまりその、あれじゃあれ。 おぬしは実質好き好んで殺生などしておらんわけで、おぬしを殺しに来た人間どもすら生かして返してしまうほどのお人好しなわけじゃ。 んじゃからのう、妾は別に、童の契約獣になったのが嫌だと思ったことは今まで一度もないわけで……」
早口で話し始めたシェンルゥが、モゴモゴしながら下を向いてしまう。 なんとなく、今の俺でもこいつが何を言いたいのか分かったような、分かりたくないような。
「つまり! 妾は童のことを嫌ってはおらんから! 絶望するのはまだ早いじゃろ!」
全然話はまとまっていない気がするが、一生懸命俺を落ち着かせようとしているのは痛いほど伝わった。
だからこそ、さっきまで脳内を支配していた悪感情は驚くほどあっさりと引いていく。
シェンルゥのお陰で笑みを浮かべることができた俺は、ゆっくり立ち上がる。
若干頬を赤くしていたシェンルゥは、立ち上がった俺を見て嬉しそうに瞳を輝かせた。
「童はのう、妾が知る限り一番の魔術師じゃろうて! この程度の災難、力ずくで解消できて当然であろう!」
「ああ、そうだな」
「じゃったら、今すぐするべきことは一つしかあるまいて!」
「もちろんだ」
魔術大全を開き、決心を固めた表情でシェンルゥの眩しく輝く瞳を直視する。
「俺の幸福を邪魔するクソッタレは」
「二度と反抗する意思が起きないよう叩き潰しに行くのじゃ!」
拳をぶつけ合い、俺達は悪人面で笑うのであった。
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カイムがアジトにしているのはシィタンダンジョンだ。
このダンジョンは繭居迷宮からさほど離れていないので超速移動を使えば数分で着く。
「お、大親分。 この移動方法は心臓に悪いべさ」
「なに情けないことを言っておるのじゃ鬼蔵! あやつらをぶっ飛ばしたら厳しく訓練し直さねばな!」
「そりゃーねーですぜ姉貴!」
「お二人共、今は言い争ってる場合じゃないのだわ!」
頭を抱える鬼蔵はさておき、テオス監視のため繭居迷宮の外にいたシェンルゥと、通信係のれんぴっぴを連れてシィタンダンジョンにたどり着いた。 ちなみにれんぴっぴはシェンルゥと行動を共にしていた妖精小隊の構成員だ。
ダンジョンが襲われた際、たまたま外にいた唯一の生き残りとも言える。
そのれんぴっぴが険しい顔つきで俺の方に視線を送ってくる。
「兄上、いま精霊たちの目を借りてダンジョン内の様子をうかがったのですが、カイムにバレたせいか、視線を共有してくれた精霊たちが撃退されてしまって盗み見ることができなかったのだわ」
「悪いな、精霊たちは無事か?」
「はい、間一髪で逃げてくれたおかげで命に別状はないのですわ」
精霊術は精霊との親和性が高ければ高いほど自由自在に操れる。 そのため視線を貸してもらったり聴覚を共有したりするには、あまり無理をさせてはいけないのだ。
れんぴっぴが何も無い虚空に「ごめんね、後でお菓子をたっくさん作ってあげるのだわ?」なんて言っているのは、決して見えてはいけないものが見えているわけでもなければ、友達がいなくて寂しいからイマジナリーフレンドと話しているわけでもない。
「れっくんから連絡は?」
「先程ついたのだわ! 兄上に言われた通り、宝州に残って周囲の警戒をお願いしたのだわ!」
俺達の仲間の中で唯一繭居迷宮の外にいた妖精小体の六名、頭取のれっくん率いる情報収集班には無理をさせずに待機させる方向性にした。
ぶっちゃけ人型魔獣たちはやられてしまったとしても再召喚できる。 とは言えゲマトリアが生きているのかがわからない今、むやみに命の危険をさらすわけには行かない。
待機を命じさせはしたが、危険と思ったら逃げてもいいということを伝えておいた。 だかられっくん達は命を大事に行動してくれるだろう。
「さて、このダンジョンは炎系の攻撃をしてくる魔物が多い」
「序盤はショーラシフリヤ、ルフショーラとかがうじゃうじゃ出てくるから、鬼蔵はショーラシフリヤの対処を頼む」
「任せてくだせぇ大親分!」
ショーラシフリヤは、名前だけでは分かりづらいが全身を溶岩で包んでいる蜥蜴だ。 サラマンダーでいいじゃないかと何度も思っているが、そこはゲーム制作陣のこだわりがあるらしい。
「ルフショーラにはれんぴっぴの精霊術が有効なはずだ。 水をぶち当てとけばどうにかなると思うから頼むぜ?」
「お安い御用なのだわ!」
ルフショーラはうごめく火の玉だ。 どうやら焼け死んだ冒険者の霊魂という設定らしく、分類的にはゴースト、つまりアンデットの括りになる。
実態がないため物理攻撃はほぼ聞かない。 とは言えマジフロは魔術師を操作するゲームだから、物理攻撃が聞かないところで大した障害にはならないが、突然現れる点に関しては非常に厄介。
「シェンルゥはしんがりを頼めるか? 鬼蔵は最前列で、遠距離攻撃主体の俺とれんぴっぴを二人で挟む布陣で攻略に臨もう」
「任せておくが良い! 妾がいる以上、この程度のダンジョンに手こずりはせん!」
自信満々に胸を張るシェンルゥを見て、なんだか感動してしまいそうになる俺。
「いつもはなにか頼んでもすぐ反抗してくるお前が、今回はこんなにも協力的なんて、俺は嬉しい」
冗談のつもりで泣いているふりをしていたのだが、シェンルゥはそんな俺を見て真剣な表情を作る。
「当たり前じゃろうて。 妾とて殺生を平気でする聖マリヤム教も、あの子ずるい悪魔も気に食わん。 反吐が出るほどに嫌悪しておる。 それにのう、妾とて堪忍袋の緒が切れておるのじゃ」
眉をしかめながら、眼の前にあるダンジョンの入口を睨むシェンルゥ。
「妾の楽しい毎日を、ゲマトリア達だけでなくメイハオにまで手を出したあやつらを、断じて許してはおけん」
全身からバチバチと紫電をほとばしらせ、パキパキと拳を鳴らすシェンルゥ。
「んじゃから童。 妾は全力で手を貸してやるから遠慮するでない」
どうしよう、ガチで泣きそうになるくらい嬉しいんだが?
「およよ? もしかして童、感動しておるのか? シェンルゥお姉様が童のために怒っていると勘違いして、感動してしまっておるのか?」
そんな俺を横目に見たシェンルゥは、わざわざ俺の顔を覗き込むように身をかがめながら、ニタニタとぶん殴りたくなる笑みを浮かべてくる。
「るっせー、めんどくせー女だな本当に」
「あらやだ妾、童に乙女として扱われてしもうたわ」
「うっぜぇぇぇぇぇ! もう、とっとと攻略してあのクソッタレをぶっ倒しに行くぞ!」
「待ってくだせぇ大親分! 先頭はおいらだって言ってたじゃねーっすか!」
「あ、兄上? わたくしは円陣というものをしてみたかったのだわ? って、置いて行かないで欲しいのですわ!」
恥ずかしくなった俺がずかずかダンジョンに入っていくと、鬼蔵とれんぴっぴが慌てて俺を追い越し前へ出ていくのだった。




