第59話 ジリ貧な戦いを強いられた俺は、人生最大のピンチに陥る
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戦闘開始からわずか数分。 すでに俺の集中力は切れかけている。
「そもそも、接近戦を嫌がる魔術師相手に接近戦を持ちかけること事態が愚策だよな」
「わかっているのならもう諦めて、私の要求に応じなさい?」
大量の魔獣を引き連れたワーキアが余裕を秘めた笑みを浮かべている。 対する俺はと言うと……
「クソッタレだな!」
魔獣に囲われて、対応に追われている。
こいつらが召喚する魔獣、それも禁書目録に指定されている魔術によって生み出されている。
仕組みは俺が使用している魔獣召喚とほぼ一緒。 言い換えれば俺が使っている魔獣ガチャも禁書目録に記載されていた魔術だ。
「禁書目録【第陸の罪】不悪口」
禍々しい魔力の塊から、人型のモンスターが吐き出される。 コイツラが召喚する魔獣はグールと呼ばれる、いわば死屍鬼と呼ばれるモンスターだ。
鬼とは言っても、見た目を簡単に説明するなら二足歩行のハイエナ。 常に目玉をギョロつかせていて、死臭を漂わせているグロい見た目のモンスターだ。
「また追加してきやがったか!」
「シャプール殿はかなりの実力者と聞いていましたが、よもやこの程度でしたか」
すでに召喚されたグールは五体。 集光剣を振り回してなぎ倒してはいるのだが、どうしてもグールの相手に集中できない理由がある。
「禁書目録【第壱の罪】不殺生」
数秒おきにこの危険すぎる魔術が飛んでくるからだ。 上手く軌道を調節すればグールに当ててフレンドリーファイヤを狙えるが、グール達の相手をしながら立ち位置調整するのは至難。
それにあの魔術にあたったら即死という結果がある以上、どうしてもそちらにばかり意識が持っていかれる。
魔術を自由に使いづらいこの現状では、大して強くもないグール相手にも苦戦する。
「あぁ! 痛ってぇなこんちくしょう!」
冷や汗をこぼしながら不殺生の軌道を注視している隙に、背後からグールに引っかかれダメージを負ってしまう。
すでにグールに引っかかれた傷が全身を埋めているが、治癒系の魔術を行使すればワーキアに与えたダメージが無駄になってしまう。
「そろそろ治療したほうがいいのではないですか?」
「やかましい、耳障りな声で話しかけんな」
れんちょまは繭居迷宮に逃がしてしまったため、ここで戦っているのは俺一人。 対してこいつは魔獣を召喚してくる上に即死の魔術までポンポン撃ってくる。
魔術で対抗しようにもその魔術を奪われるし。
カスディム文字という概念に干渉してくるあの魔術の前では、自作魔術も奪われると考えていい。 そもそも、自作魔術は消費魔力量がえげつないから魔晶石使わないとまともに使えない。
コスパ削減のために試行錯誤している最中なのだ、こんな面倒な相手にぶっつけ本番なんて怖くてできたもんじゃない。
どうするべきか、こいつらをぶっ倒してすぐにでも繭居迷宮に帰りたいところだが、どう頑張っても対処できそうにない。
そんな事を考えている間にグールを再召喚され、数の暴力で余計に動きづらい状況にされる。
自由に動き回れなくなれば、不殺生も避けづらくなってしまう。 こいつが相手だとジリ貧すぎる。
「魔術大全【第667頁】混合式:鎌鼬」
「禁書目録【第捌の罪】不慳貪」
コピーされるのを承知で、全方位に風の刃をお見舞いする鎌鼬を使用。 無論同じ魔術をワーキアに使用されるが、同じ魔術同士が衝突することで威力は相殺される。
俺もワーキアも無傷で済むが、近くにいたグール達は流れ弾で真っ二つになった。 雑魚の一掃は成功するが……
「ずいぶんとへっぴり腰ですね?」
「やかましい、魔術師が武器持って戦うとか解釈違いなんだよ!」
雑魚がいなくなったところで飛びかかるが、軽くいなされてしまう。 相手も剣術に精通していないせいか、お互いへっぴり腰なチャンバラごっこのような情けない戦いだ。
魔術による強化がないと、俺はこんなにもへっぴり腰になるのか。
とは言っても、踏み込めない理由がある。
「禁書目録【第壱の罪】不殺生」
「それ禁止にしようぜ?」
この魔術が飛んでくるから、一撃当てたらそそくさと逃げないといけない。 そうしてもたついている間に相手はまた魔獣を召喚してきて状況は元に戻される。
「鎌鼬の魔術自体は何度も使えるが……」
「600ページ台の魔術を何度も使えるとは、さすがシャプール殿ですね?」
嫌味ったらしい笑みを向けてくるワーキア。
実際、鎌鼬を何度も使えるから時間を稼ぐことは可能。 だが決め手が無くて何もできない。
繭居迷宮に戻らせたれんちょまが援軍を連れて戻ってきてくれてくれればいいが……
いやダメだ。 こんな危険な相手にゲマトリアやシェンルゥを当てたくない。
どうするべきだ? 俺はどうやってこいつを倒せばいい。
焦る気持ちが判断を鈍らせる。 マズイマズイと気を急げば急ぐほど、動きは緩慢になり。
「このタイミングですよね?」
背後から飛びかかったタイミングを見切られ、振り向きざまに漆黒の魔術書に記載された魔術を行使してくるワーキア。
その瞬間、思考が超加速し、走馬灯のようなものが見えてくる。 この世界に来てから、人間どもにひどい扱いをされ他国に追いやられ、ダンジョンに引きこもって静かに暮らそうとしていたのに……
厄介事が次々と俺に襲いかかり、挙句の果てには一番関わりたくなかった聖マリヤム教大司祭に喧嘩を売られ……
そうして今、俺の災難にまみれた人生が終わりを告げようとしている。
「禁書目録……」
ここはゲームの世界ではない、ゲームオーバーになったからセーブポイントからやり直し、だなんて都合がいい状況には陥らない。
失敗すれば、即終了。 俺の短いマジフロ人生は、あまりにもあっけなく……
「【第壱の罪】不殺……「大親分! 助けに来やしたぜ!」
突然、目の前にいたはずのワーキアが、バキボキとエグイ音を立てながらぶっ飛んでいく。
何が起きたか分からず、飛びかかった体勢のまま歯を食いしばっていた俺は、勢い余って地面に顔面からダイブしてしまった。
顔面着地のせいで鼻を強打し、口の中に血の味が充満する中、慌てて立ち上がって自分の体を確認。
死んでいない、鼻血が出ていることと、体の至る所にグールにやられた引っかき傷があること以外は至って普通。
生き延びたのだ! 何が起きたかはわからないけど。
「てんめぇこのやろう! 大親分になんちゅーことしてくれてんだべか! 大親分になにかあれば、おいら達は姉貴にひどい目に合わされちまうんだぞ!」
声につられ、視線を向けると、
「鬼蔵? なんでここに鬼蔵が?」
「れんちょまが必死こいで助けを求めに来たんだべさ! んだからおいらは、ダンジョンの守りはゲンガーの旦那に任せて、全力で助けに来たんだべ!」
大鬼中隊総隊長、鬼蔵。 シェンルゥが指揮する遊撃隊で、ダンジョン内でランダムに配置される特殊部隊の総隊長。
モンスターとしての階級はさほど高くない彼は、シェンルゥの鬼畜修業を経て最強となり、現在の繭居迷宮人型魔獣たちの中でもトップクラスの強さに至った。
俺の迷宮内で生まれた、自慢の忠臣!
「こんなやつ、とっととぶっ倒してダンジョンの守りに戻らないといけないんだべさ!」
金棒を振り回しながら、鼻息を荒げる鬼蔵。
駆けつけたのは鬼蔵だけだったようで、他の隊員はダンジョンの守護についているのだろう。
奇襲を受けてふっとばされていたワーキアは、パワー自慢である鬼蔵のフルスイングをもろに喰らったせいか、崖にめり込み頭から血を流している。
「なんですか、この下品な男は」
血を吐きながら、よろよろと立ち上がるワーキアを前に、鬼蔵は怒りを隠そうとせず告げた。
「下品、つまりきたねーってことだべか? ちゃんと毎日水浴びはしてるんだべ!」
なんだか、こいつのことをかっこいいと思ってしまった自分が恥ずかしくなった気がした。




