第58話 面倒な男に付きまとわれている俺は、ちょっとだけ本気を出す
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禁書目録第捌の罪、不慳貪。 この魔術は相手が使用したカスディム文字という概念に干渉し、同じ魔術を行使することができるというクソ魔術。
さらに厄介なことに、干渉して使用した魔術は、禁書目録を使用した人間でなくその魔術を使用した人間が魔力を消費する。
つまりこいつは俺が先程使用した超速移動の魔術を、俺の魔力を奪って発動しやがるのだ。
この効果のせいで、強力な魔術で短期決戦を仕掛けようとしても同じ魔術で相殺される上に、自分は魔力を無駄に消費するだけになる。
バフ系の魔術を使用しようとしても、自分だけでなくワーキアも強化してしまうし、なんならバフ系魔術に使用する魔力量は二回分になるため非常にコスパが悪い。
つまりこいつを倒す際、使用する魔術は制限しないといけないのだ。
ゲーム時代、トッププレイヤーがワーキアに挑戦した動画で、一番早く倒せていたのは二時間少しの動画。
最速記録でも二時間は切るのだ。 とは言え倒し方はそんなに難しくない。
難しくないのだが、準備をしないとどうにもならない。
「れんちょま! ダンジョン内にいるゲンガーに連絡取れ、なんとかして毒無効の効果がついたアクセサリーを用意しろって!」
「りょ、了解したのですわ!」
毒や睡眠と言った状態異常を無効化するアクセサリーがある。 それを装備した状態で状態異常の魔術を使えば、俺は状態異常にならないがワーキアは状態異常になるというもの。
そうして相手を状態異常にした状態で、ちまちまダメージを稼ぐというのがこいつの攻略方法。
つまり、真っ当な方法ではこいつを倒せないのだ。
「あ、兄貴! ゲンガーさんから返事が来ましたわ! こっちも今忙しいんだ! 突然そんな無茶振りされても、状態異常無効系の希少アクセサリーは簡単に手に入らないぞ! らしいですわ」
わかってた。 状態異常無効のアクセサリーは超希少。
ちょっとコンビに行ってきて感覚で手に入れられるものではない。
「シャプール殿? いい加減逃げるのは諦めて私の話を聞いてもらいたいのですが?」
「ちょっと宗教の勧誘はキャンセル界隈なんです」
「勧誘などいたしませんよ? ただ、耳寄りな情報を聞いたので、話を伺いに来ているのですよ」
「耳寄りな情報? 俺はお前らが欲しがるような情報なんて持ってねーぞ?」
「あるでしょう? あなたはマリヤム様の遺産を持っているはずです」
突然声を低くして問いかけてくるワーキア。 遺産なんて俺は持っていないが?
「あなたが住処にしているダンジョンの中に、あったはずですよね? マリヤム様とメイファンが創り出した遺産が」
その一言で、一人の少女が脳内に浮かぶ。
「……何の話だよ」
「顔に出てますよ? どうやら覚えがあるようですね?」
核心に迫るようなその声音に反応し、超高速で移動していた俺は慌てて足を止める。
すでに宝州からは外に出ており、繭居迷宮からは離れた位置まで来ている。 逃げた方向は繭居迷宮とは逆方向。
できるだけこいつを迷宮から離したいと考えていたが、どうやら俺の判断は合っていたらしい。
「もし、覚えがあると言ったらお前らは俺に何を要求する気だ?」
立ち止まった俺が、魔術大全を開きながら問いかけると、ワーキアは気色悪い笑みを浮かべながら両手を高々と掲げた。
「無論、交渉するつもりですよ?」
恍惚な笑みを浮かべながら下卑た笑みを浮かべるワーキアを睨めつける。
「何を差し出せば、あなたはマリヤム様の遺産を渡してくれますか?」
マリヤムの遺産、恐らくそれはメイハオちゃんのこと。 だとしても、どこから情報が漏れた?
なんでコイツラがメイハオちゃんの存在を知っている? それとも俺の早とちりか?
余計なことを考えてもしょうがない。 コイツラが俺から何かを奪おうとしているなら、死ぬ気で抗わなければならないというのだけが確か。
「お前みてーなクレイジーなやつにくれてやるもんなんかねーよ」
「そうですか、ならば力ずくで奪うしかないようですね」
「奪う? 誰に向かって言ってやがる」
こいつを倒す方法、猛毒の魔術以外で倒す方法があるとすれば、方法は一つだけ。
「魔術大全【第193頁】現象創造構成式:集光剣」
俺の手元に、光熱を収縮して創り出した剣が創り出される。 これを二度発動すれば、光熱で作成したレーザーの剣が二本。
「禁書目録【第捌の罪】不慳貪」
ワーキアも不慳貪を使用し、集光剣を二本構える。 非常に頭が悪い攻略法として、こいつを倒す方法に理論上可能な方法がある。
「魔術師なのに、武器構えて接近戦するハメになるとはな」
「私が嫌がることをわかっていますね。 さすがシャプール殿」
俺が使用した魔術を真似してくるこいつを攻略するには、魔術ではなく、プレースキルで上回るしかない。
とは言えだ、これを今まで誰もしなかった理由はちゃんとある。
「禁書目録【第参の罪】不邪淫」
第三の罪・不邪淫。 これは魅了に似た効果を持つ魔術で、相手に好意をもたせるというもの。 発動時に発生する光を視界に収めると、徐々に術者へ好意を持ってしまうという厄介なもの。
この魔術を使用して多くの優秀な魔術師達をかどわかし、聖マリヤム教はその勢力をを拡大してきた。
禁書目録にこの魔術が掲載された理由は言うまでもないだろう。 相手の意識に干渉し、無理やり自分に好意を持たせる魔術など、悪質極まりないものだ。
「魔術大全【第138頁】意識干渉構成式:精神統一」
こういった意識に干渉してくる魔術は、精神統一の魔術で解除できるが、不慳貪の魔術を使用されているせいで、消費魔力は二倍になる。 とは言え厄介なのは、この魔術にかけられたという認識がないと自分に精神統一の魔術をかけようという思考に至らないこと。
唯一の救いは速攻で好意を持ってしまうわけではないので冷静に対応すれば問題はない。 後出しでも十分に対応はできるのだ。
目の前でやられたから良かったものの、知らない内にこの魔術にかけられたら瞬く間にこいつの虜にされるのは注意。
なにはともあれ、精神異常にかかっていないワーキアが精神統一を使ったところで俺にはこれと言って被害はない。 魔力を無駄に多く消費するだけなのだから。
「ほほう、魔力量には余裕があるのでしょうか? その膨大な魔力量はどのようにして手に入れたのです?」
「まぁ、死ぬほど訓練したからな」
そう言いながら飛びかかり、テットの身のこなしを見様見真似で再現する。 とは言え接近戦など付け焼き刃だ。
はっきり言って、俺は魔術を使用できない状態で戦ったところで、そこら辺の一般人と変わらない。
とは言ってもこいつはここで始末しないと、メイハオちゃんに何をされるかわかったものではない。
いつの間にか俺は、厄介だと思っていたメイハオちゃんのために、無謀な戦いを挑むに至ってしまってたとは笑いものだ。
「では思考を変えましょうか」
そう言って、ワーキアは浮遊させていた漆黒の魔術書をペラペラとめくり、新たな魔術を構成し始める。
「禁書目録【第壱の罪】不殺生」
出た! 大司祭との戦いで最も気をつけなければならない魔術。
ワーキアが魔術を構成すると同時、ドス黒い魔力の塊が創り出され、俺に向かって飛んでくる。
この魔術は特段早く迫ってくるわけでもなく、なんなら一般人の反射神経でも普通に避けられる。
だがしかし、どうしてもこの魔術が発動されると冷や汗が出てしまう理由がある。
俺がかわした不殺生の魔術は、ゆらゆらと流れて背後に生えていた木に触れる。 その瞬間、不殺生の魔術に触れた木は時間を早送りしているような速度で枯れていき、瞬く間に灰になって消えてしまった。
「やはりシャプール殿、あなたは禁書目録の内容を熟知しているのですね? 一体なぜなのでしょう?」
「あ、兄貴! 今の魔術はなんなのです?」
「とりあえずれんちょま、邪魔だからとっととダンジョンに帰れ」
冷や汗をこぼしながらも、俺はワーキアの一挙手一投足に集中する。
プレイヤーたちが接近戦のゴリ押しでワーキアを攻略しなかった理由。 それは大司祭達は第壱〜第漆までの禁書目録の魔術を常時使用してくる仕様だからで、その中に非常に厄介な魔術があるからだ。
「まあいいでしょう、シャプール殿? 命が惜しいと思うなら、私からの提案に乗っていただけませんか?」
接近戦に集中していれば、先程の魔術——不殺生——を至近距離で撃たれる危険性が増す。 射出速度が早くはないとは言え、接近戦に集中している時いきなり飛んできたら反応できない可能性がある。
それにボスとして設定されているコイツラを、接近戦でちまちま削ろうとすれば時間もかかる。 集中力が切れたらあの魔術はかわせない可能性が高い。
かすりでもすればジエンドなのだ、先程説明した最速クリア時間二時間は、この接近戦でちまちまヒットアンドアウェイを繰り返し、それに猛毒の魔術も加えた状態での最速攻略タイム。
接近戦オンリーだと二時間以上かかるのは間違いない。
その間、触れただけで即死する魔術がいつ飛んでくるかもわからない緊張感の中で、肉弾戦を仕掛けるのだ。
魔術師としていつも遠距離攻撃ばかりしている俺達が、なれない接近戦を極限の緊張状態で二時間以上。
「はっきり言って、無理ゲー」
だけど、ここでチキったらメイハオちゃんだけでなく俺のダンジョンに手を出される。 こいつは絶対、ここで仕留めないとならない。
「ああやだやだ、ゆる~く生きていきたくて引きこもり生活をしようとしてたのに、なんでこんな目に合わないといけないんだよ!」




