第57話 主人公くんの監視に向かった俺は、予期せぬ来客に戸惑う
❖
「チームアルファからチームベータへ、現在星は宿屋に入った、どうぞ」
「ティメルの兄貴、ベータチームから応答が来たわよ! 見りゃーわかるわいたわけ、どうぞ」
「バカにもわかるよう報告してやったんだよ、どうぞ」
「誰がバカじゃ! だそうですわよ兄貴」
妖精小隊のメンバー、れんちょまを連れた俺は、宝州の街に入りとある作戦行動を実行している。
「ガンマチームから連絡は?」
「ダンジョンの入口には誰も来てないようですわ!」
れんちょまからの報告を聞き、町外れの一軒家で双眼鏡を覗いていた俺は眉をしかめる。
「今日はおサボりでデイか?」
テオスのダンジョン入りを阻止するため、俺達は三チームに別れて星を監視している。 星というのは言うまでもなくテオスたちだ。
それぞれのチームには妖精小隊のメンバーを同伴させていて、精霊術を駆使して連絡係をお願いしているのだが。 遠隔で連絡を取れると楽しくなるせいか、チーム名とかテオスを星と表現したりとかやりたい放題だ。
アルファチームの俺とれんちょま、ベータチームのシェンルゥは別の角度からテオスの監視。 ガンマチームのヴァブ達はダンジョン入口付近の監視を担当しており、ダンジョンの守りはゲンガーに一任している。
テオスがダンジョンに向かった瞬間、監視に入っている俺とシェンルゥはありとあらゆる手段で妨害。 これでテオスのダンジョン入りを阻止すれば、テオスのバットエンドは回避できるという天才的作戦だ。
「この作戦に穴は無い! 今度こそ俺たちは厄介な問題を発生させずにこの窮地を脱してみせる!」
テオスがダンジョン内で大司祭に襲われれば、恐らくメイハオちゃんが慌ててしまう。 となると助けに向かってしまう可能性と暴れだしてしまう可能性、ふたつの危険が迫るわけだ。
なのでテオスのダンジョン入りは阻止。 捕まるならダンジョンの外でどうぞといった具合である。
俺は決して、繭居迷宮外ではテオスのバットエンド回避には関与しない。
「これはこれはティメル・シャプール殿。 このようなところで一体何をされているのです? ぜひとも私に教えていただきたい」
とまあ、硬い誓いを心に刻んだタイミングで、背後から耳障りな高音が聞こえてくる。
肩越しに後ろを確認すると、氷色の法衣が目に付いた。 俺の名前を呼んだ男で間違いないだろう。
氷色の法衣をまとった男は、12歳の体である俺からすると身長が非常に高く、頬は痩けて前髪も伸ばしっぱなしで清潔感が皆無。 自分の見た目に頓着がないであろう容姿をしていて、ニヤついてる表情も不快感しか感じない。
「おやおや? 聞こえていなかったですかな? ティメル・シャプール殿? 申し遅れましたが、私の名前はワーキアと申します。 聖マリヤム教という尊い団体で、大司祭の位を仰せつかっているものです。 あなたからの自己紹介も欲しいのですが?」
聖マリヤム教大司祭、ワーキア。 こいつは大司祭の中でも最も嫌われている男で、なぜ嫌われているかと言うとギミックが非常に面倒くさいからだ。
「あ、兄貴……こいつって」
「魔術大全【第27頁】物質創造構成式:創鏡」
「……おや?」
首を傾げている法衣の男、ワーキアはシカトして、俺は鏡に映った自分の容姿を確認。
黒紫の短い髪に、紺色の瞳。 相変わらずイケメンだなぁと思いかけたところで、隣で動揺しているれんちょまへ視線を向ける。
「俺の髪の毛は黒紫で、瞳は紺色だよな?」
「はぇ? ええ、その通りですが、今はそんなことよりも……」
「氷色の髪でもなければ、目の色は銀でもない。 なのに何故か、聖マリヤム教のワーキアに声をかけられたが?」
聖マリヤム教が無差別にさらうのは氷色の髪をした人間、または銀色の瞳をした人間。
俺はそのどちらにも属さない。 だからワーキアがニヤニヤしながら話しかけてくるのはおかしい。
「人違いだな、よしっ」
「いえいえ、人違いなどではありませんよ? 私はあなたを探して会いに来たのです。 ティメル・シャプール殿? ぜひとも私とお話していただきたいのですが?」
ガリガリに痩けた頬を割くように笑い、不揃いな歯をにちゃーっと見せつけてくるワーキア。 率直に言ってキモイ。
「あー、もしかして人をさらいすぎてさらう相手いなくなったから、髪の色は水色から寒色系に変えた感じ?」
「何を言っているのです?」
素で不思議そうに首を傾げるワーキア。
「人さらいが目的じゃないなら、俺に何の用だ?」
「要件ですか、それはもちろん——」
ワーキアは言葉の途中で漆黒の魔術書を開いた。 それを見た瞬間、俺もここまでのやり取りをしている間に寸止めしていた魔術を発動。
「魔術大全【第547頁】混合式:超速移動!」
これは現象創造と力学干渉を応用した超速移動の構成式。 効果は至って単純、爆速で移動できるから逃げるのに便利。
あたふたしているれんちょまを小脇に抱え、一気に時速数百キロの速度で宝州の空をぶっ飛んでいく。
「まだ話の途中だと言うのに、せっかちな方ですね」
漆黒の魔術書を開いたワーキアは、意味深な笑みを浮かべながらすっ飛んでいく俺を睨みつける。
「禁書目録【第捌の罪】不慳貪」
出た、こいつが一番嫌われる要因の一つ。
それを承知の上で俺は転移の魔術でなくこの魔術を使用した。 実際、転移の魔術は魔術陣を介さなければ発動できないが、俺達プレイヤーたちは馬鹿ではない。
緊急離脱時のためにいつでも転移するための転移ポイントを作っているため、魔術さえ発動させればそこに逃げることができる。
もちろん、俺も緊急脱出用の魔術陣を作っているため、やろうと思えば一発でお家に帰れただろう。 だが、それをしなかった理由はワーキアの使う魔術が面倒なものだからだ。
「もしかしてシャプール殿、私が使う魔術をご存知なので? 理由を教えていただきたい」
「あ、兄貴ーーー! シェンルゥさんに連絡したほうがいいのでは?」
「一旦ステイだ、とりあえずなんとか振りきれないか試してみる!」
超高速でぶっ飛んでいる俺に、平気な顔でついてくるワーキア。 実際超速移動の移動速度は戦闘機に及ぶ。
そんな俺に平気な顔で追いついてくるには、同じように超速移動の魔術を使わないと間に合わないだろう。
「どうしてあなたは、禁書目録の魔術を知っているのです? 私に教えていただきたい」
「ちょっとストーキングしないでくれます? 警察呼びますよ?」
「警察? 一体何の魔術でしょうか? その魔術の詳細を教えていただけませんか?」
この世界では衛兵というのだったw とか思いつつも渋面を浮かべる俺。
こいつ相手に戦う時は、むやみに魔術を使ってはいけない。
なぜならこいつが使う魔術は禁書目録に登録されているもので、大司祭たちは禁書目録の中でも最も厄介な第捌、第玖、第拾の魔術を使用してくる。
ワーキアが使ってくるのは第捌、不慳貪。
不慳貪のギミックは、単純だが対応が非常に面倒な魔術。 むしろ、俺みたいに魔術で何もかも解決しようと考えている魔術師からすれば天敵とも言えるだろう。
「逃げるのならば、転移の魔術のほうがよろしいでしょう? なぜ使わないのです? どうか教えていただきたい」
「わかりやすい煽り文句はやめろよ。 ったく、なんで俺が大司祭たちと戦うハメになってるわけ?」
「私は戦うつもりはありませんよ? まずは話を聞いてもらいたいと思っております」
「お前らみたいなクレイジー信者達と話が通じるとは思わないので、なんとかして阻止したいと思います」
とは言ったものの、対応策が浮かばない。
「どうするのです兄貴! 兄貴ならちゃちゃっと倒したりできないのですか?」
「それができてたらこんなに必死こいで逃げてねー!」
俺はすでに900ページ台中盤まで魔術を覚えているが、こいつの不慳貪は強力な魔術で対応しようとすればするほど自分の首を苦しめることになる。
「こいつが使ってる不慳貪の魔術は、相手が使用した魔術のカスディム文字を複製できるからな!」




