第55話 窮地を脱した俺は、余裕ぶっこぎすぎて泣きを見る
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思った以上にザインとフェイトのコンビが強すぎたので、思わず本気で戦ってしまった。 黒渦で木っ端微塵とまでは行かなかったが、フェイトとザインの心にトラウマという傷を残してしまうことになったようだ。
ちなみに、黒渦の爆発からはちゃんと時空断絶で護ってあげたので怪我はさせていない。
そんなわけでギブアップしてとぼとぼ帰っていく二人を見送り、魔力を半分以上消費して疲れた俺は四階層のボス部屋に居残り休憩することにした。
黒渦もそうだが、戦う前に使用した各種バフ、デバフの魔術でもかなり魔力を消費している。 フェイトの超音波砲でも甚大なダメージを受けたので、身代障壁もボロボロだ。
「まさか、ここまで追い込まれるとは……」
どうしよう、すこし楽しくなってきてしまった。
とは言えここから先は一切油断出来ない。 ゲンガーの野郎はダンジョン内の防衛布陣を変更して俺に対応してきた。 この先の階層でも時と場合に合わせて布陣の変更をしてくるだろう。
とは言えだ、ここは既に四階層最終間。 目の前の階段を降りれば五階層へ繋がる。
五階層は夜中の摩天楼となっており、近代的なビル群が連なっている。 そのビルの中に紛れ、俺やヴァブがよく冒険者たちを監視している管制室がある。
先程までゲンガーとヴァブはこの部屋から指示を出していたはずだ。 ここで問題が発生する。
俺がこのまま階段を降りればばったり会ってしまうという問題だ。
アイツらも馬鹿では無い、鉢合わせは阻止したいため早々に10階層へ下りるだろう。
となると先程の戦い中移動するのが必然。 移動中は布陣の変更を指示する時間などなかっただろう。
まあ何が言いたいかと言うと。
「10分くらい休憩しよう」
どうせゲンガー達は五階層以降の布陣を整えてるから慌ただしいだろうし、ゲマトリアの位置を大幅に移動させるなら部下の人型魔獣たちにも適宜指示をしなければならない。
精霊術で遠隔連絡が取れるとは言っても情報が入り組んで多少は混乱するのが予想できる。
「むしろ30分くらい休憩してもいいかもな」
使用した魔力量的に、全回復するには一時間以上は必要ではあるが、あまりモタモタしてると防衛布陣をガチガチに固められるから厄介だ。
「ゲンガーの言ったとおりだのう。 最低でも10分は休憩するとあやつは読んでおったが」
「ほぁい?」
五回層への階段から声が聞こえたため、俺は嫌な予感を胸に抱えながら魔術大全を抱きしめる。
「ゲンガー達が童の対策のため布陣を整えるのに、30分はかかると読んでおったようだが、失念しておるのではないか? ゲンガーは童の記憶を書き込まれた魔造人間なのじゃぞ?」
この喋り方、そして絶妙に俺を苛つかせようとしてくるこの声音。
間違いない。
「なんでここにシェンルゥが?」
「妾もこのダンジョンの防衛布陣に入っておるからのう」
余裕の笑みを浮かべながら階段を上がってきた、ゲマトリアよりも厄介な相手。
これは流石にまずい。 魔力残量的にもヤバいし、以前倒したときのように水没させるなんて選択肢はなしだ。
水没なんてさせたらせっかくここまで整備したダンジョンがめちゃめちゃになってしまう。
「ちょっとたんま」
「ダメじゃ、待たぬ」
シェンルゥはいつにもまして楽しそうな笑顔を浮かべながら、背後に控えさせていた自身の複製体を呼び寄せる。
あれはメイハオちゃんとの戦いで使っていた傀儡電雷。 見た目だけは可愛いシェンルゥを、理想の性格にしようと思ってノリと勢いで作ろうとして失敗した……シェンルゥの複製体である。
「真面目な話、そいつは修理して間もないからまだ使わないほうがいい」
「嘘じゃな、ゲンガーは問題ないというておったぞ」
さすがは俺の複製体だ、実に勘が鋭い。 そんでもって実に容赦がない。
俺は、勘の鋭いガキは嫌いなのだが?
「それに、童が気をつけなければいけないのは妾だけではないぞ?」
得意げな表情のシェンルゥの後ろから、ぞろぞろと現れる四人の影。
「ザイン殿やフェイト殿の奮戦を無駄にしないため、将官は全力で挑ませていただきます!」
「申し訳ないですね会長。 こうでもしないとあなたは止められませんので、不幸に遭遇したと思ってご容赦を」
「オ、オーナー! メルちゃんは一生懸命頑張りますので、お仕置きはしないでくださいね!」
「教皇様、ご安心ください。 拙は皆様の傷を癒やすために参りました。 貴方様に神の祈りが届くことを祈りつつ、僭越ながら皆様方の援助をさせていただく所存でございます」
不幸中の幸いは、アレフだけはゲンガーの言うことすら聞かないという事だけだろう。 この場にはアレフとヴェート以外のゲマトリアが勢揃いしているのだから。
ヴェートは……メイハオちゃんと遊んでるのか? それとも俺をぶっ倒した後の打ち上げの準備?
打ち上げの準備は流石に気が早いだろ? と思いたいが、マジでヤヴァいのも事実。
「さて童。 この局面を突破できれば晴れてこのダンジョンを攻略だぞ? 全力でかかってくるが良い!」
「俺もう、ギブアップしようかな?」
「ダメに決まっておるだろう?」
そう言って、シェンルゥはさぞ楽しそうな顔で傀儡電雷を突進させてきた。 俺はギャン泣きしながら全力で逃げたが……
「見ておるか武闘派四天王ども! 妾がおぬしらのかたきを取ってやったぞ!」
電気反射で移動する傀儡電雷はものすごく速い上に、今回はシェンルゥもピンピンしている。 あの傀儡電雷は、シェンルゥも思い切り前線で戦うことを想定した仕様のため、ものすごく速いシェンルゥが二人がかりで襲いかかってくるという恐怖映像が出来上がってしまうのだ。
「こんなん、勝てるわけ無いやん」
うつ伏せにぶっ倒れている俺を椅子にして、呵々大笑を上げるシェンルゥに続き、ゲマトリア達はバンザイ合唱で喜びを表現しているのだった。
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「いやー悪かったな俺のオリジナル。 ちょっと大人気なかったかも知れなかったわ」
ペペにおぶられ十階層に降りてくると、優雅にお紅茶を嗜みながら勝ち誇ったように笑うゲンガーが目に映り、右拳がうずいてしまう。
「ちっくしょうが! 疲れ果てて休もうとしたタイミングで全戦力投入してくるとか、マジで鬼畜の極みだわ」
「そりゃあお前の複製体ですからね、俺!」
さぞ楽しそうに笑うゲンガー。 それに続いてシェンルゥやゲマトリア達も嬉しそうに笑っている。
はじめの方はなんだこのぬるすぎるダンジョンはと余裕ぶっかましていたのが災いした。
「そもそもこのダンジョンが五回層と十階層に分けて管制室を置いている理由を考えろ」
ゲンガーに駄目だしされ、屈辱しかない俺である。 ちなみに、管制室を二つに分けて配置したのは俺だ。
理由は単純。
空間創造構成式:覗鏡という構成式が届く範囲が五階層分が限界だからである。 空間と空間を繋ぎ、鏡越しに映像だけを覗き見ることができるという便利な構成式だが、効果範囲があまり広くないのだ。
「このダンジョン全体に覗鏡が仕掛けられてるんだ、まずダンジョンに入ると同時にするべきなのは自分の周囲に幻影創造構成式:蜃気楼を展開することだろ?」
全く持ってそのとおりである、完全に観光気分でちんたら歩きながら階層ごとの景色を楽しんでいた。 真剣に挑むなら蜃気楼から、さらに物質創造構成式の煙幕を使用して監視されないようにするところからスタート、さらに言えばいつもどおりに分身体を使って相手を撹乱するべきだった。
「ちくしょう、リベンジしてー」
「いつでも歓迎だぜ? 俺が指示すればこのダンジョンは安泰だ! 欲を言えばアレフにも俺の言うことを聞くよう設定してくれ」
十階層に広がっているビニールハウスへちらりと視線を送るゲンガー。 ビニールハウスの中では、黙々とトマトのわき芽かきをしているアレフ。
ちなみにわき芽かきとは、いらない茎とかを切って栄養分を一箇所に集中させる作業らしい。
アレフは頭が硬いため、緊急事態だろうとなんだろうと、俺が命令したことしか聞かないのだ。
しかしまあ、アレフは空間創造構成式を得意とするゲマトリアで、もし何者かにダンジョンを攻略された際、アレフのランダムテレポートで脱出する手筈になっている。
なのでアレフに関しては十階層からあまり移動してもらうのは良くないのだ。
「そうだなー、せめて俺がいないときの緊急時くらいは、ちゃんとランダムテレポートを作動させてくれるくらいの融通は聞いてもらうとするか」
俺が攻略できなかっただけで、実際にカイムさんは六階層まで平気な顔をして攻略しているわけだし、備えはしておいても問題ないだろうと改めて感じた。
それにしても、俺の攻略記録は四階層までか……これじゃあテオスと同じじゃないか。 それだけはマジで屈辱だから近々もう一度リベンジしよう。




