第54話 とうとう追い込まれた俺は、大人げなく全力で対応する
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期待した通りだ……
「おいおいおいおい! なにこれ楽しそう」
おらワクワクすっぞ! とでも言いたいような光景を前に、興奮を隠せない。
「困困……白虎小隊はあまり持ちこたえられなかったネ」
三節棍を振り回しながらつぶやくザイン。
ザインの隣では、出会い頭に焼却砲を浴びせてきたフェイトが青ざめている。
「当方の焼却砲、4000度はあるのに」
「いい加減室内で炎系の現象創造構成式使うのやめろ」
俺の背後には扇状に広がった丸焦げの空間が広がっており、俺の背後だけ丸焦げを免れている。
絶対こうなると思ったから窒素障壁を寸止めしておいた。
「窒素障壁でも防げるけど、流石にくっそ熱かったわ」
ヴェートに作ってもらったポンチョをパタパタさせながらため息混じりに告げると、フェイトは苦笑いを浮かべながらカニ歩きでザインの後ろに隠れる。
「ザイン、先陣は任せる」
「怒怒。 フェイトは弱気すぎるネ。 ここは油断せずコンビネーションで仕掛けるのが良良!」
かっこよく三節棍を構えながら俺の動きをじっと待つザイン。 その後ろからフェイトはキラリと両腕に搭載した砲塔を光らせる。
なるほど、これはおそらく俺の動きを待っている、もしくはすでにザインの酩酊が発動しているため、俺が魔術にかかるのを待っている。
よくできた戦法だ。 魔術の構成速度が早いゲマトリア達は後出しでも俺の魔術構成時の硬直に合わせることが可能。
これはつまり、俺が魔術を構成すると同時にフェイトの高火力攻撃を警戒しなければならないということ。 そうなると俺はあいつらより先に魔術を構成し始めたら詰む。
ならばザイン達の動きを待つのが得策だが、それはそれでザインがいるという時点でマズイ。
なぜならザインの得意とする魔術は意識干渉構成式。 こいつに近づくと強制的に酩酊状態に陥れられる。
酩酊しないよう範囲の一歩外で構える俺だが、いやはや本気で参ったなこれは。
この状況を示唆してか、フェイトはザインの後ろに自然な流れで隠れたのだろう。 早く動かないと酩酊しちまうぞという意味合いを兼ねて。
「随分と策士じゃないか……フェイト!」
「え?」
「……え?」
まさか、策略ではなく、素でビビって隠れてたと?
「笑笑、ししょーは警戒しすぎネ。 フェイトはそこまで策士じゃないアルよ」
「やめてくれ、いたたまれないじゃないか」
恥ずかしくて頬を染めながらも、仕方がなく魔術大全を開いて二人の様子をうかがう。
迂闊に動けないこの状況。 魔術を構成すると同時にフェイトの高火力攻撃が飛んでくるだろう。
俺でも流石にフェイトの一撃を喰らえば一瞬でアウト。 今回のルールは、俺が発動した身代障壁を破壊されたらアウトと言うもの。
魂魄創造構成式:身代障壁 この魔術は自分の生命力——いわゆるHP——を半分消費することで、相手の攻撃を確実に耐えるための無色透明な障壁を体に纏う魔術。
俺の生命力の半分に相当する攻撃を喰らえばこの障壁は破壊されるが、どんなにオーバーキルな攻撃でも確実に一発は耐えてくれるというもの。
これを破壊された時点で俺の負け。 この条件でゲマトリア達は了承してくれている。
よって、フェイトの攻撃だけは確実に防がないといけない。
「と、言うわけで」
俺は魔術大全を開きながら重心を落とす。 そして、
「全力ダーッシュ!」
「あぁ! 機長ズルしたな!」
俺の身のこなしを見たフェイトが騒ぎ出す。 部屋中央で固まってるふたりを中心に左回りで全力ダッシュ。
その速度はギリギリ残像が見えるレベルだろうか、高速道路を走ればスピード違反で捕まるレベルの速さなのは間違いない。
弁解って訳では無いが、あえて言うなら俺はズルなどしていない。
この最終間にこいつらが待ち構えていることを想定していた俺は、予め準備をしていたのだ。
魔術には各種ステータスを上昇させるドーピング的な魔術がある。 ゲーム用語で言うならバフ盛り状態。
「驚驚! あれは体内加速を使ってるネ!」
「機長の運動能力的に、擬似筋肉も使ってると思う!」
二人ともお目が高い用で、人間離れした身体能力で猛ダッシュをキメる俺を見てバフの種類を当ててしまったようだ。
だが、正確に言うなら少し違う。
「その二つは二重発動してるな。 他にも意識干渉構成式の覚醒、超感覚。 記憶干渉構成式の思考加速、並列思考などなど!」
意識干渉構成式や記憶干渉構成式は、便利なバフやデバフが盛りだくさんだ。
その意識干渉構成式を使用するザインは、酩酊という構成式で近づいた相手の平衡感覚を鈍らせる。
この酩酊の効果範囲は厄介なことに視認できない、独特な花のような匂いを嗅ぐことが酩酊発動のトリガーとなるからだ。
よって、高速で動き回り俺に狙いを定めさせないよう撹乱しつつ、混合式を構成する。 思考加速と並列思考のお陰で俺の魔術構成速度はいつもより半倍早い。
ゲマトリア達ほどではないが、構成速度の速さは常人以上だろう。
「魔術大全【第523頁】混合式:烈風!」
突風を起こして酩酊の状態異常を付与してくる臭気をふっとばす。 それと同時に次の魔術を構成。
「急急! ししょーは魔術構成速度が早くなってるアルよ! 自由に走らせたらまずいネ! どんどん攻撃するアルよ!」
「りょ! くらえ機長! 電磁砲!」
高速で走る俺めがけ、フェイトが真っ白の光線を放ってくる。
「あっぶね!」
電磁砲は現象創造構成式の中でもずば抜けて火力が高い攻撃だ。 それに発射速度が鬼のように早い。
たぶんバフ盛りの状態じゃなかったら直撃してアウトだっただろう。 紙一重でかわしながら青ざめる俺。
しかしバランスを崩されて転倒してしまったため、かなり時間をロスしてしまった。 慌てて立ち上がろうと受け身を取るのだが、
「連連! 畳み掛けるね!」
「耳をふさげザイン!」
「クソが、超音波か……」
俺も慌てて耳をふさごうとするが、甲高い音とともに脳が揺れるような感覚に見舞われる。 無理やり首をすぼめて耳に肩を押し当てて塞いだが、転倒していたせいで両手が自由に使えなかったのが痛い。
音による攻撃は見えづらい上に効果範囲が広いのがネック。 だが仲間と戦ってる最中は仲間に注意喚起しなくてはならないのがウィークポイントだろう。
お陰でとっさに耳をふさぐことはできたが、完全には塞げなかったため結構なダメージを負ってしまった。
本当なら遮音空間で自分を庇って遮断したかったところだが……
「取ったアルよ!」
「残念ハズレだ!」
いつの間にか背後に回り込んでいたザインのフルスイングを、飛び込むような前転でかわす俺。 しかし、超音波の対処で手一杯だった俺は、ザインの接近に気が付かなかったせいで不覚を取ってしまう。
「やっべ、この匂いは……」
「勝勝! これでこっち達の勝利は確定したネ!」
突然視界が湾曲し、思わず膝をついてしまった俺を見て、ザインは勝ち誇ったような顔で三節棍を振り上げた。 酩酊状態にかかってしまったようだ。
これではまともに立ち上がれない。
「いいや、まだお前らの勝ちは確定してねーよ」
先ほど電磁砲をかまされた際、俺が構成していた魔術は寸止めに成功していたのだ。 構成速度を上げていたことが幸いした。
こんなこともあろうかと、念の為という保険で寸止めしようとしていた魔術だったが、まさかこんなにも早く追い込まれるとは思っていなかった。
本当だったら体内加速と疑似筋肉のバフが切れるまで走り回り、確実に勝てるであろう魔術を片っ端から寸止めする予定だったが……
この二人は予想以上に強かった。 おかげさまで俺も大人げない技を使うしかない。
速攻で戦いを終わらせないと、マジでぶっ倒されてしまうのだから。
「魔術大全【第966頁】混合式:黒渦」
黒渦、この魔術は周囲の物質を片っ端から吸い込み、亜空間の中で極限まで収縮するという無差別広範囲攻撃。
ブラックホールに似てるがちょっと違う、まあ面倒なのでプレイヤーたちはブラックホールと呼んでいたのだが……開発者いわく仕組みは似たような感じらしい。
とりあえず、酸素やらなんやら、物質という物質をすべて吸い込んでしまうため、空間は湾曲し、そして黒渦の近くに立っている者たちは吸引力の変わらない黒渦の力に抗えない。
亜空間の中にあらゆる物質がパンパンに詰め込まれるため、中に引きずり込まれたものは何もかもが圧縮されてしまう。 そして限界まで圧縮された物質で満たされた亜空間は、現実空間との境目に強力な負担をかけ、現実空間と亜空間の境目を破壊して、大爆発を発生させる。
二重の大規模攻撃。 それが黒渦のぶっ飛んだ火力の秘訣だ。
ガンガンする頭とグラついた視界に顔を歪めているのだが、ザインとフェイトが必死の形相で部屋の隅っこまで逃げているのは確認できた。
この部屋の広さでは、恐らく無駄だろうが。
「ムリムリムリムリ! やめてくれきちょー! 死んじゃうよー!」
「怖怖! これは流石にやりすぎネ! ギブアップするから早く解除するネ!」
「無理に決まってんだろ、死ぬ気で壁にしがみつけ」
「鬼! きちょーは鬼だ! 人でなし!」
「酷酷! 勘弁してくれししょー!」
ザインとフェイトは、ギャン泣きしながら必死に壁に張り付いている。
流石に俺も鬼ではないので、こっそり二人の周辺に空間隔離という空間創造構成式を使用してあげたため、死にはしないけどマジでおっかないだろうなとほくそ笑むのであった。




