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バッドエンド回避に失敗した悪役貴族の俺、自作ダンジョンに引きこもる  作者: 【星願大聖】永福
お隣さんが来訪したようです

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第52話 部下相手に気合い充分な俺は、なぜか知らんが怯えられる

 ❖

 からくり屋敷には様々な仕掛けがある。 例えば突然床が抜けてしまう廊下。

 

「魔術大全【第98頁】力学干渉構成式:浮遊」

 

 こんな子供だましは浮遊で回避できてしまう。 そして次に待ち受けるのは、左右の壁から突然矢が飛んでくるというよくあるやつ。

 

「魔術大全【第97頁】物質創造構成式:硬化」

 

 こちらも表皮を凝縮した炭素で覆えば痛くも痒くもない。 窒素障壁と違い、こちらは全身を防御できるが衝撃が伝わるからまあまあ痛いという残念な防御魔術。

 

 そんでもってマキビシに関しては、魔術を使うまでもなく目を凝らしていれば余裕で回避可能。

 

「やる気あんのか? なんだこの子供だましなトラップのラインナップは」

 

 まあ、いつも五階層で冒険者たちの監視をしている際は、この罠に気を取られている冒険者たちに人型コッファー達が奇襲を仕掛けるという絵面が完成するのだが……

 

「からくり屋敷に入る前に全滅してたら、この罠は難易度ベリーイージー」

 

 一番の課題はコッファー達がまんまと見つかって速攻で壊滅したことだ。 隊を分けて波状攻撃を仕掛ければこんな事にはならなかったのに。

 

 恐らく相手が俺だからと警戒心を高め、皆んなで行動して数の理を活かしたかったんだろうが、それだと気配を消すのが得意なコッファー達の長所が消えてしまう。

 

「こいつらは俺直々に訓練し直す必要があるな」

 

 余計なことを考えながらでも余裕で突破したからくり屋敷のトラップの数々。 俺直々に作ったトラップがセットされているのは五回層以降。

 

 上層の四階層までの場所は入ってくる冒険者も多いため、トラップの作成をゲマトリア達に一任してしまっている。 トラップ作りの講習会も開かなければならないだろう。

 

 ものの数分でからくり屋敷最奥の間、いわゆるボス部屋に到達する。

 

 畳が敷き詰められた大広間の中央には、すでに臨戦態勢に入っているゲマトリアが待っていた。

 

「ようユーティ。 一対一で戦うのは初めてか?」

 

「主直々に手ほどきをいただけるとは、光栄至極」

 

「コッファー達の不甲斐なさについては、後でじっくり話があるからな?」

 

「お、お手柔らかにお願いいたします」

 

 冷や汗をドバドバかきながらクナイを構えるユーティ。 こいつはテオスくんをボコボコにするほどの強さだった。

 

 俺がこのダンジョンに挑むと提案したきっかけの一つは、こいつらと全力で戦う機会があるかもと考えると……

 

「なんだか、ワクワクするもんな!」

 

「……っ!」

 

 胸の高まりを抑えられず、思わず我慢していた笑みがこぼれてしまう。 しかしユーティは何を怯えているのか、目を見開きながらバックステップで大げさに距離を取りつつクナイを放って来る。

 

 あいつが投げたクナイは加速、湾曲等の魔術を使用することで超高速かつ予測不可能な軌道で飛んでくる。

 

 ライフル弾が真っすぐ飛んでこなかったら最強だと言ってしまえば、あの破壊力がわかりやすいだろうか?

 

 故にこれを防ぐには単純に全身を硬化させるのがベター。

 

「硬化、二重発動!」

 

 軌道を捻じ曲げ死角から飛んできたクナイが金属音とともに弾け飛ぶ、二重硬化していたとしても衝撃は伝わるからまあまあ痛いが仕方がない。

 

 初めからノーダメージで倒せるなんて思っていない。

 

 一撃目を防げたので、ぐっと踏ん張って一気に肉薄するため足に力を入れるが、その瞬間ユーティが慌てて魔術を構成する。

 

「じゅ、重力倍加!」

 

 反撃を恐れてだろうか、ユーティはまず重力倍加を選択。 これは俺から言わせれば判断ミスだ。

 

 せっかく俺よりも早く魔術を発動できるという長所を殺してしまっている。

 

「魔術大全【第48頁】力学干渉構成式:摩擦軽減」

 

 摩擦軽減は対象にかかる摩擦を限りなくゼロに近い状態にする魔術。 これを喰らえばまともに立っていられることもできなくなる。

 

 とはいえ、この魔術の弱点は効果時間が短いプラス射程が短い、他にも直線上にしか作用しないという非常にかわしやすい魔術なのだ。

 

 だから当てるためにはコツがいる。

 

「魔術を構成した隙を?」

 

「バカ正直にバックステップで距離を取るからそうなる。 魔術の効果範囲は直線上のものが多いから、かわすなら左回りがオススメだ」

 

 重力倍加を構成する隙を狙っての摩擦軽減。 ユーティが重力倍加を発動する予備動作を見た俺は、すでに左側へ緊急回避していた。 ユーティが構成した重力倍加の範囲外に逃れることに成功している。

 

 対して、スリップしてバランスを崩したユーティめがけ、加速の魔術で一気に肉薄する。 ユーティは転倒しながらも、渋面を貼り付けたまま俺に向かってクナイを投げつつ魔術を構成。

 

 俺はすかさず魔術大全を開き、ちらりと視線をそちらに移す。 その様子を確認したユーティは、俺が肉薄すると同時にカスディム文字を完成させた。

 

「反射!」

 

「はい焦ったー、牽制のつもりで投げたであろうクナイなんか、さっきの硬化が残ってるから痛くねーし。 反射は俺が魔術を放つと同時に使うのが基本だぞ? 予測で使うと滑るからな!」

 

 視線のフェイクで魔術を唱えるふりをして、反射を無駄撃ちさせる。 これは対人戦の基本的テクニック。

 

 それに、ユーティは体に刻印されているカスディム文字のお陰で速攻で魔術が構成できるのだ。 焦りすぎて判断力が鈍ったか?

 

 反射の魔術でカウンターに持ち込めるのは直接的な攻撃だけ。 だったらどうやってこの忍びガールを攻略すればいいか。

 

 答えはいたって簡単。

 

「魔術大全【第87頁】物質創造構成式:変形」

 

 ユーティの足元に魔術を発動させ、畳の床を陥没させる。 足場を失ったユーティは慌てて浮遊の魔術を展開しようとした。

 

 浮遊の魔術は摩擦軽減の対策として最も効率的な魔術と言えるだろう。 だがここで浮遊の魔術は愚策中の愚策。

 

「魔術大全【第31頁】物質創造構成式:土壁」

 

 以前テットが使用したテクニック。 土壁を円形に展開し、相手を球体にした土壁の中に拘束する。

 

 浮遊していなければこの拘束方法は即座に破壊できてしまうだろう。 力ずくでぶち壊せばいいだけなのだから。

 

 だが浮遊しているユーティはこの土壁を壊すのに一手間加える必要がある。

 

 それはなぜか、空中で身動きを取るためには加速の魔術を構成する、あるいは創風の魔術を構成するという手間が必要になるからだ。

 

 地面に立っていたなら一つの魔術で対応できただろう。 だが空中に残ってしまうと、二重に手間がかかる。

 

 魔術による戦いにおいて、非効率的な魔術の運用は命取りになる。

 

 少ない手数でいかにして攻めるか、これが魔術戦の基本。 だからこそここで使うのは、土壁で擬似的に拘束したユーティを、直接的ではない方法で倒すための最強の一手。

 

「魔術大全【第95頁】物質創造構成式:創気(二酸化炭素)」

 

 創気の魔術は気体を生成することが可能。 二酸化炭素も例外ではない。

 

 土壁で密閉した空間を、二酸化炭素で満たす。 たったこれだけで人と同じ作りにした魔造人間でも呼吸を阻害することが可能になる。

 

 魔造人間とて作りは人間と一緒だ。 だからこそ土壁の中を二酸化炭素で覆ってしまえば……

 

「はい、いっちょ上がり」

 

 ものの数秒で泡を吹いてぶっ倒れてしまう。

 

 気を失い、痙攣しながら泡を吹いてしまっているユーティを叩き起こし、ビシッと人差し指を向けながら指導する。

 

「はい、今回俺は100ページ以下の魔術しか使ってません。 ユーティは力学干渉構成式しか使えないとは言え、直接刻印したカスディム文字のお陰で俺よりも早く魔術が構成できる。 この長所を活かすために必要だったのは、最初の一手です!」

 

 最初の一手、つまりビビってバックステップからの攻撃を選んだ時点で俺の勝ちは確定していたのだ。 あそこで逃げずに俺の魔術発動を待ち、摩擦軽減などを使用して俺のバランスを崩すことさえできていればユーティにも勝てる戦いだったのは間違いない。

 

 もっとも、相手が動くまで絶対に魔術は唱えないという基本的な知恵がある俺が、そんなミスをするわけがないのだが。

 

「うぅ、あるじぃ……お手柔らかにと申したではありませんか……」

 

「だから、100ページ以下の魔術しか使ってねーだろ?」

 

「それはそうかも知れませんが……うぅ」

 

 珍しく涙目を浮かべながらしょぼくれているユーティに、仕方がなく事象回帰をかけてあげる俺であったとさ。

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