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バッドエンド回避に失敗した悪役貴族の俺、自作ダンジョンに引きこもる  作者: 【星願大聖】永福
お隣さんが来訪したようです

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第48話 質問攻めを受けた俺は、しぶしぶここまでの人生を振り返る

 ❖

 ダンジョンで取れる財宝は、金や珍しい鉱石、それ以外にも特殊な魔術が付与された武具、ペットとして飼える魔獣の卵やら便利なアイテムが盛りだくさん。

 

 その全ては、冒険者を喜ばせるため。 そして喜ばせた冒険者に様々な嫌がらせをして悪感情を吸い取るのがダンジョンの意義。

 

 つまりカイムさんはこう言いたいらしい。

 

「あんなにも質のいい罠を、低コストかつ大量生産しているというのに、あのダンジョンからは悪感情が吸い取れないっち! なぜだか分かるっちか?」

 

「あー、モンスターの素材も財宝もないからですか?」

 

「その通りだっち! あれでは、冒険者共の修行場にしかなってないんだっち! 小僧がダンジョンを作った目的は、冒険者たちを鍛えるためだっちか?」

 

 カイムさんの語りに熱が詰まっていく。 とは言っても、俺はひきこもりたいからダンジョンを作った。

 

 いわばあのダンジョンは俺の家を守るための防災システムだ。 安寧な引きこもり生活を送る、かつちょっとした暇つぶしのために作ったダンジョン。

 

 財宝なんか置いたら冒険者がわんさか来てしまうだろう。

 

 しかしなんと説明したらいいのだろうか?

 

 素直に人間が大嫌いだからダンジョンの奥にひきこもって、たまに入ってくる人間共に嫌がらせしたいだけなんですと言うか?

 

 それとも今すぐそれっぽい理由を考えるか、無知な振りをして適当に話を流すか。

 

「小僧、先に言っておくっちが、カイムに嘘は通用しないっち。 先程小僧がカイムに隠し事をしたのも筒抜けだっち」

 

 急に頭がふわふわし始めた、これたぶん洗脳しようとしてるな?

 

「分かりました、正直に話すので洗脳しようとするのやめてください」

 

 落ち着くようジェスチャーを送りながらそう告げると、カイムさんはムッと口を尖らせながら顎を撫で始めてしまう。

 

「ふむ、これでも落ちないっちか。 まあいいっち。 ゆっくり話を聞かせてもらうとするっちよ?」

 

 煮え切らない表情でくるりと反転し、背中を見せてスタスタ歩き出すカイムさん。

 

 慌てて後ろについて行き、しばらく歩いていくとまたしても別の部屋の扉が見えてくる。 通路の景色が変わらないため、自分が今どこを歩いているのか分からなくなるのが少々怖い。

 

 ぼんやりした意識のまま後ろについて行くと、先程見た石炭製造室とほぼ同じ柄の扉が見えてきた。 カムイさんがそこで止まると、扉を開けながら部屋の中を指し示す。

 

「客間だっち、適当に座るっち!」

 

 豪奢な装飾を施されたソファーやローテーブル。 部屋の隅には調度品も置かれており、ダンジョンの中にいるとは思えないほどの豪華さ。

 

 言うなれば、貴族の客間のような様相だ。 場違い感が半端では無いが、窓がついてないおかげでここが地下だということを改めて実感できる。

 

 カムイさんに案内されるままソファーに腰かけ……全身を優しく包むような、ぼふんとした優しい柔らかさに脳がとろけそうになる。

 

 座り心地が良すぎて寝そうだ。

 

「さて小僧、おぬしなにゆえダンジョンを復元させたっちか、理由を言ってみるっち」

 

 ソファーの座り心地に感動していると、正面に腰掛けたカイムさんが鋭い瞳を向けてくる。 身長が低すぎるせいか、足がプランプランなせいで迫力が薄れているが、指摘したら怒られそうなので一旦スルー。

 

「えーっとですね、話が長くなりそうなので簡潔に説明しますね」

 

 そうして俺は、転生したという事実は隠したうえで、この世界に来てから起きた出来事を黙々と話し始めるのだった。

 

 ❖

 転生したという事実を隠しつつ、俺がこの国に追放されるまでの話をかいつまんで説明した。 するとカイムさんは、腕を組んで唸りながら神妙な顔つきを作る。

 

「それはそれは、辛かったっちね」

 

 なんということだろう、どっかの幻獣様と違って、この悪魔さんは俺の過去を聞いて親身になってくれている。

 

 なんか、ようやく俺の辛さを分かち合える人が出てきてくれて少し泣きそうである。

 

「なあ小僧、人間を恨んでいないっちか?」

 

「恨んでるに決まってるじゃないっすか! もう人と関わりたくないのでダンジョンに篭ってるんですから!」

 

 俺の気持ちをわかってくれる人が現れたことで嬉しくなったせいか、言葉に力が入ってしまい、ぐっと拳を握りながら思いの丈を語る。

 

 するとカイムさんはうんうんと頷きながら優しげな眼差しを向けてくれた。

 

「辛かったっちね。 小僧は人間どもに虐げられ、辛い思いをさせられ、そうして人里離れた場所へと追いやられたっちか。 許しがたい事だっちよ」

 

「まったくですよ! 人間と関わるのはもうごめんです」

 

「だったら小僧……復讐したいとは考えないっちか?」

 

 突然優しげな顔から極悪人のような顔に変わるカイムさん。 ……おっと?

 

 しかもまたしても頭がぽわぽわしてきた。

 

「小僧が人間どもに復讐をしたいと考えているのなら、カイムが力を貸してやってもいいんだっちよ?」

 

 脳みそに直接語りかけるような声音で、ゆっくりと語りかけてくるカイムさん。

 

 なるほど理解した。 迷宮の管理場にずっと同じ景色が続いていたのは俺の思考を緩慢にさせるため、さらにこの部屋の快適さやソファーの素材……

 

 リラックスさせ緊張感をほぐすことで俺の思考を鈍らせ、渾身の洗脳魔法で俺の頭を洗脳しにかかってきたと。

 

 油断も隙もない悪魔さんだ。

 

「カイムは序列五十三位の悪魔総裁。 カイムが小僧に力を貸せば、国の一つや二つを潰す程度わけもないことだっち」

 

 ゆっくりと立ち上がったカイムさんは、自信ありげな足取りで俺のそばへと歩み寄り、耳元で囁くように告げてくる。

 

「小僧を虐げた人間どもを、一匹残らず屠りたいとは思わないっちか?」

 

 勝ち誇ったような笑みを浮かべて語りかけてくるカイムさん。

 

 危ないところだった、ソファーのふかふかさに思考停止させられたせいで、完全に相手のペースに乗せられていたらしい。

 

 俺は無言で魔術大全を開きながら、意識干渉魔術の精神統一を発動させる。

 

 するとカイムさんは、ちらりと俺の魔術大全を盗み見て眉をしかめていた。

 

「なるほど、俺の体を乗っ取りたかったわけですね」

 

「小僧、本当にただの魔術師だっちか?」

 

「一生懸命魔術の勉強も鍛錬もしてましたからね、ある程度の不祥事には対応できるんすよ」

 

 不機嫌そうな顔をしているカイムさんに再度警戒心を向けながら距離を取る。

 

「それで、あなたは俺を洗脳できなかったわけですが、このまま力ずくで体を乗っ取るという流れにでもします?」

 

 相手は魔法を使う悪魔だ、にも関わらず俺はこいつの言うことに自然と従ってしまっていた。 いつの間にか俺の脳内は軽い洗脳状態にあったと考えていいだろう。

 

 精神統一の魔術が俺の精神状態を安定させてくれたおかげで、自分がノコノコこんなところまでついてきたという事実に疑問しか生まれない。

 

 悪魔が経営しているはずのダンジョンにのこのこ一人で出向いてしまうなど、普通の俺ならあり得ない行動だ。 そもそもよっぽどのことがない限りあのダンジョンから出たくないのに、ごく自然な流れでダンジョンから出てきてしまっている時点で違和感を感じるべきだった。

 

 完全に意識を掌握されるまでには至らなかったが、警戒心を薄れさせられ思考が鈍くなっていたらしい。

 

 非常に厄介すぎる魔法だ。

 

 極寒の冷気を放って生命活動を停止させようとするメイハオちゃんの仙法と違い、カイムさんの場合は言葉巧みに俺の意識を惑わせ意識を奪いに来る絡め手タイプ。

 

 仙人の次は悪魔の相手かよと思いながら顔をしかめていると、盛大なため息を付きながら肩を竦めるカイムさん。

 

「あー、やめだっち。 お前はそこいらの魔術師と違い、そう簡単には掌握できそうにないっちね」

 

 驚くほどあっけなく表情を緩めるカイムさん。 だが、油断するわけにはいかない。

 

 さっきもそのせいで完全にペースに乗せられていたのだから。

 

「そう怖い顔をするなっち。 小僧がダンジョンマスターにふさわしい男なのかを確かめたかっただけだっち」

 

 つまらなそうにそんな事を言って、気だるそうに俺が座っていたソファーに身を投げるカイムさん。

 

「合格だっち小僧。 まあ、今後は同じダンジョンマスター同士、交流でもして情報や技術を交換するっちよ」

 

 警戒しながらカイムさんの様子をうかがうが、戦う意志は無いようにみえる……

 

 いやいや、油断を誘って洗脳しようとしているだけで、本当はまたしてもこいつの術中に?

 

「小僧は拾われた猫だっちか? からかったのは悪かったっち、とっとと警戒を解くっちよ? カイムは小僧が同じダンジョンマスターとして、交易する相手に値するかを確かめていただけだっち」

 

 めんどくさそうに手をパタパタさせながらそう告げてくるカイムさん。

 

 そうは言ってもこいつの魔法は洗脳だ。 なかなか信用できない俺は、この後も暫くの間警戒態勢のまま交流することになったのだった。

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