第49話 説教されて疲れ果てた俺は、今後の方針を練ることにする
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その後ティメルは、カイムからダンジョンに関する散々なダメ出しをくらい、挙句の果てには罠の作り方やアイデアの出し方などを聞き出されていた。
やがて拘束時間の長さにうんざりしたティメルは、時間も時間のためそろそろ帰りたいと駄々をこね始める。
大方の情報交換を終えたカイムは、仕方がないとばかりに繭居迷宮への帰り道を創り出した。 ここに来る時と違い罠を警戒しながら次元の歪みに入っていくティメルの後ろ姿を、カイムは呆れながら見送る。
そうしてティメルが繭居迷宮へ帰還したところを見送ったカイムは、真剣な顔付きで背後へ声をかけた。
「どう見るっち?」
「文句なしの手練です。 そこらの魔術師とは思えません」
霞が晴れるように、誰もいなかったはずの場所に全身水色の法衣を纏った司祭が現れる。 氷のような色の法衣は見ているだけである人物を連想させる。
「聖マリヤム教とやらで対処はできるっちか?」
「情けない話ですが、少々厳しいかと」
苦笑いをうかべる氷色の法衣をまとった男は、片手に漆黒の魔術書を構えており、これと言って特徴のない顔立ちに髪型は、逆に不気味な印象を覚える。
「三天星総出でも無理だっち?」
「恐らくは……」
「ふーむ、ダジージャの見解となると、無視はできないっちね」
魔導士マリヤムを信仰する聖マリヤム教。 彼らの悲願は三千年前の戦争で命を落としたマリヤムの復活。
そのためなら非人道的なことも平気で行う宗教団体だ。
例えば悪魔の召喚。 悪魔たちは魔法を使用することができる。
彼らの考えからすれば、マリヤムと同じ魔法を使用できる悪魔たちは、信仰する対象。
逆にマリヤムを死に追いやったジュムフーリヤ帝国の貴族たちや、華ノ国の皇族たちは粛清対象。
本来なら人類の敵とみなされている悪魔たちに礼を尽くし、さらには悪魔の言う通りに行動をすることと引き換えに、悪魔から少しずつ力を借り受けている。
悪魔が力を貸すことで、聖マリヤム教は人々を恐怖の渦に貶める、そしてその恐怖の渦に貶められた人間たちの悪感情を悪魔たちは喰らう。
マリヤムを復活させるために平気で悪事を働く彼らは、氷色の髪や銀の瞳を持った人物を誘拐しては、その体にマリヤムを降霊させるため禁忌の魔術を使用しているのだ。
ダジージャはその聖マリヤム教大司祭の一人、ティメルが厄介だと危険視している魔術師である。
そのダジージャを持ってしてもティメルは危険だという評価。 カイムは彼の見解を聞き、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「念の為あの街に三天星を集めとくっち」
「かしこまりました。 それでは私はこれで失礼いたします」
ダジージャは恭しく頭を下げながら空気に溶けるように姿を消した。
「ううむ、惜しい。 実に惜しいんだっち」
ダジージャが居なくなったと同時に、カイムは頬を割くように口角を吊り上げ、それを右手で隠そうとしながら肩を激しく揺らす。
「あれほどの逸材、カイムの依代には相応しいっちね。 やはりあやつを絶望させるには、今しばらく慎重にことを運ばなければならないっちか」
原作の知識しかないティメルはまだ知らない。 自分が闇落ちしてテオス達の前に立ち塞がるまでの経緯を。
そして、原作のルートから大きく逸脱する人生を歩んでいようと、依然としてその脅威が迫ってきていることさえも。
運命は、そう簡単に変えることなどできないのだ。
「さて、これから忙しくなるっちよ? せっかく今日まで育ててきたカイムの肉体候補。 これ以上ないほどの絶望を味合わせ、カイムの糧にしてくれるっち?」
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カイムさんにダンジョンに関するイロハを嫌という程叩き込まれた。
耳が痛くなるほどダメ出しを食らったあとは罠の作り方を教えろだの、どうやったらそんな素晴らしい罠が思いつくのかと……記者会見バリの質問攻めにうんざりだ。
お陰様でぐったりしてしまった俺は、自室のベットにうつ伏せで倒れ込んでいる。
だと言うのに……
「まさか悪魔総裁がわざわざ出張ってくるとはのう」
「とはのう!」
我が物顔で俺が倒れ込んでいるはずのベットに腰かけているシェンルゥたち。
「あのさー……はぁ〜、まあいいや」
文句のひとつも言ってやりたかったのだが、言っても無駄だと悟った俺は盛大なため息をこぼす。
あれ以降カイムさんは俺を洗脳しようとはしてこなかっただろう。 脳がふわふわする感覚がしなかっただけで実は既に洗脳されてる、だなんて怖いことでもない限り。
とはいえ厄介なことになったのは確かだ。
「おい童! 一人で不貞腐れておらんで、何があったのか話してみぃ? 優しいシェンルゥお姉様が聞いてやろうではないか!」
「やろうではないか!」
「何だこのノリ、だるっ」
「だるいとはなんぞや! せっかく童を心配して声をかけてやっておるというのに!」
「あーもう、やかましいなぁ」
イライラしながらもむくりと状態を起こし、シィタンダンジョンについてからのことを説明した。
カイムさんが俺に言いたかったのは、恐らくダンジョンマスターとしての責務を果たせと言うこと。
責務とは具体的になんなのか、中に入った冒険者たちに悪感情を抱かせること。
俺のダンジョンから吸い取れる感情は向上心だけらしい。
なぜなら、人型魔獣たちはかなり強いため冒険者たちは負けないためにひたすら腕を磨き、明日こそは倒してやろうと意気込んでやってくる。
さらには俺の命令を受けたゲマトリア達は、侵入した冒険者たちを殺してしまわないよう気をつけて立ち回っており、気絶した冒険者たちは親切にダンジョンの外に運んであげるという好待遇。
華ノ国に危険地帯と指定されているこの地域に、腕利きの冒険者達がポツポツやってくるのは腕試しのためだとカイムさんに教えてもらった。 肝試し感覚で来てる物好きだと思っていたら、全然違ってて草。
困ったことに人型魔獣たちは倒されると光の粒子になって消えるものの、経験値だけはしっかり渡してしまうようで。
最近四層最終間までやってくる冒険者が増えてきてるのはそのせいだと気が付かされた。
このままでは俺のダンジョンは訓練場になってしまう。 そのためカイムさんの要求はただ一つ。
——冒険者を殺すのが嫌なら、人型魔獣よりも雑魚い魔物を放ち、少しばかりの財宝を用意することで質の悪い冒険者をあえて集めること——
質の悪い冒険者が増えれば腕利きの冒険者たちは少なからず迷惑する。
今まで向上心ある冒険者しかいなかったこのダンジョンに、お宝目当てのゲスい考えを持った冒険者達が徘徊するようになれば、いい思いはしないだろう。
そうすれば腕利きの冒険者たちは別の高難易度ダンジョンへと流れていくはずだ。
この世界には72個のダンジョンが確認されており、ダンジョンマスターと呼ばれる悪魔も同じ数いる。
カイムさんの話によれば、ダンジョンの階層の多さはその悪魔の力に直結しているらしく、簡単に説明するなら10階層のダンジョンを管理している俺のレベルは10。 逆に30階層のダンジョンを管理しているカイムさんのレベルは30と言う事だ。
俺が知ってる悪魔は六体、その六体は聖マリヤム教のバカどもが召喚した悪魔だが、カイムさんは俺が知ってる悪魔の中にはいなかった。
悪魔である以上、十中八九聖マリヤム教が召喚したのだろうが、悪魔達は仙人や魔導士同様厄介な分類だ。
なんせゲマトリア達や人型魔獣達で守りを固めた俺のダンジョン内に、平気な顔をして入ってくるほどの実力者だ。 はっきり言って怖すぎる。
対策をしなければカイムさん以外の悪魔に目をつけられ、ダンジョン内に侵入を許すこともあり得るだろう。
となると、財宝云々より先にダンジョン内の防衛機構を見直したい。 冒険者たちでは実力不足だし、俺の知り合いには悪魔に匹敵するほどの実力者はいない。
見直すとは言ってもどうやって改善点を見つければいいものか……
いや、待てよ?
シェンルゥに先程までの出来事を話していたら、俺の脳内で思考がいい具合にまとまってくれたらしい。
暇も潰せそうだしこのダンジョンの防衛機構を見直すためのいい方法を思いついてしまった。
「よし、決めた! 俺明日このダンジョンに挑戦するわ」
説明中に突然立ち上がった俺を見て、シェンルゥとメイハオちゃんはぽかんとした顔をしていた。




