第47話 突然の来訪者に困惑する俺は、ダンジョンの何たるかを教わる
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カイムさんに促されるまま次元の歪みに足を踏み入れる。
相手は魔法を自在に操る悪魔だ。 何が起きるか分からないため、全員の洗脳を解くだけ解いて俺一人で着いてきた。
慣れない浮遊感を感じ、少々眉をしかめていると、既視感のある場所に足を踏み入れたのがわかる。
シィタンダンジョン、ゲームをやりこんでいた時何度か通っていたダンジョンだ。
ゲーム会社いわく、シィタンとは石炭を意味するらしく、このダンジョンでは名前の通り石炭が大量に取れる。
場所的には俺が作った繭居迷宮の近所、北西に数キロ行った場所に位置する山間式ダンジョン。 ここも華ノ国辺境にあるダンジョンのひとつだ。
ハウジング機能で遊ぶ際、石炭は様々な道具を稼働させる燃料として使われるため、一部のプレイヤーはこのダンジョンをマラソンしていたなんて話もよく聞く。 とは言え、本来のマジフロのストーリー上、華ノ国に訪れるのは物語中盤。
ダンジョンの難易度は中の上と言ったところだろうか?
俺が作ったダンジョンと違い、このダンジョンの最下層は三十階層まである。 それに階層ごとに趣が変わる訳ではなく、二十階層までは鉱山の坑道のような見た目になっており、二十階層以降はマグマ洞窟のような見た目になってものすごく熱気が激しくなる。
ゲーマー的に、マグマ洞窟を見ると少々テンションが上がってしまう。 がしかし、俺が案内されているのは中層に位置する十二階層。
ダンジョン内に採掘ポイントが点々と置いてあるのだが、岩の裂け目から真っ黒な石のようなものが見えている。 これがこのダンジョンご自慢の石炭なのだろう。
「小僧、魔術を操る貴様なら、この石炭をどうやって作っているかは想像がつくっちね?」
「時空干渉魔術……じゃなくて、カイムさんが使うなら時空干渉魔法ですかね?」
「ふむ、よく学んでるっちね小僧。 このダンジョンにある石炭は、カイムが作った全自動石炭作成システムを元に作られたものだっち」
自慢げに語りながら、カイムさんはダンジョンの壁をまさぐり始める。
「確か、この辺だっちね?」
ブツブツ言いながら壁をまさぐること数秒、カチッと音がしたかと思えば、突然壁に亀裂が走る。
小刻みに床が揺れたかと思えば、亀裂が入った場所が扉のようにスライドしていき……
「ここからは関係者以外立ち入り禁止だっち」
恐らく隠し扉の類だったのだろう、ゲーム時代知っていたらきっと自慢できただろうな、なーんてどうでもいいこと考えながら景色が変わった扉の先を眺めてみる。
「え、なにこれ」
「ここはこのダンジョンの管理場だっち」
「様相変わりすぎでしょ」
「管理場だっちからね? 効率重視だっち」
坑道のような場所から突然近未来風のチカチカした通路に繋がっている。 長方形の通路に淡く光る壁や床、天井からは蛍光灯の光を思わせるような真っ白な光がさしており、変な話真昼間に外に出るより明るい。
「目がチカチカしそうだな」
「清潔感は重要だっち」
悪魔のくせに清潔感を気にしてる点、ものすごく違和感しかないが、とりあえずスタスタ歩いていくカイムさんの後ろにてくてくとついて行く。
「この石炭に関してもそうだっちが、下層はマグマの池を作ってるんだっち、そのマグマは流動的になるよう仕組みを考えて……」
「二十階層から下でしたよね?」
「……なんで知ってるっち? 小僧はこのダンジョンに入るのはじめてのはずだっち」
「あ、ええっと、冒険者に聞いた話です」
転生前の記憶でうっかり口を滑らせた俺は、慌ててそれっぽい言い訳をするが、
「小僧、おぬし冒険者と会話したことなど無かったはずだっち?」
「……なんで知ってるんすか」
「あ、ええっと、小僧の部下に話させたっち」
目が泳いでいる。 マジでこの人、なんで俺が冒険者と話したことないと知っているんだ?
「この部屋を見るっち」
訝しみながらカイムさんの横顔をガン見していると、突然立ち止まって大きな扉の前に立つ。 ちょうどいいタイミングだったから全力で話をそらしにきたな。
「この部屋は石炭製造室になってるっちが、特別にシステムを見せてやるっちね」
そう言って大きな両扉を開くと、中には無数の魔法陣が描かれていた。
「これは……ん? 時空干渉に、加速と……なんじゃこりゃ、どうなってんだ?」
室内の至る所に穴が空いており、その穴の前に作成された石炭が置かれた瞬間、魔法陣の上で消えている。 恐らくその魔法陣が部屋で作った石炭を各階層へ転移させているのだろう。
そこまでは分かるのだが……
「ちっちっち! どうだっち? すごいでっち? この部屋には別室で栽培した植物を送り、時空干渉魔法陣やら現象創造魔法陣やら、各種魔法陣を連動させ自動的に石炭を作れるように設定してるっち」
石炭を自動生成するのにいくつ魔法陣を使ってるんだと驚愕する俺。 これはゲーマーとしてはたまらん光景だろう。
どの魔法陣がどの役割を果たしていて、どのタイミングでどの魔法が発動しているのか……
「わたし、気になります!」
「サービスはここまでだっち。 こっから先は企業機密だっち」
目をキラキラさせながら研究を始めようとしたのに、ドヤ顔で扉を締めてしまうカイムさん。
「なまごろしっすか! そりゃないっすよ!」
「ちっちっち! そりゃーこのダンジョンはこの石炭を特産にしているっちからね。 製造方法をそのまんま教えるだなんて愚かなことはできないっち」
だったらなんで見せたんだよ、とか思いながら口をとがらせていると、カイムさんはにやりと笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。
「なぜカイムがこの石炭自動生成システムを見せたのか、その理由はのう、小僧がダンジョンの何たるかを心得ていないからだっち」
吊目がちな目を三日月のように歪め、極悪人のように笑うカイムさん。
「小僧は、なんのために悪魔たちがダンジョンを作っておると思うっち?」
「え? なんのためにって言われると……なんでなんすかね? ひまだから?」
「三割は正解だっち」
なるほど、三割は暇だから作ってるのか。 なんてどうでもいいことに納得していると、カイムさんは得意げな顔を作りながら俺の周りをゆっくりと囲うように歩き始めた。
「そもそも、腹をすかせた悪魔たちが好むのは人間どもの悪感情。 しかしながら魔界と現実界は繋がっておらんから、直接現実界へ悪感情を取りに行くことはできぬのだっち」
「ちょっと待った、なんでカイムさんは悪魔なのに現実界にいるんです?」
「……しからば、悪魔たちはどのようにして悪感情を獲得しているかという話になってくるっちね?」
あからさまに俺の質問をスルーして、無理やり話を続けようとするカイムさん。 かなり強引すぎて、聞いてはいけないことだということだけしか分からなかった。
「そこで、我々はダンジョンを作成するという選択肢を得たんだっち!」
俺の目の前で立ち止まったかと思ったら、両手を広げながら劇団の役者のように大げさな身振りで声を張るカイムさん。
「冒険者がダンジョンに来る理由は資源や財宝。 そしてそれらを見つけて歓喜している冒険者たちに、悪質な罠を仕掛けることで質の良い悪感情を得るのが我々の目的なんだっち」
なるほど理にかなっている。 ダンジョンに宝があるのは冒険者たちを喜ばせるため、そして喜んで浮かれている冒険者に性格の悪い罠を仕掛けることで、質の良い悪感情を得ることができるらしい。
そのため悪魔たちは魔界から遠隔操作でダンジョンを管理して、それぞれが撒き餌を用意してダンジョン内に冒険者を招くために試行錯誤。
主に難易度が高いダンジョンは、冒険者たちが死に対する恐怖を抱くことや、強敵がいることに対しての緊張感を。
敵が弱めに設定されているダンジョンでは、油断させた冒険者に性格の悪い罠を当てることでじわじわと悪感情を接種する。
ふむふむ唸りながら納得していると、カムイさんは突然真剣な顔をして俺のことを凝視してくる。
「以上を踏まえ、カイムは先輩として小僧に助言をしてやるっち」
なんだろうか、真面目な顔で凝視されると、少々身構えてしまうのだが?
「小僧、貴様のダンジョンには、あんなにも素晴らしい罠があるというのに……なぜ財宝がないっちか?」




