第46話 大会を楽しんだ俺は、まさかの来客に青ざめる
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「おめでとうございます! 優勝は、大鬼中隊の皆さんです!」
拍手喝采を送られている大鬼中隊のみなさんが、歓喜の涙を流している。
それにしても今回のトーナメント、大鬼中隊が圧勝すぎてビビった。
奴らの戦闘方法は非常に頭が悪いものだが、それでも持ち味のパワーと耐久力を活かしたゴリ押し戦法は、単純だからこそ対応方法が難しく、対戦した相手はほとんどがちぎっては投げられてしまっていた。
「はっはっは! どうじゃ童、妾が指導した鬼蔵たちはなかなかやるであろう!」
満足そうに鼻を鳴らすシェンルゥ。 悔しいが今回ばかりは文句の言いようがないほどすごいと思う。
そんなわけで見事、第一回繭居迷宮最強部隊選抜トーナメントの初優勝チームは大鬼中隊に決まり、大鬼中隊には特別な景品が与えられることになる。
「えー、今回の景品として、なんと嬉しいことに! 大鬼中隊にはゲマトリアのメンバーの内一名を指定して、模擬戦闘挑戦権が与えられます!」
れんれんの口から景品の内容を聞き、歓喜を浮かべていた大鬼中隊は石化したように固まる。
しかし嬉しそうに目を光らせながら観客席から声がかかる。
「ぜひとも当方を指名すると良い! 全力で相手をしてやろう!」
「呵呵! まろもいつでも歓迎するでござるよ! まろの妖狐小隊の汚名を払拭する機会をいただきたく思う!」
ちなみに、景品の内容を考えたのはヴァブである。 ヴァブは何がなんでも人型魔獣たちに強くなってほしいみたいだ。
ここ最近知った事実だが、ゲマトリア個人の実力は世間に出せば化け物級に強いようで、人型魔獣たちは束になっても瞬殺されるレベルだ。
あのポンコツ代表のギメルですら人型魔獣たちを圧倒できるのだ。 武闘派四天王に限らず、ゲマトリア達は戦闘能力に関してはテオス達よりも上なのは間違いないだろう。
「これは本格的にこのダンジョンの防衛機構は完璧だな」
「ちっちっち! これはこれは、このダンジョンでは面白いことをしてるっちね!」
聞いたことのない声が聞こえ、慌てて振り返る。
「こやつ、いつからそこにおった?」
「お兄ちゃん、この子……嫌」
膝に乗っていたメイハオちゃんが慌てて立ち上がると、部屋中に冷気を立ち込めさせる。
いつの間にか俺達の後ろにいた小さな少女は、ちっちっちと笑いながら背中から生やしていた茶褐色の羽をはばたかせる。
真っ白な髪の毛は外ハネのボブで、襟足だけを腰のあたりまで伸ばしたディスコネクション。 褐色のアホ毛が三本立っているあたり、パッと見鳥のような印象を覚える。
身長はメイハオちゃんと並び立つレベルで低く、俺の腰辺りまでしかない。
しかし腕を組み偉そうに俺達を観察しており、鋭い吊目はニヤニヤと意味深な笑みを浮かべている。
「そう怖い顔をするなっち! カイムはただ挨拶しに来ただけっち!」
こいつが口を開いた瞬間、隣で警戒態勢を取っていたシェンルゥとメイハオちゃんが、安心したように全身の力を抜いていく。
なぜだろうか、たちくらみとは違う、脳がふわふわとした感覚に襲われ、こいつに対する敵意が薄れていく。
……おかしい。
「お前、なにしやがった?」
「おやおや、さすがはダンジョンマスターだっち。 カイムの言葉を聞いても正気を保っていられるとは」
カイムと名乗っている少女は、またしてもちっちっちと笑いながら俺を睨む。 こいつが言葉を発するたびに、脳が違和感を覚える。
恐らくこいつは言葉に魔力を乗せている。 洗脳に近い類の力を使うのか?
「意識干渉魔術か?」
「魔術? ちっちっち、そんな低次元な括りでカイムの術を括るんじゃないでっち」
俺が魔術大全を開いているというのに、メイハオちゃんは不思議そうに首を傾げながら俺の服を引っ張る。
「お兄ちゃん、このお姉ちゃんはお客さんだよ?」
「そうじゃぞ童。 客人に失礼であろう? はようその物騒なものをしまうがよい」
あの一瞬で、シェンルゥもメイハオちゃんも洗脳されてしまったところを見るに、こいつは明らかに只者ではない。
「お前、まさか悪魔か?」
「ちちちちち! さようさよう、それがわかったのならその物騒なものをしまうっちね」
カイムと名乗っていた少女は、小鳥のように笑いながらとてつもない魔力を放出する。
その魔力量は、軽く見積もっても俺の倍以上。 真正面から戦えば勝ち目はないだろう。
「カイムの名は、カイム! 悪魔総裁、序列五十三位。 鶫公カイム様だっち!」
さえずるような可愛らしい声で、物騒な名乗り文句を上げるカイムを前に、俺は冷や汗が止まらなかった。
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悪魔総裁、鶫公カイム。 こいつは言葉に魔力を混ぜ込むことで、こいつの声を聞いたあらゆる生き物の意識を掌握し、自在に操ることが可能らしい。
俺以外の全員がすでにこの能力で掌握されてしまったようで、俺が直々に招待しないと入れないはずの特別ルームに我が物顔で入ってきやがった。
とは言え魔力量的にも魔法の使い方的にも、明らかにこいつの能力は異常。
そもそも悪魔は、魔界に生息している存在なのだが、悪魔の中でも貴族に分類される者たちはほとんどが魔法を使う。
人類の中で魔法を使えたものはマリヤム唯一人しかいなかったため、この世界に悪魔が現れてしまえばその時点で災厄だ。
実際、この世界にあるダンジョンは、魔界に住んでいる悪魔貴族たちが余興感覚で作っているものらしく、魔界から遠隔操作してダンジョンを生成しているらしい。
転生前の知識を使えば、箱庭ゲーのような感覚でダンジョンを経営しているのだろう。
「このダンジョンに何しに来やがった?」
「いやはや、廃れていたはずのダンジョンがまた動き出したと聞いたっちね? 何事かと思って見に来てみれば、楽しそうなことをしてたから混ぜてもらいにきたっち!」
「いや、混ざるって……お前のその実力じゃ余裕で無双しちまうだろ?」
「ちっちっち! よくわかっているではないか小僧! さすがはカイムの声を聞いても洗脳されなかっただけあるっちね!」
声を聞いただけで洗脳ができるとか、かなりのチート能力。 俺は念には念をおくタイプのため、常に状態異常および精神攻撃系に対する耐性を上げる防御魔術を継続的にかけている。
おかげさまで、奇跡的にこの洗脳に抵抗できていたらしい。
とは言えさっきまではこいつの言葉を聞いているだけで脳がふわふわしたような奇妙な感覚に囚われた。 洗脳力はとてつもないだろう。
「それにしても、すごいな小僧。 魔術師の身でよもやこれほど愉快なダンジョンを作ってしまうっちか!」
「って言うかさ、カイムさんはどこのダンジョンから来たんっすか?」
このゲームには複数のダンジョンがあるのだが、そのダンジョンは魔界に住む悪魔が管理しているものだと設定されていた。
実際にストーリー内で戦う悪魔は合計で六体。 それもすべてがかなりの高難易度で、それですらストーリーの設定で弱体化した形態だった。
俺の目の前にいるこいつは、弱体化もしていなければ見たこともない悪魔だ。 暴れ出したりされたら、変な話メイハオちゃんよりも危険な相手である。
「そう言えば忘れてたっち」
カイムはポンと手をうち、立ち上がってすぐ背中の羽をパタパタ羽ばたかせると、カイムの後ろの空間が歪み、次元がねじ曲がったような異様な空間が出現する。
「ご挨拶が遅れたっちね。 カイムは近所のダンジョン、シィタンダンジョンを経営しているっちね? これを機に、カイムと仲良くしておくと、ダンジョンに関する様々なことを教えてやるっちよ?」
息をするように、人類では不可能と言われている指定空間への転移魔法を発動させるカイム。 俺達普通の魔術師なら、転移陣を介さないと指定した場所へ転移はできない。
「早速だっちが、カイムが直々にシィタンダンジョンを案内してやるんだっち! ついてくるんだっち!」
自慢げに口角を上げながらそんな事を言い出すカイム。 俺は遠慮したい気持ちをなんとか飲み込み、カイムを怒らせないようにと言う弱腰な理由で迷惑な善意を受け取るのであった。




