第45話 高みの見物を決め込む俺は、予想外の熱い試合に夢中になる
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「実況解説のザインさん! 今回の戦い、どう見ますか?」
「考考。 そうアルね、大鬼中隊は一撃の破壊力がずば抜けてるアルが、敏捷性は人型魔獣の中でも一位二位を争うほどの鈍足アル。 対する妖狐小隊は変化の術を駆使して戦う特殊戦闘部隊ネ。 からめ手を使う妖狐小隊が相手だと、大鬼中隊は少々分が悪いと思うアルね」
「なるほどなるほど、さすがはザインさん。 お目が高い!」
「照照! そんな事ないアルよ!」
実況席に移ったれんれんと、ゲストとして呼ばれたザインが今回の戦いについてそれぞれの見解を語っている。 ザインの見解は概ね正しいだろう、人数的には妖狐小隊が十二名、大鬼中隊が二十名。
大鬼中隊はシェンルゥが指揮しているという関係上、ダンジョン守護には参加せず、主に遊撃隊として有事に活動する特別枠だ。
戦闘経験的には最近冒険者の対応に追われている妖狐小隊のほうが上だろうが、大鬼中隊はあのシェンルゥが指揮している部隊だ。
一度訓練している光景を見に行ったことがあるのだが……
「行くぞオメェら! この試合、負けたらどんな目に合うかわかってんだろうなぁ!」
「応!」
「場所は視界の悪い樹海エリア。 相手はどっからくるか、ちっともわがんねぇ! 気合い入れて突撃するべさ!」
「応!」
気合十分の大鬼中隊は、全員で固まって突撃するようだ。 知能の低さが如実に現れている。
しかしながら隣でふんぞり返っているシェンルゥは満足そうに大きく頷いていた。 本当に大丈夫なのか?
対して西側の妖狐小隊はと言うと……
「いいですか皆さん、あやつらは知能の低い木偶の坊の集団なんしぃ。 よって、今回の戦闘法に関しては半数が樹木に変化して奇襲。 それに合わせてあっちが率いる本隊は樹上を移動して空からの奇襲。 二重の奇襲で一気に攻め落とす方針で行くでありんすよ?」
入念に作戦を立て、二重構成の奇襲を仕掛けるらしい。
ちなみに、俺が作成したなんちゃってドローンが試合の光景を撮影しており、計十五台のなんちゃってドローンがこの樹海を飛び回っている。
ドローンには集音機能も備わっているため、彼らの作戦会議の音声は俺達だけに聞こえている。 なんたって、俺達が観戦するこの部屋は俺特性の特別ルームだ。
俺直々に招待したものしか入室を許されない。 中に入れるのは手空きのゲマトリアの面々や、隣のシェンルゥと膝の上のメイハオちゃん。
そんなわけでこの特別ルームで暇を持て余しているのは、俺達以外にもヴァブやペペくらい。
他のゲマトリアはと言うと……
「大鬼中隊! 初戦にふさわしいぶちかましっぷりを期待する!」
「妖狐小隊の戦法は、我々蝙蝠大隊の参考になるであろう、心して観戦せよ」
観客席の最前線で闘技場を食い入るように見ている。
そんな中で始まった第一試合、妖狐小隊対大鬼中隊。 開始のドラが鳴ると同時に大鬼中隊は武器である金棒を高々と掲げ……
「突撃だべぇ!」
案の定、突撃一択である。
妖狐小隊は足音を消してスタスタと樹海内を駆け抜け二手に分かれる。 樹上の部隊がハンドサインのようなものを地上の舞台に送ると、地上の部隊は小さく頷きすぐさま木陰に潜伏。
ここでサアラブの専売特許とも言われている変化の術を発動。 サアラブは華ノ国南方に広がる海を超えた先。 鎖国中の島国、陽の島出身の魔獣だ。
よってこの大陸で主流になっている魔術や仙術、精霊術とは異なる力、陰陽術を使用するらしい。
物質や人間に宿る魂の力を使う陰陽術は、それぞれに宿る魂と同化、または憑依させて様々な奇跡を可能にするようだ。
例えばあの変化の術も、触れたものに同化して自らの身体を変形させることが可能になるらしく、サアラブはその変化の術を非常に得意とする魔獣だ。
よって木陰に隠れた人型サアラブたちは、ドローンでその姿を映していたにも関わらず、溶けるように樹木と一体化して見えなくなってしまう。
一部始終を見ていた俺達なら、いる場所の予測を着けることは可能だが、全く知らずに突撃してくる大鬼中隊のメンバーは気づくことすら困難だろう。
樹上を移動する妖狐小隊も身をかがめて大鬼中隊が突撃してくるのを待っているようで、会場には緊張感が伝わっていく。
そんな中、気合の咆哮を上げながら突撃してきた大鬼中隊の総大将、鬼蔵が妖狐小隊が待ち伏せしている地点に足を踏み入れる。
その瞬間、木陰に潜んでいた二名の人型サアラブが目にも止まらぬ速さで抜刀し、襲いかかる。 鬼蔵はまったく反応できなかったのか、腹を串刺しにされ苦しげな声を上げていた。
一瞬で勝負がついたと判断した俺達は、やっちまったなとばかりに小さなため息をつこうとしていたのだが。
「あんがとよ、わざわざそっちから仕掛けてくれてよ」
お腹を刀が貫通しているというのに、涼し気な表情で語り始める鬼蔵。
「ちょこまか動かれっちまうと追いかけるのが面倒だべさ? んなら、とっ捕まえちまったほうが手っ取り早くぶっ倒せるんだべ!」
刀を突き刺していた人型サアラブの腕をがっしりと掴み、頬が裂けんばかりに口角を上げる鬼蔵。
「それによ、おめぇらは馬鹿だっぺか?」
鬼蔵が捕まえていた人型サアラブの頭を、背後に控えていた二体の人型ワシュハシュが殴り飛ばす。
「狙うんなら、腹じゃなくて頭だっぺよ! 奇襲すんなら一撃の内に仕留めんのが常識だっペさ!」
鬼蔵を串刺しにしていた二名の人型サアラブは、頭を消し飛ばされ一瞬で光の粒子になって消えてしまう。
それを監督席から見ていたテットは頭を抱えながら空を仰いでいる。
「かぁ〜、これはまた天晴でござるな!」
なぜか嬉しそうに笑いだすテットだったが、鬼蔵が串刺しにされたことを合図に他の人型ワシュハシュたちも重そうな金棒を軽々と振り上げ、
「強者なら、小賢しい手段はもちいないんだっペ! おんめーら! やっちまうべさぁ!」
人型ワシュハシュ達がその重そうな金棒を振り回すと、周囲の木々が一瞬にして薙ぎ倒され、樹上に身を潜めていた人型サアラブ達は悲鳴を上げながら吹き飛ばされていく。
「ここが視界のわりぃ樹海エリアとかいう場所だってんなら! 視界を悪くしてる木々をふっ飛ばしちまえばいいんだっぺよ!」
ふっ飛ばされた木々の下敷きになり、苦痛の表情を浮かべている人型サアラブ達。 それをなんの躊躇もなく、鬼蔵率いる人型ワシュハシュたちは修羅のような形相で薙ぎ払っていく。
「いいかおめぇら! 情なんかかけたら姉貴にこっぴどくしごきあげられっちまうかんなぁ! それが嫌なら死ぬ気でぶっ潰すべさ!」
「応!」
予想を裏切る圧倒的な展開を前に、会場に集まっていた人型魔獣達はざわつき始めていた。
実況席のれんれんとザインもこの展開は予想していなかったらしく、自分たちの仕事を忘れて観客のように大盛り上がりしている始末。
どうやらワシュハシュ達は、頭の悪さが一周回ってくっそ強くなってしまっているらしい。 もはや一方的な蹂躙撃になっているこの試合を見ていた俺は、自然とメイハオちゃんの目を両手で覆っていた。
「おにーちゃん! なんにも見えないよぅ」
「こんなグロい光景、見てはいけません」
「ふっはっはっはっは! どうじゃ童、妾が仕組んだ鬼蔵達は! なかなか上等であろう?」
自慢げな視線を向けてくるシェンルゥをちらりと伺った後、死にものぐるいで金棒を振り回す鬼蔵達の姿を眺める俺。
思い出すのは……暇だからと興味を惹かれ、数日前に覗いてみた鬼蔵たちの訓練風景。
「あまったれとるでないたわけ共が! 全員腕立て五百回追加じゃ!」
「すんません姉貴!」
「喋っとる暇があったらとっとと動かんか! このたわけ!」
「……っ……っ!」
「返事はどうしたのじゃたわけ共!」
「すんません姉貴!」
「まだ喋れるのであれば余裕であろう! 腕立て追加で千回じゃ!」
その光景は、もはや見ているこっちが吐きそうになるほどにグロテスクなものであった。




