第43話 都市伝説を広めた俺は、デジャブな光景に呆れ返る
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瞬く間に繭居迷宮の祟りという都市伝説は広まった。
ヴァブが潜伏調査中のレルマレブたちへ指示を送り、まずは宝州の住民たちに噂を広めていく。
いい具合に噂が広まったタイミングで捕縛していた紅組を、霧で襲った地点から解き放つ。
テオス達の実力を見るに、この世界ではレベル五十前後で最強と呼ばれる領域の強さになるのだろう、となると事象回帰を使える魔術師は愚か、事象回帰でないと治せない脳の損傷を仙術で治癒させるのは不可能と考えていい。
よって、俺の新兵器で廃人ならぬハイ人になった紅組は、各地で不治の病だと認定される。 俺が作った新兵器の情報は出回っていないため、この病の原因は解明できず。
こうして人々が理解できない事象は、呪いとして世間に広まっていく。
紅組のメンバーをヴァブの塩梅でいい具合に各地に放ったおかげか、宝州で広めていた噂も商人伝いに伝染していき、
「怖いもの知らずのバカどもが、このダンジョンにたくさん訪れるようになったんだが?」
「うう、こんなはずでは……」
デジャブな光景である。
とは言え、華ノ国はこの不治の病を重く見て、このダンジョンを特級危険地域として認定し、ダンジョンの周囲に柵を生成して立入禁止地域に設定してくれた。
華ノ国としても、最強の魔術殺し集団と呼ばれている紅組の六割を失ったのだ。 痛手過ぎてこのダンジョンの危険性を重く見ているのだろう。
とは言え紅組ですら壊滅に近い状況になった以上、対抗する手段がない。
戦力を無駄に削いでしまうくらいなら、立入禁止地域にしてしまうというのは素晴らしい判断だろうと俺は思う。
しかしながら立入禁止と言われると、入ってみたくなる病を発症するのが人間のサガだ。
おかげさまで最近、肝試し感覚で入ってきた馬鹿な冒険者が跡を絶たず、柵を護衛している華ノ国直属の国防精鋭部隊、華組は何をしているのかと疑いたくなっているほどだ。
それに、毎日のように通っているのは肝試し感覚のバカどもだけではない。
「今日こそは君を倒して、次の階層へ向かって見せる!」
「笑笑! 何回来ても同じことネ! お前ら弱すぎてお話にならないアルね!」
スリットが深く入ったチャイナ服をまとい、ハーフツインにした髪束を団子にまとめ、その団子をシニヨンカバーで括っている可愛らしい少女。
常にニコニコしているせいか、表情は花のように明るく、声は耳を不快にしない高音。 見ているだけで元気になるチャイナガールは、第四層を守護するゲマトリア、ザインである。
紅梅色の髪の毛は同系色のチャイナ服とうまくマッチしており、俺的にはゲマトリアのデザインの中でも最高傑作と言わざるを得ない子だ。
しかし、構成式の都合上その戦い方はセコいというか何というか……
「うぐっ! くそ……また、めまいが!」
「大丈夫かテオス! 下がって体勢を整えろ!」
タンクのエラムくんが顔を青ざめさせながらテオスを下がらせようとするが、
「ホォーーーワァトァーー!」
「ゥグッ!」
回転蹴りをモロに喰らい、またしてもふっ飛ばされるエラム。 ザインはテットほどの怪力ではないが、この回転蹴りでエラムくんはお手玉のように飛んでいってしまう。
武器である三節棍をくるくる回して脇の下に収めたザインは、呆れたように頭を抱えながら飛んでいったエラムくんを指差す。
「弱弱! お前も足腰軟弱ネ! みっちり走り込みして出直してくるアルね!」
「ちくしょう、卑怯な手を使いやがって……」
「卑怯? 違違、これは戦術アルね。 お前ら頭悪すぎネ、もっとうまく連携して、こっちの戦い方を研究しないといつまで経っても結果は変わらないネ」
呆れたように肩を竦めてしまうザイン。 悔しそうに顔をしかめているテオスは、すでに限界なのか剣を支えにした状態で膝をついてしまう。
後衛の仲間たちもすでに地面に大の字で倒れ込んでおり、またしてもザインの圧勝。
かれこれこの数ヶ月、武闘派四天王の無双劇を毎日のように見せられており、俺のカウントによるとザインは四勝零敗。
武闘派四天王の中でも特殊な戦い方をするこの子に関しては、テオス達は傷一つ与えられたことがない。
「ち、くしょう!」
そんな事を考えている間に、うつ伏せに倒れ込んでしまうテオス。 こうしてテオス達は、またしても四階層最終間で全滅してしまったのだった。
主人公のくせにクソ雑魚である。
全員意識を失ったところで、ザインはめんどくさそうに手を叩く。
「来来! こいつらもう動けないアルね。 とっととダンジョンの入口まで運んでやるネ」
中国道着を纏っている白髪の獣耳イケメンたちが慌てて駆けつけ、昏睡状態に陥っているテオス達をかついでせっせと最終間から去っていく。
彼らはムルミルという魔物が人型になったもの。 魔獣召喚の構成式で呼び出した白虎型モンスター、ムルミルを倒して部下にしているザインは、毎日のように彼らに稽古をつけている。
そのせいか、ムルミル達白虎小隊は、日に日に強くなっており、毎日のようにダンジョンに突撃してくるテオス達を少しずつだが苦しめ始めている。
それもそのはず、最近知ったことなのだが、このダンジョン内で倒された人型魔獣たち、彼らはテオス達に倒されると光の粒子になって消えてしまうのだが……
なんと、俺が作った召喚陣で、契約者が魔力を消費すれば、光の粒子にされた人型魔獣たちを復活させることができるのだ。
なので、それぞれの人型魔獣部隊を率いる隊長格の面々とは、顔を合わせると挨拶する仲になりつつある。
例えばさっきおやつ持ってきてくれと頼んだこいつ。
「大親分! 今日のおやつはシフォンケーキとか言うよく分かんねぇ掃除道具だべさ!」
「お前さ、これ今から食うのに掃除道具って言いながら渡すなよ。 これはスポンジじゃねーからな? シフォンケーキを汚れにこすりつけても汚れは落ちねーからな?」
「すんません大親分! おいらにはちょっと、このちっせー菓子はスポンジにしか見えなかったんだべさ!」
こいつはシェンルゥ直属の部下。 ハキムワシュハシュが人型になった個体で、名前は鬼蔵。
聞いての通り非常に頭は悪いが、テットには劣るがものすごく怪力だ。 見た目は鎧武者だが俺に勝てないことを実感してからというもの、ペコペコ頭を下げてくるばかりでものすごく及び腰になっている。
「これこれ、そう怒ってやんなさんな童。 コヤツは頭がこったんないんじゃからしかたあるまい」
「そりゃーねーですぜ姉さん!」
シェンルゥにへりくだる鬼蔵を見ていると、反応がなんとなく面白くていじりがいのあるやつだと思ってしまう。
ここ最近は鬼蔵に会う度会う度いじり倒しているのだ。 鬼蔵もかまってやると元気よく反応してくれるし、こいつは割と気に入っている。
「ししょー! 雑魚の掃除が終わったアルね!」
鬼蔵をパシって持ってきてもらったシフォンケーキを堪能していると、ニコニコ嬉しそうな顔で管制室に戻って来るザイン。
「おー、おつかれ。 今日も鮮やかだったな」
「嬉嬉! でもでも、あんなん余裕アルね! こっちに書いてくださったししょーの魔術は、あんな弱者達では対応できないネ!」
意識干渉構成式を得意とするザインは、主に相手の意識を乱れさせる魔術に富んでいる。
簡単に説明すると、戦闘状態に入ったザインに近づくと、近くにいるやつは全員酩酊状態になるのだ。
つまり、なぜチャイナガールにしたかと言うと、酔拳の使い手だからである。 その弊害か、この子はどうしてもお酒が好きなようで……
「驚驚! このお菓子、もしかしてこっちのために用意してくれたアルか?」
「え? ちげーよ? 俺が食べようと……」
「旨旨。 これは意外とリキュールとかを入れて焼くともっと旨くなるネ。 つまり、シロップ代わりにリキュールをこぼせば……」
「ぬあぁぁぁぁぁ! なんでお前リキュールなんか持ち歩いてんだよ! 俺のシフォンケーキがぁぁぁぁぁ!」
ザインは、ヴェートが作った料理にも様々な種類のお酒をぶっかけうまそうに頬張る、見た目に反した重度の呑兵衛なのである。




