第42話 とんでもないものを作り出してしまった俺は、面倒ごとの解決に苦悩する
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ヴァブが事前に通知してくれたおかげで、今回の件は面倒事にならずに済む。
先程までは、そう思っていた。
「ひゃっひゃっしゃっしゃっひゃっ!」
「きひょえぇぇぇぇぇ! 魔術師を殺させろぉぉぉ!」
「キマっちゃってる! キまっちゃってるぜぇぇぇ!」
背後から聞こえてくるこの声に、俺は絶望感を抱いている。
「全然治らぬな」
「さすが隊長! 容赦がないですね!」
「こんなはずじゃあ……」
霧を吸い込んだ連中を慌てて救出したのはいいが、レベルの低い治癒系構成式では元に戻らない。 脳が完全にやられているため、治すのには事象回帰レベルの構成式が必要になる。
だが事象回帰は混合構成式の上に、表記されているページも894ページと乖離砲よりも上だ。
消費魔力量的に全員にはかけられない。 となると我が家……繭居迷宮に持ち帰って、魔力が回復し次第地道に事象回帰を構成するしかないだろう。
こんなやつらに魔水晶使うのはもったいないし。
「ああ、ようやっと帰ってこれた」
頭の痛くなりそうな事実を前に現実逃避していたのだが、いつの間にか帰還できていたようだ。
暴れる紅組総勢三十五名を連れて帰ってきたため、帰りは徒歩になってしまった。 運びやすいように強化性の檻を創造して中に入れ、うるさくてどうしようもない時は空間創造構成式で遮音空間を作り音を遮断。
面積が面積だったせいか、遮音空間も魔力消費が激しかったのだ。 一日の間に連続して使えるのはせいぜい六時間程度だっただろう。
そのため繭居迷宮も近くなったということで遮音空間は解除したのだ。
俺達専用の入口に入るなり、てくてく駆け寄ってくるメイハオちゃん。 走り方と言いムスッとしたほっぺたがとても可愛らしい。
どうやら俺の帰りを今か今かと待っていてくれてたようだ。
不機嫌そうな顔つきだが、俺が帰ってきたと分かった瞬間眉山がほんのり上がった。 ずっと一緒にいるおかげか、表情の変化も分かるようになってきたなあ。
「おかえり、おにいちゃん」
最近ではすっかり俺に懐いてしまっており、ダンジョン内にいる時はずっとベッタリなため逆に困っている。
まあ、このダンジョンの癒やし枠ということで悪い気はしないが、メイハオちゃんを発見したばかりだった頃は、とっととどこかに預けてしまおうと厄介者扱いしていたのが懐かしい。
「ただいまーメイハオちゃん。 いい子にしてたか?」
頭を撫でながらそう応えてやると、メイハオちゃんは視線を上に向け、なにか思い出そうと思考しているのだろうか? 人差し指をちょこんと口元に添える。
「えーっと。 ごはんにする? 一緒に遊ぶ? それとも、メイハオ?」
「誰だメイハオちゃんに変な言葉を教えたバカタレは」
メイハオちゃんの表情を見るに、このアホみたいなセリフを吹き込んだバカタレがいることには間違いない。
真っ先にシェンルゥの顔を見てみるが、いたずらした後はいつもニマニマしているこいつがきょとんとした顔をしているところを見るに、こいつはシロ。
そもそもこいつは生粋の異世界人だからこんなセリフ知らないだろう。 怪しいのは俺の記憶を書き込んでいる連中。
となると容疑者として濃厚なのは……
「旦那様、おかえりなさーい! ご飯できてますよー?」
「こらヴェート。 お前メイハオちゃんに変な言葉教えただろう?」
「あらあらー、なんのことかしらー」
わかりやすい嘘をつきながらせっせと九回層へ繋がっている転移陣へ向かっていくヴェート。
「おいこらヴェート! 対象年齢を考えろ! メイハオちゃんに変な言葉を教えるんじゃねー!」
「あらあらおかしいですね旦那様。 メイハオちゃんは何も変な言葉は言ってないですしー、やましいことは考えていませんよー?」
「なんだおぬしら、子育ての方針で喧嘩する夫婦のようになっておるではないか。 率直に言ってキモいぞ童」
何故か膨れているシェンルゥにツッコむと面倒なことになるため、俺は頭を抱えながらヴェートを追いかけ九階層へと向かっていくのであった。
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食事を食べながら今回のことを報告していく。
俺の報告を聞いてくれたのはもちろん俺が作った魔造人間、ゲマトリア達。
こういった作戦考案を担当するヴァブと、一緒に帰ってきたペペ。 それと俺が平らげた夕食を洗っているヴェートと、手が空いていたテットだ。
「ほほう、きゃっつらが噂の魔術師殺しと言う者たちでござるか」
「隊長の手にかかれば、捕獲するのはお茶の子さいさいでしたね!」
「捕獲だと珍獣みたいな扱いになるからせめて捕縛と言いなさい」
「大変申し訳ありません隊長! そんなことより、早くこやつらの処遇を決めましょう!」
いつものことながら、ペペに急かされ顎を撫でながら唸ってしまう俺。
テットは檻の中の紅組を見てウズウズしながら刀の手入れを始めてしまうし、ペペは案も出さないくせに決断を急がせるし……ヴェートは目を疑うほどの高速移動で洗い物をしてるし……
あいつ、やっぱり時空干渉構成式の使い方間違えてるよな?
「会長、自分に提案があります!」
黒縁メガネをシャキンと上げながらキメ顔を送ってくるヴァブ。 こいつに任せると予想の遥か先を行く……すごすぎるが迷惑な結果になる可能性があるため、念の為どんな提案なのかを聞くことにする。
ありがた迷惑ならぬ、すごすぎ迷惑は勘弁だ。
「提案内容をなるべく簡潔に聞いても?」
「はい、では僭越ながら」
コホンと咳払いを挟み、ワイワイ騒いでいる紅組の檻までゆっくり歩いていくヴァブ。 案に相当な自信があるのだろうか、もったいぶっているらしい。
「ヴァブ殿! もったいぶってないでお早く提案をお聞かせ下さい! さあ、さあ!」
はやる気持ちを抑えられないせっかち代表のペペが、案の定ヴァブを急かし始めたが、慣れているのだろうか彼女は一切動じない。
そうして優雅な足取りで紅組の前にたどり着くと、俺の方へ振り返りながらスマートな仕草でメガネをクイッと上げた。
「名付けて! オペレーター会長の祟り! です!」
「ネーミングセンスで却下だ」
「まあまあ、まずは内容を聞いて下さい会長」
フッと鼻を鳴らしながら紅組を指差すヴァブさん。 ゆっくりと概要を説明しようとしているのだろうが、
「オペレーター隊長の祟り大作戦とはいかに! さあ早く教えて下さいヴァブ殿」
「ぺぺ、間違えてはいけません。 作戦名はオペレーター会長の祟りです。 オペレーターをつけているのに大作戦をつけてしまうと、会長の祟り作戦大作戦になるのでこれは二重表現にあたります」
「さすがヴァブ殿! 賢いです! そんな事はともかく、早く作戦の概要を……」
「魔術大全【第427頁】空間創造構成式:遮音空間」
「なあぁ! ちょっ! 何をするのです隊長! なぜ将官を遮音空間の中に・・・——!—————!」
「有難うございます会長。 うるさいのが静かになったところで、概要を話していきましょう」
「呵呵! ペペ殿は相変わらず愉快な御仁でござるな!」
豪快に笑い出すテットを指差し、ペペがなにか騒いでいるようだが、遮音空間は非常に優秀だ。 心の安寧を保ってくれる優しい魔術である。
「まず、この愚物共は会長が手掛けたダンジョンをあらそうとした大罪人。 この病を治す必要性は皆無かと思われます」
「あ、それは病ではなくてですね……俺が試作した兵器の後遺症というかなんと言うか……」
「しかし、この愚物共を処分し、所在不明にしてしまえば華ノ国はさらなる視察団を送ってくるでしょう」
「これヴァブよ。 妾は殺生は好かんから、処分するのは絶対になしじゃぞ?」
こう見えてシェンルゥさん、元々は麒麟という幻獣であり、殺生を許さない性格上肉を食べない上に、多くの殺生をした者に裁きを与えようとする。
とは言っても、俺が契約してから俺には逆らえないようだし、このダンジョンで生活するようになってからというもの、俺の身の回りでは死人が出ていないため、シェンルゥはずっと温厚……とは口が裂けても言えないな。
「おい童。 思うことがあるのなら言うてみい?」
と、どうでもいいことを考えていたら表情から考えていることを読まれたらしい。
それはともかく、ヴァブの計画に耳を傾けよう。
「そこで自分は考えました。 新たなダンジョンを捜査しようとしている華ノ国が、どうすればこのダンジョンの捜査を打ち切るか!」
言葉にどんどん力が入っていく。 そろそろ結論に迫るのだろう。
だが、愉快そうな顔でヴァブの次の言葉を待っていたテットは、ちらりと紅組の様子を見てああと一言漏らし、納得したように相槌を打っていた。
「つまりヴァブ殿、きゃっつらを使ってこのダンジョンを立ち入り禁止区域にしようと考えているのでござるな?」
テットは意外と頭が回るし勘がいい。 ……だが空気はあまり読めない。
「大方、祟りと称してきゃっつらを各地に散らばらせ、このダンジョンに関わろうとした人間がこうなることを世間に知らしめようとしてるのでござろう?」
どうやらオチに限りなく近いことを言ってしまったのだろう。 ヴァブは鬼のような形相でテットを睨みつけていた。
おまえら喧嘩するなよ? と祈るばかりである。




