第41話 華ノ国からの調査団を対応しに言った俺は、とんでもないものを作ってしまう
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宝州から東北方向へ数キロ向かった地点、竹林を切り裂くように伸びる一本道。 そこには真紅の鎧を身にまとった武装集団が数十名徒党を組んでいた。
「新ダンジョンの捜査か、早く終わるといいな」
「聞くところによれば、隣の魔術国から追放された賞金首が巣食ってるらしいぜ?」
「魔術師ごときが華ノ国の大地に巣食ってるだと? これは、黙って放置するわけにはいかねーな」
華ノ国本都【紅華京】から出陣した精鋭隊、紅組がダンジョン調査に乗り出したのだ。
小さな村が合併し、いつの間にか最新鋭の技術を生み出し瞬く間に商業都市へと上り詰めた宝州という街の近くに、ダンジョンの発見情報があったらしい。
ダンジョンの名は【極悪貴族ティメル・シャプールの魔獣実験場】
渡された資料を眺めながら、紅組の精鋭仙術師達は顔をしかめていた。
「随分物騒な名前じゃないか」
「なんでも、ダンジョン内には人の姿に変貌した魔獣達がのさばっているらしい」
「あんだと?」
資料を見ていた一人の仙術師は、驚き目をまんまるにする。
「ダンジョン攻略に失敗した人間を捕縛して、人体実験でもしてるんだろう」
「魔術師共は、つくづく野蛮なやつしかいねーな」
ダンジョン調査に乗り出すため、遠路はるばる国の端まで出陣している紅組のメンバーは、移動中退屈だったせいか行く先々で集めた情報を飛躍させ、噂話に花を咲かせているらしい。
「ま、どちらにせよ相手はたかだか魔術師だ。 俺達の敵じゃあねぇ!」
「そうだな。 魔術師は短期速攻型がほとんどだ。 俺達は長期耐久型の仙術師で固めてる。 大した脅威にはならねーだろう」
仙術師と魔術師は非常に仲が悪く、その発端となった三千年前の事件以降、現代まで華ノ国とジュムフーリヤ帝国は小規模な戦争を何度も繰り広げている。
その中で、魔術師の弱点を研究し尽くした紅組のメンバーは、いうなれば魔術師殺しと評価しても相違ないだろう。
彼らの実力は国内でも最先端。 紅組は華ノ国最強の魔術師殺しと呼ばれているのだ。
そんな魔術師殺しのエキスパートたちが、新たに発見されたと報告があった地点へと向かっているさなか……
「ん? なんだ?」
宝州の街まであと半日と言ったところで、突然霧が発生する。
その霧を見た途端、先頭を歩いていた紅組の斥候は大声で注意喚起を促す。
「総員戦闘態勢! この霧、ただの霧ではないぞ!」
斥候の声を聞いた紅組のメンバーたちは、慌てて各々が得意とする武器を構えた。
「これは、魔術により発生した霧だ!」
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双眼鏡を覗いていた俺は、得意げに鼻を鳴らしながら視線を外し、隣に控えていたペペに双眼鏡を渡す。
「はっ、何が最強の魔術師殺し集団だよ。 ちょちょいのちょいだぜ」
「さすがは隊長! 今回も鮮やかでしたね!」
ビシッと敬礼を向けてくるペペに、やめろやめろと手をパタパタさせる。
そんな俺達の後ろで眉をしかめていたシェンルゥは、俺が先程完成させた最強の兵器を指さしながら冷や汗をかいていた。
「のう、童。 こりゃー一体何なのじゃ?」
シェンルゥが指さしたのは、俺のそばに置いてあった巨大なバケツ。 その中にはたんまりと水が入っており、シェンルゥは危険物を見るような視線をその水に送っている。
「これは俺が考案した最強兵器、最高にハイになっちまう水……略して廃水だ!」
「いいや、名前を聞きたいんじゃのうてな?」
「さすが隊長! 素晴らしいネーミングです!」
このバケツに満たしている水は特殊仕様になっており、絶対に飲んでもいけないし触れてもいけない。 触れた瞬間ハイになって脳みそが廃になるからだ。
「物質創造構成式で生成した水に、各種意識干渉構成式やら記憶干渉構成式を付与した特別性の水だからな。 あいつらが霧を発見した瞬間逃げなかったのが運の尽き」
この廃水には意識干渉構成式の酩酊、認識齟齬、痛覚刺激の他、記憶干渉構成式の知能退化や記憶消去などを付与している。
このようにして作成した状態異常を大量に含んだ水を、空間創造構成式の宙繋という魔術であの地点に送っているのだ。
ここで一工夫必要なのだが。 この宙繋の構成式、通常なら座布団一枚分の大きさにしか拡大できない。
なのでバケツの水をそのまま宙繋に入れてしまうと、ただの水鉄砲になってしまう。
これは当てるだけでも各種状態異常を引き起こす水なのだが、効率よく蔓延させるにはミスト状にしてじわじわ放出し、敵陣を包みこんでしまった方がいい。
そこで俺は、昨日の内にアイツラを襲う地点を数か所決め、あらかじめ仕掛けを作っておいたのだ。
宙繋の魔術は窓の範囲が大きければ大きいほど魔力を消費するため、あえてゴマ粒より小さいサイズで大量に発動。 発動した窓の先をバケツの底に繋いでおけば、俺の操作一つで一気にミストを発射できる。
この作戦の難点は、俺達も近づけないことだ。 だって作った本人の頭がハイになって、そのまま廃人になってしまったら笑い草だからな!
とまあそんな事を簡潔に説明し、ドヤ顔を送ってやることにしたのだが……
「いやいやいやいや、そもそもこれ水じゃぞ? おぬし水に魔術を付与しおったのか? どうやってカスディム文字を書いたというのじゃ? おぬし当然のような顔して文字を書けぬ物体に魔術を付与しておるのか?」
「何言ってるんだシェンルゥ。 カスディム文字は魔力を余計に消費すれば空中に構成できるだろ」
「空中に構成する場合はなぞるよりも難解になる上に、魔力消費が倍近いのじゃが?」
「倍近くても書けないことはないんだから、文字がかけない物質に付与するのも理論上可能だろう?」
「さすが隊長! 賢いです!」
さっきからさすが隊長botと化しているペペはさておき……
滝のように汗を流しているシェンルゥを不思議に思いながらも、今回使った液体への魔術付与に関しての解説をしてあげる俺。
まあ簡単に説明するならあれだ。 水性ペンでオブラートに文字を書けば、水に文字を浮かせることもできるだろう。
小さい頃科学の実験でやった。 あんな感じにイメージしてちょちょいっとやってみたらできたから、試運転代わりに紅組とか名乗って調子に乗っている仙術師達に使ってみたのだ。
効果はてきめん! これは早速実用に移しても良さそうだ!
「わ、妾がおかしいのかのう? これ……っえ? あやつら少々ヤバいのではないか? おおお、おぬし、なんちゅー危険なもん産み出しとるんじゃ?」
双眼鏡を覗き込みながら顔を青ざめさせるシェンルゥ。
俺も領域鑑定を発動させて紅組の様子を見てみる。 霧のせいで双眼鏡では目視しづらいため、魔力はもったいないがこちらのほうが詳細に情報がわかるのだ。
「ほうほう、全員無事に錯乱状態になってやがるぜ」
大口を開けながら近くの味方に仙術らしきものを使ってるシルエットが大量に見えた。 他にも肩を激しく揺らしながら殴り合っている仙術師達や、頭を掻きむしりながら空を見上げているやつもいる。
いかんせん音が聞こえないので何がどうなっているのかはいまいちよく分からない。
試しに空間創造構成式:宙繋の接続先をバケツの底から移動させ、俺等の近くに空間の窓を作ってみる。 この窓を通して霧の中で発生している声が聞こえてくるのだ。
もちろん霧が窓から出てこないよう、窓周辺の空間を隔離しながら。
本来なら小型のアイテムとか日光の入らない地下に日光を送るための魔術だが、応用すれば盗み聞きもできるのだ。
難点は発動範囲が狭いことと、生き物が通ったら固く搾ったボロ雑巾のように全身が捻れて爆散するということくらい。
俺が息をするように創り出した空間窓を見て驚くペペとシェンルゥだったが……
「ヒャッハーーー! くたばれクソ魔術師ども! テメーら皆んな血祭りだぁぁぁ」
「アヒャヒャヒャヒャヒャ! ヨワイ、ヨワイぞ蛮族どもぉぉぉ!」
「今の俺、最高にキマってるぜぇぇぇ!」
慌てて窓を閉じ、苦笑いしながら後頭部を掻く俺。
「うーんと、とりあえずこの水は作りすぎたので廃棄します。 それと、この術は今後の使用は控えるということで……」
想像以上にヤバい絵面を作ってしまった俺は、慌てて霧を浄化しに向かうのであった。




