第40話 一件落着した俺は、また新たな面倒事に嘆く
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泣き疲れたのか、ぐっすり眠ってしまったメイハオちゃんを九階層まで運ぶ。 メイハオちゃん用に掘った部屋はヴェートの部屋の隣に作っているため、転移陣から移動しようと歩き出したのだが……
「まったく、これじゃあ余計に他の村に預けづらくなっちまうじゃないか」
可愛らしい寝顔を見ていて、罪悪感にかられてしまう。
あの後メイハオちゃんは何度も何度も俺に謝ってきたため、謝る相手は俺じゃないと伝えて、明日になったら二人で皆んなのお見舞いに行こうと約束したのだ。
もちろん、俺も無茶させたゲマトリア達に謝るつもりだ。
だから一緒に謝ろうぜと言ったところ、安心したのかこの通りぐっすりである。
「まったく、とんでもない小娘であったな」
「おい大丈夫なのかよシェンルゥ! 早く戻って寝てないと……」
戦いが終わったのを確認したシェンルゥは、おぼつかない足取りのまま俺の元へと歩み寄ってくる。
「童が妾を心配するなど……気色悪いからやめよ」
「あれ、もしかして照れてる? なんだよシェンルゥ、お前可愛い所あるんだなぁ?」
「やかましいわたわけ!」
まだ顔色が悪いせいか、赤くなった頬がすごく目立ってしまっていた。
「それよりも、おぬしよくあの局面で仙法を封じる大魔術など成功させおったな?」
「あああれか、あれはちょっとズルしたからな」
モジモジしながらも話を変えようとしてきたシェンルゥに応え、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「重症だったテットとユーティの体内時間を起床時まで巻き戻すために、魔水晶をそれぞれ拳一個分使ったからな」
「ああ、魔水晶を使っておったのか。 どうりで……」
逆再生は一人につき拳一個分、強制停止に関してはボーリング玉大の魔水晶を使ってしまった。
なにぶんはじめて構成する魔術だった上に、ぶっつけ本番で構成したものだったから魔力消費が激しすぎた。 なのでずるいとは思ったが魔水晶を使って足りない分の魔力はちょろまかしたわけだ。
まぁ、やろうとしていた魔術の構成規模的にも、魔力の消費量は乖離砲の比にならないレベルだったのだから仕方がない。
「俺はせいぜい固有魔術すら持ってない普通の魔術師だからな。 あの程度でも魔水晶を使わないとどうしようもできなかったわけ」
「謙遜なのか、皮肉なのか……おぬし自分がどれほど規格外なことをしておるのか自覚しておらぬな?」
細目を向けてくるシェンルゥに、首を傾げながら応対すると、
「固有魔術とは本来そのものにしか扱えない魔術じゃぞ? つまり魔術大全に記載されていない魔術はほとんどオリジナル。 言い換えるなら固有魔術ということになる」
それはそうだと頷く俺を見て、シェンルゥは頭を抱え始めてしまう。
「つまりのう、おぬしが先程構成した二つの魔術。 あれはれっきとした固有魔術だと言うておるのだ」
なるほど……なるほど?
「なんじゃその素っ頓狂な顔は。 胸を張らんかたわけ!」
「あ、いや。 別にそんなつもりだったわけじゃ……あれはたまたまで、必死で考えたらできたと言うか、なんと言うか……」
いつも文句しか言ってこないシェンルゥがまさかのべた褒め? これは予想していなかったため返答に困ってしまい、思わずあたふたと視線を迷子にしてしまう。
「おお? どうしたのじゃ童? もしかして、照れちゃったのかえ?」
そんな俺の顔を覗き込んでくるシェンルゥ。 こんの野郎!
「お前! ただからかっただけだろ! なんなんだよちくしょう!」
本気で嬉しいと感じてしまった自分が恥ずかしい。 ムッとしながらせっせとメイハオちゃんを部屋へと運ぶ俺の後ろに、いつものようにつきまとってくるシェンルゥ。
結局俺とシェンルゥは口喧嘩ばかりしているかも知れないが、まあ喧嘩できると言うことは遠慮せず一緒にすごせるということ。
こいつが俺の理想としている最高の相棒なのかも知れないな、とか。
とてもではないが口にはできないことを思ってしまい、さらに悔しい気持ちになってしまうのだった。
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メイハオちゃん暴走事件から数日が経った。 今では全員怪我も治ったし、すっかり以前のように仲良く共同生活を送れている。
変わったことがあると言えば……
「あらあら、今日もメイハオちゃんと旦那様は仲良しですね〜?」
「……む」
昼飯を食べに九階層に降りてきた俺達。 いつもの定位置に腰掛けている俺の膝の上には、我が物顔でのさばるメイハオちゃん。
ここはメイハオの席! と言わんばかりのふんぞり返りっぷりである。
以前はうざいとかあっち言ってとか言ってたくせに、清々しいほどの手のひら返しだ。
「それにしてもあやつら、ほんとうに懲りぬやつらじゃのう」
「いい加減諦めて欲しいもんだよ」
テオス達はあれから何度もこのダンジョンに挑戦しているが、今だに武闘派四天王に手も足も出ていない。 特にフェイトと当たった時は大変だった。
さっきもユーティにボコボコにされていて、俺達はその光景を五階層の管制室からモニタリングしていたのだ。
「妾も今度、武闘派四天王と手合わせしてみようかのう?」
「最近食っちゃ寝してるからな、その腹に乗っている贅肉を落とすにはちょうどいいんじゃねーか」
「残念であったな童、妾の体重はずっと変わっておらん」
なぜかドヤっているシェンルゥに溜息を零しながら、メイハオちゃんのせいで食べづらい昼食を堪能する。
すると、紙束を持って食堂にやってくるヴァブが横目に映った。
「あの、会長。 面倒なことが起きているのですが……」
ヴァブがあの顔をするということは、相当面倒なことなのだろう。 この前それを身を持って味わった俺である。
「先ほど宝州に潜伏させている妖精小隊の情報収集班から連絡があり……とりあえず、この新聞をご覧下さい」
俺の魔力を込めた魔造人間は宝州に潜伏させられないため、このダンジョンに入る人型魔獣の中で最も知能が高いレルマレブ達を宝州に潜伏させている。
その妖精小隊が送ってきた新聞をテーブルに広げたヴァブに促され、俺達は一つの記事に視線を集中させた。
「は?」
「なんじゃこれは? 新都市宝州の東南地点にて、新たなダンジョン発見」
「……なんて読むの?」
「これはのう小娘。 【ごくあくきぞくティメル・シャプールの|まじゅうじっけんじょう《魔獣実験場》】と書いてあるのじゃ」
「まじゅーじっけんじょー?」
「ネーミングセンス皆無じゃねえか」
そう言えば、俺はこの廃ダンジョンに住むようになってからずっと、この場所を廃ダンジョンとしか呼んでいなかった。
「この記事のせいでこのダンジョンが華ノ国に正式に認められてしまったようで、じきに調査隊が送られるらしいのです。 調査隊が来るとなると会長の魔力が探知され、恐らく華ノ国はジュムフーリヤ帝国の陰謀なのではないかと疑い始めるかと……」
「そんなことよりもヴァブ。 まずはこのネーミングセンス皆無なダンジョン名からどうにかしよう」
俺は、真剣な顔でヴァブを直視する。
「え? 名前などは今はどうでも良い気が……」
「いやいやいやいや、ダメだろ! 俺の自慢のダンジョンが、ダサい名前にされるだなんて我慢ならん!」
「論点が明後日の方向へ変わっておるのじゃが……」
「いやしかし、このままでは最悪の場合華ノ国とジュムフーリヤ帝国の戦争が勃発する可能性が……」
「調査隊なんて後で俺がチョチョイとだまくらかして来るから! とりあえずこの場所の名前を決めるぞ!」
こうして俺は、その日一日頭を捻らせながら必死に名前をを考えることにした。
思考は床につくまで続いてしまい、結局安直なネーミングをするに落ち着いたわけだが……
我ながら、このダンジョンに引きこもってからというもの、これまでずっとうまく行かなかったこの世界での人生が一転し、今では控えめに言っても幸せだと表現していいほどの満足感を得ている。
引きこもりと言えば現実世界ではけなされる表現だったかも知れないが、今となってはそうは思わない。
幸せになるために抗う覚悟があるのなら、努力する場所はどこでもいいのだということを身を以て実感した。
大事なのは志だ。 俺はすでに人間と仲良くしてバットエンドの未来を回避することを諦め、放置し、ただただ幸せになるために生きようと努力をした。
はじめて、決められた道筋ではなく、自分自身のために努力をしたのだ。 今までは努力の方向性を間違えていただけだったのだろう。
おかげで今の俺は、心許せる仲間に囲まれさみしい思いをせず楽しく過ごせている。 だから俺にとって、引きこもりという表現はネガティブな単語ではない。
だからこそあえて、華ノ国のネーミング方式に習い、このダンジョンの名前はこれにする。
「今日からこのダンジョンの名前は、〝繭居迷宮〟だ!」
繭居族というスラングがあると聞いたことがある。 これは引きこもりを意味するスラングらしい、ちなみに転生前ネットで見かけたことがあるだけのあやふやな知識。
それでも、やはりこのダンジョンの名前としては最適だろうと納得し、床についていた俺の意識は微睡みに溶けて行くのであった。




