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バッドエンド回避に失敗した悪役貴族の俺、自作ダンジョンに引きこもる  作者: 【星願大聖】永福
始めようダンジョンDIY

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39/88

第39話 とある法則性に気がついた俺の、新たな自作チャレンジ

 ❖

 メイハオが形成した巨大な針山が、木っ端微塵に砕け散る。

 

 目を見開くメイハオ。

 

 しかしすぐさま自らの首筋に記されている極寒法陣に指をかざし、

 

「極寒法印【封激滅討術】絶対氷棘!」

 

「無駄だぜ。 それは後三分間一切使えない」

 

 手のひらを返しながら告げてくるティメルを睨み、メイハオは顔を真赤に怒らせる。

 

「極寒法印【気温操作術】吹雪烈風っ!」

 

「アホ。 お前はもう、仙法自体が使えねーって言ってんだよ」

 

 目を見開き、ふるふると肩を揺らしながらティメルを睨み、思い通りにならない理不尽に八つ当たりするように、必死に地団駄を踏むメイハオ。

 

「ずるしないで! ずるっ子! ずるっ子!」

 

「喚いてもしかたねーだろ。 条件は俺も一緒なんだ」

 

 ゆっくりと歩み寄ってくるティメルを、歯を軋らせながら睨み。 駄々っ子のように手足をばたつかせるメイハオ。

 

「うるさいうるさい! うるっさーい!」

 

 喚こうと、叫ぼうと、メイハオの仙法は一切発動しない。 この数時間、必死に魔術を構成し続けていたティメルは、カスディム文字に秘められた意味や構成式の一貫性に気がついてしまったのだから。

 

「自己流魔術実験帳【その弐】概念干渉魔術:強制停止《シャットダウン》」

 

 完成させてしまったのだ、自作の魔術を。 あえて言うのなら、魔術のDIYを成功させてしまった。

 

 魔術は主に、五節の構成式によって成り立っている。

 

 一節目は対象の指定、二節目が効能の記載、三節目が効果時間の指定、四節目は使用魔力量の指定、五節目が結論または複合。

 

 五節でひとまとまりになった構成式を幾重にも重ねることでよりレベルの高い魔術を構成しており、単純な魔術はたった五節で成り立つ。

 

 この事実とカスディム文字が意味する現象をかんがみれば、理論上構成式を自作することすら可能になる。

 

「俺がたった今思いついた構成式は、指定した領域内に存在する魔力や仙力、霊力による特殊な力を完全に無効化するというもの」

 

 この構成式を思いついたのはついさっきだった。 事象回帰の構成式を何度も土壁に板書している内に、時間を巻き戻すという意味の構成式や、事象をなかったことにするという複雑な構成式の仕組みを理解することができていた。

 

 事象回帰の流れは主に三段階。

 

 まずは戻したい事象の指定。 そしてその事象をなかったことにして、最後に指定範囲の時間を巻き戻す。

 

「さっきテットとユーティがいなくなったのは、あいつらに起きた事象を無かったことにしたからだ。 今頃自分の担当階層に作ってやった自室で、困惑してるだろうぜ」

 

 自己流魔術実験帳【その壱】逆再生《リバース》

 

 二人の体内でだけ時間を巻き戻し、起床時間に過ごしていた場所へと帰還している。 つまり今二人がいるのは自室のベット。

 

 さらにこの戦いの中で受けた傷はすべて完治しており、記憶だけが残った状態で擬似タイムスリップしているのだ。

 

「そしてさっき使った自己流魔術は、指定空間内の特殊な力を強制停止《シャットダウン》させる魔術だ」

 

 特殊な力。 つまり魔力や仙力、霊力を使用することで可能にする奇跡。

 

 強制停止は、これらによる力を使えないものとする魔術。

 

「皮肉なもんだな。 触れた対象の力を無効化するお前の封激滅討術と、指定領域内の奇跡を無効化する俺の自己流魔術。 効果が適応されたのは指定範囲が広かった俺の方。 つまりお前の仙法は、〝たかが〟魔術によって打ち消されたんだぜ?」

 

 大人気なく勝ち誇ったような笑みを浮かべたティメルを睨み、プルプル震えながら涙を蓄えてしまうメイハオ。

 

 ダンジョンに引きこもってからも魔術を使用して生活を便利にしようと試行錯誤してきた経験が、バットエンド回避するために学んできたあらゆる魔術使用の経験が、そしてこの戦いの中で挑戦した、高レベル魔術の付与に集中して取り組んできた実績が。

 

 すべてがティメルの知識力を押し上げ、魔術の新たな可能性を導き出すことに直結した。

 

 絶対に勝てないと思っていたはずの仙人を、完全に無力化するという奇跡のような魔術を、自らの知恵の結晶が創り出したのだ。

 

「どうだよ。 たかが魔術に、ご自慢の仙法が完全無効化された気分は」

 

 メイハオの前に堂々と立ちふさがるティメル。 仙法を封じられてしまったメイハオは、もはや体術でしか対抗するすべを持たない。

 

「うぅ〜〜〜! 嫌い嫌いっ! 大っ嫌いっ!」

 

 癇癪を起こした子どものように、唸りながら必死にポコポコとティメルの胸を叩くが、体格的にも精神的にも大人なティメルには、一切通じない。

 

 ティメルは暴れるメイハオの頭を鷲掴みし、怒りを込めた形相で至近距離から睨めつける。

 

「いいかクソガキ。 この世の何もかもが自分の思い通りになるとか甘ったれたこと考えてんじゃねぇ」

 

 自らが経験してきた不条理を、目の前で喚き散らす子供に教え込むように、静かな怒りを込めた声で紡いでいく。

 

「どんなに圧倒的な力があろうと、どうにもならねー事はあるんだよ。 何もうまく行かないからって言って、何もかもぶっ壊して解決しようだなんて考えてる限り。 一生幸せなんて来やしねーんだ」

 

 必死にバットエンドに抗い続けたにも関わらず、誰にも信用されず誰にも協力してもらえず。 挙句の果てには罪人扱いされ追放されたティメルは、怒りに任せて国を潰そうと考えるのではなく、誰にも迷惑をかけない廃ダンジョンの底でひっそり生活することを選んだ。

 

 考え方を変えればこれは、現実逃避と捉えてしまってもいいかも知れない。 だがそれでも、ティメルはただ腐って復讐を考えるのではなく……

 

「俺は、ダンジョンに潜ってからの数カ月間で、今の状況でどうすれば幸せになれるのかを必死に考えてたんだ!」

 

 ただ怒りをぶつける怒号ではなく。 それは子供に現実を知ってもらうための指導的怒号。

 

 シェンルゥと喧嘩しながらも楽しそうに過ごしてきた毎日と、それを支えるために自分で作成した次世代型イマジナリーフレンド、通称魔造人間ゲマトリア達。

 

 多くの人間に否定され続け、蔑まれ続けたティメルの悲しき人生を、楽しいものに変えてくれた仲間たち。

 

 この廃ダンジョンを間借りして、一から自分の幸せを創り続けていたティメルの、ポジティブ的思考の引きこもり生活。

 

 これは虚しき引きこもりの理想にして桃源郷。 ティメル自らが導き出した究極の答え。

 

 実体験を元にしたティメルの言葉は、喚き散らしていたメイハオを自然と黙らせ、聞き耳を立たせていた。

 

 叱りつけられ怯える子どものように黙りこくってしまったメイハオに、ティメルはなおも感情を乗せた言葉で説法していく。

 

「ずっと会いたかった家族に忘れられたから、ショックで全部氷像にして八つ当たり? ふざけんじゃねーぞクソガキ! 忘れられてたのがショックだったなら、なんで忘れてんのか理由を考えろ! 忘れられてた理由を調べて、それを解決する手段を探せ! それでもうまく行かねーなら……」

 

 鷲掴みしていた頭を優しく開放し、ほうと一息ついたティメルは、柄にもなく優しげな笑みを浮かべてメイハオと正対していた。

 

「俺も一緒に解決方法考えてやっから。 とりあえず落ち着けよ」

 

 優しい声音を聞き、メイハオは目を見開いたまま大粒の涙をこぼし始める。

 

 三千年間ずっと一人で眠り続け、そうして三千年ぶりに再開した大好きな家族に存在を忘れられていて、世界から自分の存在を否定されたように錯覚してしまった一人の幼女は。

 

 ティメルの優しげな言葉を聞き、新たな感情を抱いてしまう。

 

「おにい……ちゃん」

 

「……ん?」

 

 聞き間違いかと思ったティメルは、間抜けな声を上げながら首を傾げる。 しかし、どうやら聞き間違いではなかったようだ。

 

「お兄ちゃん……うぅ、お兄ちゃん……ふぇ〜〜〜ん!」

 

「ふごっ!」

 

 ティメルの胸にタックルしてきたメイハオのせいで、幼女好きの豚のように奇声を上げてしまうティメルだが……

 

 わざわざ言うまでもないがティメルは幼女好きではない。 自らの理想を追求して作成していったゲマトリアのデザインを見れば一目瞭然である。

 

 しかし転生前はオタクとして生きてきたティメルにとって、この絵柄は誰かに見られたら勘違いされるのではないかと錯覚してしまったようで……

 

「チガウ、チガウ、ソウジャナイ」

 

「お兄ちゃん! ごめんなさい! メイハオ、いい子にするから!」

 

 胸へのタックルを決めた後、首の後ろに腕を回してコアラのようにぶら下がってしまうメイハオ相手に、ティメルは死んだ魚のような目でチガウ、チガウ、と言い続けたのだった。

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