第4話 住処を見つけた俺は、快適な暮らしを送りたい
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廃ダンジョンを住処にすると決心し、早速とばかりに内部を探索する。
「分かれ道があったとしてもすぐ突き当たる。 こんなの一本道と変わらんだろう」
ダンジョンの作りは非常に単純で、真っすぐ歩いていくと次の階層にたどり着く。 時たま分かれ道もあるが、数メーター進むと行き止まりになって、大量にきのこが採取できるポイントがあるだけなので、戻って選ばなかった道に行けばすむだけの話。
「初心者でも余裕で攻略できそうなダンジョン、廃ダンジョンになって当然だよな」
ものの数分で最奥部にたどり着いてしまった。 最奥部には地底湖があり、少し開けた空間になっている。
「最奥部に地底湖があったのは行幸だ。 早速水質調査だな」
俺は魔術大全を開き、地底湖の水が安全かどうかを調べるために魔術を構成する。
「魔術大全【第210頁】概念干渉構成式・鑑定」
鑑定の術式はあらゆる物事を鑑定するという、普通のゲームなら序盤で習得可能なスキルや魔法だろう。
だがこのゲームの制作陣は、情報という武器がどれほど強力なものかを理解していたらしい。 それ故鑑定という魔術は二百ページ台、プレイヤーレベルで言うところの四十〜五十レベル相当になるまで習得できない魔術になっていた。
初めはこの習得レベルに賛否両論あったが、鑑定に関しては魔道具がありそれを使用すれば敵の情報を鑑定できたため、割と低いレベルで鑑定の魔術を疑似使用することができた。
とは言ってもこのゲームの制作陣はバカではない、鑑定の魔道具は使い捨て仕様になっており、一度鑑定の魔術を行使すれば破壊される仕様になっていたのだ。
結局、物語中盤でこの魔術を覚えたプレイヤーたちは、魔力もたいして使わないし、相手の情報がわかるこの魔術を使い込むようになっており、すぐこの魔術を構成できるよう多くのプレイヤーがこのページに栞を挟んでいた。
そんな鑑定くんのせいで対人戦に熱中する猛者達は、認識阻害という小技を発見し、更にそれに対抗するために、第508頁の混合構成式:看破という魔術が発見されたわけなのだが、これはまた別の話である。
「まったく、マジシャンズ・フロンティアと言うゲームはつくづく神ゲーだぜ!」
独り言をつぶやきながら水質を鑑定する。 どうやら毒などで汚染もされていないし、腐ってもかびてもいないようだ。
これなら現象創造構成式の浄化を使用すれば普通に飲めるだろう。 むしろコスパがいい創炎の構成式で煮沸もありだ。
「飲水は確保だな、あとの問題は食料だが……」
俺は魔術大全を見下ろし、栞を挟んでいた場所を開く。
この栞は、よく使う魔術のページをすぐに開けるようにできる便利機能の一つで、色分けしたりメモを記入したりしてどのページになんの魔術があるのかを分かりやすくするものである。
いつも通り栞を引っ張りページを開き、目的の魔術を行使する。
「魔術大全【第403頁】空間創造構成式:異空間収納」
しれっと第四段階の空間創造構成式を使えるあたり、俺がどんなに頑張って魔術を極めてきたのかを分かってくれるだろう。
この魔術はいわゆるあれだ、アイテムポケット。
異空間を創り出して際限なくアイテムを収納できるというぶっ飛び魔術でもあるが、中に収納できるのはプレーヤーが使用可能なアイテムだけ。
現実世界になったこの世界ではこの魔術を応用できるのではないかと思い、モンスターの血液だけをこの収納に入れようとしたり、廃村にあった一軒家を丸ごと一個収納しようとしたが不可能だった。
どうやらこういった点はゲームだった頃と変わらないらしい。
「うむ、ギリギリ用意できた非常食が一ヶ月分、あとはきのこと石ころが大量だな」
この廃ダンジョンを探索する道すがら、役に立つかも知れないから念の為石ころもきのこも採取しておいた。 俺は貧乏性なのだ。
国外追放を覚悟した瞬間からレーションを買い込み、一ヶ月分は用意することができたが、準備し始める時間が遅すぎて用意できたのはレーションと簡易テントだけだった。
「ひとまず、この地底湖を拠点にしてダンジョン内を開拓していくか」
今後の方針をざっと決めた俺は、せっせと拠点設営の準備に取り掛かった。
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地底湖のそばに簡易テントを張り、物質創造構成式で作った鉄を、同じく物質創造構成式の変形で形を変える。 ちなみに、鉄とは暗殺者達が使用していた鉄杭のことである。
鉄杭を数十本出しその鉄杭の形を変えれば、鉄製の鍋が完成する。 その中に地底湖の水を入れ、現象創造構成式:創炎で炎を生み出せば、煮沸消毒すらも可能にできるわけだ。
「浄化の魔法より創炎の魔法のほうがコスパいいし、なんか火を起こしたほうがキャンプ感があってテンション上がるからな」
グツグツ煮えたぎった水の中に、手持ちの携帯調味料から取り出した塩で洗ったきのこを大量に投入。 キノコ鍋の完成である。
今後のことを考え味付けは塩のみ。 貴族として生きてきた俺にとって、塩味だけのきのこスープは何分舌に合わなかったが、生きるためには食わねばならんのだ。
雑な昼食を済ませた俺は、拠点の周りに掘りを作ることにした。
廃ダンジョンのため魔物は出ないかもしれないが、それでもなんだか開けた空間にぽつんとテントを立てていると、落ち着かない。
力学干渉構成式:採掘で堀りを作ったら、今度は物質創造構成式:土壁で壁を生成。
魔術修行を四年間続けていたおかげか、二百ページ以下の魔術ならほとんど魔力残量を気にせず使用できる。
魔力は常に自然回復してくれるため、魔力使用量と自然回復量がうまい具合に釣り合っているようだ。 自然回復する割合は最大魔力の秒間2%だから、十秒待てば一つの魔術を行使できる。
二百ページ以内の魔術は、コスパ最強である。
鼻歌交じりに穴を掘って、壁を作って、テントの周りに土壁の柵を作ることに成功した。
これで安心して眠ったり今後の方針を考えることができるだろう。
「まずは自給自足から始めないとな」
異空間収納内に山積みになっていたきのこを思い出し、苦笑いを浮かべてしまう。
「とは言っても、この廃ダンジョンの土は作物を育てるのに適しているのか? そもそも俺、植物の種なんか持ってないしな」
このゲームにはハウジング機能もあったため、植物を育てる機能自体は備わっている。
だが、植物を育てるには何分土の相性というものが合ったため、この洞窟内の土がどの形式の土かによって育てられる植物が限られてくるのだ。
「ひとまず土の鑑定だな……粘土か、クソッタレじゃねえか」
粘土の土は陶器などの調度品を作成するのに使う土だが、作物の育成には向いていない。
「こうなったら、この廃ダンジョンの周辺で良さげな土を見つけ出し、あとは作物がありそうな場所を探索して種を手に入れないとな」
この廃ダンジョンに引きこもるとは決めたが、なにも外に絶対出てはいけないわけではない。
「そうと決まればこの拠点と外への行き来を楽にするために、転移魔術の構成式を地面に書くか」
俺は魔術大全の872ページを開き、そのページに記されているカスディム文字を見ながらガリガリ地面に文字を形成していく。
「何だこの地道な作業は……」
ひたすらに文字を書き続けること数時間。 ようやく拠点の真横に魔術陣を形成することに成功した。
カスディム文字さえ介せば魔術は使える。 わざわざ地面に魔術陣を書いたのは、この溝に魔術を注げば自動的にカスディム文字の構成が可能になるからである。
これはゲームではできなかった、この世界ならではの小技だ。
「よっしゃ! あとは地面に書き込んだこの文字に、物質創造構成式で作成した水銀を垂らして、記憶干渉構成式でこの魔術陣を複写させれば!」
一人でぶつくさ言いながら転送陣の作成に取り掛かる。 こうして、一つ目の転送陣を完成させることに成功した。
「よっしゃ完成だ! あとは複写した魔術陣をこの廃ダンジョンの入口に設置すれば!」
記憶干渉構成式:複写でこの魔術陣を保存すれば、入口に同じものを設置するのは一瞬で終わる。 いわゆるコピペだ。
同じ魔術陣を形成することによって、転移の魔術を特定の場所と繋げあわせることが可能なのた。 魔術陣を介さない転移の場合は、基本的にランダムテレポートと呼ばれる完全ランダム転移になってしまうため、危険なので自分に使用することはない。
自分が使用する際は、このように転移したいポイントに魔術陣を書き込み、それの複製を布か何かに写して使うものだ。
ゲームの時はボタン一つでできた機能だったのだが、何分ここは現実世界のため自らの手で書かないといけないらしい。
魔術陣の完成に達成感を覚えた俺は、早速とばかりに石ころを魔術陣の中央において実験を開始する。
魔力を魔術陣に流すと、青白い光を放ちながら魔術陣の中においていた石ころがカタカタと震えだす。
息を呑みながら石ころを見守ること数秒。 青白かった光がやがて紫色へと濁っていき、そして血のように赤くなってイナズマのようなものがビキビキと光りだした。
「ちょ、おいおいまさかな?」
不安が口から漏れるのを待っていたかのようなタイミングで、魔術陣の上にあった石ころが弾け飛んだかと思ったら、魔術陣の中に見覚えのない何かが出現する。
「妾をこのような場所に召喚した愚か者は、貴様か?」
冷や汗をこぼしながら固まる俺へ、射殺すような視線を送ってくる四足歩行の魔獣……いや、この魔獣はただの魔獣じゃない。
そもそも普通に喋ってる時点でやばい魔獣であるのは間違いない。
「おかしいな、転移の魔術陣書いたはずなのに、なんで麒麟さんが召喚されてしまったんだ?」
魔術陣の中に出現したのは、このゲームでも高難易度コンテンツとして登場する強力なエネミー。
麒麟と呼ばれる幻獣にしか見えなかった。




