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第3話 たまたま廃ダンジョンを見つけた俺は、引きこもり生活を夢に見る

 ❖

「あっけなかったな」

 

「相手は所詮ガキだからな」

 

 吹っ飛んでいった俺の首を腰の袋に入れながら、任務完了とばかりに鼻を鳴らす暗殺者達。 しばらく周囲の様子を確認した暗殺者たちは、達成感に浸りながらジュムフーリヤ帝国の方へと戻っていく。

 

「詰めが甘いぜ?」

 

 そんな様子を草陰から監視していた俺は、思わずほくそ笑む。

 

 暗殺者の襲撃など、華ノ国に放り出される前から予測していたし、何なら馬車で運送されている最中に追手の存在には気がついていた。

 

 だから俺は、馬車の中で少々準備させてもらっていたわけだ。

 

「認識阻害と分身の魔術を組み合わせると、身代わりを作れるというわけさ」

 

 ゲーム時代に流行っていた小技だ。

 

 魔術には二種類の構成式がある。

 

 一つ目は創造構成式。

 

 魔力を介してあらゆる物質や現象を創造することが可能な構成式。

 

 魔術大全の奇数のページに記されている創造構成式には五段階のレベルがある。

 

 一段階目は物質創造構成式、これは魔術大全のページで言うところの1〜100ページに記されている魔術。

 

 二段階目が現象創造構成式、101〜200ページにこの構成式が記されており、同じように三段階目が幻影、四段階目が魂魄、最終段階で空間を創造することが可能。

 

 それぞれ難易度で言うと50より前のページが下級、50以降のページが上級とされている。

 

 例を上げるならば、先程暗殺者達が使用していた鉄杭の魔術、あれは魔術大全第23頁のため、物質創造構成式の中でも下級に分類されるだろう。

 

 そして、次に使用された武具精製、これは魔術大全第77頁に記されている魔術のため、こちらは上級に分類される。

 

 ページ数が大きければ大きいほど魔術が強力というわけではなく、一桁目が魔術の段階、後ろの二〜三桁が階級を示すものだった。 つまりレベルを上げれば次のページを覚えるというわけではなく、魔術大全内のページは穴埋め形式で増えていくということになる。

 

 そして二種類目の構成式が、干渉構成式。

 

 力学や意識に干渉することで様々な効果をもたらす干渉構成式は、目に見えないものに反応する事が多い魔術だ。

 

 有名なものだと第98頁の浮遊や、第210頁の鑑定など。

 

 干渉構成式も創造構成式同様五段階に分かれており、記されているページ数は偶数だ。

 

 一段階目の力学、二段階目が意識、そこから概念、記憶、時空に干渉する魔術を覚えることが可能。

 

 この二種類の構成式は段階があることからも分かるように、レベルの上昇に合わせて覚えることができる段階が増えていく。

 

 目安的には1〜20レベルで物質創造構成式、および力学干渉構成式を覚えやすい傾向にあり、21〜40レベルで現象創造構成式、意識干渉構成式を覚えやすくなると言った感じで、これらの魔術習得傾向はグラフ化するとわかりやすくなる。

 

 俺がこの世界で生きてきた四年間の記憶を頼りにすると、ナボニドゥス魔術大学校を卒業する頃には第三段階の初級魔術を覚えていればエリートとされているようで、平均的な魔術レベルは第二段階の初級魔術を覚えているか、第一段階の上級を覚えていれば上々だろう。

 

「流石に、まだ学校を卒業すらしていない俺が、混合構成式を覚えているとは思ってなかったようだな」

 

 先ほど暗殺者達が首をはねたのは、俺が傀儡の魔術で操作していた分身体だ。

 

 分身の魔術は、魔術の中でも極地と言われている500ページ超えの魔術、混合構成式を使用して創り出すものだ。

 

 混合構成式、この魔術は創造と干渉、二つ以上の魔術を組み合わせて使用する応用編のようなもの。

 

 魔術大全【第593頁】混合構成式:分身。 この魔術は自身の複製体を創造する魔術であり、並の魔術師なら容易に騙すことが可能だろう。

 

 だがしかし、手練れの魔術師は第三段階初級、概念干渉構成式の鑑定を使用することができる。 これを使われると分身体は即座にバレてしまう。

 

 そこで、ゲーム時代に流行った小技を使用した。

 

 意識干渉構成式の上級、魔術大全【第198頁】意識干渉構成式:認識阻害

 

 この魔術を使用すれば鑑定の魔術をかいくぐることができる。 まあ、508頁の混合構成式、看破を使われるとこの認識阻害は意味をなさないのだが。

 

 基本的に、この世界で混合構成式を使える人間は一握りしかいないだろう。

 

 つまり、馬車で運ばれている最中に俺は分身体を作成し、暗殺者たちをやり過ごすために分身体を目立つ場所で移動させ、本体である俺は離れた位置から分身体を監視していたというわけだ。

 

 入念な下準備が功を奏し、暗殺者たちは俺を暗殺したと勘違いしてくれた。 暫くの間俺は自由に動くことができるようになったということなのだが。

 

「暗殺者は無事やりすごせたけど、これからどうすればいいってんだよ」

 

 誰に聞かれているわけでもないのに、一人ボソボソ弱音を吐くことしかできない。 ああ、世の中なんて世知辛いんだ。

 

 そんな風にこの世を呪っていたその時だった。

 

「なんだ? あんなところにダンジョンなんてあったっけ?」

 

 草陰に隠れていてよく見えなかったのだが、ふと視線を上げた先にあったのは大きな横穴だった。

 

 俺のゲーム知識にはこんなところにダンジョンなんて無かったが……

 

 とは言ってもマジフロはオープンワールドゲーム。 俺の探索が至らなかったのだろうかと首を傾げながら、何気なくその横穴に足を向けるのだった。

 

 ❖

 マジフロで探索可能だった地域は複数ある。 一つは先程まで俺がいたジュムフーリヤ帝国。

 

 二つ目は俺が追放されたこの国、華ノ国である。

 

 無論このゲームをやり込んだ俺は隅々まで探索しているし、入れるダンジョンは全て網羅している。 攻略サイトだって穴が空くほど確認していたのだ。

 

 ダンジョン周回は素材集めやレベル上げの基本だし、どこのダンジョンでなんの魔物が出てくるかすらも把握している。

 

 どういう魔術を覚えてどんな戦闘スタイルで育成するかによって、必要素材や倒さなければいけない敵が異なる。

 

 このゲームはストーリー攻略とは別に探索やダンジョン攻略など自由に楽しむことが可能なゲームだったのだ。 驚くべきことに自分の基地を建設する、ハウジング機能すらも備わっていたくらいだ。

 

 なんせ俺は、マジフロ廃人と呼ばれた男だ。 だからこそ断言できる、ここにダンジョンがあるわけがない!

 

「横穴式ダンジョンは華ノ国西方に一つと、北東に一つ。 ここは華ノ国でも南方に位置する場所だ。 ここら辺にあるのは古代遺跡式と山間式ダンジョンだったはず」

 

 話し相手などいないのだが、友達もいなければ話し相手すらいなかった俺は、この世界に来てからというもの独り言がクセになっている。 ……誰だ今虚しいやつだと思ったのは!?

 

「さてさて、これは一体どういう現象だ?」

 

 もしかして現実世界だからこそゲームとは違った地形に変わっているのか?

 

 訝しみながらも横穴を覗いてみると……

 

「あー、あったなこんな場所!」

 

 ちょっとした消耗アイテムしか手に入らないポイントだ。 攻略にはおよそ必要でもなんでもない場所だったので失念していた。

 

 穫れるアイテムは、低ランクの鉱石やら石ころ、料理に使用できるきのこくらいのものだったのだから……

 

「ここあれじゃん、掲示板で話題になってた場所」

 

 攻略にも高難易度攻略にも全く関係ないのだが、この場所は世界観設定のために作られたおまけみたいな場所だった。

 

「たしかこの横穴は、廃ダンジョンって設定だったかな」

 

 廃ダンジョン、ここはその名の通り魔物が狩り尽くされて機能を失ったダンジョンだ。

 

 だから横穴の中には魔物もポップしないし、ちょっとした採取アイテムしか手に入らない。 入ったところで持ち物に石ころやきのこが増えるくらいだろう。

 

「くそ、失念していた。 効率厨だった俺はこんなおまけみたいな場所、忘れていて当然だよな」

 

 なんか、悔しい気分になったのだが、それと同時にとある事を思いついた。

 

「このまま行き場もないまま徘徊していたら、本当に闇落ちして中ボスルートになってしまう、ならばいっそ!」

 

 雲の隙間から光が差し込むように、希望的思考が俺の脳内に差し込んでくる。

 

「俗世との生活を断ち切り、一人でこの廃ダンジョンにこもっていれば、平和な一生を迎えることができるのでは?」

 

 なに、生きていくためには最低限食料さえあればいい。 しばらくは水だけで我慢することになるサバイバル生活を送ることにもなるだろう。

 

 だがしかし、人々に蔑まれ、バカにされ、誹謗中傷をされ続ける俗世の暮らしよりも、サバイバル生活を送っていた方がなんぼか楽だろう。

 

 どうせずっとぼっちだったし、一人で過ごすことには慣れている。 悲しいことに……

 

「廃ダンジョンなら人も寄り付かないだろう。 そうと決まればここを俺の新たな根城にしてくれるわ!」

 

 こうして俺は、この廃ダンジョンを根城にして新たな生活を送るため、気合を入れて廃ダンジョン内へと足を踏み入れるのだった!

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