第36話 無謀な挑戦に挑む俺は、苦戦する仲間を横目に葛藤する
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ティメルは今、人類の夢である人体の冷凍保存を成功させようとしている。
しかも圧倒的強者である仙人との戦闘中に。
土壁で作りだした粘土壁に魔術陣を黙々と描き始め、そんなティメルを冷や汗混じりに護衛するユーティ。
フェイトは迫り来る死の吹雪から逃げながらも、その姿を横目に伺っていた。
「いくらなんでも、無茶!」
「フェイト、ご主人様を信じなさい。 持ちこたえろと命じられた以上、わたくしたちはこの命尽きる限り従えば良い!」
「アレフは肝が座りすぎ!」
ムッとしながら反論するフェイトだったが、彼女はティメルの設定により戦うことを誰よりも好むゲマトリア。
弱音を吐き逃げ続けながらも、彼女に記された記憶という名の設定は、ひとつの欲を示し始める。
(果たして、当方の全力はどこまで通用するのか……)
現象創造構成式。 この構成式は主に熱や光、磁場を操作することによって発生するあらゆる現象を作り出す魔術。
代表的なものだと可燃性ガスが酸素と化合することで光熱と光を放つ発火現象。 他にも空気を振動させることで音波を発生させる超音波、磁場の中で磁性を持つ物質に対して発生する磁力。
これらの現象を創造するのが現象創造構成式。
魔術の中で最も火力を出しやすい魔術がこの構成式だ。
「近づけないなら、遠距離から!」
まずはメイハオが暴走させている力を拡散ではなく一点に集中させなければならない。
こうしないと魔術の構成に集中しているティメルに氷柱が飛んでいってしまうからだ。 だから悲しみのあまり周囲との関わりを拒絶しようとしているメイハオに、自分という脅威がいることを示さなければならない。
「喰らえ! 焼却砲」
周囲の酸素を一箇所に集中することで超高温状態にした炎を凝縮し、両腕に搭載している大砲から発射するフェイトの得意技。
その熱波は最高温度4000を超える温度まで上昇するが、極寒の地でこの温度の炎を放出しようとすれば、溶けた氷が大量の水蒸気を発生させてしまい……
「あ、まずい」
「馬鹿者!」
水蒸気爆発が発生してしまう。
ここはダンジョンの中。 室内で大規模な水蒸気爆発を起こしてしまえば、間違いなく崩落する。
反射的にアレフは爆発した空間を隔離した。 空間創造構成式:宙贈
指定した空間を現実と隔離することにより、空間内で発生した事象をなかったことにできる魔術。 これにより、間一髪で水蒸気爆発による二次災害は防ぐことに成功。
「何度言われたら分かるのですかフェイト。 ダンジョン内で炎系の創造構成式は控えなさい」
「けど、燃やしたほうが気持ちがいい」
「つべこべ言わない! それに……」
結果的に、焼却砲はメイハオに届く前に打ち消されてしまっていた。 未だ吹雪の中心ではメイハオが涙を流しながら虚空を見上げている。
完全に思考を放棄して仙法を暴走させてしまっているのだ。
吹雪の範囲は今なお増していっているため、このまま放置すれば数分もせずティメルの方にも被害が行くだろう。
ティメルはこの場から移動する時間を惜しんでその場で魔術の構成を始めた。 それはつまり、フェイトたちがメイハオの暴走を食い止めてくれると信じての行動だ。
ならばそれに応えたいと思うのが、ティメルのために産まれたゲマトリア達の総意。
「炎がダメなら!」
フェイトは再度両腕に搭載した砲塔をメイハオに向ける。
「熱が届かないなら、これしかない!」
左腕に書き記されたカスディム文字へ魔力を流すと同時に、フェイトは大声で呼びかける。
「全員、耳を塞げ!」
アレフはその発言を聞いてすぐに気を回した。 すぐに右腕をティメル達の方へと向け、空間をチグハグに捻じ曲げる。
「喰らえメイハオちゃん! 超音波砲!」
音波による遠距離攻撃。 フェイトの両腕に搭載された砲塔から鼓膜を破壊しそうなほどの高音が響き、その音によりダンジョン全体が小さな縦揺れを起こす。
熱や雷は氷によって攻撃の軌道を塞がれるが、音ならば防ぎようがない。 これはさすがのメイハオも眉をしかめながら耳をふさぎ、不快そうな視線をフェイトの方に向ける。
(……来る)
フェイトは緊張の糸を張り、額から玉の汗を流して次の攻撃を展開しようとしたが……
「もう、メイハオに関わらないで」
突き放すような言葉とともに、地面から巨大な氷塊が大量に隆起する。 慌てて横っ飛びでかわそうとするフェイトだったが……
(これは、まずい!)
逃げようとした方向へ氷柱を飛ばしてくるメイハオ。 ここ数ヶ月の間、暇を見つける度ティメルがちょっかいを掛けていたせいで、メイハオは賢くなってしまっている。
回避方向を誘導するようなメイハオの攻撃に、フェイトはまんまとハマってしまうが、
「構わず攻撃なさい! 今の一撃が功を奏し、御主人様への流れ弾が向かなくなっております」
すかさずアレフが宙繋を使用して、この攻撃を防ぐ。
メイハオを囲うように展開されていた吹雪は動きを止め、その切っ先はすべてフェイトとアレフに向いている。
「邪魔しないでっ! メイハオを一人にしてっ!」
八つ当たりするような叫びとともに、先ほどとは比べ物にならない勢いで氷の猛攻が二人を襲う。
「これは流石に……」
「根性を見せなさいフェイト!」
圧倒的な理不尽を前に、二人は顔を歪めながらも魔術を展開した。
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「主……もう持ちそうにありません」
ユーティがおずおずと声をかけてくる。 魔術の構成をはじめて十五分ほどが経過しただろうか。
この間できた土壁は二枚。 鑑定した結果事象回帰の構成式がしっかりと付与されていることが確認できた。
とは言え確率読解の魔術で成功率を目視したところ、土壁への付与は成功率68%だった。
これがせめて20%以下だったら確率変動の魔術を使用して成功率を80%以上に変動させることができただろう。
だが、68%と言うことは確率変動を行使しても成功率は32%にしかならない。 逆効果だから確変は論外だ。
失敗しないよう集中して魔術を構成するしか方法はない。
だと言うのに、
「ご、しゅじん、さま……申し訳、ありません」
「きちょー、とうほうは……頑張った」
全身を青白い氷で包んだ二人のゲマトリアが、ギブアップを宣言してしまう。 横目でちらりと戦いを伺ったが、メイハオちゃんの攻撃密度は前回の比ではない。
完全にヤケクソ状態で仙法を使ってしまっているのだろう。 兄に自分の存在を忘れられたショックのせいか、いつもくりくりと可愛らしかった目は絶望を映しているかのように暗くなっている。
あんな状態では説明したところでどうにもならないだろう。 だからといってこんな時、どう声をかければいいのだろうか?
テオスは記憶を無くしているだけだから気にするなとでも言えばいいのか?
三千年もの間眠り続け、家族との再開を夢にまで夢想してしまっていた少女に、なんの救いもない現実を叩きつけろと?
相手が大人ならどうにかなったかも知れないが、メイハオちゃんは見た目と知能が比例している。 実年齢的にはロリババアに分類される幼女でも、思考回路は子供なのだ。
見た目も子供、中身も子供。 年齢だけは三千才!
集中力が切れそうだから余計なことに思考を回すのはやめよう。
低体温症で動けなくなってしまったフェイトとアレフに、容赦なく手をかざすメイハオちゃん。
今俺が助けに動けば、現在構成している土壁は間違いなく失敗する。 まだ二枚しかできていないのに、ここで失敗すれば確実に時間を無駄にする。
意を決してユーティに視線を向け、指示を出そうと……
「随分、暴れておるようじゃのう小娘よ……」
指示を出そうとした瞬間、五階層へ続く階段の方から声が響いてきた。
「先程はよくも不意をついてくれたのう、少々おいたがすぎるのではないか?」
まだ顔は真っ青だし、足取りもおぼつかない。
見るからに満身創痍なその見た目にもかかわらず、シェンルゥは皮肉めいた笑みを無理やり作った。
「おぬしの先生はすごいのだというところを、今ここで見せつけてくれるわ!」




