第35話 格上相手に無謀な戦いを挑む俺は、先進的技術に夢を見る
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「機長! 骨のある敵と戦いたいとは言ったが、メイハオちゃんはさすがに荷が重すぎる!」
全身に搭載したメカ装備を稼働させ、甲高いエンジン音を響かせながら室内を縦横無尽に飛び回るフェイト。
現象創造構成式を操るフェイトは、全身に搭載したメカ部品を活用してあらゆる現象を効果的に使用する。
例えば炎。 普通のゲームなら炎は水や風と同列に扱われる属性だが、このゲームの場合は違う。
水は液体として存在するため物質創造構成式に分類されるが、炎とは可燃性ガスが酸素と結びつくことで、光や熱を発現させる現象だ。
そのため炎は物質ではなく現象創造構成式に分類されるため、魔術のレベル的には水よりも一段階上の分類となる。 同様に雷や風も現象創造構成式に分類されるわけだ。
中でも風の構成式は特殊で、空気を創造してこれを操作し、流れを作り出さなければならない。 これは混合構成式に分類されてしまう。
そのため現象創造構成式しか使えないフェイトは、風系の攻撃手段を持っていない。 フェイトが空を縦横無尽に飛び回れるのは、風の力ではなく熱のエネルギーだ。
「機長! やばいやばい! フェイトは逃げるので手一杯!」
メカ装備から熱を放射することで、熱エネルギーで空中を自由に動き回るフェイトだが、メイハオちゃんの仙法は暴走している。
以前とは違いこちらを攻撃する意志を持っている訳ではなく、何者も寄せつけないよう自分の周りで力を旋回させているからだ。
「俺達を狙って氷柱を飛ばしてるわけじゃねー、なんとかして時間を稼げ! なんなら、倒しちまってもいいんだぞ!」
「その発言、フラグにしか聞こえない!」
「フェイト! つべこべ言わず、御主人様の命に従いなさい」
フェイトめがけて飛んできた氷柱をしれっと破壊するアレフ。
アレフは空間創造構成式の使い手だ。 この魔術を使用することで植物の栽培を促進させている。
宙繋と呼ばれる構成式は、空間と空間を直通で結ぶ簡易的なテレポートの魔術だが、弱点としては入口と出口しか設定できないためでテレポートする先は選べないし、なんなら生き物は通せない。
ダンジョン内にも関わらず植物が自生できるのは、アレフがこの空間創造構成式を利用して太陽光が直接植物に当たるよう空間をいじっているからである。
先程の挙動も宙繋の魔術を行使して空間の扉を繋げ、氷柱同士を衝突させたのだろう。
宙繋は空間同士を繋げて物体を効率的に移動させる魔術。 その手際は素晴らしいものだった。
「フェイト、わたくしが守備を担当いたします。 あなたはメイハオ様の注意をひくことに専念なさい」
「アレフ! 簡単に言うけど非常に難しい! メイハオちゃんの仙法、異常!」
「難しいだけなら気合でどうにでもできるでしょう」
「根性論? アレフは鬼だ! アレフは鬼畜だ!」
悲鳴を上げながらも、どうにかしてメイハオちゃんに近づこうと空を駆けるフェイトだが、号泣しながら所構わず氷柱を連射しているメイハオちゃんが相手では、近づくこともできなければ自分の身を守るので精一杯だ。
メイハオちゃんの仙法規模的に、彼女に近ずけば散弾銃を連射されているような惨状だ。
吹雪のように見える氷一つ一つが弾丸サイズの氷柱になっているし、なんなら一発一発の威力もライフル弾並。
窒素障壁でも速攻で割られるほどの威力だ。 おれも部屋の端っこでフェイトの奮闘を眺めるので精一杯。
しかしそれも時間の問題。 メイハオちゃんを軸に展開されている猛吹雪は、時間経過とともにその範囲を拡張させている。
部屋全体を覆われたら避ける手段が無い。 畳み掛けるなら今しかない。
「とは言ってもな、倒すだけなら簡単だが、無力化するのは無理に等しいぞ」
変な話、メイハオちゃんを殺してしまえばあっけなくこの問題は解決するだろう。 だが俺にはそれができない。
人を殺したくないという小心者な理由も一つだし、何より面倒だと邪険には扱ってきたが、メイハオちゃんとはここ数ヶ月間毎日顔を合わせている仲だ。 飯だっていつも一緒に食べている。
面倒だから殺してしまおうと判断してしまうほど俺の心は冷酷になっていない。 むしろ俺を殺しに来ている暗殺者すら殺せないんだ、傷心中の幼女を危ないからと言うだけの理由で殺してしまうなんてもっての他。
とは言え相手は圧倒的な強者だ。 魔術をいくら勉強したところでたどり着けない高み、感覚だけで奇跡を行使できる仙人。
下級職の俺が最上級職に立ち向かうというのに、勝利条件は無力化だ。 これの難しさたるや。
「お殿様! 先程の侵入者共を土壁で覆いました! 暴れてしまわれるため土壁の厚さはかなりのものになってしまいましたが、任務を完遂です!」
「テット、ついでにあいつら連れて外出ててくれ」
「かしこまりました! 早急にダンジョンから叩き出し、まろは直ちにお殿様の元へと舞い戻りましょう!」
物わかりがいいテットはすぐにテオスたちを囲った土壁を変形させ、大玉のようにしてダンジョンの外へ転がしていく。 言外に足手まといは邪魔だから退出願おうと思っていたのが伝わったらしい。
これで思考に集中できる。
「機長! 当方はいつまで、メイハオちゃんの注意を引いていればいい?」
「わりーけど、多分一時間くらい頼むかも知れねーわ」
「一時間! 十分持つかすら怪しいのに!」
「とは言っても捕まえる手段が限られてんだ、しょうがないだろう」
冷や汗を流しながらも思考を回転させ、必死に魔術大全をペラペラめくる。
「主? 一時間もの時間をかけていったい何をするおつもりで?」
飛んできた氷柱を反射の魔術で弾き返しつつ、首を傾げながら問いかけてくるユーティに対し、俺は苦笑いを浮かべながら応える。
「何をするかだと? あの子を止める方法は一つしかねーだろ」
俺達が初めてメイハオちゃんに会った際、彼女は寝ていたのだ。 だったら今回も盛大に寝かしつけるしか無い。
「今から構築するんだよ。 疑似極寒法印をな!」
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本来、仙術は戦いに特化した奇跡が多い。 その仙術を巧みに利用し、メイファンはメイハオちゃんの封印に成功したようだが、一つどうしてもできなかった技術があったらしい。
「軸にするのは事象回帰。 この魔術を組み込んだ壁を上下四方に構えて箱状にする。 事象回帰を付与させるのは土壁でも構わないか? なんなら、この場には粘土しか無いんだしな」
遺跡の壁を傷つけた際、シェンルゥは事象回帰の構成式が使われていると断言していた。 恐らくメイハオちゃんを冷凍保存するにあたり、細胞の破壊を防ぐ手段が仙術にはなかったのだろう。
できたのは機能停止した体が腐らないよう、極寒法印で凍りつかせることだけ。 だから事象回帰の術式をマリヤムに書いてもらったと考えるのが妥当。
しかし、当時マリヤムはメイモンとともに逃走していた。 となると事象回帰の術式が書かれた魔術陣をメイファンに預けていたと考えられる。
または、事象回帰の構成式を付与した何らかの物質を預けていたかの二択。
概念干渉構成式には、特殊付与という魔術がある。 魔術の特性を物質に付与する魔術だ。 これを得意とする魔術師は通称付与術師とも呼ばれている。
世に出回っている付与装備とは、この魔術によって特定の魔術が付与されている武具を差す。
言葉では簡単に説明できるのだが、割と付与の魔術は複雑で、カスディム文字から構築された構成式を武具に結び付ける作業が非常に難しいのだ。
カスディム文字一つ一つの意味を理解し、特定状況下で魔術の効果を発動させるようになるまでに何度もトライアンドエラーを繰り返す。
この作業は前世の知識で言うところのプログラミングに似ている気がする。
故にページ数500を超える魔術を物質に付与する難易度は極めて高い。 その上深刻なのは必要な魔術は事象回帰だけではないこと。
「俺の世界では人体の冷凍保存は将来の医療技術に夢を託すという夢物語だった。 そんな夢物語をこの世界の仙人様や魔導士様は可能にしているわけだから不可能ではないんだろう。 ソースはメイハオちゃん」
実際、メイハオちゃんが眠りについたのはゲーム設定や各種資料を参照にすれば3000年以上前。 そんなにも長い間この廃ダンジョンの近くに作られた遺跡の中で眠っていたのだ。
先人が成功させたのだから理論上は可能だ。 だがしかし……
「事象回帰の魔術を天井と床合わせて六枚の板に付与。 更に箱状にした遺跡内に液体窒素を満たして細胞を破壊しないようメイハオちゃん本人にも治癒の構成式を永続的にかけ続けなければならない」
言葉にすればその難易度は明らかだ。 実際、事象回帰の付与だけでも何時間かかるか分かったもんではない。
ましてや今は戦闘中。 更には格上の相手がなりふり構わず力を暴走させている状態。
「普通に考えれば無理ゲー。 こんなことならあの遺跡の壁は盛大に破壊しないで取っておくべきだった」
嘆いたところで現状は変わらない。 フェイトが悲鳴を上げながらも必死に注意を引いてくれているのだ。
俺は俺にできることを全力でやるしかない。
「ああ畜生! せっかくあんなに大量の魔水晶を手に入れたっていうのに!」
異空間収納を発動し、ごっそり獲得していた魔水晶の山を取り出す。
「面倒事しか起こさないクソガキのために、このお宝を全ベットして助けるハメになるとはな!」




