第33話 人気キャラたちの戦いを見ていた俺は、なんだか少し楽しくなってくる
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テットが操る魔術は物質創造構成式だ。 作りたいものの仕組みさえ分かっていれば、個体だろうと液体だろうと大体のものは創造できる。
この魔術を駆使して戦闘特化に設定する場合、どうしても必要になってくるのが筋力だった。
そんなわけでテットの筋力はゲマトリアの中でもぶっちぎり。 見た目は細身でか弱そうな女侍だが……
「うぐぅあぁぁぁぁぁ!」
男の子の頭を鷲掴みして、片腕持ち上げることなんてわけない。
「テオスゥゥゥゥゥ!」
テットに鷲掴みされて持ち上げられたテオスくんは、足をばたつかせながら苦しげな声を上げている。 そんな彼を見て悲鳴を上げながら業火砲弾の魔術を放つラーニアちゃん。
ボーリング玉よりも一回り大きな炎の塊を大砲のように飛ばすという単純な遠距離攻撃だが、その射出速度や威力はかなり高く、物語後半でも頻繁に使われる攻撃魔術として有名だが、
「呵呵! 熱が足りんでござるよ!」
蝋燭の火を消したかのように、刀を振り抜いた風圧で業火砲弾を消し飛ばしてしまうテット。
「業火砲弾を、物理攻撃で消し飛ばした?」
未だ健在の後衛たちを強化魔術で補佐していたパリサちゃんが青ざめながら後ずさる。
「まろを倒すために速さに特化した攻撃をと考えていたようでござるが、それはよくユーティ殿も使う手段でござるし、そもそもこの若人はユーティ殿よりも数段遅い!」
鷲掴みしていたテオスくんをラーニアちゃんの方へ放り投げるテット。
ラーニアちゃん達は飛んできたテオスくんを慌てて受け止めようとするが、何分投げる力が強すぎたせいか、受け止めようとしたラーニアちゃんとパリサちゃんの二人を巻き込み飛んでいってしまう。
「むむ、この程度の力加減でも風船のように飛んでいってしまうか。 何分力加減が難しいでござるな」
テオスくんは魂魄創造構成式を極め、英雄七変化という固有魔術を使用することができる。
その魔術によってジュムフーリヤ帝国に伝わる七人の英雄の魂を現し世に呼び出し、そして自分の体に憑依させることが可能になるわけだが……
これはゲーム的に説明するならモードチェンジだ。
攻撃特化の二刀流になるのが先日披露していたアスレアモード。
今回テットとの戦いに使用した魂はサリーアと呼ばれる狩人の魂だ。
サリーアモードになると敏捷地が激的に上昇し、憑依時に使用する武器は普段使用する剣よりも一回り小さなダガーのような形状に変化する。
能力は言うまでもなく、圧倒的な速さで相手を翻弄し、弱点を一撃の内に仕留めるという暗殺じみた立ち回りを得意としている。
テットとの戦いが始まると同時にサリーアモードになったテオスくんはその持ち味の速さでテットを囲うようにぐるぐる周りだした。
動きが早すぎて分身して見えるほどの勢いだったというのに、テットはあくびしながら刀を肩にかつぎ、つまらなそうにしていた。
彼女いわく、
「ちょこまかとちょこざいな。 その程度の速度でまろを翻弄できるとでも思ったでござるか?」
吐き捨てるようにダメ出しをしたかと思えば、突然刀を持っていない左腕を真横に伸ばし、突進してきたテオスくんの頭を鷲掴み。
しかもテットはその場から一歩も動いていなければ、視線すらそちらに向けていなかった。
たった数秒でテオスくんの仲間たちは地に伏せており、まともに立っていられたのはアイシェちゃんただ一人。
銀髪のショートカットヘアーに、吊目が特徴のクールビューティー。
彼女の翠緑色の瞳は、吹き飛ばされて唸りながらもなんとか立ち上がろうとしていたテットくんたちをちらりと確認し、頬を引きつらせていた。
アイシェ・ファールーク。 テオスくんと同じ村で育ったいわゆる幼馴染で、この子もテオスくんと同じく拾われた子だった。
まあ、拾われたのはテオスくんの後だが。
仲間入りするイベントはかなり印象に残っている。 テオスくん一人を魔術学校に入学させるために四苦八苦していた貧しい村だったが、なんの前触れもなく翌年の新入生入学式で突然登場した謎の多き女の子。
再開したテオスくんはどうやって入学する資金をためたのかとか、どうやって魔術師の超難関試験を合格したのかとかを問い詰めていたが、彼女はちょーがんばったの一点張り。
その謎が解き明かされるのはアイシェちゃんヒロインルートの終盤だった。
アイシェちゃんの正体を知ったプレイヤーたちは、やっぱりなと思う人が半数、度肝を抜かれる人が半数と言った感じだっただろうな。
女性ファンも多い謎に包まれたクールビューティー幼馴染。 それがアイシェちゃんという人気キャラクターである。
「さて、まろはまだ肩慣らしにも満たない力しか振るってはおらんが、どうするでござるか? もう諦めて引き返すでござるか?」
「パワーも立ち回りも、超人級。 私一人で勝つのは不可能だろうね。 となると今すぐ撤退したいところだけど……」
一人だけまともに立っていたアイシェちゃんは、冷や汗をこぼしながら弓を構える。 そう、彼女はラーニアちゃんとは違って物理寄りの攻撃を得意とする遠距離アタッカー。
その固有魔術も、ゲームシステム上最大ダメージを出せると言われていた火力特化の固有魔術。
「逃げるにしても、時間稼ぎはしないとね!」
魔力で生成した弓矢を引き絞り、瞬きにも満たない速度で射出する。 しかしテットはニッと嬉しそうに笑いながら放たれた矢を当たり前のように切り裂き、
「やはり! そうこなくては面白みがないでござるからなぁ!」
その流れでアイシェちゃんは魔力で生成した弓矢を連射し始めた。 テットはこの弓矢をかわさずにすべて切り捨てようと刀を振る。
マシンガンのような勢いで放たれる弓矢を片っ端から斬り伏せてしまうテットだが、この防ぎ方はかなりの悪手だ。
「むむ? これは、面妖な。 徐々に弓矢が重くなっていく」
「どう言うこと? すでに三十発は当たってるはずなのに……」
アイシェちゃんの固有魔術は、連撃倍加。
記憶干渉構成式を得意とする彼女が使用するこの固有魔術は、攻撃を連続でヒットさせるほどダメージが倍加していくという火力極振りの効果だ。
動かない的を相手にしたならば、理論上乖離砲を連続で当てても連撃倍加は発動するため、アイシェちゃんの乖離砲を三発連続で当てればダメージカンストが簡単に出せるという小技が合った程にこの固有魔術にはロマンが詰まっている。
まあ、猛威を振るうのはミスせず連続で当てられればの話だが。
運営側もしっかり調整しているため、アイシェちゃんの基礎攻撃力はモブ並に低い。 そのため敵を追尾するタイプの記憶干渉構成式を早めに覚えさせる必要がある。
運用方法がわからないと、この子は雑魚キャラとして認識されてしまうキャラだったのだ。
しかしビジュアルや固有魔術の面白さから使い手は以外にも多く、対人戦でこのアイシェちゃんを使ってくる輩は大体が強者というジンクスすらあったほどだ。
連撃倍加は、使いこなせれば格上相手でも余裕で通用する強力な魔術だろう。
皮肉なことにテットはアイシェちゃんの攻撃をかわそうとせず、重くなりつつある連射攻撃を律儀に刀で斬り伏せて対応しようとしている。
お陰でテットは連射の対応に追われ、大ダメージを負っていたテオスくんたちが体制を整えるまでの時間を稼げていた。
「やるではないか! ではまろも少々ばかし本気を出すとしよう!」
テットが地面を踏んづけるように足を踏み出すと、アイシェとテットの間に巨大な土壁が出現する。 この土壁に弓矢は遮られ、連撃倍加の効果は振り出しに戻ってしまった。
眉間にシワを寄せながらも弓を射続けるアイシェ。
「物質創造構成式が得意なのかしら? 障害物をたくさん出されると厄介ね」
舌打ち混じりに走り出し、土壁の裏に隠れてしまったテットを確認しようとしたのだが、
「見晒せ若人たちよ! お殿様より授かりしまろの魔術を!」
テットが嬉しそうに声を上げながら左手を空へと掲げる。 すると戦場となっていた広場の上空に、無数の刀が出現した。
空を見上げたテオスは驚愕の声を上げる。
「これは、武具精製の魔術?」
「一度の武具精製でこれほどの量を創造するなんて、桁違いよ!」
天井を埋め尽くすほど出現した大量の刀を見て、身震いするテオスたちだったが、テットの本領はここからはじまる。
「刮目せよ! 間合延長!」
体に記されたカスディム文字へ魔力を流すと同時、天井に浮いていた無数の刀は、テオス達に切っ先を向け……
「マズイ、パリサ!」
「全力で防御します!」
慌てて防御魔術を展開するテオス達に向け、浮遊していた無数の刀の刀身が、一直線に伸びていった。




