第32話 大変な事態に直面した俺は、胸騒ぎがしたので走り出す
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なんと驚くべきことに、テオスたちが俺のダンジョン攻略を始めてしまっていたようだ。
瞬く間に第三層を攻略し、現在攻略中なのは第四層中盤。
「童、こやつらなかなかに腕が立つではないか」
「そりゃー主人公のグループだしな」
白虎小隊も押されているようだ。
一応魔獣召喚においては最高レアリティのユーアールとして召喚した人型のムルミル達は、魔獣だった頃は純白の虎のような外見をしている華ノ国に出没するモンスターだった。
その戦闘方法は単純で、仙術により自身を強化しての接近戦を得意とする。
火力は割と馬鹿にできないレベルで高く、今の俺ですらまともに一撃喰らえば平気でHPを半分以上持っていかれるだろう。 おまけにかなりすばしっこいのもムルミルの特徴だ。
「こんなんエラムくんの独壇場だよね」
「ふむ、あの茶髪の優男か? 面白い魔術を使っておるの」
主人公のパーティーメンバー唯一のイケメン枠。 クルト伯爵家のエラム・クルトくん。
鳶色の髪をかっこよくセットしており、初見はホストにしか見えないレベルのイケメン君だ。
しかし見た目に似合わず面倒見が良く人当たりもいい。 ギャルゲーで言う友達枠に出てくるタイプのお人好し。
こいつの魔術はなかなかに優秀で、得意とするのは概念干渉構成式。 クルト伯爵家は干渉構成式を得意としているため、同じパーティーメンバーにいる妹のパリサちゃんも干渉構成式を得意としている。
「主人公のパーティーメンバーは、五人とも固有魔術が使えるんだよ」
「なんじゃと? それは厄介であるのう」
固有魔術は魔術大全にも禁書目録にも載っていない、正真正銘個人のみが使用できる唯一無二の魔術。
エラムくんは主人公テオスくんとともに前衛を担当する魔術師なだけあり、その性能は破格と言ってもいいレベルのものだ。
「エラムくんの固有魔術は魔力吸収。 与えたダメージ量に応じて自身の魔力を回復するっていう、吸血鬼みたいな能力なんだよ」
「あやつの祖先に吸血鬼がおったのか?」
「そんな小ネタは聞いたことがありません」
多分違うと思うし麒麟級の強力な魔獣の中に、アンデットのヴァンパイアもいたから違うはず。 あいつらが吸収したのは生命力だったし。
そんな事はともかく。 与えたダメージ量に応じて自身の魔力を回復し続けるという性質上、エラムくんは超硬いタンクとしての立ち回りを得意としている。
「魔術大全【第122頁】意識干渉構成式:視線誘導!」
タンクに必須とされるヘイトを自身へ向ける魔術。 この魔術を使用して敵の注意を一気に引き付け、更に巨大な盾で自身を守りながら槍でちまちまダメージを与えていく。
こうすることで常時魔力を回復し続ける上に、防御力を上昇させる物質創造構成式の硬化や、混合構成式の窒素障壁も使いたい放題。
ああでも、窒素障壁はレベル的にまだ覚えてないか? だとしても防御系魔術を永続展開できるという点で、魔力吸収の固有魔術は非常に強力なのだ。
「あのムルミルですら攻めきれずにもたついてしまうのか」
「言っておくけどテオスくん達は今の時点でも国内最強クラスの魔術師だからな? あれをボッコボコにしてたユーティが明らかにおかしい」
「一番おかしいのはそんなバケモノを作った童じゃがの」
細目を向けてきたシェンルゥは意図的にスルーする。
そうこうしている間にテオスくん達は白虎小隊を攻略。 中華風の城に改造された第四層を破竹の勢いで進んでいき、とうとう第四層の最終間までたどり着いてしまった。
「おいおいマジかよ、今回対応するのは誰だ?」
「少々お待ちを、今確認いたしますね」
モニター室に同席していたヴァブが、手元の資料をペラペラめくって確認を始める。 そんな事してる間にテオスくん達は最終間にたどり着いてしまっていた。
念の為すぐ近くに向かっておくかとソワソワし始め俺をよそに、シェンルゥはハイテンションでモニターに前のめりになる。
「うをぉぉぉぉぉ! 今回の担当はこやつであったか!」
どうやらシェンルゥは、このゲマトリアの戦い方が大好きらしい。 それはそれとして何かあったら嫌だと思った俺は、そそくさとモニタールームを退出し、第五層の上り階段へとダッシュしていくのだった。
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「ほうほう、ここまでたどり着いた冒険者は、貴殿らがはじめてでござろうなぁ」
「なによあの子、女の子じゃない?」
ラーニアは第四層最終間の中心で、堂々と立ち尽くしていた和装の少女を目にして拍子抜けたような声を出す。
しかし、テオスは明らかな動揺を見せながら玉の汗をこぼしていた。
「忍び装束の子以外にも、強い守護者がいるっていうのか!」
「貴殿の言う忍び装束とは、ユーティ殿であろうか? 彼女とは何度も手合わせをしてもらったでござるが……まろがユーティ殿に負けたことは、一度たりとてありはしなかったでござるよ?」
その一言とともに、腰にさしていた日本刀をゆっくりと抜く和装の少女。 テオスは和装の少女の発言を聞き、目を見開きながらジリジリと後ずさった。
「て、撤退だ」
「ちょ、おいおいテオス? 戦いもしてねーのになにを言って……」
テオスの様子を横目に見て、エラムは肩を竦めながら問いかけるのだが、
「僕は忍び装束の子にすら手も足も出なかったんだ、そんな子に一度も負けたことがないと言ったあの子は、はっきり言ってヤバすぎる」
「その時はテオス一人だったんでしょ? 今のあたし達は五人揃ってるんだから! どんな強敵が来ても大丈夫よ!」
ラーニアの言葉に、他の仲間達も静かに頷き同意を示す。 そんな様子を悠長に見ていた和装の少女は、真っ白な歯を見せながら呵々大笑を上げた。
「呵ッ呵ッ呵ッ! そのおなごの言うとおりでござろう! 戦う前から背中を見せようなど、武士として情けない限りでござる!」
抜き放った日本刀を上段に構え、鋭い視線でテオスを睨む和装の少女。
「なに安心召されよ、お殿様の命により、まろは貴殿らの命を奪うまではせん。 故に、後先気にせず全力でかかってくるが良い」
構えを取った和装の少女を見て、テオス達は慌てて攻撃陣形を整えた。
「まろの名はテット! 本来ならまろが担当するのは第二階層でござるが、貴殿ら冒険者たちは不甲斐ないため、この四層最終間にて交代制で貴殿らの相手を賜ることになったでござる」
「僕はテオス、ナボニドゥス魔術学園三年。 皇帝の命により、大罪人の処罰を命じられてここに来た!」
テオスに続き、他の仲間達も律儀に名乗りを上げながら魔術大全を開いた。
戦う準備が整ったところで、テットと名乗った和装の少女は重心を低くする。
「では、いざ尋常に……」
静寂とともに、緊張の汗が額を伝っていく。
「……勝負!」
言葉と同時に一直線に突っ込んでくるテット。 テオスとエラムは迎え撃つように前に出て、エラムが大盾を構えてこの突進に迎え撃つ。
(忍び装束の子よりも格段に遅い。 これなら……)
テットの踏み込みを見て胸を撫で下ろそうとしていたテオスだったのだが……
「一の太刀、鼠薙」
息をする間もなく、目の前で大盾を構えていたはずのエラムが視界からいなくなる。
「……え?」
次の瞬間、広間になっていた空間の壁部分から、爆音が響く。 慌ててそちらに視線を送るテオス。
先程目の前に立っていたはずのエラムは、壁にめり込み白目を剥いていた。
「軽い軽い! たかだか小手調べの一撃で吹き飛ばされてしまうとは! 実に、お手玉のような軽さでござるな! 呵呵呵!」
振り抜いた日本刀の峰で肩を叩きながら、腰に手を当て豪快に笑い出すテット。 エラムはタンクとして他の追随を許さないほどの優秀さを誇っている。
なんなら、現在のジュムフーリヤ帝国なら一番の実力者と称してもいいほどだ。
そんな優秀なタンクを、たった一太刀で吹き飛ばし、軽いと豪語する目の前の少女。
「この子は、忍び装束の子と違ってパワータイプってことか!」
テオスは、手の震えを無理やり抑え込みながらも、みずからを奮い立たせるように声を上げる。
「だったら、速さで翻弄すればいいだけの話だっ!」




