第30話 主人公くんが来たせいで忙しい俺は、とてもいいアイデアを閃く
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テオスくんは恐らく500ページ台の魔術を使用できるだろう。 となると領域鑑定や魔力探知などの探索系魔術も使用が可能と考えられるわけで……
「分身体が狙われたのは、俺の魔力が魔力探知に引っかかったからだろうな」
「となると、宝州へ偵察に向かおうにも、我々ゲマトリアの動向は筒抜けになるというわけですね」
ヴァブは難しそうな顔で顎を撫でていた。
ここにいるメンバーは、シェンルゥやメイハオちゃん以外魔造人間だ。 俺の魔力で作り出した魔造人間のため、宝州に入った時点で魔力探知に引っかかると考えていいだろう。
そうなると隠密行動は愚か、テオス達に警戒されて欲しい情報も手に入らない。
「なあシェンルゥ」
「いやじゃ。 妾は外に出とうない」
「この引きこもりが! それでも人間たちに崇め奉られてる麒麟さんなんですかー?」
「好きに言えばよいではないか! 妾は絶対に行かんぞ!」
「いかんぞ!」
「メイハオちゃん。 変なノリ覚えなくていいから。 あと、メイハオちゃんがこのダンジョンから出るのは論外」
一番手っ取り早いのはシェンルゥが調査に向かってくれるということだが、まあシェンルゥは見た目的に嫌でも目立つし、この態度だと人間社会に馴染めるとは思えない。
シェンルゥを宝州に送るのはあくまで最終手段として、
「テオスを監視さえできれば聖マリヤム教の動きも予想しやすいだろうな。 となると魔力探知に引っかからない地点から望遠鏡で観察か?」
「望遠鏡でしたら、宝州の職人に依頼すればすぐに作成できるかと?」
この世界は結構アナログな道具に頼る傾向があるため、コンパスや望遠鏡などは今だに冒険者たちも使用するものだ。 俺の前世の知識をフル稼働させれば超望遠レンズを作るのもワケないだろう。
「となると、監視係はやっぱりサボらなそうなペペあたりが適任だろうな。 一番信用できるし」
「そうですね。 自分やユーティは顔が割れています。 万が一の事態を考えれば対応能力も高い上に献身的な働きを見せているペペが適任でしょう」
「ダンジョンの守りは武闘派四天王に任せておけば問題ないだろう」
フェイトに関しては火力の制御をきつく言いつければ事故は発生しないはずだ。 先日ダンジョンに侵入した冒険者を危うく消し炭にしかけていたため心配ではあるが、今は緊急事態なので仕方がない。
「よし、ダンジョンの守りは武闘派四天王に任せるとして、指揮はヴァブに頼む」
「結局事態の収拾ができずにおめおめ帰ることになってしまうとは……不覚です」
「こればっかりはイレギュラーが重なってたんだから仕方がない。 切り替えていくしかないだろう」
とはいえ、実際に街に入って情報を集められなくなるのは少々痛手過ぎる。 それでなくても今回の件は俺達の対応がなーなーだったせいであり、情報を先に入手できなくなるのは後々みずからの首を絞めることになるだろう。
今はとりあえずダンジョンの守りを固めて様子を見るしかない。 できる限り聖マリヤム教と思しき侵入者が来た際は最優先で俺に伝えるよう、武闘派四天王には口を酸っぱく言っておけばいいだろう。
「童、街に潜入するのはおぬしが作った魔造人間以外の人材でないとダメなのであろう?」
「お? もしかしてシェンルゥさん行ってくれる気になった感じ? 悪いんだけどお前は見た目的に結構目立つからさー」
「こやつらではダメなのか?」
シェンルゥがあっけらかんとした顔で指し示した先に並んでいたのは、先日シェンルゥにボコボコにされて契約するハメになったワシュハシュさんたちだった。
召喚したばかりの時はゴツい鬼のような様相だった彼らは、シェンルゥと契約したことによって姿を変貌させており、今は和装鎧に身を包んだむさ苦しい武士のような姿になっている。
「大鬼中隊の方々ですね? 確かに、戦闘になれば足手まといになりますが、情報収集なら何ら問題ないのでは?」
ヴァブも納得したように頷いている。
シェンルゥに恭しく頭を下げていた大鬼中隊中隊長に任命された鬼蔵が、ゆっくりと頭を上げながら手を上げる。
「大親分、発言を許可してくだせえ!」
「よーしなんでも言ってみろ鬼蔵くん」
「おれたちゃー戦うことは得意なんだべが、なにぶん情報収集とかそういう回りくどい仕事は苦手っつーか、なんつーか」
「確かに、こやつらは頭がこったんないからのう」
「そりゃーねーですぜ姉さん」
確かに、ワシュハシュたちは人型になったから宝州に入ってもなんら違和感はないだろう。 しかしシェンルゥの言う通り、こいつらは頭の作りが非常に悪いのも確か。
「でも着眼点は悪くないなー」
ふむふむと唸りながらこめかみをつついて考えてみる。
なにも、このダンジョンにいる人型魔獣はワシュハシュだけではない。 なんなら知能が高い魔物を召喚さえしてしまえば、情報収集ができるかつ戦力の増強にもつながる。
これっていい事ずくめなのではないだろうか? ……となれば方針は決まりだ。
「よし、ガチャの時間だ!」
「会長? また魔獣召喚をするのですか?」
「情報収集に向いてそうな頭の良い魔獣を召喚しよう。 そうすれば面倒なことはだいたい解決できるはずだ!」
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「えー続いての魔獣ですが、悪戯妖精のレルマレブです。 指名する方は挙手をお願いします」
「はいはいはーい! 将官が指名いたしますぞ!」
「ペペ、さっきも指名していた。 おまえ、なにも考えていない」
「あらあら、喧嘩はダメよみんな? 皆んなで仲良く話し合いしないとね?」
現在、宝州に潜伏させるために頭の良さそう、かつ言うことをしっかり聞いてくれそうな魔獣を召喚しようとしているのだが、なにぶん惜しい魔獣しか召喚できない。
レルマレブは悪戯妖精と呼ばれている魔獣のため、重要な仕事を任せるのは少々ためらわれる。
とは言っても召喚してしまった手前、相席屋で気に入らない相手と当たった時のようにチェンジなんてものはできない。 よって、部下として欲しいゲマトリアがいれば立候補形式で募集をしているのだ。
ちなみに、今のところ三体召喚しているが、ペペとフェイトは毎回立候補している。
「では、恨みっこなしのじゃんけん大会スタートです」
司会進行を務めるヴァブさんの合図で、立候補した三人はウキウキした表情でじゃんけんの準備をしている。
一方、召喚されたレルマレブはと言うと……
「おい舐めてんのか人間!」
「なにみてんだこらぁ! 俺たちゃー見世物じゃねーんだぞ?」
「いたずらしちゃう? いたずらしちゃう?」
耳障りな金切り声を上げながら憤っているので、俺が空間創造構成式で拘束することにした。
突然動けなくなったレルマレブたちはワーキャーと騒ぐが、三度のアイコを経て勝利を掴んだヴェートが、天高々とガッツポーズを掲げた。
「うふふ、勝っちゃったわよ!」
「あちゃー、また負けてしまいましたか!」
「ぐぬぬ、なぜ勝てない」
フェイトに関してはすでに部下がいるはずなのだが……毎回手を上げるのはきっと、骨のある敵と戦いたくて仕方がないだけだろう。
「よーし悪戯妖精ちゃん達! ママがしっかりお世話してあげるから、かかってらっしゃい!」
ヴェートは愛用武器であるフライパンを構え、むふんと鼻を鳴らして召喚陣の前に立った。
「準備いーか? 拘束解くぞ?」
「いつでもオッケーですよ旦那様! ママがこの子達をしっかり改心させますからね!」
フライパンを構えながら言われても全く怖くないのだが、まあヴェートはこう見えてかなり強いから、心配はないだろう。
拘束を解いた瞬間、レルマレブ達は不良少年のような決め台詞を吐きながらヴェートへと標的を定めた。
「ちょーしこいでんじゃねーぞこらぁ!」
「痛い目にあいたくなきゃ、とっととお家にかえれうらぁ!」
「ぶちかましてやるぜおらぁ!」
レルマレブが得意とするのは精霊術だ。 大気中に漂う精霊との親和性が高ければ高いほどその力を発揮できる特殊な術で、仕組みはよく分からない。
簡単に説明するならば、精霊と仲良くなればなるほど強くなる。
精霊術の恩恵は主にステータスアップや相手のステータスダウン。 要はバフとデバフを基礎とした属性攻撃が主なもの。
最大の特徴は攻撃速度だろう。 仙術や魔術と違い文字の構成や法印の使用がないため、先手を打ちやすいという利点がある。
レルマレブ達の放つ精霊火球はプロ野球選手の豪速球のような速さで飛来する。 それも、召喚されたレルマレブ約十二体がほぼ同時に。
「これは、手を貸した方がいいか?」
「ふわぁ〜、いらんであろうな」
あくびしながら応えるシェンルゥに、お前なんて責任感のないやつなんだと言いたいのもつかの間!
「まずはその可愛くない言葉遣いから治してあげないとね!」
フライパンを両手で握ったヴェートは、火球が来るタイミングを見計らい動足を軽く上げて……
カッキーン! ホームラン!
「打ち返すんかい!」
思わず脳内で頭の悪い感想が出てしまった。 そしてツッコミも雑になった。
「あやつ! 反射の魔術を使っておるのか?」
言うまでもなく使っていない。 ヴェートは時空干渉構成式の使い手だ。
体内時間を加速させたり、間合いに入ったあらゆるものの時間経過を遅らせることができる。
どんな豪速球が飛んできても止まって見えるくらい早く動けるし、なんなら狙いを定めて的確に打ち返すほどの余裕すらあるようだ。
十二球すべての火球を難なく打ち返し、悲鳴を上げているレルマレブたちへ間髪入れず突進していくヴェート。
「いたずらばっかりしている悪い子には、正座一時間の罰を与えます!」
正座の罰を与えると宣言しながらの、フライパンでのげんこつ。 こんな理不尽なママがいたら、逆にこの子達グレちゃうんじゃないか?
そんなどうでもいいことを考えながら、見事ボコボコにされたレルマレブが泣きながら契約させられる光景を、温かい目で見守る俺であったとさ。




