第29話 どうにか問題を収集した俺は、何も考えず寝ていたいと乞い願う
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一時はどうなることかと思ったが、特段やばい事態には至らず問題を収拾できた。
俺があのときモニタリングしてなかったらテオスくんは今頃ユーティに殺されていただろう。 助けられてよかったー。
かかわられると面倒だけど、さすがに命を奪ってしまったら後味が悪くなる。 と、冷や汗をこぼしながらホッと息をつき、ダンジョンに帰還してくる。
すると、転移陣を使用して最終階層に戻ってきた俺をお出迎えしてくれたのは、いつの間にか仲良しになっておててを繋いでしまっているシェンルゥとメイハオちゃん。
「童、おぬし何やら楽しそうなことをしておったのう。 妾をのけ者にして」
「シェンルゥお姉様、可哀想」
「何だ君たち、随分と仲良くなったんだね?」
手のひらを返しながらも、最終階層に作っていた自室へ向かおうとすると、なに食わぬ顔で後ろについて来るシェンルゥとメイハオちゃん。
「メイハオ、せんじゅちゅ操れるようになった!」
「それは良かったじゃないかメイハオちゃん。 これからはシェンルゥに色々教えてもらえよ?」
「おい童、妾の質問に答えておらんぞ? 先ほどおぬしが作った分身体がズタボロの状態で帰ってきおったぞ? 今はダレットのところで治療を受けているようだが、お主に対して相当にフラストレーションが溜まっておるようだったな」
「ダレットが診てるならもう安心だ! さてさて、それよりも今は厄介な問題を解決するために集中したいんだ。 だからなに食わぬ顔で俺の部屋まで上がり込んでくるのはやめろ」
自室についたというのに、さり気なくベットを占領しやがるシェンルゥ。 そしてベットに腰掛けたシェンルゥのお膝を占領するメイハオちゃん。
息ぴったりだなおまえら。
「ほうほう、厄介な問題とな?」
「もんだいとな?」
「論点をすり替えようとするな」
最終階層の片隅に作成した自室。 土壁の魔術で壁と天井を作成し、ベットと作業机を置いた五畳ほどの俺の至福の場所。
ベットは粘土の土台にヴェートが作ってくれたフカフカの寝具をセットしており、暇つぶしのためにヴァブに仕入れさせたこの世界の娯楽小説が俺の背丈を超える本棚に搭載されている。
一人暮らしの男の部屋と言ったらこの質素さがいいのだ。 だからおれのこのエデンに土足で入り込む輩は許さん。
もう色々ありすぎて疲れたんだから、現実逃避してボーっとする時間をくれ。
「頼むから俺が自室に入った時は、一人で物思いにふけりたいときだと察してくれ」
「おぬしの悩みを当ててやろう! ズバリ、テオスがあの街にいるということは、聖マリヤム教も宝州に滞在していると推測できるという点であろう!」
「なん……だと?」
そう、テオスくん自体はチョチョイと倒せるので大した問題ではない。 一番の問題はテオスにつきまとう聖マリヤム教だ。
「ヴァブが調査しておった資料を読んでおったのだ。 調べによると商人に扮して聖マリヤム教や罪魔派と思われる団体が潜んでいたらしいぞ? テオスが宝州に来たとあっては一大事であろうな?」
テオスが捕まる分には俺は対して痛手ではない。 一番の問題は、このダンジョン内にメイハオちゃんというマリヤム直系の娘がいるという点だ。
聖マリヤム教の注意がテオスに完全に向いてくれるのなら御の字、だがなにかの拍子にこのダンジョン内で匿っているメイハオちゃんが見つかるのはマジでマズイ。
「どうするのじゃ? テオスが見つかったとマリヤム教内部で情報が広まれば、宝州の街には聖マリヤム教の構成員が集まってくるかもしれんぞ?」
聖マリヤム教の大司教は、物語終盤で戦うことになる文句なしの強キャラ。 推奨レベルは70後半は当たり前。
しかしながらあいつらが使う魔術は少々面倒というか何というか、ぶっちゃけ推奨レベルに騙されると手も足も出ないままやられる。
戦うためには必要な装備やら道具やらが色々と必要になってくるのだ。 聖マリヤム教と戦うことなど想定していない俺は、そんな準備一切していない。
ぐぬぬぬぬ、マズイことになってきた。 メイハオちゃんを匿っていなければこんな面倒な悩みなど抱えなかったというのに!
魔水晶を大量にゲットできたのは嬉しいが、とんだ爆弾もついてきたもんだ。
「もしかしたら、聖マリヤム教の大司教も来るかもしれんなー?」
何故か楽しそうなシェンルゥ。 その様子を見てキャッキャと嬉しそうにはしゃぎだすメイハオちゃん。
こいつら……人ごとだと思って呑気にくつろぎやがって! せっかく帰ってきたのにゆっくりする時間すらないのかよ!
「ユーティとヴァブ呼んでこい! 今すぐ対応策を考えるぞ!」
「かっかっか! そうこなくてはな!」
「こなくてはな!」
結局、シェンルゥの口車に乗せられた俺は緊急会議を発令してしまうのであった。
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宝州の冒険者診療所に、ボロボロのテオスが帰還する。
するとタイミングよく、息を切らしながら街中を駆け回っていた少女が診療所の前を通りすがろうとした。
少女は誰かを探していたのか、忙しなく視線を右往左往させながら駆けていたのだが、帰還したテオスを発見して急停止する。
恐らく探していたのはテオスだったのだろう。 少女は血相を変えてテオスの元へと駆け寄った。
「テオス! どうして一人で突っ走っちゃったの! あなたはいつも一人で無茶をして!」
毛先にゆるいカールがかかったカナリア色の髪を揺らしながら、小柄な少女が悲鳴混じりの声を上げていた。
少女は慌てて魔術大全を開くと、テオスの様子を見ながらすかさず魔術を構成していく。
「ラーニア。 ごめん、ティメルは取り逃がしたよ」
「そんな事はどうでもいいの! 早く怪我を直さないと! ちょっと、その右腕どうしたの? 粉砕骨折してるじゃない!」
ユーティの回転蹴りが直撃した右腕はパンパンに膨れ上がっており、クナイで貫かれた左足も力が入らず引きずっている。
概念干渉構成式:精密検査。 ラーニアと呼ばれた少女が使用した魔術は、対象の人間に魔力波を当て、体の状態を精密に検査するための構成式だ。
もはや敗残兵のような有り様になっているテオスを見て、ラーニアと呼ばれた娘はヒステリックに叫びちらしてしまう。
「こんなになるまで無茶をして! 今度という今度は許さないんだから!」
「おいおいやかましいぞラーニア。 ここは他の怪我人もいるんだからもう少し静かにしろ。 奥には全身大火傷を負った重症人もいるんだぞ?」
そんなラーニアを落ち着かせたのは、診療所の奥から困った顔で現れた軽薄そうな男。
トビ色の短い髪の毛は毛先を遊ばせており、見るからに女遊びがひどそうな優男。
その優男の後ろから、彼にひっつくように隠れていた少女が顔をひょっこり出してきた。
ウグイス色の髪の毛を三つ編みに括った少女で、髪の量が多いのか三つ編みはかなりボリューミーになっており、おどおどと視線を泳がせている様は自信のなさがうかがえる。
案の定、ウグイス髪の少女は大怪我を負っていたテオスを見てアワアワと口をもにょつかせてしまった。
「ててて、テオスくん! ひどい怪我……」
「お前も落ち着けパリサ。 歩けてるだけまだマシだろ? さっき運ばれてきた大火傷の冒険者は、後数分搬送が送れてたら命に関わってたんだからな」
オドオドしながら優男の背中から声を上げたのはパリサという少女。 優男の妹であり、人見知りのためいつも兄の後ろにひっついている引っ込み思案の少女。
壁にもたれながら苦しそうな顔をしていたテオスは、肩を竦めていた優男へ困り顔を向ける。
「エラム、ヘラヘラ笑ってないで肩貸してくれよ」
「はいよ。 ったーく、一人で突っ走って一人でボロボロになっちまって。 たまには俺らのことも頼ってくれていいんだからな?」
「ああ、そうさせてもらおうかな。 今回ばっかりは僕一人じゃ対抗できなさそうだ」
「今回も、だろ? にしても、お前が素直に助け求めてくるのは驚きだな。 そんなにティメルの野郎は強かったのか? やつが根城にしてるっつーダンジョンにも、出会い頭に高火力の火炎放射をブッパなってくる、殺戮ツインテールなる強敵がいるみたいだぜ?」
皮肉めいた笑みを浮かべながらも律儀にテオスに肩を貸している優男はエラム。 テオスの親友であり、見た目に似合わず人当たりがよく面倒見がいい少年だ。
「たぶん、君が言ってるその殺戮ツインテールとかいう子は、ティメルくんが作った魔造人間だろうね。 僕もさっき、忍び装束の少女に完膚なきまでに叩きのめされたよ」
「その忍び装束って、暗殺者ギルドの奴らが手も足も出なかったとかいうバケモノか? ティメルの野郎はとんでもない兵器でも作ってるってのか? ったく、となるとあいつ本体を倒すしかない感じか」
「無理だよ。 きっと今のティメル君は、その殺戮ツインテールとか僕が戦った忍び装束よりも格段に強い」
「おいおい、冗談だろ? ティメルは俺らと同期の魔術師だぜ? こんな短期間でそこまで差が開くとは思えねーぞ?」
エラムが驚いたような口調で横目にテオスを伺うが、テオスの瞳に写っていた恐怖を見透かしたのか、ヘラヘラしていた顔を一瞬にして強張らせてしまう。
「あれは、強いなんて次元じゃない。 魔力量が異常だ……バケモノだよ、あの男は」
テオスは学生ながらに国内最強との呼び声が高い魔術師だ。 そんなテオスがバケモノと称するティメルという賞金首。
真っ向勝負では勝てる見込みは皆無と考えてもいいだろう。
「テオス、まずは傷を癒やすことに専念しよう。 話はお前の怪我が落ち着いたら全員で聞く」
「そうだね、もう意識を保つのがやっとだよ。 悪いけど少し休ませてもらう」
エラムに肩を貸してもらい、ようやくまともに歩けるようになったテオスを、ラーニアとパリサは放心状態で見送っていた。




