第28話 大方事情を聞いた俺は、もうひとりの俺と喧嘩する
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「なるほどな、それでもうひとりの俺はボロ雑巾みたいになっているわけだ」
「お前がぐーたらしてるから俺達が後手に回ってんだよ」
「そうカッカしないでくれよもう一人の俺。 仕方がないじゃないか、こっちだってメイハオちゃんの件とか色々あったんだからさ」
「どーせお気に入りの麒麟さんとイチャコラしてたんだろ?」
「イチャコラはしてねーわ」
「お二人共! 今は言い争っている場合ではありません!」
暇だったから分身体のモニタリングをしようと思っていたのだが、なぜか知らないが分身体が傷だらけで林の中に寝っ転がってるし、ヴァブさんがあたふたしながら分身体の手当してるし……
なにがなんやらわからないままダンジョンを飛び出して駆けつけてきた俺は、ヴァブさんからなにが起きたかを聞かされることになった。
「それで? 今はユーティが一人でテオスくんの足止めをしてると?」
「ええ、その通りです! すぐに助けに行ってあげて下さい!」
「確かにもう一人の俺とヴァブさん二人がかりでボッコボコにされてたんなら、今のテオスくんのレベルは予想よりも高いと推測できるだろうな」
ユーティは戦闘特化の設定にしているとは言え、流石に固有魔術持ちのテオス相手には分が悪いだろう。
ササッと領域鑑定でテオスくんたちの位置を探ってみる。
魔力を多めに込めれば、数キロ先にいたところで領域鑑定なら居場所が丸わかりだ。 居場所はすぐに分かる。
・・・分かったところで、驚きの事実が判明してしまったのだが?
「おーいたいた。 ふむふむ、なるほどねー」
「会長! もう一人の会長は自分が診ていますので、お早く援軍へ向かってあげて下さい!」
「なんだかね~、五分五分? って言うか、押してるっぽいよ?」
「えぇ?」
「俺思ったんだけどさ。 ぶっちゃけ、ヴァブさんも本気出そうと思えばテオスくんといい勝負できたでしょ?」
「それはまあ、なんと言いますか」
ちらりと分身体を盗み見るヴァブだったが、分身体はその視線に目ざとく気がついており、
「足手まといがいたら満足に戦えねーよな。 しょうがねーよ、俺のオリジナル様はコストがもったいないとかくだらねー理由で俺に搭載した魔術は必要最低限しか用意しなかったんだからさ!」
「カスディム文字を書くのが面倒だったとも言う」
「余計クソッタレな理由だなおい。 俺が思っている以上に俺のオリジナルはクソ野郎だったか?」
「おいおいもう一人の俺、あくまで俺はお前のオリジナルなんだ。 俺のことをクソ野郎呼ばわりするということはな、事実上お前は自分のことをクソ野郎と呼んでいると言っても過言ではないわけで……」
「くだらない話はいいですから! 早く助けに行って下さい!」
もう一人の俺とくだらない問答をしていたら、ヴァブさんに背中をバシバシ叩かれてしまった。 仕方がないので加速と浮遊の魔術を重ねて発動し、テオスくんたちが戦っている場所までぶっ飛んでいく。
「俺だって、魔術大全さえあればあのくらいできるっての!」
「もう一人の会長、今はとりあえずダンジョンへ帰還しましょう! そのお怪我では機能に支障が出てしまいます!」
ぶっきらぼうな顔のままヴァブにおぶられていた分身体は、自らの身体に書き込まれていたカスディム文字を眺めながら悔しそうに下唇を噛んでいた。
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「くっ! 反射に湾曲……それに間合延長? どれも構成速度が早いし使うタイミングがうますぎる!」
「テオス殿、おしゃべりをしている余裕があるのでしょうか? そろそろ聖獣が顕現している時間が終了するのでは?」
苦悶の表情でユーティの猛攻を必死に捌き続けるテオス。 ユーティの力学干渉構成式による多段攻撃を前に、強化状態に入っているはずのテオスは……防戦一方に押しやられてしまっている。
(反撃しようにも息をするように反射の魔術を使ってくるし、ダメージ覚悟で攻撃しようにも、そういうときに限って加速の魔術を使用してひらりとかわされる! なんなんだこの子は!)
ルーンドラゴン召喚による間合延長で、二刀流モードのテオスは攻撃特化になっている。 しかしながらユーティの恐ろしさは、構成速度も構成難易度も高い反射の魔術を呼吸するように自然に発動させるという魔術の構成速度。
体に書かれているカスディム文字に魔力を流すだけで構成が完了するゲマトリアたちは、魔術の構成が精密かつ高速に展開されるため、固有魔術を持っていないとしても基礎の性能がそこらの魔術師たちとは桁違い。
力学干渉構成式は割と低いレベルで覚えられる低級の魔術だと勘違いされがちだが、使いこなしてしまえばその強さは群を抜く。
実際、マジシャンズ・フロンティアで作られたオンラインサーバー内でも、対人戦で頭一つ抜けて強いプレーヤーたちはこの力学干渉構成式を手足のように使いこなしていた。
ユーティはティメルの前世の記憶を書き込まれている。 そして書き込まれているその記憶は、まさにその対人戦のエキスパートと言われていた動画投稿主の立ち回りを参照にしたものだ。
「タイムオーバーですテオス殿」
「しまっ!」
ユーティの冷たい声音とともに、ルーンドラゴンの召喚時間が終了し、湾曲の魔術によって不自然な軌道で飛んできたクナイがつま先に突き刺さる。
「まずは機動力を削ぎ、次は攻撃の手を止めさせるため……腕を潰す」
「ぬぐぅ!」
つま先をクナイで串刺しにされ、バランスを崩したテオスの右腕にユーティの回転蹴りが炸裂。
(蹴りそのものに加速の構成式を? 速さを乗せた事による負荷攻撃? なんて応用力だ!)
テオスの腕はメキメキと音を立てながら変形し、衝撃で数メーターの距離を飛ばされる。
歯を食いしばりながらもテオスは唯一無事に動かせる右腕で地面に剣をつきたて、まだ無事な片足を踏ん張らせて減速しようとするが……
「力学干渉構成式:摩擦軽減」
「クソっ!」
摩擦軽減は摩擦による抵抗をなくす術式。 よって踏ん張ろうとしていた片足はスリップして背中を地面に強打してしまう。
それでもユーティのハメ技は終わらない。
「力学干渉構成式:重力倍加」
「なんだ、その構成速度! 反則じゃないか!」
転倒したところで重力を倍にする構成式で地面に叩きつける。 全身にかかる重力に抵抗できず、テオスは苦悶の表情を浮かべることしかできない。
「終わりだ」
そして、重力が倍になり動きが遅くなったテオスにまたがるように構えたユーティは、抵抗できないテオスへ向け、両手で振り上げていたクナイを無慈悲に突き立てようとする。
慌てて立ち上がろうと唯一動く片腕片足に力を入れようとするが、重力の負荷に加え摩擦軽減により力が入らないテオスはなにも抵抗できず。 生まれたての子鹿のように手足を無様に踊らせることしかできない。
(まずいっ! 殺され……)
「はーいストーーーップ! ユーティちゃん、殺すのはあかんですよ」
脳裏に死の恐怖を植え付けたテオスの耳朶を、気が抜けそうな声が揺らす。
「ですが主、ここはダンジョンの外ですので殺傷は禁じられておりません」
「恐ろしいこと言いなさんな。 ダンジョン内だろうと外だろうと、ダメなもんはダメなんです」
「主がそう仰せなら……」
テオスにまたがるように立っていたユーティは、驚くほどあっさりと振り上げていたクナイを下ろした。
間一髪で命をつないだことに安堵するテオスだったが、聞こえてきた声は聞き覚えのある声だったため、まだ油断は許せない。
「その声に、その魔力……ティメル君、本人だね?」
「おひさっすねーテオスくん。 元気にしてた?」
「ははは、これで元気に見えるのかな?」
警戒しながらも苦笑いを浮かべるテオスに、ティメルは胡散臭い笑顔を返す。
「喋れてるんだもん元気だよねー。 とりあえず、可愛そうだから回復してあげようか?」
「敵の情けなんか受けないよ」
「あらそう? じゃあ言い方を変えようか?」
次の瞬間。 ティメルの体から濃密な魔力が流れ出し、テオスは思わず総毛立った。
「君ごとき、万全の体制で挑まれたところで怖くないから、回復してあげようか?」
底冷えするような声で、殺気をにじませた言葉を紡いでいくティメル。
「俺が作った魔造人間すら倒せないような君が、これ以上正義感かざしてしゃしゃり出てくるんなら、二度と戦おうだなんてバカな考えなくなるようボコボコにしてやるよ。 それが嫌ならここで手を引いてくれない? そもそも君……俺がこの子止めなかったら、今頃この世にいなかったんだからね?」
圧倒的な魔力量の差を前に、テオスは喉を震わせるばかりで声を発することができない。
「そっちがこれ以上俺に干渉しないなら、俺もそっちには干渉しないから。 分かったら尻尾巻いて国に帰るのが英断だよ? 皇帝さんにもそう伝えといてくれる?」
それだけ言い残し、ティメルはユーティを引き連れてものすごい速さで空を駆けていく。
その姿を呆然と見送ったテオスは、二人の姿が見えなくなった瞬間に驚愕の汗を流す。
「な、何だ今の……浮遊の構成式と加速の構成式であれほどの速度が出るか? なんていう魔力総量? あの魔力量……人間が有していい量じゃないぞ!」
テオスは、しばらく震えたままその場を動くことはできなかった。




