第27話 過去編を聞いていた俺は、主人公様の能力に嫉妬する
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マジシャンズ・フロンティアにおいて、キーキャラクターとなる登場人物には固有魔術という特有の魔術が存在する。
無論、主人公であるテオス・メルレインはゲーム内においても破格の強さを誇る固有魔術が備わっていた。
「ったくよ! 俺のオリジナルは持ってねーんだよ、その固有魔術とか言うチート技!」
「よくわからないことを言うね。 それに、なんで分身体なのに言語を話せるのかな?」
爽やかな笑顔を浮かべながら、苦悶の表情を浮かべている分身体へ猛攻を仕掛けるテオス。
その右手には豪華な装飾が施された両刃の剣が、その左手にはテオスの体躯とほぼ同じ大きさの片刃の刀が握られている。
「固有魔術:英雄七変化! 七人の英雄たちの魂をその身に憑依させる、魂魄創造構成式を得意とするテオスの、唯一無二の無敵魔術! なんで魔術師が剣ぶん回すんだよ! 解釈違いだっつーの!」
魔術師は得意とする魔術が個々人によって違う。 テオスの場合、得意とする魔術は魂魄創造魔術。
魂魄を創造し自身の手足のごとく稼働させるこの創造魔術は、テイマーや召喚士と言った呼ばれ方をする事が多いが。 この魔術を極めるとその身に様々な力を有した魂を憑依させることすら可能になる。
「二刀流の英傑、アスレアの魂を憑依させた超攻撃特化モードか。 2〜3発で窒素障壁をぶち抜きやがって……クソが!」
「逃げてるだけじゃどうしようもないだろう? 早くティメル君本人を呼んでくれよ」
舞うように二本の剣を踊らせ、ティメルの右腕をなんの遠慮もなく斬り飛ばそうとするテオス。 バランスを崩していた分身体はテオスの剣技に反応できず、悔しげに歯を食いしばるが……
「概念干渉構成式:確率変動!」
ヴァブが構成した魔術が発動し、テオスの振り抜いた剣は不自然な軌道に変わる。
「厄介だなー、君の概念干渉魔術は」
不発に終わった剣の軌道を横目に、テオスはあっけらかんとした声音で呟いた。
「ナイスだぞヴァブ! お前の確変は唯一の攻略筋だ!」
確変と略される確率変動の魔術は、確率という概念に干渉した便利な魔術である。
「100%の確率で当たる攻撃は確率が変動し、当たる確率が0%になる。 逆に、50%の確率で当たる攻撃は確率変動を起こさない。 使うタイミングがシビアなこの魔術ですが、自分は会長のお陰でその確率という概念を数値化してこの眼鏡に映すことが可能!」
ヴァブの黒縁眼鏡には特殊加工されたレンズが取り付けられている。 この眼鏡には概念干渉構成式:確率読解という確率を数値化して目視できるようになる魔術が取り付いているのだ。
ダンジョン内の開拓計画や三村統合の立役を担ったのはこの確率読解という魔術が大きく関わっており。 ヴァブは数字に関する事柄を効率的にこなすことが可能。
概念干渉構成式をその身に書き記したヴァブは、あらゆる概念に対して強い対応力を見せているのだ。
「本来なら概念干渉構成式は戦いの中で運用するには複雑すぎて難しいはずなんだけど……君はどうやら、概念干渉構成式のエキスパートとして作られた魔造人間らしいね」
「お褒めに預かり光栄ですテオスさん。 その慧眼を見越して提案いたしますが……今の状況的に二対一。 圧倒的に不利だと思われますので、大人しく撤退していただいたほうがいいと思いますよ?」
「面白いことを言うじゃないか。 僕を相手にしてると言うのに、二人だけで止められるとでも思ったのかい?」
額から大粒の汗をこぼしながら提案してきたヴァブへ、清々しいほどの笑みを浮かべながら応えるテオス。
「魔術大全【第400頁】魂魄創造構成式:聖獣召喚」
聖獣召喚。 それは魔物召喚とは対を成す魔術であり、人類を守ると言われている聖獣の力を短時間借りることが可能な魔術。
聖獣の強さは人類の限界を優に凌駕する強さを誇っており、一体召喚するだけで劣勢を優勢に変えてしまうことすら可能。
「ここで奥の手かよ」
テオスを守るように現出したのは、淡い緑の光を放つ中型のドラゴン。
全長は3メーターに達するか達さないかの大きさだが、長い尾は主人を守るように巻いており、小さな翼は天使のような純白。
細長いシャープな顔つきをしたそのドラゴンは、猛々しさと言うよりも凛々しさを秘めた。 美しい体躯をした神秘的なドラゴン。
すでに全身ズタボロ状態だった分身体は、テオスが召喚した聖獣を見て苦笑いを浮かべる。
「さて、紹介するまでもなく知ってると思うけど。 僕が力を貸してもらう聖獣はルーンドラゴンだ。 術者の魔力を常時回復してくれる上に、術者の魔力総量に応じて全ステータスにバフがかかる。 これで二対二になったね? それじゃあ戦いを再開させようか」
主人公テオスが召喚する聖獣は、マジフロ内でも最強格と言われているルーンドラゴン。
常時術者の魔力を超回復するため、聖獣召喚中は魔術を使い放題になり、更には術者の魔力総量に応じて全ステータスが上昇し、その上昇値を術者と共有することが可能。
元々のステータスは低いルーンドラゴンだが、存在するだけで非常に強力なその聖獣は、他の戦闘系聖獣を差し置いて最強格と称されるほどに優秀な性能を秘めている。
「魔術大全【第41頁】物質創造構成式:間合延長」
「うっぜー!」
単純に所持している武器の間合いを二倍に増加させるその魔術は、現在英雄七変化の効果で二刀流モードになっているテオスが使用すると脅威にしかならない。
本来なら英雄憑依状態でこの魔術を使用するのは消費魔力が著しく不可能とされているが、それを可能にしてしまうのがルーンドラゴンだ。
瞬く間に全身斬り傷まみれになってしまった分身体は、歯を食いしばりながらも加速の術式で後方に大きく跳躍する。
だが、ルーンドラゴンを召喚したテオスは魔力残量など気にせず魔術を使いたい放題だ。
加速に加えて浮遊の術式で一気に距離を詰めてくるため、特定の魔術しか使用できない分身体は彼の猛攻から逃げることが不可能。
「もう一人の会長!」
悲鳴混じりの声を上げるヴァブ。 クロス状にした二本の剣を遠慮なく分身体の首へ向けたテオスは、勝利を確信したかのように口角を吊り上げたのだが……
「……まずい!」
テオスはとっさに分身体の首ではなく、急所をあえてはずす攻撃にすり替えた。
「ほう、今のに反応したか。 やはり主が注視するほどの魔術師だけはあるな」
「反射の魔術かな? 反応が送れてたら僕が危なかったよ」
みずからの胸部にクロス状の切り傷をつけたテオスが、苦笑いを浮かべながら記憶干渉構成式の治癒を発動させながらみずからの傷を癒やす。
先ほど分身体を襲うはずだった剣の傷は、そっくりそのままテオスへと反射していた。
それもそのはず、間一髪のところで二人の間に一人の少女が割り込んでいたのだから。
「ユーティ? あなたどうしてここに?」
「偵察任務の最中、あなた方が目に入った故。 助太刀しようヴァブ殿」
「会長には知らせたのですか?」
「主なら……まあ、聞かれた時に報告しておけば問題ないでしょう」
ユーティはいつも命令される前に行動を起こすため、非常に優秀だとティメル本体から絶賛されている。 彼女の仕事は、ダンジョン周辺の偵察だ。
幸いにもこの時間帯にダンジョン内への侵入者はいなかったため、いつも通りユーティはダンジョン周辺の偵察任務についていた。
以前から勝手に野ウサギや猪を捕獲したり、命令される前に周辺の村の調査をしていたユーティだが、命令を待たずに先走る傾向が今回も功を奏し、危うく首が飛びかけていた分身体を救うことに成功した。
「お初にお目にかかる、テオス殿。 拙者の名はユーティ。 ゲマトリアの武闘派と称される我が力、存分にお見せしよう」
「忍び装束……ふーん、君が例の? どうやら単純な戦闘能力に関しては、そこのメガネの子よりも上みたいだね? これは、少々面倒な仕事になりそうだよ」
テオスは瞬く間に胸の傷を治癒させ、先程まで余裕を浮かべていた表情を真剣なものへと切り替えていた。




