第23話 罠作りを始めた俺は、思いも寄らない来客に驚く
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「あの、隊長? 小官はひどい目にあうと分かっているのにこのタイルに足を踏み入れるのは、何分抵抗がございましてですね」
「なぁーに気にすることはないぞぺぺさんや。 これは侵入者迎撃用の罠だから、これの実験と称して足を踏み入れればひどい目に会うことは確かだ。 だがそれはな、俺が作ったこの罠にはじめてかかったゥヲンナという名誉の称号を得ることに変わりないのだ」
人差し指を立てながら、オドオドするペペを説得する俺。
「ぅおんな、っていい方はどうかと思うのじゃが?」
「隊長が作った罠にはじめてかかったオンナになれると……」
「そうだぞペペ。 はじめてのゥヲンナになれるんだ」
「隊長の、はじめてのオンナに……小官はなるっ!」
ペペは愛すべきバカなところがある。 違う言い方をするならちょろい。
意を決したペペが、決死の覚悟で足を踏み入れた途端、
「あぱーっ!」
「ぎゃっはっはっはっはっはっはっはっは!」
「……鬼かおぬしは」
すってんころりんと転ぶペペを見て腹を抱えて笑ってしまった俺である。
「あいたたたたた、おしりがすごく痛いですが……これで小官は、隊長のはじめてのオンナになれました!」
「あー、うん、ありがとな。 すばらしいずっこけっぷりだったぞ」
こちらのタイルは、ヴァブにお願いして、宝州の職人に作成を依頼した御影石のタイルだ。 そのタイルに俺みずから力学干渉構成式を書き込み、その構成式を永続発動させるため魔水晶のかけらをセットしたもの。
書き込んだ構成式に魔水晶のかけらが魔力を注ぐことで、半永続的に罠を発動させることができる。
ちなみにこのタイルに仕込んだ魔術は、魔術大全【第48頁】力学干渉構成式:摩擦軽減だ。 つまりこのタイルに足を踏み入れた瞬間ツルッと滑る。
「いやー、この罠は傑作だ。 早速導入しようじゃないか」
「かしこまりました隊長! これよりこの罠を武闘派四天王殿に売り込んできます!」
「頼んだぞー」
御影石のタイルを抱えてスタスタ駆けていくペペの背中を見送る俺。
俺はここ最近罠作成に没頭しており、性格の悪い罠を大量に作成している。
タイルを踏むと意識干渉構成式の睡眠が発動するすやすやタイル。 湾曲の魔術によって光を湾曲させ、限りなく視認しづらくなっている半透明なワイヤー。
他にも意識干渉構成式:痛覚刺激を付与した足つぼタイルから、概念干渉構成式:方向錯誤によって方向感覚が狂ってしまう混乱タイル。
「罠考えるの楽しすぎんだろ!」
「おぬしがバットエンド回避できなかった理由はのう、そう言うところなのではないか?」
「はぁ? どう言うところだよ」
「……うむ、なんでもないから忘れよ」
気まずそうな顔で視線をそらすシェンルゥにムッとしていると、ダンジョン整備のために仮拠点にしていた五階層に、来訪者が訪れた。
「メイハオ、来た」
「おやおやメイハオちゃん? 君から俺のところに来るなんて珍しいね」
「ヴェートママと、喧嘩した」
「ぅえ? ヴェートと喧嘩だって? 一体何が起きたってんでぃ!」
涙目で現れたメイハオちゃんの発言に驚いていると、シェンルゥはふむふむと唸りながら人差し指を立てる。
「以前からヴェートママはのう、おぬしと小娘が仲良くなるよう試行錯誤しておったのだ」
「それは知ってるけど?」
「おそらくその関係で喧嘩したのではなかろうか?」
シェンルゥがそんな事言いながらメイハオちゃんに視線を送ると、今にも泣きそうな顔でコクリと頷くメイハオちゃん。
「んなこと言われてもな、俺に何しろってんだよ」
「メイハオと、仲良くして」
「いやいや、仲良くしようとしてるのに吹雪を発生させたり氷柱飛ばしてきたのはお前だろぅがい」
「だって、お兄ちゃんが、メイハオに……意地悪したから」
「俺は意地悪などしてません」
身に覚えのない指摘を受け、俺もムキになって反論してしまうが、シェンルゥは呆れながら肩をすぼめる。
「のうおぬし、小娘を地面に埋め立てたことや、乖離砲で鼻先をかすめた件は謝ったのかえ?」
「なぜ俺が謝る必要がある?」
「そりゃあそうじゃろう。 あれは流石に鬼畜であろうて」
シェンルゥのくせになんか大人びたことを言ってくる。 俺は生き残るのに必死だっただけだぞ?
とは言ったものの、最近は罠を考えたりダンジョンのあれこれにかかりっきりでメイハオちゃんに会っても挨拶すらしていなければ、会話すらしていなかった。
ヴェートはその事を少々気にかけていたのだろう。 別にこちらから仲良くなろうとすることには問題ないが、あんまり仲良くなりすぎると他の施設に預ける際情が湧く可能性がある。
それも相まって最近はあまり深くかかわらないようにしていたのだが?
「そもそも乖離砲も地面に埋めたのも、お前が俺を殺しにかかってきたからだからな?」
「メイハオ、記憶ないの」
「記憶がないからと言ってなんでも許されると思うなよ? 俺は危うく氷像にされかけたんだからな?」
「でもメイハオ、お兄ちゃんを襲った記憶、ない」
メイハオちゃんは俺を襲ったわけではないの一点張り。 だが俺は実際に死にかけているし、その場にはシェンルゥもいた。
「もしや小娘、おぬしは額に貼られていた札の影響で自我を失っておったのか?」
シェンルゥが眉をひしゃげながらそんな事を聞き始める。 それを聞いて俺も違和感に気がついた。
確かに、魔水晶から出てきたばかりのメイハオちゃんはカタコトだったし、殺戮兵器のような挙動をしていた。 まあ今も十分舌足らずだが……
それはともかく、俺の乖離砲が鼻先をかすめ、お札を焼き切った瞬間から年相応の反応を見せている。
あのお札になにか秘密があったのだろうか?
念の為回収していたメイハオちゃんのお札を異空間収納から取り出し、そこに書き込まれていた法印を観察してみる。
すると、シェンルゥも一緒になってその法印を覗き始めた。
「これは、とんでもなく複雑な法印であろうな」
「意味がまったくわからん。 これはなんの属性の法印だ?」
不思議な模様のお札だった。 金色に縁取りされたお札の中心にはなんの属性ともわからない法印が記されていて、無理やり解読しようとすると三種類の法印が混ざっていることに気が付かされる。
「これは、極寒と、瑞風と……落雷法印?」
「体温を削る法印に、酸素を送る法印……この落雷法印は、心臓の動きを補助する微弱な電流かのう? もしくは外敵を反射的に排除するよう、体を無理やり動かす微弱な電流を流しておったのか?」
「なんだその集中治療室みたいなラインナップは」
ニュアンス的に、冷凍保存している人間を死なせないよう延命させているようなラインナップに聞こえてくる。
シェンルゥと二人で困惑していたら、メイハオちゃんはちょこんと背伸びして俺とシェンルゥがじっと見ていたお札を覗き込もうとしてきた。
そしてそのお札に記されていた法印を見たメイハオちゃんは、目を見開いて嬉しそうな反応を見せる。
「パパが作ってくれたおふだだ!」
「パパが? 作った?」
「……この法印の精密さに応用力。 もしやおぬしの父親、メイファンというのではないか?」
やっぱりそうだったか、と言いたくなる俺をよそに、メイハオちゃんは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねていた。
「パパ! メイファン! パパの名前!」
「これは本格的に面倒だな」
推測が確信に変わったことで頭を抱えながらも、俺はメイファンというよく知っている名の人物のことをおさらいしていた。
メイファンと言う名の仙人のことを語るためには、ジュムフーリヤ帝国と華ノ国が不仲の原因になった事件に遡る。
かつて、華ノ国とジュムフーリヤ帝国は良好な関係を築いていた。 その理由としては、ジュムフーリヤ帝国最強の魔導士マリヤムと、華ノ国最強の仙人メイファンが恋仲にあったからだ。
二人の間には子供ができ、やがて子どもはすくすく育って国民からも人気になっていく。
だが、そんな平和な生活は長くは続かなかった。
二つの国に、魔導士と仙人は一人ずつしかいなかった。 その国の最大戦力である二人は、本気を出せば一人で国を潰すほどの強大な力を持っていた。
そしてその遺伝子を受け継いだ子どもたちもまた、強大な力を秘めている。
そんな強大な力は人々から恐れられ、自分たちに向けられたら対処ができないと考えてしまう。 そうなってくると、暴走した人間たちは暴挙に出てしまうのだ。
「やっぱりメイハオちゃんは、当時行われていた魔女狩りから逃げる最中に、マリヤムまたはメイファンによってあの遺跡に封印された……隠し子だったってわけね」
予想はしていたことだが、それが事実だと分かってしまうと、余計にこの子を手元においておくのをためらってしまう結果になってしまうのだった。




