第21話 本格的にダンジョンDIYを始めた俺は、自分の規格外さに気づかされる
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以前、転移の魔術陣を書こうとして誤字ってしまい、魔物召喚の魔術陣を書いてしまったことがある。
シェンルゥと出会ったのはその時の事故が原因だ。
本来なら魔物召喚なんて魔術は魔術大全には記されていない。 このゲームの設定によると、魔物召喚の構成式は禁書目録に該当する魔術らしく、シャプール家は地位を利用して王宮の禁書庫に入り、この魔術を発見したらしい。
だからもう一度魔物召喚の魔術を行使しようとしても、魔術大全に書いてない構成式を一から書き出すのは非常に難しいわけだ。
だがしかし、俺はバカでは無い。
あの魔術は転移の魔術陣を設置するために構成したもの。
ワープポイントを設置するようなものなのでその場その場で構成式を組み上げる訳では無い。 つまり床をガリガリ削って書いたものだった。
転移魔術の仕組み上、魔術陣はふたつ必要になるわけで、楽に設置できるよう記憶干渉構成式:複写を使って地面に書いた魔術を保存している。
俺は念には念を置く男だ。 失敗した魔術だったとはいえ、何が原因で失敗したのかをきちんと復習するために魔術陣は保存するのが当たり前。
元々転移の魔術陣を設置するために使った複写の魔術で、当時使った魔物召喚の魔術陣はいつでも再使用可能。
「これなら、わざわざ苦労して魔物を捕獲して来るまでもなく、ダンジョン内で魔物の補充が完結できると!」
「それだけでは無いぞ童。 妾との戦いを思い出すのだ」
「ああ、大見得切ったくせにたかだか創水の魔術で溺死したあの戦いか」
「のう童、おぬし最近息をするように妾へ喧嘩をふっかけてくるのう? そんなにもかまって欲しいのかえ?」
「いやいや、事実をそのまま口にしただけで喧嘩は売ってないよ」
半笑いで返答した瞬間、シェンルゥは猫のように飛びかかってきたのだった。
おかげで約数分もの貴重な時間を無駄にしたが、話を戻そう。
「魔物召喚の構成式で呼び出した魔物は使役できるのだ」
「使役? そう言えば契約しろだとかなんだとか迫ってきたよな」
「さよう、召喚した魔物を完膚なきまでに叩きのめすことで、召喚者の下僕として魔物が姿を変えるのだ。 であるから妾もこのような姿になっておる」
突然ニンゲンの姿になったシェンルゥを見て何事かと思ったが、どうやら創水の魔法で大量生成した水で溺れた際一度討伐したことになったらしい。
一度魔物を討伐した際、魔物側は体組織を破壊され作り直される。 この時召喚者の姿に近い形で姿を変え、ステータスなどもその召喚者によって左右されるようだ。
「着ける名によってもその魔物の性能やら性格やらに影響があるのだぞ?」
「じゃあ俺は名付けをミスったからこんなにも小生意気で穀潰しな使い魔ができちまったわけか」
「なんじゃおぬし、今日はやけにかまってちゃんであるのう?」
とりあえず魔物を召喚してみないと始まらない。 そう思った俺は黙々と複製していた魔術陣を再度異空間収納から取り出す。
「おぬしの魔術をここ最近近くで見ていたから分かったことであるが、どうやらおぬしは創造魔術の方が得意なようであるのう?」
「今頃かよ、俺の立ち回り見てればすぐ分かるだろ?」
「分かるかたわけ。 時空断絶をとんでもない範囲で広げておった時点で二刀流かと思っておったわ」
確かに、混合式の中でも創造構成式と干渉構成式、どちらかに偏った使用方法があるのは否めない。
だが俺の家計、シャプール家は代々創造魔術に適正のある家計であり、それが祟ってか禁書庫で発見した魔物召喚の魔術を悪用するという愚行を働いていたわけだ。
俺の愚父は魔物召喚の構成式で大量の魔物を召喚し、それを使って合成魔物の研究をしていた。
そうして研究した合成魔物のうち、失敗作と呼ばれるなり損ないを処分するに当たり、自身が管轄する領地や近隣の貴族の領地を襲わせ、その場にさっそうと現れて失敗作たちを退治。 はたから見れば領地を魔物に襲われているところを助けた貴族のお偉いさんということで国から報奨金をもらったり、他の領地を襲わせていた場合はそこを治めていた貴族から報酬を渡されたり。
他にも悪いことを上げればきりがないが、恥ずかしながら我が愚父は魔物召喚の構成式を悪用して大量の悪事を働いていたのだ。 自作自演というやつだな、この例は数ある悪事の中の一つに過ぎない。
悪事が大量すぎて俺一人では押さえ込むことができなかったほどだったし。
悲しいかな俺は今、そんな愚父が使っていた魔術を使ってダンジョンの守りを強固なものにしようとしているのだ。
なんかセンチメンタルな気分になってしまう。
「のう童、おそらく魔力設定をしないと妾のような強力な魔物がまた召喚されてしまうぞ?」
センチメンタルな気分のまま淡々と魔術陣に魔力を注いでいたら、シェンルゥが慌てて指摘してくる。
「おろ? そう言えばこの前そんなこと言ってたな。 魔力の設定って言っても、どんくらいがいいのかな?」
「最初じゃからな、十分の一程度でいいのではないか?」
「オッケー分かった、こんな感じか?」
なんとなくの感覚で魔術陣に流し込む魔力を制限してみる。 するとシェンルゥが満足そうに頷いていたため、俺は魔術の構成を再開した。
シェンルゥが召喚された際は魔術陣全体から血のような真っ赤な稲妻が出てきていたが、今回は全体が青紫に発光するに収まった。
強く発光した魔術陣が眩しくて目を細めていると、
「嘘じゃろ? おぬし本当に十分の一しか魔力を込めとらんかったのか?」
隣で目を見開いて固まっているシェンルゥを見て首を傾げながらも、彼女の視線を追いかけ俺も魔術陣の中心……
を見る前に異常な光景を目の当たりにする。
「ちょっと待て、なんでこうなった?」
「一度の召喚で十体を超えるワシュハシュの群れじゃと? それに、ハキムワシュハシュもおるではないか!」
魔術陣の上にいたのは二十を超える鬼の群れ。 平均の背丈は2メーター程度。
その群れの先頭には鬼の中でも頭一つ抜けて背が高く、ガタイも目に見えて大きい鬼が立っていた。 体躯はおよそ3メーター行くか行かないか、肌は全身真っ赤に染まっており、下顎から飛び出した牙がその形相をおぞましいものにしている。
こいつらはワシュハシュ呼ばれるマジフロに出てくるモンスターで、魔物の中でも中堅くらいの強さだろう。 オタクたちにわかりやすく説明するならオーガのようなモンスターだ。
ではオーガでいいではないかとツッコみたい人もいるだろうが、なんだかこのゲーム会社はどっかの言語を参照して魔物の名前を決めているらしいから、そう言うものだと思って欲しい。
ちなみに、ハキムワシュハシュをオタク用語でわかりやすく説明するならオーガジェネラルだ。 ジェネラルオーガとも言うかもしれない。
「ニンゲン、よくも、このオデを……」
「カタコトだな」
「仕方がなかろう、ワシュハシュの知能はさほど高くないからの」
「オンナァ、ぶじょく、ユルさん!」
ハキムワシュハシュは咆哮を上げながらシェンルゥに飛びかかった。 しかしシェンルゥは呆れたようにため息を付きながら、
「愚物、身の程を知れ」
指パッチンとともに高電圧の雷を放ち、ハキムワシュハシュを一撃で丸焦げにしてしまう。
「え? シェンルゥが戦ってるところはじめて見たんだが?」
「こやつめ、よりにもよって妾を最初に狙うとは、気に食わん」
なぜか知らないがシェンルゥの機嫌が非常に悪くなっている。 さっきまでノリノリで魔獣召喚をしようとか言っていたのだが、さすがにからかいすぎたのだろうか?
「オマエラ、オンナをネラエ! このオトコは、ヤバい! オンナのほうが、ヨワイ!」
丸焦げになったハキムワシュハシュが背後に控えていた部下たちに声を掛けるが、丸聞こえだったシェンルゥは青筋を浮かべていた。 怒っていた理由が分かった気がする。
「ほほう、いい度胸じゃのう愚物共。 久しぶりの運動じゃ、まとめてかかってこんか!」
ひらひらのチャイナドレスをたくし上げながら、やけくそ気味に叫ぶシェンルゥを、俺は温かい目で見守ることにした。




