第20話 問題発生に頭を抱える俺は、ダンジョン制作において大切なことを教わる
❖
メイハオちゃんを近くの村に預けるために、ヴァブさんに頼んで三つの村を調査してもらった結果。
気がついたら三つの村はひとつに統合され、宝州と言う大きな街が出来上がってしまった。
まあ、三つのうちどの村に預けるかと言う三択ではなく、選択肢が無理やりにでもひとつになったのは喜ぶべきことだろう。
けれど嬉しすぎる大誤算を前に、問題もいくつか発生してしまう。
「主様、またも冒険者たちがダンジョン内に侵入しました」
「またか、これで何組目だ?」
「おそらく、今日だけで四組目かと」
三つの村が統合し、人口が増えた宝州の街には商人が度々出入りするようになり、宝州で作られた陶芸品や家具は非常に人気になった。
これらの作品は俺の前世の知恵が使われている。 この世界に出回れば人気になるのも納得はできる。
知らぬ間に現代知識無双をしてしまっているようだ。
そう言った背景もあり、様々な街から商人が訪れるようになった宝州の街は宿屋を作ることになった。 そして宝州の街に滞在する商人が増え、そして俺が隠れていたダンジョンが見事に見つかってしまう。
そうなれば話はトントン拍子に進んでいく。
「こ、これは計算外の出来事です……やはり自分などが出しゃばって余計なことをしてしまったせいですね」
「気にするなってヴァブちゃん、良かれと思ってやってくれたことなんだろ?」
ようやくマズイ自体になったことを悟ったヴァブさんはここ最近ずっと落ち込んでしまっており、口を開けば自己肯定感皆無な発言ばかりしてしまう。
情緒不安定になってしまったようだ。 なのでメンタルケアは大切だ。
とは言え冒険者がこのダンジョンに来る頻度が増えたせいで、一〜四階層を担当するゲマトリアたちは大忙しだ。
できるだけ痛めつけて追い出すよう頼んではいるが、よく来る暗殺者たちと比べると冒険者たちは非常に脆弱なようで。
「機長、またニンゲンを黒焦げにしてしまった」
「フェイトちゃん、火力は控えめでっていつも言っているではないか」
「すまない、気をつける」
カタコトで話すメカスーツの美少女に苦笑して応える。
白金色の長い髪をツーサイドテールでくくっており、ジト目な瞳は透き通った空色。 体のラインに沿って作られたメカスーツをまとい、両前腕の甲には仰々しい大砲を取り付けているゲマトリア。
現象創造構成式を得意とするゲマトリアの火力アタッカー担当、三層を守護するフェイトちゃんである。
「ニンゲン、脆い。 手応え、皆無」
「そう嘆くことではないでござるよフェイト殿! まろたちとの戦いを糧に、きゃっつらもきっと強くなって帰ってくるでござろう!」
片腕を外した袴をまとい、紅の髪を頭頂部で括っている侍風少女、二階層担当のテットが豪快に嗤いながらフェイトの背をバシバシ叩いている。
サラシに片腕外しという姉御肌溢れる見た目をしている上に、喋り方も仕草も豪快だ。 ゲマトリアの中で唯一男っぽい性格にしている美少女である。
戦闘特化に設定した四人のゲマトリアのうち三人が勢揃いで最終階層に報告に来ており、俺はその報告を聞いて頭を抱えながらも、ひとり足りないことに違和感を覚えた。
「ザインは戻ってきてないのか?」
「念の為ダンジョン内を警戒しております」
「一人で大丈夫か?」
「冒険者たちは取るに足らない実力しか持ち合わせていないので、むしろ戦力過多かと思われます」
くノ一風の見た目であるユーティが、片膝をついて淡々と報告してくれているのに対し、フェイトとテットはいつもどおりの自然体で談笑している。
どちらも俺が設定したはずのゲマトリアだが、どうしてまあこんなにも性格に違いが出てしまったのやら。
「このままではメイハオさんを街に預ける件が後回しになってしまいます。 かくなる上は自分がもう一度宝州に戻り、住民たちを説得しなければ!」
「ヴァブ殿は侵入者迎撃のための指揮官でござろう! 貴殿の指示がなければ、フェイト殿がきゃっつらを炭にしてしまいますぞ?」
「本気出せば、炭すら残さない」
「物騒なこと言ってんじゃないよ、死人はできるだけ出すなよ? なんか後味悪くなるからさ」
俺は小心者なのだ、住処を荒らす蛮族が相手だろうと、同じ人間を殺してしまうのは心が痛む。
とは言え、冒険者たちが頻繁にダンジョンへ入ってくるせいで色々な事に手を付けられていないのも事実。
ダンジョン内の防衛機構を新たにするべきか、それともメイハオちゃんの移送を先にするか。
万が一メイハオちゃんが冒険者たちに見つかれば面倒事になる。 慌てて街へ預けに行ったところで、今の宝州には大量の商人がいるのだ。
その中に面倒な宗教団体のメンバーがいてもおかしくない。
確かゲーム内設定では、魔導士マリヤムを信仰する聖マリヤム教、および魔術師を忌避する仙術師の団体、罪魔派のメンバーがいて、商人の護衛と称して各国を渡り様々な情報をかき集めているという話だった。
となると宝州の街にもいずれかの団体がいてもおかしくない。
メイハオちゃんが見つかったともあれば、間違いなく聖マリヤム教の上層部が動くだろう。
奴らの思想は狂っており、マリヤムの血を引いているであろう水色髪と銀の瞳を持った幼子を見つけた端から誘拐し、その体にマリヤムの魂を憑依させようとしている。
意味がわからないだろう、ああいう狂人たちの考えは理解しようとするほうが難しいのだ。
さらった子どもたちはマリヤムの魂にふさわしい器かどうかをテストするため、とても褒められた方法ではない手段で人体改造に近い仕打ちを受けていた。
このゲームにおけるトラウマエンディングランキング堂々のトップを飾るのが、主人公のテオスくんがコイツラに捕まって逃げられなかった場合のバットエンドだ。
中でも上層部の大司祭三人は破格に強い、強いと言うかせこいといったほうが正しいだろうが……
あいつらはゲームのストーリーでも戦ったことあるが、結構苦戦したんだよなー。
ゲマトリア全員に加え俺とシェンルゥ、メイハオちゃんが手を貸してくれたとしても、何人か犠牲になる可能性がある。
引きこもりのんびりライフが危ぶまれるため、聖マリヤム教とのいざこざは全力で阻止したい。
ともあれ、なにをどうしていくにも八方塞がりである。
「どうすんのよこれ」
「本当に申し訳ありません」
「だから、別にヴァブさんは責めてないってば」
シクシク泣きながら縮こまってしまったヴァブさんを優しく撫でてあげていると、ボケーっと突っ立っていたシェンルゥは突然なにか閃いたようで、
「ならば、魔獣召喚をするのはどうじゃ!」
突拍子もない事を言いだした。
「は? 魔獣召喚? この前誤って穀潰しを召喚してしまったあの魔術か?」
「童、せっかくいい案を思いついたというのに、そんな事を言っていると教えてやらんぞ?」
シェンルゥは珍しくボコスカ殴ってこないで、余裕を秘めた表情で挑発をしてくる。
なんだか、もしかしたら本当にいい案を言われるのではないかと期待してしまう自分が悔しい。
「そもそもの問題点を考えてみよ童。 ここはおぬしが作っているダンジョンなのであろう? であればいちばん大切なものがまったくないではないか!」
「ダンジョンのいちばん大切なもの? ……なるほど、財宝だな? この世のすべてをここに置いていかないとならないのか」
「財宝も大切なのだがのう、それはこの前発掘した魔水晶で十分であろう」
たしかに、メイハオちゃんが封印されていた遺跡にあった大量の魔水晶。 あんなもの、一生使っても使い切れないほどの量だ。
なんせ魔力は殆どの場合目に見えない。 乖離砲並の魔力を使用したとしても淡く光る程度にしか視認できないのだ。
それが物質化しているという時点でとんでもない魔力が込められている事がわかるだろう。 小石程度の大きさでも乖離砲数十発は撃てるだろう魔力密度だ。
そんな魔水晶が数トン手に入ったのだから、大金持ちになった気分でウハウハだったなぁ。
「まったく、童はダンジョンのロマンをてんで分かっておらぬ!」
むすっと口をすぼめながらそっぽを向いてしまうシェンルゥに、じれったくなった俺は素直に正解を教えてくれと尋ねると、それはそれは嬉しそうに人差し指を立てながら応えてくれた。
「このダンジョンにはっ! 雑魚モンスターがっ! おらんであろうがぁぁぁ!」
雑魚モンスターがっ! おらんであろうがぁぁぁ!
がぁぁぁ!……
がぁぁぁ!…………
がぁぁぁ!………………
シェンルゥの声が脳内にこだまする。 不思議そうな顔で首を傾げるゲマトリアたちを横目に見てから、俺は冷静に思考を回していた。
俺がゲーム時代、ダンジョンへ行く理由はなんだっただろうか。 レベル上げのため、素材集めのため、称号集めのため、プレースキル向上の為。
理由を挙げればきりがない。
ならば、それらを達成するために必要なのはなにか。
誰よりも分かっていたはずなのに、俺は引きこもり生活を満喫したいがために失念していたというのか。
ダンジョンに最も大切なものがなんなのかということを……
「オッーマィガッーーーーー」
「わっハッハッハッハッは! 妾を崇め奉れ愚かな小童めが! ワーッハッハッハッハッは!」
頭を抱えてうずくまる俺と、それを見て勝ち誇ったような顔をするシェンルゥ。
こうして、俺のダンジョンDIYが本格的にスタートすることになったのだった。




