第16話 幼女をギャン泣きさせた俺は、仲間から強烈な説教を喰らう
❖
こうして見事謎の幼女を拘束することには成功したのだが。
「嫌い嫌い嫌い! だいっきらーーーーーい!」
ギャン泣きしながら氷柱を連射してくるため、窒素障壁で防御している。
「どうしようシェンルゥ、この子話が通じない」
「あたりまえじゃろたわけ」
放心状態で立ち尽くす俺達に、バカバカ氷柱が飛んでくる。
「とりあえず一回てっしゅー」
話ができる状態ではないため、幼女は埋めたまま一旦撤収。
ぺぺに掘ってもらった大空洞から出て、通路の方へと避難する事になった。
「童がバットエンドを回避できなかった理由が何となく分かった気がしたぞ?」
などと言いながら細目を向けてくるシェンルゥから意図的に視線をそらし、どうしたものかと思考をひねる。
すると、思ったより長時間遺跡や幼女と格闘していたせいか、夕飯の時間になっても九階層にこない俺達を心配したのだろう。
ヴェートが困った顔で俺達を迎えに来たようだ。
「旦那様? もうそろそろご飯のお時間ですけど?」
「おやおやヴェートママではないか! もう夕餉の時間であったか!」
パァッと表情が明るくなるシェンルゥだったが、すぐに戸惑ったような顔に戻ってしまう。
「いやはや、夕餉はすぐにでも食べたいがのう……」
ちらちらと幼女がいた部屋の方へ視線を向けるシェンルゥを見て、ヴェートは不思議そうに首を傾げてしまう。
「あらあら? なにかお仕事をしていたのですか?」
シェンルゥの視線につられ、ヴェートも幼女がいた部屋を覗き込む。 俺は慌ててヴェートを止めようとしたのだが……
「ちょ、あぶねーぞヴェート」
「まあ! 旦那様ったらあんな小さい子をいじめて! メッですよ!」
どうやら生首状態の幼女が見つかったらしい。
すたこらさっさと首から下を埋められている幼女の下へ駆けていくヴェート。
ああ見えてあの幼女は氷柱を連射してくる危険生物だ。 あたふたしながら後を追おうとしたのだが……
「な、ちょっと待つのじゃ童!」
「いやいや、ヴェートがあぶねーだろ?」
「よく見てみい!」
シェンルゥに襟首を引っ張られグエッとなるも、文句を言う前に真剣な表情でヴェートの後ろ姿を指差して来たため、不安にかられながらもヴェートの背中を目で追ってみる。
「おろろ?」
「おぬし自分で作っておいて忘れておったのか? あやつは時空干渉魔術のスペシャリストであろうが」
時空干渉魔術は時空に干渉する構成式だ。 九階層を担当するヴェートはこの魔術を使いこなすゲマトリア。
身体中に記されているカスディム文字は全て時空干渉構成式に関わるもの。
料理の手際が良いのはこの時空干渉魔術を行使して、調味料を短時間で熟成させたりじっくり煮込むタイプの料理も指定物質の時間経過を早めることができるからで……
「よくよく考えるとヴェートってさ、時空干渉魔術を無駄遣いしてるよな」
「おぬしが言うなたわけもんが!」
閑話休題。
時空干渉魔術を操れるヴェートは戦闘面に関しても、見た目によらずなかなかに強い。
「今使ってる魔術は、周囲の時間を遅らせる遅延領域か」
遅延領域。 効果は読んで字のごとく、自身の間合いに入った物質の時間を遅らせる魔術だ。
この魔術の効果中は、飛んでくる攻撃はすべて遅延するため回避がしやすくなるという利点がある。 が、窒素障壁があれば別に使うまでもない魔術だったため、この魔術を使うのはよほどプレイスキルに自身があるプレーヤーだけだった。
「あの身のこなし、体内加速も重ねておるのではないか?」
体内加速、この魔術も効果が非常にわかりやすく、体内時間を早めることで二倍近くの速さで動けるようになる魔術。
遅延領域と重ねて発動することで、謎の幼女が飛ばしてくる氷柱をひらりひらりとかわしながら突き進んでいくヴェート。 予想以上に強すぎて草。
おっとりした顔つきに似合わず、ヴェートはものすごい身のこなしですべての氷柱をスレスレでかわしている。
あの動きはまるで……
「マ◯リックスみたいだ!」
「おぬし、たびたび意味不明な単語を使うでない」
どうやらシェンルゥさんは、日常生活で使うような日本語は分かるようだが、現実で生まれた作品に関する単語や、この世界にないものは理解できないらしい。
そんなやり取りをしている間にヴェートはなぞの幼女の下へとたどり着き。
「大丈夫だからね、今助けてあげるからね!」
必死に地面を掘って、幼女を救出しようとし始めた。
「ちょちょちょちょちょ! 危ないから助けちゃだめだろ!」
「まったくもう! こんなひどいことをしたのは旦那様だったの? 後でお説教です! そこで正座して待ってなさい!」
せっかく捕獲した幼女を救出しようとしていたため、必死に止めようとしたのだが逆に説教されてしまった。
「いや、でも……違くてですね」
「でもじゃありません!」
「……はい」
なぜかシェンルゥが俺の隣で正座を始めてしまったため、仕方がなくしゅんとしながら正座することになったのだった。
❖
「まったくもう! 旦那さまったら! こんなに小さい子をいじめて、恥ずかしくないんですか!」
「はい、すみません」
「……のじゃ」
驚くことにヴェートはせっせと幼女を掘り出して、怖かったねーよちよち、などと言って頭を撫でながら軽々と抱っこしてしまったのだ。
幼女も涙目でヴェートにしがみついており、コアラの赤ちゃん状態になっている。
あんなにも凶暴だった仙人の幼女を、いとも容易くあやしつけてしまうヴェートのママ力は、尋常ではないだろう。
「こらっ! 旦那様! ちゃんと反省してるんですか!」
「はい、申し訳ありません」
元はと言えば、ヴェートは俺が産み出した魔造人間だ。
生みの親である俺が説教を食らうなど、反抗したくなる気持ちもある。 だがしかし、なんでこんな事になったのかを説明しようとしても、あの幼女の凶悪性を紳士に説明しようとしても、なにを言ってもヴェートは「言い訳するんじゃありません!」の一点張り。
すでに俺の心は折れ、すみませんと申し訳ありませんしか口にできなくなっている。
「怖かったねーメイハオちゃん。 よしよーし」
「メイハオ、お腹すいた」
「あらあら〜、おなかすいちゃったのね? すぐにご飯を用意してあげるから一緒においで?」
「メイハオ、辛いのイヤ」
「だいじょーぶですよ〜。 今日のご飯はメイハオちゃんのためにハンバーグにしたからね〜?」
そのハンバーグ、俺のために作ったから呼びに来たのでは? と突っ込むべきか、それともその子の名前ってメイハオって言うんだ……と突っ込もうか迷ってしまう。
「なぬ! 今日の夕餉はハンバーグなのか! それは良かったのう童! もちろん妾のハンバーグは豆腐ハンバーグじゃろ?」
時空干渉魔術を操れるヴェートは、熟成させなければいけない料理も一瞬で作れる。 無論味噌も醤油も、なんならチーズなどの発酵食品だってお手の物だ。
時空干渉魔術は料理のためにあると言っても過言ではない。 そんなヴェートが作るハンバーグは、文句なしに絶品!
お肉が苦手なシェンルゥのハンバーグは豆腐でできているのだが、これがクオリティの高さが尋常ではない。
試しに一口貰ったことがあるのだが、本当に豆腐しか入ってないのか聞きたくなるほどのうまさだった。
ハンバーグと聞いてよだれがジュルリと零れそうになる俺と、目に見えてテンションが上がるシェンルゥだったのだが……
「悪い子にあげるハンバーグはありません! 今日はそこに正座してなさい!」
ショックのあまり石化する俺とシェンルゥ。 そして、その様子を見てあっかんべーと舌を出してくるメイハオちゃん。
「あっ! このクソガキ! なめやがってこんにゃろー! もっかい埋めるぞゴラァ!」
「そうじゃそうじゃ! 豆腐ハンバーグは妾のものじゃ!」
「こらっ! 反省してない悪い子は正座三時間追加します! 夕食も抜きです!」
ぷいっとそっぽを向いて、メイハオちゃんを抱きかかえたまま去ってしまうヴェートを、俺とシェンルゥはげっそりした顔で見送ることしかできなかったのである。
なんだろう、試合に勝って勝負に負けるとは、こういう時のことを言うのだろうか?
とりあえず勝ち誇ったような顔をしているメイハオちゃんは、あとで色々と分からせる必要があるだろう。




