第15話 一撃必殺をぶちかました俺は、相棒の穀潰しに呆れられる
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乖離砲、それはこのゲームにおける無敵の一撃必殺。 ただ当てるのは非常に難しく、攻撃範囲は光線の太さのみ。
太さは人差し指程度しかなく、発動までのための長さやカスディム文字が複雑過ぎる上に、それに付け加えて構成式が淡く光るというエフェクトが発生するため、モーションがバレやすい。
対人戦で当たったら大草原不可避な上に、モンスターに当てるのも達人にしか不可能とまで言われている残念な一撃必殺。
以前動画投稿サイトに乖離砲チャレンジという馬鹿な企画があったが、動画投稿主は悲鳴を上げながら五時間近く格闘していた。
つまり、この一撃は動く的に当てるのは非常に難しい。
「かっ、乖離砲じゃと! なんちゅう危険な魔術を使いおる!」
「当たるといいけどな」
なにぶん消費魔力も激しいため、連発は不可能。 だけどもさすがに幼女の命を奪う訳には行かないときた。
念の為急所は外して狙ったが、あの謎の幼女に当たる保証もない。
が、ここはオンラインゲームのサーバーではないのだ。 乖離砲を見てキャッキャと喜ぶ乖離砲キッズもいなければ、他人の立ち回りに難癖をつける効率厨もいない。
先程のシェンルゥの反応からも分かるように、この世界の住人からすれば乖離砲は危険物のように扱われる魔術。
実際、ゲーム時代でもふざけ半分で街中で乖離砲を使用すれば、NPC達が悲鳴を上げながら逃げ回ったりもしていた。
まあ、攻撃特化の魔術を使用すると悲鳴を上げながら逃げるという仕様になっていただけだろうが。
それでもこの魔術を使えば、いつでもお前をぶっ倒すことができるんだぞという脅しになる可能性が高いわけだ。 これでビビってくれれば御の字、だめなら別の方法で攻撃するまでの話。
乖離砲を放った後、すかさず領域鑑定を行使する。 すると、先程までキョロキョロ周囲の様子をうかがっていた謎の幼女は、ぺたりと座り込んで大口を開け、目元を袖口で擦っている様子が分かった。
わかったとは言ってもこの領域鑑定で分かるのは白黒の世界でシルエットが見える程度だ。 だからどんな動きをしているのかとか、なにがどういう形なのかが分かったとしても、なにを喋ってるかとか現在のステータスとかはまったくわからない。
「なぁシェンルゥ。 さっきの幼女、ぺたりと座り込んだまま袖で両目を擦ってて、拳が入りそうなほどの大口開けてるんだが……なにしてるか分かるか?」
「大泣きしておるのだろうな。 乖離砲が怖かったのであろう」
なるほど、そう言う見解もできるか。
疑い半分で慎重に掘った道を戻っていき、地面にほんの少しだけ穴を開けて聞き耳を立ててみる。
「ふえぇぇぇぇぇん! 怖いよぉぉぉぉぉ! パパァァァァァ!」
驚くべきことに、ほんとに泣いていたようだ。
だがしかし、穴を開けた瞬間とんでもない冷気が竪穴内に入り込んできた。
「寒っ!」
慌てて穴を塞ぎ、少し潜って呼吸を整える俺。
なんだか心が痛くなり、なんとも言えない顔でシェンルゥの返事を待とうとすると……
「うわー、童が小さい子泣かせておるぅ〜。 か〜わいそ〜」
「はっ倒すぞてめぇ」
「きゃあぁぁぁ! 童こっわ〜い!」
ヘラヘラ嗤いながら肩をちょこんとすぼめるシェンルゥの角を引っ叩き、再度領域鑑定で幼女の様子をうかがう。
背中をボコスカ叩かれてるが面倒だからシカトだ。
「ギャン泣きしてんのか? 多分このまま放置するとここら一帯極寒の大地になっちまうぞ」
おそらく乖離砲が当たったか、それともかすったか、乖離法の軌道を見てびっくりしてしまったのか、泣いている理由を考えればきりがないが、
「ん? お札が破けてるな」
領域鑑定しながら思考を回転させていた俺は、幼女の頭についていたお札が焼き切れている事に気がついた。
シルエットしかわからないのでなんとも言えないが、おそらくお札の破け方から推測するに、乖離砲は見事にお札を貫いたのだろう。
だが、幼女のシルエットを確認するに、体のどこにも穴は空いていないし怪我らしきものも見当たらない。
となると、お札が破けたであろう軌道から推測して……
「なるほど、乖離砲が鼻先をかすめたんだな」
「こっわ! おぬし鬼か? それはさすがの妾でも泣くわ!」
急所は外そうと狙いをずらしたのが仇になったようだ。 とは言っても、直撃しなかったことを喜ぶべきだろう。
自分にそう言い聞かせ、幼女を泣き止ませるための強硬策を行使することにする。
「このままだと埒が明かないから、地面の中に引きずり込もう」
「それこそ恐ろしいわい!」
「安心しろ、埋めるのは首から下だけだ」
そう言って俺は採掘の魔術を再度構成して幼女の真下に移動する。 領域鑑定のお陰でどんな体制で泣いているのかは分かっている。
だから地面からバッと両手を出し、細くて小さな両足首をがっしり握る事も可能。
「ぎぃーーーーーやぁーーーーーーーーー!」
なにか耳が痛くなりそうな悲鳴が聞こえたし、両手が凍るように冷たくなったが、関係なしに地面の中に引きずり込む。
こうして首から下を地面の中に埋め立てることに成功した。
その代わりと言っては妙だが、両手が凍傷してしまったようだ。 ドライアイスを握りつぶすとこんな痛みに襲われるのだろうか?
頬を引きつかせていると竪穴内に引きずり込んだ幼女の手足がバタバタと暴れ出し、頬に膝蹴りを喰らったので慌てて距離を取る。
更には先程戦闘中に感じていた冷気が発生し始めた。
これでは地中に逃げた意味がなくなる。 すかさず土壁と変形の魔術で周囲の粘土をかき集める。
竪穴内でバタバタと暴れさせている幼女の首から下を入念に粘土で固めた後、そそくさと事象回帰を行使して凍傷を感知させ、大げさに距離を取った。
幼女の腕力では自力で這い上がるのは無理だろう。 それに、地脈の力を使おうにも、さすがの仙人ですら体がまともに動かせないなら満足に仙術が使えまい。
穴の中が突然寒くなったことからも、冷気の方は体から放出していたと見ていい。
だから地中に埋めてしまえば最も厄介だった冷気の放出は防ぐことが可能。 後は氷塊や氷柱の放出だが、こちらは時空断絶もしくは窒素障壁があればどうとでもできる。
先程の立ち回りを見たところ、この子は強化と言うよりも放出の仙術が得意と見た。
仙術は五大属性を主として、放出か強化で使用方法が異なる。 二刀流のものも中にはいるが、基本的に圧倒的に強いのはどちらか片方に寄せた仙術だ。
この子の場合は氷塊の射出や冷気の放出が基本的な立ち回りだったし、見た目通り戦い方もずさんで幼さあふれるゴリ押し戦法だった。
俺の逃げ道を先読みして攻撃するでもなければ、氷塊と氷柱を巧みに使った攻撃もしてこなかった。
つまり動き回る俺をがむしゃらに攻撃していただけなのだ。 心理戦を持ち込まれなかったのが不幸中の幸い。
対人戦で小学生と当たるとだいたいこんな戦法を取られる。 中には馬鹿みたいに上手い子もいるが……それはそれ、これはこれ。
土の中にいて見えない俺に氷柱を飛ばしてこなかったのが論よりも証拠だ。
相手が頭の良い仙人だったら今ごろ俺はくたばっていただろう。
見た目は子どもだが、中身は仙人。 手加減なんかしたら一瞬でお陀仏だ。
心理戦では勝ててもやはり相手は仙人。 力の差は歴然のため出来れば正面からのぶつかり合いは避けたい。
だからコミュニケーションが取れるのなら交渉の余地がある。 なぜ攻撃してきたのか、どうしてあんなところにいたのか、聞きたいことは山程あるわけだし。
相手が幼女だろうと話をするためなら容赦なく拘束するし、それでも攻撃してくるなら反撃することも辞さない。
その点で言えば、地中に引きずり込むのは実に効率の良い拘束方法と言えるだろう。
「だからそのゴミを見るような目を向けるのはやめろこの穀潰しが!」
「誰が穀潰しじゃたわけ」
そんなわけで幼女の無力化に成功した俺達は、満を持して穴の中から這い出ることになった。




