第14話 格上相手に絶望した俺は、諦めかけて怒られる
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魔術師は構成式を構築することで魔術を行使する。 だが魔導士は感覚だけで魔法が行使できる。
これに似たような感覚で、仙人は息をするように仙法を行使してくるのだ。
なにが言いたいかと言うと、攻撃の速度も威力も、桁外れに精度が高すぎる。
「このままでは死んでしまうではないか!」
「そう思うんなら手伝えよ!」
窒素障壁を展開しながら必死に逃げ回ることしかできない俺に、謎の幼女は情け容赦なく巨大な氷柱をマシンガンのように射出してくる。
なんのひねりもないただの乱れ打ちだが、なにぶん発動速度も威力もとんでもない。 なによりも厄介なのは、室内の気温が著しく低下しているという点だ。
極限状態だと言うのに寒さのせいで脳がうまく回らない。 顎がガクガク震えだして思考が定まらない。
浮遊と加速の魔術を二重で使用しているせいで、全身に極寒の冷気が叩きつけられている。
このままでは数分と持たず、凍死するだろう。
反撃する暇すら無い状況下で、更なる絶望的状況が横目に写った。
「もはや反則だろ……」
謎の幼女が無慈悲に連射していた巨大氷柱が壁や床にあたって砕けているのだが、砕けた氷柱の破片は周囲の冷気を吸いながら巨大化しており、この銀世界を氷一色に変えようとしているのだ。
それも、巨大化する速度が尋常ではない。
このままでは凍死するよりも前に、砕けた氷が肥大化して氷漬けにされる方が早いだろう。
「逃げ道がねー」
寒すぎて脳も回らず、半分諦めそうになる。 寒すぎてまぶたが重いし……相手は仙人なのだから、勝てなくても当然のことで……
弱気なことを考えていたら、左頬に激しい熱痛を感じた。 どうやらシェンルゥにビンタされたようだ。
「寝たら死ぬぞ童!」
遠慮なくぶたれた事に文句の言葉が出かけるが、おかげで弱気な考えが吹っ飛んだ。
「寒いなら、寒くないとこ、行けばいい」
「意味のわからん詩を歌っている場合ではないぞ!」
俺は今だに肥大化した氷がない場所を探し、地面がかろうじて露出している部分を発見した。
「魔術大全【第72頁】力学干渉構成式:採掘!」
読んで字のごとく、寒いなら、寒くない場所へ行けばいい。
転生前の知識に、地熱というものを学んだ経験を思い出した。 おそらく命の危機にひんした瞬間、思考が覚醒したおかげだろう。
地中の温度は温度差があまりなく、地下100メーター程度まで潜れば夏も冬も外気温に関係なくほとんど同じ温度を保つらしい。
あの謎の幼女が使う氷の仙法の中でも、最も厄介なのは体温を奪うあの極寒の冷気だ。
氷柱は避けられるし巨大化した氷も認識さえできれば避けられる。 ただ、気温が下がってしまえば対応することが非常に難しいし、浮遊の術式で逃げていた俺はその極寒の冷気を直接浴びることになってしまっていた。
おかげさまで思考も働かなくなり、こうしてシェンルゥにビンタされるまで画期的な方法を思いつくことすらできなくなるほどだ。
仙法の恐ろしさは長期戦に現れる点だ。
魔術は体内の魔力を消費するのに対し、仙術や仙法は地脈の力を利用して戦う。
地脈から力を借りるため、極論を言えば際限なく仙法を使える。
短期即効型の魔術に対し、長期耐久型の仙術。 良し悪しはそれぞれにあるが、相手は仙人だ。
言うまでもなく格上なため得意の長期戦に持ち込まれれば勝ち目は皆無。
見事地中に逃げることに成功した俺は、慌てて掘った穴を塞いで体温を上げることに専念。
密閉空間のため火を起こせば一酸化炭素中毒になってしまうが、地熱のお陰でなにもしてなくても程々に温かい。
「間一髪でどうにかなったが、地中に逃げたことを気づかれたなら追ってくるよな?」
「あやつの仙法は極寒法印であろう? 大地法印でないなら穴を掘る手段はあるまいて」
小脇に抱えていたシェンルゥをおろし、すぐに探知系の魔術を展開。
「魔術大全【第298頁】概念干渉構成式:領域鑑定!」
この魔術は指定領域内の簡易的な鑑定ができる魔術。 指定領域は俺の魔力総量に応じて拡大できるため、本気を出せば数キロ先まで鑑定できる。
指定した物質を鑑定する210頁と違い、298頁の領域鑑定は主に索敵や迷子になった際、自分の場所を特定するために使う便利な魔法だ。 いわゆるマッピングというやつだな。
地中にいようと先程の謎の幼女がどこにいるのかが分かるし、直接見なくてもどういう動きをしているのかが分かる。
いわば透視の魔術と言っても過言ではない。
領域鑑定で謎の幼女を発見し、慎重に様子をうかがってみるが……
「追ってくる気配はないな? 俺を見失ったからキョロキョロしてるのか?」
謎の幼女はその場で立ち止まり、忙しなく首を左右に向けている。 おそらく俺を見失ったため探しているのだろう。
相手は見た目年齢的に10才行くか行かないかの幼女だ。 今の俺の年齢とさほど変わらないが……俺の精神年齢は20超えてるし、子供相手にムキになるのは大人げないとは思うのだが。
「相手がこっちに気がついてないなら、ゆっくり準備できるな」
「なにをするつもりじゃ童?」
直下掘りしてきた光のない竪穴の中、暗闇に目が慣れていないシェンルゥは明後日の方向に話しかけている。 だが俺が魔術の構成を始めた途端、構成したカスディム文字が淡い光を放ち始め、ようやく暗闇の中に明かりが出来上がった。
とはいったものの、本来ならカスディム文字が光ることなどそうそう無いのだが、今回ばかりは構成する魔術が特殊なため、話が違ってくる。
「な、なにをしようとしておる? 暗闇が照らされるほどの量のカスディム文字に、恐ろしいほどに込められた魔力量……妾、隣りにいて巻き込まれたりせんかのう?」
「安心しろ、攻撃範囲は限りなく狭い。 それに巻き込まれるのは俺の直線上にあるものだけだ」
この魔術は、威力は全魔術の中でもトップクラスなのだが、なにぶん攻撃範囲も狭いし構成に時間がかかりすぎる。 その上消費魔力量も全魔術の中でも五本の指に入るだろう。
高威力の魔術の割には割と早い段階で覚えるが、使い勝手の悪さは言うまでもない。
「ゲーム時代はロマンダメージを出すのに使ってる猛者がいたが、当てられたら奇跡とまで言われてたほどの狭い範囲の攻撃だ。 軌道も直線上で避けやすいし、対人戦でもダンジョン攻略でも使い勝手が悪すぎる魔術だったからな」
唯一猛威をふるったのは、相手がその場から動かないモンスターだけ。 やりこみ勢達がダメージチャレンジと称してサンドバック代わりにしていたボスモンスターだけだ。
「嬉しいことにあのバケモノ幼女ちゃんはあの場から一歩も動いてない。 相手が仙人だろうと、子どもだろうと、命を狙われたからには痛い目にあってくれないとな」
それに、これはあくまで俺の直感ではあるが、この魔術であっさり倒せるとも思えない。
「そんなわけで遠慮なく行くぞ」
魔術の構成が終わった途端、シェンルゥは俺の真後ろへと退避して、頭を抱えて丸くなってしまった。
構成式から流れ出る魔力量や俺の表情から、まじでやばいと肌で直感したのだろう。
「魔術大全【第888頁】混合構成式:乖離砲」
それは、ありとあらゆる事象をこの世から乖離させる無敵の一撃。
あらゆる元素を分解して、通り道には何一つ残さない。 文字通り、この世すべての物質、現象……概念すらもこの世から乖離させる。
時の流れを止めてもこの一撃は防ぐことが叶わず、時間や空間の概念も乖離させ、軌道上のすべてのものを分解し、ただただ直線上に伸びていく理不尽な光線。
時空断絶でも防ぐことができない、唯一にして最強の攻撃魔術。
「このゲームにおける最強の矛。 無敵貫通と言われていた最強の一撃だ!」




