第13話 遺跡の中を拝めることに喜ぶ俺は、とんでもないものを発見する
❖
爆散した遺跡は砂煙を黙々と上げており、中の様子は伺えない。
だがそれは、間違いなく遺跡の破壊に成功した証明でもあるため、時空断絶の魔術を解除する。
「さて、これで遺跡の内部をお披露目だな」
ワクワクしながらも、砂煙で視界不良になっている一帯を凝視する。
「童、おぬしとんでもねー魔術師であったのだな……」
今だにドン引きしているシェンルゥを横目に、俺は得意げに鼻を鳴らしながら応えた。
「追放される日まで、魔力向上の為努力していたからな」
最近はサボっているが、転生してからずっと、魔力が枯渇するまで魔術を行使して、魔力切れで死んだように眠る日々を続けていたのだ。
毎日吐くくらい辛かった分、普通の魔術師より魔力が多いのは当然のことだ。
昔の苦労を思い出しながらセンチメンタルに浸っていると、ようやく砂煙が晴れてきて、中の様子がぼんやりと確認できるようになってきた。
「うぬ? 何やら透明な結晶が大量にあるようだが?」
「ぬをぉぉぉぉぉ!」
困惑するシェンルゥを差し置いて、大興奮してしまう俺。
「なんじゃ突然、でっけー声を出すのではない!」
「興奮せずにいられるかっての! あれ全部魔水晶だぞっ!」
「なんじゃとぉぉぉぉぉ!」
シェンルゥも目をカッ開きながら驚愕の咆哮を上げる。
魔水晶とは、高濃度の魔力を結晶化したクリスタルのようなもので、魔力炉というのはこの魔水晶が一定量以上存在する場所を指す。
本来魔力炉というのは魔水晶が存在する場所のことを差すわけだが、ここにある魔水晶の数は通常の魔力炉の数倍はあるだろう。
つまり、とんでもねーお宝がこの遺跡の内部に存在していたのだ。
「ぎゃははははは! これは大金持ち間違いなしだぜ!」
「ゲマトリアの魔力補給の度、おぬしが魔力を注ぐ必要が無くなったではないか!」
「それもそうだな! わーっはっはっはっはっは。 これじゃあ俺、マジで毎日暇になっちまうじゃん!」
もはや宝くじがあたった現代人のような感覚だろうか? 俺は非常に運が良い。
今までずっとつらい目に合ってきた報いがようやく訪れたのだろう。 ここまで本当に辛かった。
人間たちに疎まれ、頑張っても報われず、死の運命に直行して絶望した挙げ句、廃ダンジョンの奥で引きこもるハメになった転生人生。
「ようやく俺にも光り輝く未来が訪れたんだな……」
ほろりと涙を浮かべながら魔水晶に近づいていく俺。 この魔水晶をすぐに採取しよう。
早速ペペを呼んでこのお宝を運ばせなければ!
そう思ってシェンルゥに視線を向けたところ、何やら魔水晶を見て顔を青ざめさせている事に気がつく。
とんでもないお宝を発見して気が動転してしまったのだろうか? そんな事を思いながらやれやれと肩を竦めていると……
シェンルゥは、震えながら魔水晶の中心部を指差す。
「童、中になんかおる」
「は? お前は一体何を言って……」
呆れ半分でシェンルゥが指し示した方へ視線を向け、俺も硬直。
「なんじゃコリャ」
驚きのあまりまともな感想が口から出なかった。
ひときわ大きな魔水晶が遺跡の中心部であっただろう場所にポツリと立っており、そのひときわ大きな水晶の中で、胸に手を当て目を瞑っている幼い少女の姿を発見してしまった。
氷のような水色の髪の毛をハーフツインでくくっており、くくった髪の毛はお団子にしている。 まつげも髪の毛同様氷色になっており、肌も白雪のように真っ白。
一番目を引くのは額に貼られた御札だろう。 何らかの法印が描かれた御札が貼られているため仙術師の末裔であることは分かる。
けれど、あの顔立ちを何処かで見たような気がする。
髪の色やまつげの色が氷色で統一されているせいか、このゲーム本来の主人公、テオス・メルレインにそっくりな印象を覚えてしまう。
「というか、あの娘の顔立ち……テオスそっくりだよな」
「テオスとは誰じゃ?」
「この前話しただろ? この世界の主人公的な存在で、物語が進むとジュムフーリヤ帝国二人目の魔導士になるっていう……」
「ああ、そう言えばそんなこと言っておったのう。 あれは世迷言でなく事実であったか」
ふむふむと頷き始めるシェンルゥが、幼女の顔を間近で見ようとしたのだろうか、自然な足取りで中央の魔水晶に近づいていく。
俺はあの幼女の顔を何処かで見たことあるような気がして、そのせいで足が止まり思考の中で渦を巻いていたのだが……
「ひいっ!」
シェンルゥの悲鳴とともに、とんでもない事実を目の当たりにする。
「目がぁ、目がぁ……」
勘違いしないでほしいのだが、眩しかったわけではない。
なにが起きたのかを詳しく実況すると、シェンルゥが魔水晶に近づいた瞬間、幼女の目がギョッと開き、ジロッとシェンルゥを睨んだのだ。
もはやホラー。
シェンルゥは可愛らしく悲鳴を上げながら慌てて俺の背中に隠れたのだが……
パリィーンと、乾いた音を立てながら魔水晶が砕け、中で眠っていたであろう幼女が水晶の中からゆっくりと出てきてしまった。
「外敵……はいじょ? ハイジョ……ハイ、ジョ。 排除、排除排除排除」
「ちょっとまってくんなまし! 俺は悪いお兄さんじゃないよ!」
実際問題、中ボスとして登場する悪役貴族ではあるのだが、今はこうして廃ダンジョンに篭っているだけの引きこもりだ。 けっして悪いお兄さんではない!
「なにをしておるたわけ! 来るぞ!」
シェンルゥが悲鳴を上げた次の瞬間……
「んぎゃあぁぁぁぁぁ!」
瞬きしてる間に大氷塊が出現し、俺達が立っていた場所を一瞬にして氷漬けにしてしまった。
間一髪、直感的に危機を察した俺はシェンルゥを小脇に抱えて背後に飛んでいたため、氷漬けにされるのはギリギリ防いだが、少しでも油断すれば氷像にされるのは間違いないだろう。
「恐ろしく早い大氷塊、俺じゃなきゃ直撃してたね」
「悠長なこと言っておる場合か! はよう逃げるぞ!」
小脇でシェンルゥが悲鳴混じりに騒ぎ立てている。 言われずとも分かっている。
先ほどブッパなたれた大氷塊の発動速度と範囲、それにあの幼女から溢れ出る地脈の力をかんがみれば……
「あの子、仙人だね」
仙人、それは仙術師の上位互換であり、俺達魔術師などと比べれば雲の上の存在。
魔術師が構成式を使わなければ魔術を行使できないように、仙術師も法印がなければ仙術を行使できない。
だが、仙人の場合は話が違う。
法印なしに、感覚だけで仙術を行使できる。 その上一度に使用できる仙術の規模は雲泥の差がある。
「妾はまだ死にとうないぞ!」
「やかましいわ! とっとと逃げるぞ!」
シェンルゥがギャン泣きしているため少々苛立ちながらも、出口めがけて最速で退避しようと試みる。
走るより浮遊の魔術を使い、加速の魔術を併用するほうが早い。 息をするようにこれらの魔術を構成し、風のごとくこの場から去ろうと試みるのだが……
「逃走……不許可」
幼女がカタコトでボソボソつぶやくと、ペペに掘ってもらった大空洞全体にものすごい冷気が駆け抜ける。
やばいと思い慌てて窒素障壁を展開しながら振り返り、最大級の警戒態勢を整えようとしたのだが……
「童! 大変じゃあぁぁぁぁぁ!」
シェンルゥが暴れ出してしまい、集中力を削がれた。
「んだようっせーな! こっちはあの幼女の一挙手一投足を警戒して……」
そこまで言ったところで、シェンルゥが慌てている理由を察してしまう。
「・・・バカなのかな……」
瞬きする間に部屋一面銀世界が広がっており、浮遊の魔術を使っていなかったら足を凍らされていただろうことが判明する。
絶望的なのはそれだけではない。
「出口が凍ってしまったぞ! どうするのじゃ童!」
極寒の冷気が吹き荒れているというのにもかかわらず、冷や汗が額から溢れてしまう。
「どうするもなにも……逃げ道潰されたんなら、死ぬ気で抗うしかねーだろ」




