第11話 謎の壁に直面した俺は、過去の行いを悔いる
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俺は現在、五階層で発見された謎の壁を睨み、頭を捻らせている。
先日ペペが発見した極寒法印。 仙術を発動するために、龍脈からエネルギーを抽出する特殊な印だ。
あれは放置してもいいかも知れないが、ここはゲームにも無かった場所のため判断するのが難しい。 なんせゲームでは廃ダンジョンを開拓するなんて機能はなかったからな。
だからこそこの壁は、放置していて後々面倒事に巻き込まれる可能性も否めない。 それに、こういう謎の壁を見ていると、ゲーマーの魂がざわざわしてしまうのだ。
「あれほどの法印だ、中に何が入っているのか……気になって仕方がない」
ゲームでは壁をこじ開けて採掘するなんて機能無かったし、ハウジング機能を適応できたのは一部の地域だけ。 無論この廃ダンジョンもきのことクズ鉱石しか取れないおまけ程度の探索エリアだった。
だからこそ記憶から抜けていたわけだし、ここら一帯は目立ったダンジョンもなかったためここに廃ダンジョンがあったことすら知らないプレーヤーも多いだろう。
「なにか裏設定でもあったのかなー? ちくしょう攻略に夢中になってないで世界観の考察とかも嗜んでおくべきだったぜ」
このゲームはかなり世界観も作り込まれていたため、一部のマニアたちは各地域に伝わる裏設定を調べ上げ、長々と語って楽しんでいたほどだ。
街の本棚にある資料を片っ端から調べたり、街のNPC達に話しかけてありとあらゆる小話をまとめたり、すげーやつはNPC同士の人間関係やら家族構成やらまで調べ上げているやつもいた。
街の資料に記されているのは主にその街や地域の歴史、他には危険なモンスターや料理のレシピなど……
特にこの地域の歴史という資料は非常に人気であり、攻略に関係することが記されていることも多々あったため、その地域に出現するギミックなどを攻略する前に資料を漁ったりしているマメなプレーヤーもいたくらいだ。
だからただの横穴にしか見えなかったこの場所にも、しっかりと設定が組まれているのは間違いない……と思う。
この廃ダンジョンは元々初心者用のダンジョンで、初心者が忙しなく訪れて魔物を狩り尽くしてしまったため、現在は廃ダンジョンになってしまっているというどうでもいい設定なら小耳に挟んだことがある。
驚くべきことに、似たような設定の場所はここ以外にも数カ所あり、このゲームの設定でダンジョン内で討伐可能なモンスターに制限があるのはこの設定が元になっているとかなんとか?
現実世界になった今では、ダンジョンでモンスターを狩りすぎると、ダンジョンが過疎化するという理由から過度なモンスター狩りは禁止されているのもこの設定に関わってくるだろう。
これはジュムフーリヤ帝国の法律として存在しているため、破れば罰金や禁固刑に処される。 わざわざ破るバカはいないだろう。
無論、華ノ国にも似たような法律はある。
俺もレベル上げのためダンジョンマラソンをしていたが、きちんとモンスターの討伐数は記録していた。
ゲームだった時は一定数モンスターを倒すと、再挑戦するまでリポップしない仕様があったため特に気にしたことはなかったが、現実世界となったこの場所ではリポップしないだなんて不思議現象は発生しない。
そのせいで何度格下のモンスター相手に、無様に背中を晒すハメになったことか……
まあ、ダンジョンが過疎化するという明確な理由があるため無下にはできないし、これをゲームとして考えた場合も、無限レベルアップという裏技が可能な放置ゲーが誕生してしまうため、世界観的にもゲームシステム的にも文句の付け所がないことは確かだ。
「さすがマジフロは神ゲーだぜ!」
「何をぶつぶつ言っておるのだ?」
「おめーこそいつまで俺にひっついて回る気だ?」
「暇なのだ、しょうがあるまい」
「ったく、暇つぶしのために八階層を作ったんだ。 この機会に活用するといいんじゃねえか?」
「そうは言われてものう。 ギメルが相手だと弱すぎてつまらん」
そう言われるとぐうの音も出ない。
八階層は娯楽スペースにしており、ここの担当はギメルという魔造人間に任せているのだが、あいつはゲマトリア随一の失敗作だと自身を持って紹介できる。
まあ、失敗作とは言っても機能的に問題があったりとか見た目的に問題があるとかそういうわけではない、そういうわけではないのだが……
「見た目もゲマトリアの中では一位二位を争うほど可愛いし、第三者目線で観察してる分には文句なしに尊いんだが……」
「あやつはどんくさいのだ。 なぜ娯楽スペースを任せる魔造人間にすかぽんたんな記憶を書き込んだのだ?」
「ぐうの音も出ねー」
ペペ同様、記憶の書き込みに少々熱が入りこみ、設定過多が問題になっていらない属性がついてしまったのだろう。
「まあでも、リアルで関わりたいかと聞かれれば絶対に関わりたくない相手ではあるが、あれはあれでキャラとしては人気が出そうだぞ? オタクならみんな好きだろ、ポンコツバニーガールですぐ泣いちゃう憎めないバカ。 いわゆる笑わせてくれるタイプの癒し系!」
「何を分けのわからないことを言っておる。 それよりどうなのだ? 極寒法印の解析はできたのか?」
「仙術はあんまり勉強してなかったからな。 何となく分かるのはこれが氷の力を引き出してる極寒法印で、対象の熱エネルギーを奪うタイプのものだってことしかわからん」
「そこまで分かれば上々であろうて」
「しかしな、分かったところでどうしようもねーぞこれ。 触ったら一発で凍傷するレベルのエネルギー吸収量だ。 それに……」
言葉の途中で鉄杭を発動し、創造した鉄杭に加速の魔術を重ね掛けする。
「わ、童……平気な顔をして多重構成式などという高等テクを使いおって」
多重構成式とは、すでに発動させている魔術と同じ魔術を重ねて発動させるという、少々使い方にコツがいる小技だ。
構成式をまったく同じタイミングで発動させると構成式が合併してしまい、まったく別の魔術になってしまうため、発動するタイミングをコンマ数秒単位でずらさなくてはならなない。
故に空中に構成式を書き上げ、後一文字で発動できるタイミングで停止。 タイミングを合わせつつ最後の一文字を淡々と構成していけば多重構成式を発動できるわけだが……
「リズム感さえあれば失敗しないさ」
同時発動とみなされるのは一秒未満で、魔術が実際に発動するまでのラグが一秒とほんの少しだけある。 このラグが発生しているほんの少しの時間で、魔術を発動させなければ多重構成式は成立しないのだ。
「リズム感とな? ううむ、考えるだけ無駄だからやめておいたほうが良さそうであろうな」
シェンルゥは呆れたような顔をしているが、とりあえず発動させた鉄杭の魔術に、加速の魔術を三重に重ね掛けして発動。 鉄杭大砲(仮名)で壁を攻撃。
しかし鉄杭は壁に触れた瞬間氷付き、慣性に逆らえず凍ったまま壁に激突して粉砕。
壁自体に僅かな亀裂は入れられたが、入った亀裂が逆再生してるような勢いで塞がっていく。
「極寒法印を表面に描いているが、内側に再生の法印でも描いてるのか?」
「法印は五大属性にまつわるものしか無いぞ? これは童が先ほど用いた事象回帰の魔術であろうて」
「はぁ?」
意味がわからず大きな声が出てしまった。
「事象回帰は800ページ後半の魔術だぞ? それが半永久的に発動してるってのか? そんな芸当、魔力が無尽蔵にあるようなバケモンにしかできないぞ?」
「そうは言われてものう、この再生速度と精密さ。 事象回帰に相違ないのではないか?」
言われてみれば確かにそうだが、魔術師である俺にとってその現象は信じがたいほどに難しい事なのがわかる。
そもそも華ノ国とジュムフーリヤ帝国は非常に仲が悪い。 無論その国に住んでいる国民達もお互いを敵視していることが多く、同じ壁に違う国の技術をかけ合わせるという事柄自体が信じがたいのだ。
背景的にも現実的にも表に法印、裏に魔術陣と言うのはありえない。 地脈ならまだしも魔力に関しては人間の体内で生成されているし、それ以外に魔力が存在する場所といえば……
「つまりこの壁の裏には事象回帰の魔術陣が刻印されていて、常に発動できるよう膨大な魔力が充満していると?」
「それ以外に考えられないであろうな」
「つまりこの壁の向こうには、莫大な魔力を保持する化け物がいるか、あるいは魔力炉があるんだな」
魔力炉、それは魔術師なら誰もが欲しがるであろうエネルギーの源だ。 現代風に例えるなら、石油が無尽蔵に湧いている場所と揶揄しても遜色ないほどの希少さ。
「それは、この壁を意地でも攻略しないといけなくなったな」
「無理だと思うがのう」
「とりあえず、この壁の外周を掘り進めてみて入口のようなものがないかを調べてみようではないか!」
期待に胸を膨らませた俺は、ペペを呼びに行くためしぶしぶ六層へと向かうのであった。




