第10話 絶品料理に舌鼓をうっていた俺は、新たな問題に直面する
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「今日のランチはトマトライスのエッグ包みですよ!」
九階層を担当するヴェートは調理担当だ。 毎日三食決まった時間に料理を作り、俺達を呼びに来てくれる。
ちなみにその食材を作ってくれているのは最終階層を担当するアレフだ。
アレフの仕事は庭師と括っているが、端的に言えば自給自足のための食品栽培が主な目的だろう。
最終回層の空いた空間に花壇を作り、野菜や麦などを育成しており、アレフはそれらを育成してヴェートに流してくれている。
後は偵察に出たユーティが兎や猪を見つけてはとっ捕まえてくれるため、その肉を使って肉料理も出してくれたこともあった。
なぜ最終階層なのにアレフと言う名前にしてしまったのか、名付けてから後悔しているから気にしないで欲しい。
ちなみに作った順番的にもばらばらになっており、魔造人間を十体作ったのもその場のノリだ。
なので名前の順番通りに生まれたわけではない。
「ぅんまい、うぅーんまいぞヴェートママ!」
「あらあらシェン様ったら、お口の周りが真っ赤っ赤じゃない」
ニコニコしながらシェンルゥの口周りを拭き拭きするヴェート。 こいつは包容力があるキャラになるよう記憶を組み込んでいる。
いわゆるママだ、ママ味全開である。 一人称もママだし。
ちなみに、肉類を食べないシェンルゥのために、ヴェートママは俺用の食事とシェンルゥの食事を変えてくれているようだ。
そのため俺の食事には、先ほど説明した通り捕獲した兎の肉が入っている。 まあ、卵がシェンルゥの食事に入っている点は……本人は気にしていないので言及しないでおこう。
ヴェートを産み出してからというもの、毎日の食事が楽しみで楽しみでしょうがない。 とてもではないが、俺が住処にしてるのが廃ダンジョンとは思えないレベルの快適さだ。
やはり食事の質というのはとても大事だと知った今日このごろ。
そんなヴェートママの食事を堪能していると、俺達が座っている手作り粘土テーブルに駆け寄ってくる人影。
「たいちょーーーーー! 大変です隊長! 大変なんです!」
忙しない声とともに駆け寄ってくるのは、六階層を担当しているペペだ。 こいつは生真面目という概念をつけたのだが、記憶に関しては少々困った内容を組み込んでしまった。
「相変わらずやかましいな。 んで、なんの用?」
「えーっとですね、とりあえず、見てもらった方が速いので早く来て下さい!」
「ちょっと今食事中」
「急いで食べて下さい隊長! さあさあ早く、ガーッと食べて下さい! ガーッと!」
聞いての通り、ペペはかなりせっかちなのだ。 少々記憶を詰め込みすぎたと言うか、衣装を軍服に設定したから生真面目でお硬い感じにしたかったのだが……
「隊長! 手が止まってます! 早く食べて下さい! 大変なんですから!」
「だぁぁぁぁぁ! やかましいわこのやろぉ!」
「こらこら旦那様もペペちゃんも、お食事中はお行儀よくしないとダメよ?」
「し、しかしですねヴェート殿! 大変なんです! ダンジョン開拓中に謎の壁に突き当たってしまいましてですね……」
「ちゃんと報告できんじゃねえかよ! 急かす必要ねーじゃねえか!」
「違うのです隊長! まあとりあえず、ガーッと食べてパーッと様子を見に来て下さい!」
結局、ペペに急かされた俺はヴェートママのランチを急いで平らげることになってしまい、ゆっくり味わうことができなかったのだった。
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「ちくしょう、ペペの性格設定は完全にミスったぜ」
「そんなひどいことを言わないで下さい隊長! 小官よりもギメルの方が失敗のはずです」
まあ、ペペの言うこともあながち間違いではないため、後頭部をボリボリ掻きながら小走りしているペペの後ろを追いかける。
六階層を担当しているペペの仕事はダンジョン内の開拓だ。 ほとんど一本道だったこのダンジョンを開拓し、複雑化していくのがこいつの仕事になっている。
基本的に侵入者が来たときはゲマトリア全員に担当階層へ配置についてもらっているが、侵入者がいない場合は自由行動にしているため、全員せっせと自分の仕事に取り掛かってくれている。
中でもペペは設定した性格上真面目でせっかちなのもあり、ゲマトリアの中では最も働きものだと評価してもいいだろう。 労ってやりたい気持ちはあるのだが、あながち問題が発生すると騒ぎ立てる上にものすごく急かしてくるため、どうしてもあたりが強くなってしまうのだ。
「見えてきました隊長! あちらが先程発見した謎の壁でございます!」
ペペが指し示す先に、仰々しい紋様が描かれた遺跡のような壁が見えてくる。
「なんじゃコリャ、こんなの見たことねーぞ?」
ゲームをやり込んでいた俺でも見たことのない壁を発見し、疑問符を浮かべてしまう。
「ですから言ったではないですか! 大変なんです隊長!」
「大変さはこれっぽっちも伝わらねーが、一体この壁は何だ?」
壁の前にたどり着いた俺は、訝しみながら壁の表面に触れてみる。 すると、突然壁から冷気を感じ、触れた指が一瞬にして凍りついた。
「っぶね!」
凍傷になった指を見て、もげなかったことを安堵すると同時に、魔術大全を開いて混合構成式を構築する。
「魔術大全【第894頁】混合構成式:事象回帰!」
この魔術は破損した部位すらも治癒することができる魔術で、記憶干渉構成式と時空干渉構成式を混合させた上位魔術だ。
怪我を負った部位の記憶を遡り、健康だった時の状態へと回帰させる事が可能。 とは言っても万能では無いため巻き戻せる時間は最大でも2~30秒と言ったところだ。
腕がもげたとしてもこの構成式なら完治できるのだが、なにぶん八百ページ後半の魔術のため、魔力消費が激しい。
「何がどうなってるってんだ?」
「危険です隊長! この壁に触れると防衛機構が発動するようで……」
「早く言えよ! なんでこういう大事な部分ではせっかち設定が適応されねーんだ!」
「大変申し訳ありません隊長!」
元気に答えてくれるのはいいが、少し抜けているのがたまに傷だ。
復活した指先の感覚を確認し、ひらひら手を振りながら紋様が描かれた壁をまじまじと確認する。
「ふむふむ、これは魔術ではないのう」
「ぬをっ! シェンルゥも来てたのか」
「うむ、ヴェートママのランチを堪能し終えたゆえ、今来たところだ」
ほとんど到着時間が変わらなかったことに文句の言葉が出かけるのだが、今はそんな事を言っている場合ではない。
「これってあれだろ? 華ノ国が使ってる仙術の発動印だな」
「間違いないであろうな」
華ノ国はジュムフーリヤ帝国と違い、地脈の力を利用して仙術を行使する国家だ。
地脈の力を使うために自らが編み出した法印を布や武器に記し、いつでも地脈の力を引き出せるよう工作している。 よって仙術師は、家系によってそれぞれ使う印が違うのだ。
仙術の難点は、法印がかなり精密に作られているため、魔術のように何種類もの力を出せないという点だ。 応用が効かないといえばデメリットに聞こえるだろう。
仙術使いは主に自然の力を身にまとって戦うか、身体能力を底上げしての接近戦を好む。
おそらくこの壁に記された法印は、冷気に関する力が秘められているのだろう。
「ここに記されてるのは、壁に触れたものの体温を奪う氷雪系の法印であろうな」
「仙術で言うところの極寒法印ってやつか?」
シェンルゥは華ノ国に出没するモンスター、麒麟である。 そのため仙術にも精通しており、陣を見ればだいたいどういった力が秘められているのかが分かるらしい。
ゲーム時代は麒麟さんが落とす雷が魔法だと思い込み、反射の魔術や消去の魔術で対応しようとしたが無駄打ちになってしまった。
あの雷はシェンルゥの角に描かれた落雷法印という仙術が原因だったらしい。
その事実が判明したのは、討伐後に閲覧できる魔物図鑑に記されていたから頭に来たもんだ。 初見のプレーヤーは大体が同じ文句を言っていただろうと思いたい。
「ふむふむ、この法印を記した仙術師、なかなかに強者だな」
「俺は仙術に関しては専門外だからな」
まあ、専門外だからといって放置するのは少々気が引ける。
「ゲマトリアの連中が間違って触ったりでもしたら、ダレットが忙しくなっちまうもんな」
「はっ! 小官も右腕を凍傷したため、ダレット殿の治癒で癒やしてもらっておりました!」
なぜか堂々と宣言してくるペペを横目に、どうしたものかと思考を迷宮入りさせる俺であったとさ。




