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事務聖女は定時で帰ります。『善行通販』と『魔導Excel』でブラック部署を立て直したら、冷徹な人狼上官の極上溺愛が始まりました  作者: 月神世一


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19/25

EP 4

響き渡る『Love & Money』! 奇跡のバフ歌唱と、神々をバズらせる事務聖女のゲリラ配信

翌日の午後。

ポポロ村の中央広場には、一夜にして立派な特設の木造ステージが完成していた。

「大佐。ステージの設営スピード、予定より20分も早いです。さすが帝国最強の人狼部隊ですね」

「あなたの組んだ『魔導Excel』の工程表が完璧だからだ。資材の搬入から組み立ての動線に至るまで、一切の無駄がなかった。……それに、昨日の極上肉の恩返しだと、部下たちも張り切っていたからな」

桜の言葉に、腕組みをしてステージを見上げるギルバートがフッと口元を緩めた。

彼の言葉通り、広場の周囲では、軍服を脱いで上半身裸になった屈強な人狼兵たちが「天木事務官のためなら徹夜でステージ組むぜ!」「ヒャッハー! 釘打ち最高!」と、やたら高いテンションで汗を流している。

「桜ちゃん、衣装の準備もできましたよ! 私の特製・人参刺繍入りのアイドルドレスです!」

ステージの裏手から、村長のキャルルが元気よく手を振った。

桜は昨夜のうちに『善行通販』で地球のアイドル衣装の型紙と上質な布地を取り寄せ、手先の器用なキャルルに徹夜で縫製を頼んでいたのだ。

「ありがとうございます、キャルルちゃん。……さあ、準備は整いましたね」

桜は広場の中央に、数台の魔導カメラ端末を設置した。

ただの村内ライブではない。桜の本当の狙いは、この映像を『外の世界』へ発信することだった。

「天木殿。その魔導端末の接続先は、帝国の放送局か?」

「いえ。もっと上の……『神界』です」

「……神界?」

「ええ。このアナスタシア世界を管理する神々が見ている配信サイト、『ゴッドチューブ』です」

桜は魔導キーボードをカタカタと叩きながら、平然ととんでもないことを言った。

第一章でブラック上司を追い詰めた際、桜の魔導Excelは天界のクラウド(余剰空間)へと自動接続する裏技を確立していた。そのアクセス経路を少し応用ハッキングし、神々のネットワークへ直接ゲリラ配信をかけようというのだ。

「神の世界の通信網すら、事務処理のインフラにしてしまうとは……天木殿、あなたは本当に恐ろしい女性だ」

「ふふっ。最高の原石アイドルには、最大の舞台マーケットを用意するのがプロデューサーの仕事ですから。……さあ、主役の登場です」

桜が合図を送ると。

ポーン、と広場に設営された魔導スピーカーから、華やかなポップチューンのイントロが流れ出した。

『さぁ魔法の時間の始まりよ (Change The World!)』

ステージの幕が上がり、スポットライトが中央を照らし出す。

そこに立っていたのは、ピンク色の芋ジャージを着たポンコツ居候娘――ではない。

キャルルが仕立てた、フリルたっぷりのエメラルドグリーンのドレス。その裾には可愛らしい人参の刺繍が施されている。完璧なメイクと、海のように美しい髪を揺らして微笑む、本物の『人魚姫』の姿だった。

「おおおっ……! なんだあの可愛い子は!?」

「村長の家の居候だって!? 全然別魚べつじんじゃねえか!」

集まっていた農家のおばちゃんたちや、警備にあたっていた兵士たちが、一斉に息を呑んだ。

リーザはマイク(に相当する魔導拡声器)を両手で握りしめ、エメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせて、広場の全員と、そして魔導カメラの向こうにいる見えない『神々』に向かって、高らかに宣言した。

「ポポロ村の皆さま! そして配信の向こうの神様たち! みんな、仕事や生活で辛いこと、たくさんありますわよね! でも、今この瞬間だけは全部忘れて、私だけを見てくださいの!」

リーザの背後に、微かな水色の魔力が立ち昇る。

彼女の持つ、人魚姫としての真の力が解放される前兆だ。

「私は貴方たちの『世界』になりますの! 貴方たちの時間も、お金も、心も、何もかもを全部奪い尽くして……その代わり、宇宙一の幸せな時間を味わわせてあげますわ!!」

それは、究極の強欲であり、究極の愛の形。

リーザは息を吸い込み、彼女の本気の歌――『Love & Money』を歌い出した。

『今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)

全て上手くいくわ (絶対!)

愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)

ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)

貴方の(とキャッシュ)で生きていける (Fuuu〜!)』

圧倒的な、暴力的なまでの美声だった。

ただ上手いだけではない。彼女の歌声には、聴く者の魂に直接揺さぶりをかけ、理性を溶かしてしまうような強烈な『魔力』がこもっていた。

歌詞はひたすらに「ダイヤをよこせ」「株券をよこせ」と要求する強欲の極みであるにもかかわらず、その声に乗せられた人魚の慈愛が、すべてを「至高の祝福」へと錯覚させる。

『世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって!まわって!)

全部抱きしめるわ (最強!)

愛も富も同じ輝き (どっちも本物ー!)

ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)

貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu〜!)』

その瞬間、奇跡が起きた。

リーザの体から、眩いほどの『黄金のオーラ(バフ)』が弾け飛び、ポポロ村の広場全体へと波紋のように広がっていったのだ。

「お、おい! 体が……信じられないくらい軽いぞ!?」

「徹夜でステージを組んだ疲労が、一瞬で消し飛んだ! 闘気が体の奥から無限に湧いてくるゥゥッ!」

ギルバートの部下である人狼兵たちが、自身の筋肉を見つめて驚愕の声を上げる。彼らのステータスが、リーザの歌声によって何倍にも跳ね上がっていた。

それだけではない。

広場の隣にある畑では、昨日までまだ青かった『月見大根』や『太陽芋』が、黄金のオーラを浴びた途端にポンポンと音を立てて急成長し、完璧な食べ頃(完熟)へと一気に育ち上がったのだ。

「ヒィィィッ! ネタキャベツが、ネタキャベツが分裂して増えていくよぉ!」

「これが、人魚姫の……歌の奇跡!」

キャルルも驚きのあまり、目を丸くして兎耳をピンと立てている。

リーザは誰よりも輝く笑顔で、ステージを右へ左へと駆け回り、ファン(村人と兵士たち)に投げキッスを送る。

「だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ♪ だから、何処までもついて来てね♡ ダーリン!」

『「「一生ついていくよー!!」」』

兵士たちと農家のおじちゃんおばちゃんたちの、地鳴りのような野太いコールが村を揺らした。

一方、その奇跡の光景を魔導端末で監視していた桜の口角が、ニヤリと上がった。

彼女の画面上では、『ゴッドチューブ』の配信画面に表示された【同時接続数】と【PVページビュー数】が、まるで壊れたスロットマシンのように凄まじい勢いで回転し、天文学的な数字を叩き出していたのだ。

「……すごいです。神界のエンタメランキング、一瞬で総合1位を獲得。投げスパチャの代わりに、神々からの『加護ポイント』がカンスト勢いで振り込まれています」

桜の魔導Excelの集計グラフが、画面を突き破らんばかりに上昇していく。

天界で暇を持て余している神々(特にルチアナやオリンたち)が、突如として現れた規格外の強欲アイドルと、彼女が起こす物理的な奇跡に熱狂し、星の予算を惜しみなく投下している証拠だった。

「大成功ですね。これでポポロ村の知名度は爆上がり、インフラ投資のための莫大な資金(神々の加護)も手に入りました」

桜が満足げに端末を閉じると、隣に立っていたギルバートが、信じられないものを見るような目で桜を見下ろしていた。

「……あの一介の居候を、たった一日でこれほどの怪物アイドルに化けさせ、あまつさえ神々から予算をぶっこ抜くとは。……天木殿、あなたのプロデュース能力は、帝国の軍師すら足元にも及ばない」

「ふふっ。私はただの事務官ですよ。それに、リーザちゃんが日頃からたゆまぬ努力をしていたからこそ、これだけの奇跡が起こせたんです」

桜はステージで息を切らしながらも、満面の笑みでアンコールに応えるリーザを見つめた。

施しを受けず、自らの足で立ち、ファンを幸せにすると誓った彼女の覚悟が、この結果を呼んだのだ。

「……だが、原石は磨く者がいなければ輝かない。あなたが彼女に寄り添い、その矜持を守ったからこそ、あの笑顔がある」

ギルバートの声が、ふっと柔らかく、甘いものに変わった。

彼が長い腕を伸ばし、その大きな手で、桜の頭をポン、と優しく撫でた。

「大佐……?」

「あなたのその、誰も見捨てない強さと優しさを……私は、心から誇りに思う」

ギルバートの金色の瞳が、夕暮れの近づく光の中で、桜だけを真っ直ぐに捉えていた。

彼の銀縁眼鏡の奥の眼差しは、上官としての評価を超え、一人の女性に対する深く熱烈な敬愛に満ちている。

ポン、ポン。

彼の背後では、隠しきれない銀色の尻尾が『俺の桜はすごいだろう!』とばかりに、誇らしげに、そして嬉しそうに大きく揺れ動いていた。

「っ……あ、ありがとうございます、ギルバート」

頭を撫でられるという不意打ちのスキンシップと、名前呼びの破壊力に、桜の顔が一気に赤く染まる。

周囲の熱狂的なライブの歓声の中で、二人の間だけ、切り取られたように静かで甘い空気が流れていた。

ステージの上では、リーザが「次は『絶対無敵スパチャアイドル伝説!!』ですのー!」と叫び、村人たちが「5円! 5円! 御縁!」と謎のコールを始めている。

極貧の人魚姫が神界をバズらせ、ポポロ村に莫大な恩恵をもたらした伝説の一日。

しかし、光が強ければ強いほど、そこに引き寄せられる『闇』もまた濃くなることを、桜たちはまだ知らなかった。

このゴッドチューブでの大バズりが、やがて帝都の『悪徳プロデューサー』の強欲な目を引くことになるのだ。

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