鍛煉の歌姫 ランカ
リンが切り開いた道を、ランカは北へ向かって駆けていた。
黒を基調としたゴスロリ調の衣装が風を孕み、幾重にも重なったフリルの裾が軽やかに跳ねる。金色のツインテールがそのたびに揺れ、腰に吊るした工具や素材袋が小さく音を立てた。華奢な少女の姿には似つかわしくない無骨な鍛冶鎚だけが、今の姿になる以前から続く長い職人人生を物語っている。
リンが教えてくれた方角は北。そこに、ブーサがいる。
だが、その途中でランカの足が僅かに鈍った。
道を塞ぐように武器を構えているのは、ドワーフの兵士達だった。槍、斧、盾。つい少し前までなら、同胞と呼んでいた者達。それを前にして、一瞬だけ身体が止まりかける。
脳裏をよぎったのは、先ほどのリンの姿だった。
自分でも見ないふりをしていたものを、あの少女は勝手に覗き込んだ。そのくせ責めるでもなく、ただ前へ進むための道だけを作ってくれた。
――だから、道はボクが作るよ。ランカは、その先に行って。
「……すまんの」
誰に向けた言葉なのか、自分でもよく分からない。
ランカは腰に吊るした小さな鉄の塊へ手を伸ばした。
思い浮かべる。
炉の熱。赤く焼けた鉄。金床へ響く鎚の音。何度も打ち、返し、形を整え、ようやく一本の剣へ仕上げた時の感触。
過去に自分が打った作品を記憶から辿り、その姿を魔力でなぞる。
「――転生鍛冶録」
鉄は器に過ぎない。
そこへ記憶と魔力が重なり、かつて確かに存在した作品が、一時だけ現世へ生まれ直す。
一本。二本。十本。
無骨な剣が、ランカの周囲へ次々と形を得ていく。
その光景を見つめているうち、不意に口が動いた。
「……火を入れたら、鉄を打て。鉄を打ったら、水かけろ……」
自分で呟いてから、ランカは僅かに目を瞬く。
歌おうとしたわけではない。ただ、剣を打った時の記憶を辿れば、そこにはいつも同じ歌があった。
古い鍛冶歌が、記憶につられるように自然と口から零れてくる。
ランカは小さく笑った。
「……そういうものかの」
そして、武器を構えるドワーフ達へ視線を戻す。
「すまんの。今の儂は、もうバランではなく――ランカなのじゃよ」
空中に浮かんでいた剣が一斉に切っ先を向けた。
次の瞬間、刃の群れが矢のように走る。
盾を貫かれ、押し倒される者。肩を穿たれ、武器を取り落とす者。真正面から刃を受け、地面へ崩れ落ちる者。その間をランカは真っ直ぐ進んだ。
だが数歩進んだところで、自分の表情が曇っていることに気づく。
「……いかんの。後悔しては駄目じゃな。もっと気高く、美しく……じゃったかの」
背筋を伸ばし、俯きかけていた顔を上げる。口元へ笑みを作り、堂々と前を向いた。
せっかくリンがここまで道を開いてくれた。他のドールズ達も、それぞれの場所で戦っている。
「こんな顔をしていては、あやつらに笑われてしまうわい」
ランカは倒れた兵士達の間を抜け、そのまま北へ進んだ。
途中でも何度か小規模な部隊が進路を塞いだが、今度は足を止めなかった。先ほど転生させた剣を再び浮かせ、進路を塞ぐ者だけを退けながら陣の奥へと踏み込んでいく。
やがて周囲の様子が変わり始めた。
並ぶ兵士の装備が良くなり、掲げられた旗も増えている。どうやら一般兵の陣を抜け、より上位の者が控える場所へ入ったらしい。
そのさらに奥。
周囲を兵に守られた一際豪奢な男の姿が見えた。
上質な衣服。随所にあしらわれた宝石。大柄なトロールらしい体格でありながら、その顔立ちだけを見れば整っている。
見間違えるはずがなかった。
「ようやく会えたの、ブーサ公」
呼びかけに、ブーサが振り返る。
その視線が、黒いフリルを揺らす小柄な少女を訝しげに見下ろした。
「……誰だ、お前は?」
「姿は変わったが、お前さんに随分と厄介になったバランじゃよ。今はランカじゃがな?」
ブーサの眉間に深い皺が寄る。
「何をふざけたことを言っている。バランは、人を睨み殺しかねんようなドワーフの爺だぞ」
「お前さんもか……まあ、信じるかどうかは自由じゃよ」
ランカは肩を竦めた。
「ただの。ちょっと厄介になった借りを返そうと思って来ただけじゃ」
そこで一度、表情を引き締める。
背筋を伸ばし、顎を僅かに上げる。先ほどまでの年寄りじみた笑みではなく、どこか女王を思わせる余裕のある微笑を浮かべた。
「あなたに、私と家族が受けた借りを――利息をつけて返しに来てあげたわ。反論は、受け付けないわよ」
一瞬、ブーサの顔が引き攣る。
ランカはすぐにいつもの笑みへ戻り、静かに告げた。
「それと、改めて言っておこうかの」
赤い瞳が、真っ直ぐブーサを射抜く。
「お前さんの魂は――醜いよ」
「……俺を愚弄しに来たのか、この小娘がァ!」
怒声が響いた。
だが、ブーサ自身は動かなかった。
代わりに、左右と背後から兵士達が姿を現す。ランカが真っ直ぐ自分のもとへ来ることを察し、予め回り込ませていたらしい。
気づけば、完全に包囲されていた。
「愚か者が! やはりドワーフは知能が低いな!」
ブーサが勝ち誇る。
ランカは慌てるでもなく、周囲を見渡した。
「ふむ。では、お主らの見たことのないものを見せてやろうかの」
腰から小さな金属片を摘まむ。
魔力が走った。
一つ。また一つ。
ランカを中心として、黒鉄の筒が空中へ現れていく。
十丁。二十丁。五十丁。
やがて百近い単発銃が、ランカを中心として円を描くように浮かび上がった。
すべての銃口が外側へ向く。
「都合上一発しか撃てん代物じゃがの。今回、近衛連中のために百丁ほど作らされてな」
ランカは楽しそうに笑った。
「試すには、ちょうどよかろう?」
轟音。
百近い銃声が、ほとんど同時に戦場を叩いた。
空気が震え、硝煙が一気に広がる。弾丸を受けた兵士達が次々と倒れ、聞き慣れない爆発音に怯んだ者達が思わず身を縮めた。
ブーサも一瞬だけ目を見開く。
だが、倒れた兵の中にはラクシュの加護に守られ、致命傷を免れた者もいる。射線を外れ、無傷のまま残っている兵も少なくない。
そして百丁の銃は、一度の発砲で沈黙した。
ブーサの口元が吊り上がる。
「やはり馬鹿よ! 自分から手の内を明かすとはな! 一度しか撃てぬのなら、それで終わりではないか! 怯むな! 我らにはラクシュ様の加護があるのだぞ!」
兵士達が再びランカへ殺到する。
ランカは空になった銃を眺め、少しだけ眉を寄せた。
「ふむ……クロエには、要改良と伝えておくかの」
そして両手を腰へ伸ばし、小さなインゴットを一つずつ握る。
「やはり、儂にはこっちじゃな」
光が弾けた。
剣。槍。斧。戦鎚。大剣。
一本だけ異様に長い槍。人間なら両手で抱えるような大剣。古びた長剣の傍らには、どう見ても戦場には似つかわしくない鎌や鍬、マトックまで混じっている。
どれも年代が違う。
用途も違う。
だがすべて、かつてバランがその手で打ったものだった。
「あの時の大豊作は大変じゃったのう。鍬も鎌も、いくら打っても足りんかったわい」
懐かしそうに笑う。
そして、自然と歌が戻ってきた。
「水をかけたら――声を聞け。鉄の声が聞こえたら、鎚の音を響かせろ――♪」
百を超える武具と道具が空を埋める。
「儂の研鑽の日々を――おぬしらは超えることができるかな?」
口元に浮かんだのは、不敵で、それでいて心底楽しそうな笑みだった。
ランカが手を振る。
無数の鉄塊が流星となった。
剣が走る。槍が穿つ。斧が盾を砕き、戦鎚が兵を薙ぐ。鎌は弧を描いて飛び、鍬やマトックは刃物とは違う重量と形状のまま兵士や地面へ叩き込まれた。
外れた武器は、そのまま地面へ深々と突き刺さる。
だが、それで終わりではない。
「鎚の音が響いたら、鉄に命が芽吹きだす――♪」
地面へ刺さった剣が震えた。
一本。十本。数十本。
再び宙へ浮かび、今度は兵士達の背後から襲いかかる。
一本一本に剣士のような技を使わせているわけではない。
浮かせる。
向ける。
飛ばす。
ただ、それだけ。
だが、数が違う。
前から逃げれば後ろから来る。左右へ散れば槍が向きを変え、避けた先には先ほど外れた剣が待っている。
そして、その中心でランカ自身も止まってはいない。
武器の雨をかいくぐり、数人の兵が肉薄する。
「ほう。なかなかやるの」
ランカは腰の小袋へ手を差し入れ、銀白色の欠片を摘まみ上げた。
極彩銀――ミスリル。
魔力が流れる。
右手の中へ、大きな剣が形を得ていく。
ランカ自身の身長を超える、波打つ刀身。
色は赤。
塗られた色ではない。
極彩銀そのものが、鍛造によって宿した性質の色だ。
「これは……六十年ほど前に作った作品じゃったかの」
敵兵が剣を振り下ろす。
ランカも片手でフランベルジュを振るった。
激突することすらなかった。
赤い刃が触れた瞬間、敵の剣が灼け、そのまま刃は止まらず、武器ごと兵士を両断する。
「全てを灼き切る剣じゃ」
巨大な剣を軽々と振り抜く。
黒いフリルが舞い、金色の髪が翻る。その背後では、先ほど地面へ突き刺さった剣や槍が再び浮かび上がり、歌の調子に合わせるように兵士達へ襲いかかる。
「打てよ、打て。火を絶やすな――♪」
ランカは左手を伸ばし、先ほど撃ち終えて地面へ落ちていた単発銃を拾い上げた。
「それにの。弾なら、試作品も含めて――思い出したくないくらい作ったんじゃ」
銃の内部で光が瞬き、一発分のシェルが転生する。
兵士が目の前まで迫る。
ランカは退かない。
むしろ一歩踏み込み、ほとんど銃口を押しつけるような距離で引き金を引いた。
轟音。
至近距離から放たれた散弾が、兵士を吹き飛ばす。
右手には赤く輝く巨大なフランベルジュ。
左手には硝煙を吐く単発銃。
その周囲では、無数の剣と槍が宙を舞う。
「鉄が笑えば、良いものができる――♪」
ランカは歌いながら身体を翻した。
フランベルジュが一人を薙ぐ。左手の銃声が響く。その背後で十数本の剣が一斉に向きを変え、地面に刺さっていた斧が浮き上がり、逃げようとした兵達へ襲いかかった。
まるで、戦っているというより。
舞台の上で歌い、舞っているようだった。
その光景に呆けたのは、ブーサだけではない。
剣を振り上げたまま動きを止める者。盾を構えながら、視線だけをランカへ奪われる者。
ほんの数人ではあった。
戦場にいることを忘れたわけでもない。
それでも一瞬だけ、身体が言うことを聞かなくなる。
黒い衣装。
赤い刃。
飛び交う無数の武具。
歌声と銃声。
硝煙と火花の中心で、楽しそうに笑う少女。
そしてブーサ自身も。
ほんの一瞬、言葉を失った。
「…………」
目を離せない。
理由など、認めたくもなかった。
胸の奥に浮かびかけた言葉を、ブーサは強引に押し潰す。
「……くだらん」
低く吐き捨てる。
「見世物で俺を惑わせられると思うな!」
怒声を上げたのは、むしろ自分自身へ言い聞かせるためだった。
戦いは続いた。
やがて、最初に転生した単発銃が淡い光の粒となって消え始める。続いて、古い武器から順に姿を失っていった。
ブーサの目が細くなる。
時間制限がある。
そして、ランカの腰。
先ほどまでベルトに吊るされていたインゴットは、かなり減っていた。
大量の武具を二度。
その後は、一度に大規模な転生をしていない。
ブーサはしばらくランカの動きを観察し、やがて口元へ笑みを浮かべた。
「なるほど……見切ったぞ」
腰の剣を抜く。
水晶のように青く透き通る刀身。
青へ定着した極彩銀。
竜の牙を模した鍔に、随所へ施された装飾。刀身の美しさを際立たせることを優先して、薄く仕上げられた刃。
「そんな紛い物、この剣匠バランが作った氷剣フロストバイトが打ち砕いてくれるわ!」
ランカの動きが止まった。
「あー……それかの」
心底嫌そうな顔をする。
「迷走しておった頃の作品じゃな……」
「何だと?」
「竜じゃの、牙じゃの。付ければ格好いいと思っとった時期があってのう。青の極彩銀がえらく綺麗に透けたもんじゃから、薄くした方がもっと格好よく見えるんじゃないかと思ってな……」
思い出したくもないものを思い出したように、ランカは顔をしかめる。
「当時は満足しとったんじゃが、後から見ればまあ……随分と恥ずかしい代物じゃ」
「黙れ!」
ブーサが怒鳴る。
「この美しさが理解できぬから、貴様は――!」
「お前さん、本当に昔からそれが好きじゃったのう」
ランカは小さく息を吐いた。
そして、鉄のインゴットを一つ取り出す。
思い浮かべる。
炉。
金床。
歌。
そして、一人の男。
肩幅。腕の長さ。歩き方。剣を携えた時の重心。
あの時、何気なく打ち始めた鉄が、いつの間にか一人の騎士のための形へ変わっていった。
「火を入れたら、鉄を打て――」
今度の歌声は、少しだけ静かだった。
光が集まる。
現れたのは、何の飾り気もない一振りの剣。
宝石はない。
彫刻もない。
ただ使うために。
一人の使い手へ合わせて打たれた、片手半剣。
ランカはその柄を握った。
「あの坊主に作ってやった剣じゃが……」
ブーサが鼻で笑う。
「そんな飾り気もない剣で、フロストバイトに勝てると思うか!」
青い刀身が冷気を纏う。
青の極彩銀が周囲から熱を奪い、空気が白く霞む。
「凍結し――砕けるがいいわ!」
フロストバイトが振り下ろされた。
ランカも剣を上げる。
激突。
甲高い音と共に冷気が弾け、ハルトの剣へ白い霜が走った。
だが、砕けない。
二撃目。
三撃目。
何度打ち合っても、ランカの剣は折れない。欠けもしない。
「な……何故だ!」
「そんな剣には負けはせんよ」
ランカは静かに笑った。
「剣はの、飾りの数で強くなるものではない」
再び打ち合う。
ピシッ、と小さな音がした。
ブーサの目が見開かれる。
水晶のように美しい青い刃へ、細い亀裂が走っていた。
「馬鹿な……!」
「お前さんは昔から、表しか見とらんからの」
ランカが踏み込む。
小柄な身体からは想像もつかない重い一撃。
ブーサが受ける。
亀裂がさらに伸びる。
「くそっ! お前ら! 見てないで手伝え!」
周囲に残っていた兵士達が、一斉に動く。
ランカはその様子を見て、小さく笑った。
「勘違いしておるがの」
ブーサの目が、反射的にランカの腰を見る。
インゴットはもうほとんど残っていない。
だが、ランカの手が向かったのはベルトではなかった。
腰元の小さな収納ポーチ。
そこへ手を差し入れる。
一つ。
二つ。
三つ。
新しいインゴットが次々と取り出される。
ブーサの顔から血の気が引いた。
「な――」
「まだまだ、儂の歴史は終わっておらんぞ?」
ランカが笑った。
魔力が溢れる。
三度目。
また違う武具が空を埋め尽くした。
長剣。槍。斧。戦鎚。古い騎士剣。
そして、その合間に鍬、鎌、マトック。
武器も。
農具も。
工具も。
百年以上に及ぶ職人人生の中で、この手で打ってきたものすべてが、今はランカの力になる。
「打てよ、打て――♪ 火を絶やすな――♪」
ランカが手を振る。
無数の武具と道具が、再び流星となって降り注いだ。
兵士達が悲鳴を上げる。
盾が砕け、土が抉れ、逃げた先へは先ほど地面へ突き刺さった剣が再び浮かび上がって襲いかかる。
剣も。
槍も。
鎌も。
鍬も。
本来何のために作られた物かなど、この場では大した問題ではない。
ランカがかつて打ったものなら、それはすべて彼女の歩んできた歴史なのだから。
その中で、ランカとブーサはもう一度剣を打ち合わせた。
甲高い音。
フロストバイトの刃が、根元から砕けた。
青い破片が宙を舞う。
光を受け、水晶のように美しく輝きながら地面へ落ちていった。
ブーサは、折れた剣を見つめたまま動かなかった。
ランカは手の中の剣へ視線を落とす。
ハルトのために打った剣。
何の装飾もない。
ただ、その男が最も扱いやすく。
最も長く戦えるように。
そう考えて作った一本。
ランカは刃を指先で、そっと撫でた。
「これでも――この剣は醜いと言うのかの?」
ブーサは答えない。
折れたフロストバイトを見る。
そして、飾り気のない剣を見る。
最後に、その剣を慈しむように撫でるランカを見た。
先ほど、認めまいとして押し殺した感覚が再び胸の奥へ浮かんでくる。
黒いフリルを纏った小さな少女。
その背後に浮かぶ、数え切れないほどの作品。
華美だからではない。
宝石があるからでもない。
誰かに美しいと見せつけるために作られたものでもない。
一つ一つに、作られた理由がある。
使う者がいる。
必要とした者がいる。
そして、それを打った職人がいる。
それでもなお。
美しい。
ブーサの口が、僅かに開いた。
「……美しい」
ランカの赤い瞳が、ほんの少しだけ細くなった。
それだけだった。
許す言葉も。
責める言葉も。
もう必要ない。
剣閃が走る。
ブーサの首が宙を舞った。
大きな身体が、ゆっくりと地面へ崩れ落ちる。
ランカはしばらく、その姿を見下ろしていた。
「……これで、借りは返したぞ」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
ブーサへか。
妻へか。
息子夫婦へか。
それとも、バランだった自分自身へか。
ランカは空を見上げた。
やがて、手にした剣へ視線を戻す。
「まだ、そっちには行けん」
小さく笑う。
「こっちには、作りたいものがまだまだ多すぎるんじゃ」
いつか。
何を作ればいいのか。
何のために打てばいいのか。
それすら浮かばなくなった時があった。
今は違う。
作りたいものがある。
試してみたいものがある。
クロエから押しつけられる無茶な注文もあれば、ミンメイと一緒に考えたいものだって、いくらでもある。
そのミンメイの顔が浮かんだ。
笑っている顔。
怒っている顔。
新しい細工を見つけて、目を輝かせている顔。
次に浮かんだのはリン。
クロエ。
セリア。
シオン。
騒がしく。
勝手で。
けれど今は、共に並ぶ仲間達。
「それに……縁も、まだあるからの」
最後に浮かんだのは、銀髪の女王だった。
ランカはしばらくその顔を思い浮かべ――。
「……いかん」
はっと我に返る。
「こんなふうに感傷に浸っておったら、悪らしくないと女王様に怒られてしまうわ」
少しだけ照れくさそうに笑った。
それから、転がっていたブーサの首を左手で拾い上げる。
周囲にはまだ兵士達がいる。
武器を握ったまま、動けずにいる者達。
ランカが指先を僅かに動かした。
地面へ突き刺さっていた剣が震える。
一本。
また一本。
槍が。
斧が。
戦鎚が。
鎌が。
そして、鍬やマトックまでもが。
まだその姿を保っている無数の武具と道具が、再び空へ浮かび上がる。
すべてが、残されたシルヴァニア兵へ向いた。
左手にはブーサの首。
右手にはハルトの剣。
黒いフリルを風に揺らしながら。
ランカは、にこりと笑った。
「さて――こうなりたい者は、まだいるかの?」
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