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処刑台の少女 幕間

リンが意識を失った後の話


倒れ伏している村人達


 ルミが指を鳴らした。


 淡い月光のような光が、倒れていた村人達へ降り注ぐ。


 呻いていた者の痛みが消えた。

 折れた腕が戻る。

 裂けた皮膚が塞がる。

 血に濡れていた顔から、傷が消えていく。


 村人達は、呆然と自分の身体を見下ろした。


「な……治って……」

「神の、奇跡……?」


 その言葉に、エミリアは冷たく笑った。


「違うわ」


 静かな声だった。

 だが、その場にいた誰もが息を呑んだ。


「今あなた達を癒したのは、あなた達が邪神と呼んだ存在よ」


 村人達の顔から血の気が引く。

 エミリアは、ゆっくりと彼らを見渡した。


「おめでとう」

「これであなた達も、邪神の加護を受けた邪教徒ね」


 誰かが、ひゅっと喉を鳴らした。


「さて」


 エミリアは首を傾げる。


「邪教徒は、どうするのだったかしら?」


 そして、隣に立つメイドへ視線を向けた。


「ルミ」

「はい、エミリア様」


 月の女神は、穏やかに微笑んだまま答える。


「まず、磔では……?」


 村人達の表情が凍りついた。


「ひっ……!」

「ま、待ってくれ!」

「俺達は違う! 俺達はただ、神父様に言われて……!」


「そう」


 エミリアは、村人達の言葉を遮った。


「言われたから、親を殺した」


 その一言で、村人達は黙った。


「言われたから、子供を縛った」


 誰も反論できない。


「言われたから、火をつけた」


 村人達の目が、処刑台の方へ向く。

 そこには、まだ焼け焦げた杭と縄が残っていた。

 エミリアは吐き捨てるように言った。


「便利な言葉ね。言われたから。知らなかったから。邪神だったから」


 そして、つまらなそうに肩をすくめる。


「バカバカしい」


 村人達が顔を上げる。

 エミリアは彼らを見下ろした。


「利用する力に、良いも悪いもないわ」

「私にとって便利なら、何でもいい」

「人を救えるなら使う」

「国を豊かにできるなら使う」

「私の民を守れるなら、神だろうが邪神だろうが、何だって利用する」


 その声は冷たかった。

 けれど、どこか揺るがなかった。


「それだけは覚えておきなさい」


 村人達は、震えながら地面に額を擦りつけた。


「お、お許しください……!」

「どうか……どうか命だけは……!」


 エミリアはしばらく無言で見下ろしていた。

 やがて、退屈そうに言う。


「別に、あなた達を殺しに来たわけではないわ」


 村人達が、信じられないという顔をした。


「けれど」


 エミリアの瞳が細くなる。


「罪が消えたわけではない」


 空気が、また重く沈んだ。


「あなた達は見た」

「邪神の力で、自分達が救われるところを」

「あなた達は知った」

「邪神と呼ばれた力が、人を癒すことを」


 エミリアは、意識を失った少年の方を一瞬だけ見た。


「ならば今後、その力を邪悪と呼んで人を焼く者がいれば」


 再び、村人達を見る。


「あなた達は、黙って見ていることを許されない」


 村人達は震えながら頷いた。


「は、はい……!」

「二度と、二度とあんなことは……!」


「言葉だけなら、誰でも言えるわ」


 エミリアは踵を返しかけて、ふと足を止めた。


「そういえば」


 静かな声で呟く。


「この村の領主は、誰だったかしら」


 その瞬間。

 村人達の震えが、別のものへ変わった。

 恐怖ではない。

 もっと根深い、怯えだった。


 エミリアはそれを見逃さなかった。


「なるほど」


 唇に、薄い笑みが浮かぶ。


「どうやら、神父だけの問題ではなさそうね」


 ルミが恭しく頭を下げる。


「調べますか、エミリア様」

「ええ」


 エミリアは、焼け残った処刑台を一瞥した。


「親を殺し、子を焼こうとした罪」

「それを許した領主」

「それを煽った神殿」


「まとめて、処分するわ」


 村人達は、ただ地面に伏せることしかできなかった。



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