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処刑台の少女 ③

プロローグ回収できましたが、まだ続きます

構成はできているので、自分のペースで投稿させて抱きます

村の広場。


 そこには処刑台が建てられていた。


 縄で縛られた少年。


 村人達は口々に叫ぶ。


「邪神の子だ!」


「化け物め!」


「神父様の言う通りだ!」


 少年は俯いていた。


 もう反論する気力も無かった。


 人を助けたかっただけだった。


 父を助けたかっただけだった。


 皆を助けたかっただけだった。


 それなのに。


 また失った。


 父も。


 母も。


 全て。


 神父が処刑執行を宣言しようとした瞬間。


 空間が歪んだ。


 月光が降り注ぐ。


 黒いドレスを纏った少女。


 その後ろにはメイド姿の女性。


 村人達がざわめく。


「なんだあいつは」


「貴族か?」


「変な格好だぞ」


 少女は堂々と名乗った。


「この国の王女」


「エミリアよ」


 当然。


 誰も信じない。


 神父が怒鳴る。


「邪神の使徒を処刑する!」


「邪魔をするな!」


 エミリアは首を傾げた。


「その処刑」


「少し待ちなさい」


 神父は鼻で笑う。


「何故だ!」


「そいつは邪神の力を使った!」


 村人達も賛同する。


「そうだ!」


「化け物だ!」


「処刑しろ!」


 エミリアは小さくため息を吐いた。


「話し合いは嫌いじゃないのだけれど」


「仕方ないわね」


 ルミへ手を差し出す。


「例の物を」


「承知しました」


 ルミはどこからともなく巨大な金属の塊を取り出した。


 幾つもの筒が束ねられた奇妙な兵器。


 エミリアは受け取りながら眉をひそめる。


「相変わらず趣味が悪いわね」


「クロエ様は実用性を重視されますので」


「絶対嘘ね」


 神父が叫ぶ。


「待てぇぇぇ!!」


 エミリアは腰だめに構える。


「そうそう」


「これ」


「クロエの新作なの」


 村人達がざわつく。


「な、なんだあれ」


「武器か?」


「魔道具か?」


 エミリアは微笑む。


「安心しなさい」


 村人達が少しだけ安堵する。


 エミリアは続けた。


「クロエ曰く殺傷能力は0よ」


 ルミが小声で補足した。


「本人基準ですが」


 神父。


「待てぇぇぇぇぇ!!」


 エミリア。


「嫌よ」


 ガガガガガガガガガガガガガ!!


 轟音。


 悲鳴。


 神父が吹き飛ぶ。


 村人達が転がる。


「ぎゃああああ!!」


「痛いぃぃぃ!!」


「安全じゃないだろぉぉぉ!!」


「死ぬぅぅぅ!!」


 ルミは首を傾げた。


「死んでいませんので安全です」


「その基準やめなさい」


 数分後。


 広場は静かになった。


 転がる村人達。


 うめき声だけが響く。


 エミリアは満足そうに頷く。


「よし」


「掃除完了ね」


 そして。


 処刑台へ近づいた。


 少年の前で立ち止まる。


「あなた」


「生きたくないの?」


 少年は少し考えた。


 そして答える。


「生きたいです」


「でも」


「何をすればいいのか分かりません」


 エミリアは不思議そうに首を傾げた。


「好きな事をすればいいじゃない」


 少年は苦笑した。


「好きな事をすると」


「皆が僕を嫌いになるんです」


 エミリアは即答した。


「気にする必要ある?」


 少年は驚く。


 エミリアは本気だった。


「やりたい事をやりなさい」


「好きなように生きなさい」


「誰かが文句を言う?」


「だから何なのかしら」


「文句を言えなくなるくらい楽しめばいいのよ」


 少年は思わず彼女の心を読んだ。


 そこには嘘も。


 建前も。


 綺麗事も無かった。


 本当にそう思っていた。


 心の底から。


 そして。


 言葉には出していない想いも見えた。


 ――あなたの父と母が。


 ――そんな生き方を望まない訳がないでしょう。


 少年の目から涙が零れた。


 父と母は。


 最後まで自分を守ってくれた。


 一度も否定しなかった。


 エミリアは手を差し出す。


「付いて来なさい」


「後悔する暇が無いくらい使ってあげるわ」


 少年は思わず笑った。


 こんな状況なのに。


 初めて笑った。


「僕を必要としてくれるんですか?」


 エミリアは眉をひそめる。


「当然じゃない」


「必要じゃなければ来てないわ」


 少年はその手を取った。


 エミリアが満足そうに笑う。


「手を取ったわね」


「契約成立よ」


「一緒に悪の覇道を歩くの」


 少年は小さく頷く。


 この人は変だ。


 滅茶苦茶だ。


 だけど。


 嘘をつかない。


 だから少しだけ。


 信じてみようと思った。


 エミリアはルミへ振り返る。


「ルミ」


「お願い」


「承知しました」


 ルミが微笑む。


 少年の意識が薄れていく。


 最後に聞こえたのは。


 エミリアの声だった。


「ただし」


「私のドールズには美しさが必要よ」


「そこだけは譲れないわ」


 少年は理解できないまま。


 静かに意識を手放した。


意識が浮上する。


 柔らかな感触。


 温かな空気。


 どこか甘い香り。



 少年はゆっくりと目を開いた。


 知らない天井だった。


 ぼんやりとした意識の中で。


 直前の記憶が蘇る。


 父。


 母。


 処刑台。


 罵声。


 絶望。


 そして。


 最後に差し伸べられた手。


「……っ」


 胸が締め付けられる。


 父も母もいない。


 もう二度と会えない。


 理解した瞬間。


 どうしようもない孤独が押し寄せた。


 一人だ。


 また。


 一人になってしまった。


 少年は身体を抱き締めた。


 その時だった。


「……あれ?」


 何かがおかしい。


 柔らかい。


 胸元に。


 妙な感触がある。


「え?」


 無意識に触れる。


 柔らかい。


 そして。


 確かに膨らんでいた。


「え?」


 理解が追いつかない。


 慌てて身体を見下ろす。


 細い腕。


 小さな肩。


 華奢な身体。


 見覚えがない。


 転生前の自分でもない。


 先程までの少年の身体でもない。


「な、何これ……」


 混乱したまま身体を確かめる。


 そして。


 変な所に触れてしまった。


「ひゃっ!?」


 身体がびくりと震える。


 力が抜けた。


「な、なに今の……」


 意味が分からない。


「それは後でゆっくり学びなさい」


 聞き覚えのある声だった。


 少年が振り返る。


 そこには。


 あの少女がいた。


 黒いドレス。


 美しい銀髪。


 堂々とした立ち姿。


 エミリア。


 少年は思わず安堵した。


「……よかった」


 気付けば口から零れていた。


「ん?」


「捨てられたわけじゃ……なかったんですね」


 一瞬。


 エミリアが目を丸くする。


 だが。


 すぐに微笑んだ。


「当然でしょう」


「必要だから連れて来たのよ」


 少年の胸が少しだけ温かくなる。


 必要。


 その言葉だけで。


 少しだけ救われた気がした。


 だが。


 それとこれとは話が別だった。


「いやいやいや」


 少年は慌てて自分を指差す。


「これ何ですか!?」


「私の知る限り、普通そういう反応をするわよね」


 エミリアは深く頷いた。


「アレがおかしいのよ」


「アレ?」


「クロエ」


「ああ……」


 何故か納得してしまった。


 エミリアは楽しそうに続ける。


「二回目の転生」


「感想はどうかしら?」


「二回目?」


 少年が首を傾げる。


 すると。


 エミリアは後ろへ視線を向けた。


「ルミ」


「はい」


 銀髪のメイドが前へ出る。


 その顔を見た瞬間。


 少年は固まった。


「女神様……?」


「お久しぶりね」


 ルミはにこりと微笑んだ。


 少年の思考が停止する。


「え?」


「え?」


「え?」


 ルミ。


 女神。


 メイド。


 情報量が多い。


 エミリアはそんな少年を見ながら。


 楽しそうに笑った。


「さて」


「どこから説明したものかしらね」



「説明の続きよ」


 エミリアは足を組み直した。


「まず私は異世界から来た転生者」


「はい」


「そして今の身体は元々私の身体ではないわ」


「はい?」


「ルミの力で新しい器を作って移ったの」


「はい??」


 少年の頭が追いつかない。


 転生。


 女神。


 新しい身体。


 異世界人。


 情報量が多すぎる。


 だが。


 エミリアは気にしない。


「そして貴方も同じ」


「ルミの力で新しい身体を作った」


「今の貴方はその身体に入っている状態よ」


 少年は、自分の身体を見る。


細い腕。


華奢な指。


指先まで、まるで硝子細工のように白く、頼りない。


肌は雪のように淡く、傷一つない。


肩に触れる髪は、月明かりを溶かしたような白銀色で、さらりと頬に落ちる前髪が片方の瞳を隠していた。


覗いた瞳は、澄んだ青。


けれどその奥には、まだ泣き疲れた少年の怯えが残っている。


細い首。


薄い肩。


柔らかな胸。


腰も、脚も、記憶にある自分のものとはまるで違う。


どう見ても女性だった。


それも、ただ女性になったというだけではない。


壊れそうなほど儚くて。


触れれば消えてしまいそうなほど、綺麗な少女だった。


「つまり」


「僕は女の子になったと……」


「そういうこと」


 エミリアはあっさり頷いた。


 沈黙。


 数秒。


 十秒。


 さらに数秒。


 エミリアは首を傾げた。


「……あら?」


「え?」


「もっと騒ぐと思ったのだけれど」


「そうでしょうか?」


「そうでしょうよ」


 エミリアは即答した。


「男だったのよ?」


「今は女になっているのよ?」


「そうですね」


「普通はもっと混乱するわ」


「驚いてはいます」


 少年は素直に頷いた。


「かなり」


 エミリアは腕を組む。


「あと」


「私の配下は美しくなければ駄目」


「そこだけは譲れないわ」


 少年は自分の身体を見る。


「だから女性なんですね」


「そうよ」


 即答だった。


 エミリアは満足そうに頷く。


「それと」


「その身体には新しい名前が必要ね」


「名前ですか?」


「ええ」


 エミリアは当然のように言った。


「前世のあなたでもない」


「この世界で生まれたあなたでもない」


「今のあなたは私のドールズなのだから」


 そして。


 静かに微笑む。


「今日からあなたは――リンよ」


 少年は目を瞬かせた。


「リン……」


 口の中で転がしてみる。


 不思議な感覚だった。


 前世の名前ではない。


 転生後の名前でもない。


 だが。


 嫌ではなかった。


「リン」


 もう一度呟く。


 エミリアは満足そうに頷いた。


「気に入ったかしら?」


「はい」


 リンは小さく微笑んだ。


「素敵な名前だと思います」


「そう」


 エミリアは上機嫌そうだった。


「では改めてよろしくね、リン」


「はい」


 リンは素直に頷いた。


 新しい身体。


 新しい人生。


 そして新しい名前。


 それら全てを。


 驚くほど自然に受け入れている自分がいた。


 エミリアは再び首を傾げる。


「……あら?」


「え?」


「やっぱり反応が薄いわね」


「そうでしょうか?」


「そうでしょうよ」


 エミリアは呆れたように言った。


「普通は怒ったり混乱したりするものよ」


「そういうものですか?」


 リンは不思議そうだった。


「だって」


 一度言葉を切る。


「必要だから助けてくれた」


「必要だから新しい身体をくれた」


「必要だから傍に置いてくれる」


「そういうことですよね?」


 エミリアは瞬きをする。


「ええ」


「貴方の才能が欲しかったもの」


「医療知識」


「治療能力」


「読心能力」


「全部欲しいわ」


 欲望に一切の迷いが無い。


 清々しいほどだった。


「それに」


 エミリアは胸を張る。


「私は悪の女王よ」


「快適な生活のためなら有能な人材は必要なの」


「なるほど」


 リンは頷いた。


「なら」


 少しだけ笑う。


「それで十分です」


 その笑顔は。


 どこか安心したようだった。


 エミリアは思わずルミを見る。


 ルミも困惑していた。


 小声で囁く。


「エミリア様」


「何かおかしくありませんか?」


「そう思う」


 二人は同時に頷いた。


 クロエは研究者だからおかしかった。


 だが。


 目の前のリンは違う。


 もっと根本的な何かが欠けている気がした。


 本人だけが。


 それに気付いていなかった。


「早速だけれど」


エミリアは、リンへ向き直った。


「貴方にやってもらいたい事があるの」


「何ですか!?」


食い気味だった。


あまりの勢いに、エミリアが少し引く。


「そんなに勢いよく来られると困るのだけれど」


「あ、すみません」


リンは慌てて頭を下げる。


けれど、すぐに顔を上げた。


「でも」


「必要としてもらえるのが嬉しくて」


エミリアは一瞬だけ黙った。


やはり、少しおかしい。


この子は根本的に、誰かに必要とされることに飢えている。


「まあいいわ」


エミリアは小さく息を吐く。


「この国には、まともな医者がほとんど居ないの」


「だから、医療書を作ってほしいのよ」


「医療書ですか?」


「ええ」


エミリアは頷いた。


「専門的なものじゃなくていいわ」


「手洗い」


「怪我の応急処置」


「病気の予防」


「今のこの国なら」


「それだけでも、十分価値があるものになる」


リンの表情が明るくなる。


自分の知識が役に立つ。


そう分かった瞬間、目に分かりやすく光が戻った。


「分かりました!」


「僕、頑張ります!」


本当に嬉しそうだった。


その様子を見て、エミリアは少しだけ目を細める。


そして。


「あと」


「もう一つあるわ」


「はい」


「貴方の身体を使わせて欲しいの」


リンが固まった。


「え?」


「はい」


「え?」


顔が、みるみる赤くなる。


「エミリア様が望まれるのでしたら……」


リンは、おずおずと服へ手を掛けた。


「ぼ、僕は構いませんけど……」


「何をしてるのよ!?」


エミリアが思わず立ち上がる。


「違うわ!」


「私の憑依能力の話よ!」


リンの手が止まった。


「あ」


「そっちでしたか」


「そっち以外に何があるのよ!」


エミリアは額を押さえた。


この子は、本当に少しおかしい。


いや、少しでは済まないかもしれない。


「石鹸くらいなら、私の知識でも作れたの」


エミリアは気を取り直して話を戻す。


「でも」


「良質なボディソープやシャンプーが作れないのよ」


リンは少し考えた。


「薬効なら分かります」


「でも、作り方となると僕も怪しいですね」


「そこなのよ」


エミリアは指を鳴らした。


「私が困っているのは」


「この世界の植物が」


「地球でいう何に相当するのか分からないこと」


「代用品になるのか」


「薬効が近いのか」


「それが分からない」


「なるほど」


リンは納得したように頷く。


「だから試作すら出来ないのですね」


「そういうこと」


エミリアは、そこでにやりと笑った。


「でも」


「貴方に憑依すれば」


「私の知識と」


「貴方の知識を同時に使える」


「きっと辿り着けるわ」


エミリアは両手を頬へ添える。


「この肌」


「この髪」


「もっと美しくする方法へ」


横からルミが口を挟んだ。


「私に頼めば、それくらい維持しますよー?」


「却下よ」


即答だった。


「私の美学が」


「私の矜持が許さないの」


「努力して美しくなるから価値があるのよ」


リンは思わず笑った。


その考え方は、とてもエミリアらしいと思った。


「分かりました」


「エミリア様が必要なら」


「僕は協力します」


「よろしい」


エミリアは満足そうに頷いた。


月光が部屋を包む。


次の瞬間。


エミリアの意識は、リンの身体へ移った。



医療知識。


薬学知識。


人体構造。


植物の効能。


毒と薬の境界。


二人の知識が重なり合う。


蓮の記憶にある地球の知識。


リンが持つ、この世界の医療と薬草の知識。


それらが、エミリアの中で繋がっていく。


そして。


「見つけた」


この世界にも存在していた。


地球の植物と似た効能を持つ薬草。


皮膚を保護する成分。


髪へ栄養を与える成分。


香料として使える植物。


今使われている粗末な石鹸とは、比較にならない。


もっと上質で。


もっと肌に優しく。


もっと香りが良く。


もっと美しくなるための品を作ることが出来る。


さらに。


人体構造も改めて確認する。


肌。


髪。


栄養。


睡眠。


血流。


清潔。


美しさを維持するために必要な条件が、次々と整理されていく。


しばらくして。


エミリアは、自分の身体へ戻った。


椅子へ腰掛ける。


そして、静かに呟いた。


「やっぱり」


「美は努力によって磨かれるべきものね」


満足そうだった。


一方。


リンは、真っ赤になっていた。


「だ、大丈夫?」


ルミが心配そうに尋ねる。


「いえ」


リンは俯いたまま、小さく答える。


「その」


「エミリア様に身体を使ってもらえたので……」


幸せそうだった。


やはり、少しおかしい。


エミリアは何か言おうとして。


やめた。


深く考えると負けな気がした。


こうして。


後に王国中の女性達が熱狂し。


貴族達が争ってでも手に入れようとする。


【薔薇印美容石鹸】


その開発計画が、静かに始まったのである。

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