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処刑台の少女 ①

長くなりましたが、やっとプロローグにつながります

 エミリアはいつも通り書類の確認を行っていた…


 最近は書類が増えた。

 原因は大体クロエである。


「コーヒーロースター?」


 エミリアは首を傾げた。


「はい!」


 クロエが元気よく手を挙げる。


「この間、えいが?のお話を聞いた時に興味が出まして!」

「……豆も見つかっていないのに?」

「作るのは先でも問題ありませんので!」

「それは分かるわ」


 エミリアは頷いた。

 クロエならそういうこともある。

 存在しない物のために設備を作る。

 今さらだった。

 問題はそこではない。



◇



 エミリアは報告書を一枚めくる。

 そして固まった。


「……クロエ」

「はい!」

「何故ついでにこんなものを作ったの?」


 クロエは不思議そうに首を傾げた。


「えいが?のお話の後に出てきたじゃないですか」


 エミリアは記憶を辿る。

 確かに話した。

 話した気がする。

 だが。


「……確かに話したわね」

「はい!」

「でも」


 エミリアは報告書とクロエを交互に見た。


「同じドラム式だからって」

「これを作るの?」

「作れそうでしたので!」


 満面の笑みだった。

 悪意はない。

 本当にない。

 だから困る。


 エミリアは書類を机へ置いた。

 理解を放棄する。

 クロエの発明品に理屈を求めるのは今さらだった。


「ちなみに」

「はい!」

「危険ではないのでしょうね?」


 クロエは胸を張った。


「試作品ですので殺傷能力はありません!」


 エミリアは静かに顔を覆った。

 その台詞で安心できたことは。

 一度もなかった。



◇



 そして、蓮がこの世界へ転生してから二ヶ月。

 ローゼンバーグ王国は大きく変わり始めていた。


 執務室。

 エミリアは報告書へ目を通していた。


「焼却炉は順調、と」


 ごみ処理用として設置された新型焼却炉。

 今のところ問題は無い。

 問題があるとすれば。

 設計者がクロエであることくらいだ。


「また何か作ってそうなのよね……」


 エミリアは小さく呟く。

 最近のクロエは忙しい。


 魔科学。

 上下水道。

 新型魔導具。

 研究開発。

 発明。

 発明。

 発明。

 そして発明。


 もはや誰も止められなかった。



◇



 エミリアは窓の外を見る。

 少しずつ整備されていく王都。

 人通りも増えた。

 活気も戻ってきた。


「そういえば」


 ふと思い出す。


「この前歩いた時」

「ヒールが歩きづらかったのよね」


 道路整備も必要かもしれない。

 もちろん。

 物流効率化。

 荷車輸送の改善。

 街の発展。

 そういう理由もある。

 あるのだが。


「まず私が歩きやすくならないと」


 エミリアは真顔で頷いた。

 悪の美学である。



◇



 その時だった。

 コンコン。

 扉が叩かれる。


「入りなさい」

「失礼します」


 入ってきたのはルミだった。

 珍しく。

 少しだけ困ったような顔をしている。


「どうしたの?」

「少々ご相談が」


 エミリアは書類を閉じた。

 ルミが相談を持ち込むのは珍しい。


「実は」

「エミリア様を転生させる以前に」

「私がこの王国へ転生させた日本人がおります」


 エミリアの眉が上がる。


「へぇ」


 少し面白そうだ。


「それで?」


 ルミは言いづらそうに続けた。


「少々」

「厄介なことになっておりまして……」


 ごにょごにょ。

 ごしょごしょ。

 事情説明。


 数分後。

 エミリアは静かに微笑んだ。


「なるほど」


 そして。

 ニコリと笑う。


「欲しいわね」


 ルミが嫌な予感を覚える。


「その才能」


 やっぱりである。


「それに」


 エミリアは頬へ手を添えた。


「ちょうど最近」

「肌のメンテナンスとか気になっていたのよね」


 ルミは天を仰いだ。

 目の前の女王は。

 また人材確保を始める気らしい。


 こうして。

 後に【慈愛の白薔薇】と呼ばれる人物との出会いが始まる。


 その頃。

 当の本人は。

 処刑台の上で人生最大の危機を迎えていることなど。

 知る由もなかった。



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